ゴキブリセンサーと同列
足元には互いに抱き合った姿で白くなった人達が地面に転がっていた。
遠くから見たら石膏の彫刻のようだけど、間違いなくこの人達はちょっと前まで生きていた人間だ。
駄目もとで触って確認をしてみるけれど、まるで石のように固くなってしまっていた。
「ダメそうかも…」
「間に合わなかったか…。可哀想だけど、急ごう」
「ん…」
あれから何組かのパーティーに遭遇するが、だいたい皆凍り付いていた。
この地点でこの被害だ。一体どれ程の人が巻き込まれてしまっているのか。
それに、とロエテムへと意識を向けた。
意識の先にあるのはもはや太陽と成り果ててしまっているロエテム。ゴーストとの遭遇もかなり増え、ロエテムが随時MAXで光続けている状態になってしまっているのだ。
ゴーストも何も見えないと思うけど、俺達も何も見えなくて、互いに服や装備を掴んではぐれないようにしている。もはやジルハの嗅覚とロエテムの鎧の音だけが頼りである。
光量が強すぎてもダメだなこれ。
幸いにもノクターンが体力増強の魔法を掛けてくれているから疲れもない。
というか、カウントがあと僅かだからそろそろ着いて欲しい。
その時、ロエテムの背中に乗ってるジルハが警告した。
「前方!誰か居ます!!」
すかさずクレイが訊ねた。
「何人だ!?」
「見えないです!!」
「そうだったな!!ごめんな!!」
そんなどこか締まらない会話をしながらも走っていると、ロエテムが気を使って光量を下げてくれた。
視界がようやく人間の許容のレベルまで落ち着いたときに飛び込んできた光景は、結構な大人数の人が廊下の角で固まっている姿だった。
ロエテムが足を止め、クレイが怯えている冒険者達に声を掛けた。
「あの、生きてますか?」
クレイが話し掛けるとようやく人間だと判断できたようで皆ホッとした顔をした。
「ゴーストの亜種が来たのかと思いました…」
「……ああ、なるほど」
冒険者の言葉に俺は納得した。
確かにあんなにとんでもない光る物体が凄い速度でやって来たら怖い。
違う意味でのホラーである。
改めて冒険者達を観察すると、こちらも途中で見掛けた他の冒険者同様に霜が付いていたが、ガタガタと震えながらもそのパーティーはちゃんと皆生きているようだ。しかも1パーティーじゃなく、複数のパーティーが寄せ集まっている。
その中には魔法使いらしい人がいたので、ノクターンのような魔除けの魔法か何かを使用していたからなんとかなっていたのだろう。
とりあえず体温を戻してやり、少なくなった木片をドルチェットの炎で灯したのを「どうぞ」と渡すと、冒険者がポツリと言った。
「いやはや…、ゴーストの群れから助けて貰ったのに、すぐに死ぬなんて申し訳ないと思ってた所でした…」
助けて貰ったのに?
「誰にですか?」
訊ねると、冒険者はこれから俺達が向かう方向を指さして答える。
「その先の迷宮湖でゴーストの集団に襲われたのを勇者様達に助けていただいたんです…。金髪の、装備に教会のシンボルがあったので…勇者様かと…」
脳裏に浮かぶ最後に会った功太の容姿を思い出す。金髪だし、確かに装備に教会のシンボルがあった気がした。多分功太だ。
そういえばあれから会ってないけど元気なんだろうか。
いや、元気なんだろう。こうやってちゃんと勇者らしく活動できているらしい。
頭のなかに功太の仲間も浮かび上がったが、俺はすぐさまその二人を消し去った。
思い出すだけでもムカムカする。
「しかも俺達を逃がす時に勇者様がゴーストの親玉の攻撃を喰らっちまって…」
「……、え?」
冒険者のリーダーが俺にすがり付いて懇願してきた。
「頼む!!あの勇者様を手助けしてやってくれ!!あんな場所で囲まれてたらいくら勇者様でも死んじまう!!!」
俺は近くのクレイと顔を見合わせた。
これはもしや全力疾走しないといけないのでは?
そういう無言の確認作業の後、俺は冒険者リーダーへと頷いた。
「分かりました!」
ゴーストが少ない安全な方向を冒険者達に教え、俺達はすぐさま出発した。
「ん?」
ジルハの声と共に俺のなんだか嫌だなセンサーが発動した。
よくいうゴキブリセンサーみたいなものだ。
曲がった先に金属が擦れる音、大勢の人の足音、怒鳴り声、悲鳴、戦っているような音が聞こえる。
普通に行ったんじゃ突破できない気がした。
「探索者じゃないのか?」
と、クレイが言うが、すぐにドルチェットに否定された。
「探索者達の装備を思い出してみろ。みんな革製で鎧なんて着てなかっただろ」
「確かに…」
鎧は高価だ。そんな高価な物を収入が不安定な冒険者かほいほい着ていられる訳がない。
まぁ、一部を除いてだけど、とロエテムを見た。
思い当たるのはただ一つ。
前方にいるのは教会関係か軍だ。
あ、だから謎の悪寒がしてるのか…。
辿り着いた答えに一人納得してしまった。
「いえ、恐らく違います。多分ですけど、軍ではないかと…」
ジルハの御墨付きを貰ってしまった。最悪だ。
クレイが質問を続ける。
「数は?」
「10や20ではないですね。もっといます」
「50はいそうだねこれ…」
会話に参加するとドルチェットが「アアン???」とキレ始めた。
「オイオイオイ。ふっざけんじゃねーぞ。こんな狭い所に50だぁ??あっという間に制圧されて終わりじゃねーか」
「うーん…」
かといって回り道するとしてもまた時間が結構掛かってしまう。
カウントだって残り20もない。俺でこんなもんならノクターンのカウントなんか虫の息状態だろう。
めんどくさい連中のせいで、時間を取られるわけにはいかないのに。
「おい」
いつもよりも高い位置からアスティベラードの声がした。
何だと声の方向へと顔を向けると、アスティベラードとノクターンがクロイノに跨がっていた。
ファンタジーあるある巨大アニマル騎乗に俺はテンションが爆上がりした。
なにそれ格好いいじゃん!!!!!