お仕事楽しい!!
帰り際、足を止めてとある方向を見詰める。
「……」
やっぱり視線を感じる気がする。
行ってみたい気もするけど、今行ったところで迷子になるのは目に見えている。
また今度にしよう。
「そうだ、名前とかどうしようかなー。ディラって名乗ってたけど、本当は朝陽だったし」
とはいえ、すでに村ではディラが浸透している。
それをいちいち訂正して回るのはさすがにちょっとという気持ちがむくむく芽生えた。
「……いいや、ディラで。直すのめんどくさいし」
ディラの方がきっと言いやすい。
森に入り出口に向かっている最中、良いことを思い付いた。
道から足を出し、一歩踏み出す。
「ほいっと」
すると瞬時に森の入り口に戻された。
とっても楽だ。これからこのショートカットで戻ろう。
「さーて、オッサンに返してこなきゃ」
余談であるが、ここでようやく自分の姿が変わっていることに気が付いた。
何せバルバロの時期は鏡がなかったし、村では記憶喪失だったからである。
その姿はまさしくゲームでの容姿そのもので、大いに混乱した。
「そういえば功太もゲームでの姿だったような??え?実は異世界召喚じゃなくてMMOへの憑依案件??」
日本での創作あるあるを引っ張り出して色々考察してみたが、ま、そのうち理由が分かるだろうと早々に思考を放棄したのであった。
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鼻歌交じりに森の中を歩いていく。
目的地はマーリンガンの小屋。
つまりバイトにいくのだ。
この森に来て一週間が経つが、すっかり馴染んでしまった。
ノックもそこそこに扉を開けると、マーリンガンが薬草を仕分けしていた手を止めて俺を見やる。
「やあ今日は遅かったじゃないか」
「来る途中でロンロさんが困ってて、荷物運びしてました」
左手に持つ包みを近くの台へと下ろして、中のものを取り出す。
「人助けは良いことだね」
「お返しにリンゴを貰いました」
お礼にと艶々で真っ赤のリンゴを頂いた。
結構大きめで、見た目からして美味しそうだ。
そのリンゴにマーリンガンが顔を輝かせた。
「グッジョブだディラくん。すぐに切って食べよう」
二人で俺が不器用ながらにウサギに切ったリンゴをモシャモシャ食べている。
そのウサギをマーリンガンが摘まみ、「なにこの残骸…、何を表してるの…?」とぶつぶつ言いながら食べている。
失礼だな、ウサギさんです。
お茶休憩を終え、早速作業を開始。
チャカチャカとディラは効率良く指定されたアクセサリーを作り上げていく。
ハンマーはダメだったけど、これは昔からやっていた事だから凄く得意だ。
魔道具制作はひとつ間違えたら大爆発らしい。
ちなみにその話聞いたの昨日。
そんな手慣れた様子の俺にマーリンガンが訊ねた。
「君なんでアクセサリー作るの上手いのに不器用なの」
「さぁ、なんでなんですかね?集中力の違い?」
「常に集中してほしいなー。見てよあれ、君に割られないようにお皿を木の器に総入れ替えしたんだよ」
ほら、と、マーリンガンの示すキッチンの方へ視線を向けると、食器棚の中身がほぼ茶色になってた。笑う。
「集中力って何で鍛えられるんですかね」と二人でチャカチャカと指示された魔道具作成中にも訊ねてみたら、「……訓練?」という微妙な答えが帰ってくるだけだった。
「もしくは、弓、とか?」
「弓?」
「標的の動きを予測したり、的確に当てたり。この魔法具を作る作業も相当な集中力が要るんだけどねぇ」
へぇ、そうなんだとゲームでやり込んだ愛武器を思い出す。
「弓ねぇ…」
マーリンガンの弓という意外すぎる答えに手を止めた。
ブリテニアスオンラインではずっと使ってた武器だけど、そんなに集中力いるかなと首をかしげた。
ブリテニアスオンラインはあくまでもゲーム。
でも言われてみれば確かに、ターゲットロックオン、射出威力調整&軌道の指定やらとやることは多かった気がする。
とはいえ、すでに慣れ過ぎて、息をするように敵の急所を撃ち抜いていた。
その技術が此処でも引き継げれば良いのになと思ったとき、「そういえば…」とマーリンガンが話を変える。
「ディラくん家に来るとき、というか帰るときもどっか見てるけど…。何か、見えるのかい?」
意味深な表情で訊ねてくるマーリンガン。なんだその顔と突っ込みを入れてやりたい。
しかし、まさか見られているとは思わなかったな。
それに俺は答えた。
「…うーん。見えるというより、視線を感じるみたいな?」
何かが突き刺さってくる。
そう説明したら、マーリンガンが手を止めた。
その顔は何かを企んでいるような笑顔だった。
「もしよかったら、君に見せたいものがあるんだけど、この後どうかな?」