強敵でございました。
「…【弓矢生成】【雨状放射】【弾幕射ち】」
白い矢が周囲に大量に出現した。
さて、大掃除だ。
解き放った矢が一斉にゴーストへと襲い掛かる。
しかも今回は【弾幕射ち】のスキルも使用している。この弾幕射ちは射ち放った矢の起動をそのままに連続で10回から最高50回矢を生成して打ち続ける。
今回は10回だけど、それでもこの正体不明の白い矢ではオーバーキルだったみたいだ。
召喚されたゴーストは残らず屠り切った。
ドァムングンがこちらを睨み付けているように感じる。殺気のようなものが突き刺さってきていた。
次いでノイズのような音がドァムングンから発せられる。いや、これは声だった。
「…きさま…、目が見えなくなったのではないのか…」
なんでそれを知って?と思ったが、そもそも呪いをばら蒔いているのは奴だから知ってて当たり前か。
俺はドァムングンに笑って見せた。
「残念でしたー!!見えてますぅー!!」
後ろで功太が立ち上がった音が聞こえる。
「いける?」
「勿論だ」
「それじゃあ、いつも通りに」
真横を功太の攻撃である光の刃が通り過ぎた。
それを合図に俺も駆け出した。
尻尾でなんとか功太の攻撃を防ぎきったその隙間を俺が駆け抜ける。
一気に接近して至近距離で叩く。
それでも俺をなんとかしようと尾が全力で叩きに来る。
だけど不思議だ。
なんでか更に体が軽やかに動く。
それこそ自分の身体じゃないみたいに。
「!」
宙返りしつつ攻撃を回避していると、泉の中に光る点を見つけた。
よく見てみると光る点から青い炎、ゴーストのようなものが吐き出されていた。
あれもしかしてゴーストを生み出す核みたいなものか。
即座に核を矢で破壊すると、すると淡く光っていた泉の光が消えた。
ゴーストの気配も消えた。ビンゴ。
橋に着地した俺を目掛けて振り下ろそうとした尾が、功太の光の刃の攻撃によって切断された。
ドァムングンが吼える。
身体は人で、巨大な尾によって自立しているドァムングンは獣のように雄叫びをあげ、背中の羽根を再び大きくしようと水を吸い上げ始めた。
だが、ドァムングンの動きが止まるこの時が勝機。
「功太ァァァ!!!!」
後ろから走ってきた功太が剣を下げた。その剣は光り、とあるスキルの準備が完了したことを示していた。
俺は功太へと走り、功太も俺が飛び乗りやすいようにと腰を低くして打ち出し姿勢を取った。
そう、【人間ロケット】である。
「ふっ!」
そこへ飛び乗った瞬間に功太は思い切り剣で俺をドァムングンへと打ち上げた。
人間ロケットの影響で目的地到達までの安全が保証される。だが、それには限度がある。
例えば飛行中に鳥と接触しても怪我とかしないし、例え人間ロケット中の別の人間と接近したとしても、意識的に(連携技とかの場合を除いて)自動的に軌道修正してくれる。
でも、それ以外。
目の前にはドァムングンが氷で面積を広げた尾を交差させて進路を妨害している。
「…やっぱり簡単にはやられてくれないよな」
ああやって妨害された場合、勝手に『敵と戦闘中、任意で突撃している』と判断して保護機能が外れる。
つまり──。
「力ずくで風穴を開けるしかないっ!!」
目の前の氷の膜から鋭い刺が伸び始めた。
厚みは増していき、全力で射ち抜かないと辿り着けない。
「空中は狙いが付けにくいけど…しかたない」
ドァムングンの腕に狙いを定めようとした時、突然ドァムングンの周囲で不思議な光る形の線が大量に発生し、高速で回り始めた。
なんだと思ったのも束の間、ドァムングンの尾や翼が強制的に開かれ、水平に固定された。
『!!!?』
なんだ?誰の攻撃だ?
どんなにもがいてもドァムングンの体の自由が利かないらしく、驚きと困惑、そして苦痛の表情を浮かべていた。
「よくわからんが丁度良い、助かった!」
あっという間にドァムングンの目の前に来ると、スキルを発動させて、杖へと向かって矢を射ち出す。
【火焔属性付与】【貫通最大】【攻撃力増大】【爆発属性付与】のスキルを上乗せされた二本の矢は今まで以上に白く発光しながら、ドァムングンの杖へと突き刺さる。
ビシリと杖の核部分がひび割れた。
そのヒビの隙間から黒い煙のようなものが吹き出してくる。
『 ーーーーーーーッッッ!!!!!! 』
人のものでもない獣のような叫び声を上げる。
完全破壊まではいかなかったが、功太の攻撃が通りやすくなるだろう。
あとは、未だに動けないドァムングンの元へと功太を打ち上げれば。
「おおおおおおおおおお!!!」
「!?」
下から聞こえるのはドルチェットの声。
まさかと思いながら見ると、ドルチェットが功太を剣に乗せて狙いを定めていた。
ドルチェットの大剣が光っている。
まさか、ドルチェットは自力で【人間ロケット】を獲得したのか!?
「どっせえええええええいいいい!!!!」
ドルチェットの雄叫びと共に功太が打ち上げられた──
んだが【人間ロケット】特有の光エフェクトがない。
どういう事だと少し考え、あり得ない考えに至った。
もしかして、腕力だけで吹っ飛ばした???
空中で功太とすれ違う。
交差する視線。
「 。」
功太の口から何か発せられたが、聞き取れなかった。
輝く功太の剣から光の帯が伸び、杖から出ている煙ごと、杖とドァムングンをまっぷたつに切断した。
こぁ…となんとも言えない声を漏らし、ドァムングンは煙のように霧散していく。同時に杖も砕けて橋の方から霧のように消えていった。
「お?」
ドァムングンの方から暖かい風が吹いてきて、後方へと流れていく。
「!」
着地しようと身を捻ると、ボスンと思ってもみなかった場所にあった柔らかいものに落ちた。
なんだと慌てて身を起こすと、真っ黒なフワフワの毛皮の中だった。
こんな素敵な毛皮の持ち主は一人しかいない。
「クロイノ!」
クロイノのゆっくり尻尾が揺れる。
アスティベラードがいないからクロイノ一匹だけで来たらしい。
上を見ると功太がゆっくりと下降してきていた。
何かの魔法が掛かっているのか、足が淡く光っている。
──というか。
「見えてる」
あの変な景色は消えて、代わりにいつもの光景が戻っていた。
よかったー!ということはみんなの呪いも解除されたのか。
よしよしとクロイノを撫でてから地面に降りると、功太もすぐ近くに功太も着地した。
心なしか顔色がさっきよりも良い。
「ひょっとして呪い消えた?」
「………ああ…」
だが、痛みの余韻が残っているのかテンションが低く、目も合わせようとしない。
疲れているんだろうな。
俺も疲れた。疲れたって言うか、なんか、だんだん頭と体の痛みが酷くなってきた。
やばい。早くノクターン起きてくれないかな。
「!」
あまりの痛みに膝が震えてきた頃、ズンズンと乱暴な足音がやって来た。
このデカイ足音は確認しなくても分かる。きっとあいつだろう。
めんどくさいけどそっちを見るとやはりガンウッドだった。
やっぱあの丸太おまえだったのかよ。