時間が経つと倒せなくなるアレ
「うわああ!!」
氷のネズミが俺目掛けて飛び掛かってきたが、そのネズミは上からの衝撃によって地面へと叩き付けられ、砕かれ、焼かれた。
ドルチェットの炎の剣だった。
「ぼさっとしてんな!!あっという間に氷像になるぞ!!」
ふん!とドルチェットは炎の大剣を横なぎに奮う。
あまりの熱波にネズミは爆発して蒸発した。
どうやらネズミは熱に弱いらしい。
ドルチェットの炎はまさに天敵のようで、先ほどまでは果敢に飛び掛かっていたが、ドルチェットがヤバイやつという認識になったらしく遠巻きに隙を伺う感じになっている。
「ノクターンの呪いが発動しちまったらしい。そのせいでロエテムの動きがおかしくなってる。このままじゃゴーストを押さえきれねぇ」
確かノクターンの呪いは記憶混乱だったはず。
言われてみればノクターンの怒涛に続いていた詠唱が止んでいた。記憶混乱ということは、詠唱を忘れるってことなんだろうか。
しかしロエテムがおかしくなるのが早いとは。
いや、考えてみればロエテムはノクターンの魔力で動いているんだった。なら、ノクターンと連動するのは当たり前だ。
まさなこんな早く対ゴーストの主力が不安定になるとは思わなかった。
「ノクターンの呪いが発動したって事は、次は──」
「アスティベラードだ。とりあえず猫と暴れまわってはいるが、あれも長くは持たねぇ」
ドルチェットが示す先では、言葉の通りアスティベラードがクロイノに跨がって暴れまわっていた。
足元にいる氷ネズミを嬉々として追い掛け回して踏み潰し、アスティベラードは威圧でゴーストを牽制していた。
足元で冷気をばら蒔いているはずだけど意に介していないように見える。
だけどそれはクロイノだけの話で、実際あちこちでネズミが冷気をばら蒔いているせいで気温がどんどん下がっている。
地面もあちこちで氷が張っている。
「自分はできるだけネズミとゴーストを何とかする。だから、お前はあのキモい鳥をさっさと片付けろ!!!」
「わ、わかったッ!!」
ドルチェットが雄叫びを上げてネズミの群れへと突撃していった。
くすり、と笑う声が聞こえる。
こちらの様子を伺っていたドァムングンがニヤリと笑っているように見えた。
水から再びゴーレムが作られた。
「しっ!」
再び盾の役割のゴーレムを砕く為に矢を射るが、今度は突き抜けずに矢はゴーレムの中で失速して捕らわれた。
「は!?」
ぶしっと貫いた前方の穴から水が吹き出した。
「水!??」
まさかゴーレムの内部を水で満たして威力を相殺したのか。
予想外の方法で矢の対策をされたのに感動していると、ドァムングンのペストマスクの嘴が開いた。
歌だ。
先程までの酷く耳障りの悪い声ではなく、透き通るような美しい歌が響く。
クスクスと笑う声が辺りに満ちて、地面が揺れた。
湖の水が盛り上がり、ドァムングンへと寄せ集まっていく。
「いや、まじかよ…」
出来上がったのは巨大な蛇。いや、龍だ。
全てが氷で構成され、翼や鳥の脚のような腕も全てが氷。
しかも唯の氷ではなく、中はゴーレムと同じ水で満たされているのだろう。
目をこらしてみると、気泡が動いている。
高笑いをするドァムングンがこちらへと長い尻尾を振り下ろしてきた。
「やばっ!!」
咄嗟に回避すると、今まで俺がいた場所に巨大な尻尾が叩き付けられた。
その衝撃で尻尾は細かくひび割れていた。通常なら、自滅という言葉が出てくるが、こいつの場合はこのひび割れが計画的なものだ。
わざと砕けて辺りに水を飛び散らせて、それをネズミの冷気で凍らせて凶悪な形状へと変形させていく。
現に叩き付けた尻尾は鋭いトゲが生えていた。
最初は弱そうに見えていたドァムングンがどんどん凶悪になっていく。これは時間が経つ毎に倒せなくなるやつだ。
「そういうタイプかよ!最悪だ!」
再び振り下ろされた尻尾を回避し、その尻尾へと飛び乗る。
このまま駆け上がって剥き出しの本体を叩くしかない。
「!!?」
尻尾に着地した瞬間に靴の裏が凍り付いた。
足が氷に固定され、まじかよと思ったその時、尻尾から氷が上ってきた。
慌てて【弓矢生成】と【火炎属性付加】を発動し、足元へと矢を射つ。
辺りに水蒸気が立ち込め、反動で尻尾から脱出できた俺は功太の隣へと転がりながらも着地した。
「大丈夫か?」
「まぁね!でも定番の駆け上がりでの接近は無理っぽそう。一瞬で靴凍る。そっちは??」
功太が頚を横に振る。
「こっちもキツイ。ゴーレムの氷が薄くなった分攻撃が通りやすくなったけど、その代わり水を飛び散らせてしまって二次災害になってる」
功太のいう通り、功太の攻撃によって粉々になったゴーレムから飛び散った水が凍結して地形を変えていた。
思ったよりも最悪の部類かもしれん。
「それにお前のロボットの様子がおかしくなってるから、ゴーストがどんどん増えてきている」
「……」
辺りを見回すと、ロエテムが地面へと倒れ、凍らされていた。
一応光ってはいるけれど、弱々しくて浄化するまでには至ってないようで、少なかったゴーストの数が増加していた。
「どうする?このままじゃ……」
ごう、と、頭上を炎の刃が通過した。
「オラァァァ!!!ナメんなごらぁぁぁ!!!!ぶっ殺す!!!!」
ドルチェットが炎の刃を飛ばすという知らないスキルを発現させてゴーストに斬りかかっているのを見て、俺は考えを改めた。
「っしゃああ!!ごり押しすっぞ!!!!」
「は?」
ドルチェットに習い、俺はあらゆるスキルを発動させた。