王手
【身体強化】【筋力強化・大】【寒さ無効(小)】【攻撃力増大】【千里眼/見通し】【弓矢生成】【火炎属性付加】【雨状放射】
エクスカリバーに弓をつがえる。
「功太!!!俺がありったけの攻撃であいつの体力と防御を削るから、その隙に“溜めて”!!!」
「!! 分かった」
俺の意図を理解した功太が最大攻撃の特殊スキルの溜めに入った。
功太の職業であるソードマンは、溜めれば溜めるだけ威力が上がる。
俺の弓は溜めれば貫通力が上がるが、こういうデカイ敵には功太の攻撃が一番なのだ。
「すぅー……」
息を吸い込み矢を引く。
ギリギリと数センチ引く度に周辺に矢がコピーされて増えていく。
この俺が良く使う特殊スキル・雨状放射は生成される矢の数に応じて弦が固くなる。それを限界まで引き絞る事でその名の通り一人で矢の雨を降らせることが可能だ。
特に弓の切替、白雪の立花琴状態では通常の弓の三倍の量に増やすことが出来るのだが、今回はそこまで時間を掛けられないから通常携帯のエクスカリバー30%、矢の数30本程にに設定した。これで短時間で連射でき、波状攻撃が出来るようになる。
ちなみにこれは俺の得意技だったりする。
その全てにスキル【火炎属性付加】がされて矢じりが赤く染まる。
それらを迫りくる尾に狙いを定めた。
「せぇーのッッ!!」
俺の手によって物凄い数の矢が一斉に解き放たれた。
火炎属性付加された矢は燃え盛る火矢になって飛んでいき、ドァムングンへと降り注ぐ。
立ち込める水蒸気がドァムングンの氷をしっかりと溶かしてダメージを与えている証拠だ。
「まだまだ!!」
どれだけ削れたのかはわからないけど、すぐさま次をつがえる。波状攻撃で反撃の隙を与えない。
「せやっ!!!」
第2、第3と次々に打ち込んでいく。水蒸気が凍り、視界が悪いが、俺の千里眼がドァムングンは守りに徹しているのを察知した。
これで功太の攻撃が溜まる迄続けていく。
ドァムングンが呪文を叫んでいる。
何か仕掛けてくるつもりだと警戒すると、近くの水が盛り上がってゴーレムが立ち上がってきた。
あの中が水のゴーレムだ。
それが左右からまるで挟み撃ちのように迫って手を伸ばしてきた。ゴーレムを使って妨害する気だ。
まずはゴーレムを何とかしないととそちらに視線を向けると、視界の端から黒い帯が伸びてゴーレムの腕が切断された。
これはアスティベラードとクロイノの攻撃か。
「無事か!?」
予想通りクロイノに騎乗したアスティベラードが現れた。
「ありがとう!!アスティベラード!!」
フフンと笑うだけのアスティベラード、後ろにはノクターンがしょんぼりとした感じで乗っていた。
呪いで声が出なくなったのとゴースト特効のロエテム封印は結構な精神的ダメージだったらしい。
ていうか、ちゃんとロエテム復活するんだろうな。
腕を欠損したゴーレムを引き連れてアスティベラードが視界の端に消えていくと同時に、反対側から明らかな熱源が近付いてきた。
「オッラァ!!!」
真っ赤に輝く飛び攻撃がゴーレムを上下に切断し、余りの熱にゴーレムが水と水蒸気に姿を変えた。
間違いなくドルチェットの攻撃だ。
「ありがとうドルチェッ──、??」
ドルチェットが見知らぬ狼に跨がっていた。
いや、あの耳、見覚えがある。
「…あれ?まさかジルハ…???」
「はい」と狼が返事した。
喋れるのか。
「おい!また来たぞ!」
襲いきたゴーストにドルチェットとジルハが向かっていった。
まるでもの○け姫見てるみたいだった。
ドァムングンが叫び声を上げる。
呪文ではない。叫び声だ。大きく叫びながら、ドァムングンは氷の翼を大きく広げた。その翼は広げながら徐々にひび割れていった。
なんだ?重さで自壊でもするのか?
