意外と動けるもんですね
途端に視界が開けた。
だが、それは普通の景色ではなく、黒に白い線が規則正しく走った世界だった。
無機質で、マス状に標された世界に柱や壁が白い線で示されている。
その中に幾つもの色の炎が浮かんでいた。
赤や青、黄色に緑と鮮やかな炎が白い線で輪郭をなぞったモノの中で揺らめいている。
その中でも特に目立った炎があった。
黒い炎の近くに金色と紫色の炎が弱々しく落ちている。
すぐにわかった。
アレはクロイノとアスティベラードとノクターンだ。
その二人に大きな黒い影が狙いを定めているのが見えた瞬間、体が勝手に動く。
即座に展開された複数のスキルが瞬く間に身体能力を底上げした。
【攻撃力増大】【動作加速】【効果増大】【 絮 n】【 轣ォ縺ョ魑・】
文字化けしたスキルが頭に痛みと共に表示され、指先から滑り出て、弦から放たれた矢が白く白く発光し。
アスティベラード達に迫っていたドァムングンの尻尾を容易く消し飛ばした。
「ッッ…」
頭痛がひどいが、容赦なく俺はドァムングンへと攻撃を仕掛けていく。
攻撃をしながら二人に駆け寄って様子を見た。
アスティベラードとノクターンは気絶しているがなんとか無事だった。
「!」
雄叫びを上げながらドァムングンが俺に向かって尻尾を叩き付けてこようとする。
それをすぐさま破壊し、砕けた破片も粉々にする。
不思議だ、頭も体も凄く痛いのに、そんなの気にならないくらいに体が楽に動く。
それにしても、なんだろうこの矢の色。
射ち出す度に白く発光してドァムングンの氷を容易く破壊して突き抜けていく。
俺の記憶に有る限り、こんな色の矢は見たこと無い。
火炎属性でもなければ氷結属性でも、珍しい砂塵属性でもない。
回復させるやつでもこんな感じではないので本当に何の矢なのか分からないけど、それでも攻撃が通っている事は確実。
それにしてもどうやってあの杖を破壊すれば良い?
功太の全力攻撃を耐えきった防御力は伊達じゃない。
けれど何処かに弱点があるはず。
それさえ分かれば──
「いッ!?」
ズキンッと一層強い頭痛と共に視界にノイズが走り、変な文字が頭に流れ込んでくる
──ザザ、ザー──く得、新スキr κΑ獲、緘くしまSタ。
新スキr『千里眼/s・眼』。
視界がまた切り替わった。
マーカーの光が一つだけじゃなく、違う色が重なっている箇所がある。
もしかして、アレって……。
ぐふっと、咳き込んで、口の中に溜まったものを吐き出した。
体は動くけど、この状態も長くは続かないのかもしれない。なら、動く内にさっさと功太を探さないと。
仲間と功太の仲間に迫る攻撃を次々と破壊していきながら功太らしき姿を探すと、すぐ近くから、うう…、と呻きながら咳き込む声が聞こえた。
そちらを見ると功太らしき影がなんとか立ち上がっている。
傍らには小さい影が倒れているが、あれは気絶しているのだよな?
すぐに駆け寄って声をかけた。
「功太か?大丈夫!?」
「…なんとか…、ルカの高速移動で助かった…」
やっぱり功太だった。
功太の隣に倒れているのは忍者だった。
高速移動のスキルはいわゆるテレポートに近い動きができるスキルだ。それを所有しているのか。
ていうかここまで忍者らしくあるのか。
逆に感心する。
「どう?動ける?」
「ああ…、大丈夫」
「ちっくしょう!!!超いてぇえええ!!!」
「!」
壁際の方からドルチェットのぶちギレた声が聞こえてきた。
良かった元気そうた。
功太がふらつきながらも立ち上がる。
「ヤツはどうなってる?」
「とりあえず俺が尻尾を半分破壊したからさっきみたいなのはしばらく無いと思う。あと、多分あの杖の攻略方がわかった」
「なんだ?」
ズキンズキンと頭が鼓動に合わせて痛むのを我慢して説明する。
ドァムングンを見上げると、杖のコアの所にマーカーがあり、それに重なって二色の光が被さっている。
なんだか既視感があるなと思っていたら、ブリオンで見たことのあるやつだった。
「あの杖、二種類の攻撃耐性を持ってる…。ほら、よくシールドで魔法特化と物理特化があるだろ?あれと同じものが杖につけられている」
ずっと疑問だった。
なんで溜めに溜めた功太の攻撃が弾かれて、俺の矢が通じたのか。
そこでブリオンにもいた敵を思い出したのだ。
色んな耐性を持った敵はいたけど、その中で似たような敵がいたのだ。
三重構造の敵。
表面は硬いけど二つの武器で削れる。
けれど弱点を強く守っているバリアは貫通力の高い槍や矢、銃なんかでしか突破できなくて、それを突破できても弱点自体は攻撃範囲の広い剣なんかでしか破壊できないという糞使用。
おそらくドァムングンの杖はそれと同じだ。
「……なるほど。じゃあ素早くスイッチしないと…。…ッ」
功太が足を押さえた。
足の押さえている箇所が眼を凝らすと赤くなってる。
もしかしてここを怪我してるのか。
久し振りに回復用の矢を生成した。
「とりあえず応急手当くらいにはなるはず」
功太に回復用矢を手渡すと、功太はありがとうと良いながら足に矢をあてがった。
これは他人にしか使えない矢で、自分には使えないのが悲しい。
ドァムングンが怒り狂ったように叫びだした。
俺に破壊された尾は再び凍結させようとしていたみたいだけど、再生されていない。
いや、再生できないみたいだ。
ドァムングンがゴーストを大量召喚してこっちに寄越してきたらしう、視界が真っ青な炎に染まっていく。
絶望的な光景だけど、俺の頭は変に冷静だった。
さっきまでの矢だったらこれを防ぐことは出来なかっただろう。
けど、この謎スキルの白い矢なら──いける気がする。