ヒビから水が滴る。
次の瞬間、大きく翼をはためかせ、滴っていた雫がこちらに飛んでくる。
「!」
飛んでくる途中で雫が氷のナメクジに変化し、それらがビタタタと雨のように降ってくる。
ナメクジがガードした腕やガードしきれなかった体に張り付き、固まった。
「!」
視界の端でカウントが急激に減っていくのに気がついた。
まさかこのナメクジ、呪いのカウントを減らす能力があるのか!?
慌てて引き剥がしに掛かる。
「くっ!張り付いて剥がれない!」
元が氷だからか滑って取れない。
功太に至っては気にもせずに黙々と溜めている。
すごい奴だ。
「このっ!!」
これならばどうかと【火炎属性付加】の矢で刺すと、ナメクジは剥がれた。
カウントは戻らないが、とりあえず見える範囲は取り除くと、ドァムングンは愉快そうに笑い声を上げた。
再び翼を大きく広げ、ナメクジを飛ばしてきた。
カウントは僅か。これを食らったら呪いが発動してしまう。
ヤバいと思ったその時、クレイの巨大な透明な盾が前方に出現した。
「クレイ!」
盾にナメクジが張り付いて凍らせていく。そのせいか、ビシビシと盾がひび割れていっていた。
「やっぱり呪いってこっちか…っ!」
「!」
クレイの言葉で呪いがもう発動してるのが分かった。
さっきのナメクジのせいか。
見てみればクレイの体にもナメクジが幾つか張り付いていた。
「呪いって、確か何かの封印?だっけ?」
「特定スキル封印。オレの場合は【強度補強】の封印だったみたいだ。一撃は何とか防げはするが二撃目は持たねぇ…!」
盾職としては致命的な呪いでは?
なのにクレイは構わずに大型の盾を内側にもう一つ出現させて耐えてみせた。
「オレの盾が持ってる今のうちに必殺技?かなんかの準備でもやっとけ!」
「ありがとう!」
ならばと【弓矢改造】のスキルを発動した。
弓矢改造スキルは文字通り素材を使って特殊形態の“弓”と“矢”を作るスキルだ。
普段は矢ばかりを改造していたけれど、実は弓も作れる。
正確にいうなら、弓の場合は作るというよりも形状変更というのが正しい。
ブリオンでは通常形状の弓と、素材を組み合わせて新しい特性を持つ弓を合成して登録することでき、それをこの弓矢改造スキルで変更、切り替えするのだ。
千里眼を見極めの方へと変える。
「…【弓矢改造】【切り替え/弓/六華天昇】」
エクスカリバーが形を変え、まるで照準のマークに似た大弓へと変化する。
これは拡散特化の白雪の立花琴とは違い、貫通力特化の弓の一つだ。
これを使えば普通に使うだけでエクスカリバーの“溜め”50%の貫通力が出せる。
ただしこれは千里眼(見極め)と併用しないと使用できないし、でかくて小回り利かないし、攻撃範囲が驚くほど狭くなるのが欠点。
だけど、今はこれが必要だ。
六華天昇専用の矢を弓につがえ、限界まで引き絞る。
【衝撃受け流し】と【砲台】スキルを発動。これで準備は整った。
「いくぞーっ!!!クレイ!!功太!!準備良い!??」
「よっしゃ!!いつでも良いぞ!!」
「…こっちもいいよ」
双方の返事で俺は千里眼の見極めで盾にしている氷の尾をマークした。
あんなにも削ったというのに欠けた場所は漏れ出た水と冷気で補強されつつある。だけど、それもこれで終わりだ。
「いつまでも同じ攻撃だと思うなよ」
地面に落ちたナメクジが跳ねながらこちらへと向かってくるのが見えるが、まずはこっちが優先だ。
「すぅー…」
見極めによって尾の中でも特に脆い箇所へ狙いが定まった。
「しっ」
指先から離れた弓が引き絞られた弦によって一気に速度を上げ、凄まじい爆発音が鳴り響く。
その衝撃波で限界を迎えていたクレイの盾が粉々に砕け、吹き飛ばされる。
さぁ、耐久勝負だ。
矢が鉄壁の盾となっていた尾に届く。
まさに破裂という表現が正しいか、氷の尾は木っ端霧散し、中を満たしていた水も衝撃に耐えられずに全て吹き飛んで霧と化した。
驚愕しているドァムングンが尾に空いた穴の向こうに見えた。
さて、詰みだと俺は溜め終わった功太と入れ替わった。