1.5小話
完全性
魔術における最も重要な要素。
世界とは、元々一つの塊であり、ありとあらゆる要素を内包した一つの全であった。即ちそれは混沌という名の秩序である。
また魔術の効果はこの完全性を高める事でより強力になるが、無闇やたらに混ぜ、愚かな手順で完全性を高めようとすれば、求める結果とは大きく逸れた現象を再現してしまう。
魔法学において、この完全性が失われていく、つまり秩序が拡散し無秩序となることを時間と定義する。
魔女の大釜
時間の定義がされない、全ての要素が混ざった、完成された完全性の状態。これは極めて小さい一つの全であり、大釜は全てを受け入れ、秩序を保つ。大釜の中身を溢した時、世界は始まり、その中身は無秩序に拡散しながら、未だ広がり続けている。
ファイア級
殺傷する程度の効果は無い魔術。またこの級に該当する魔術は罰ではない。
代表例
ファイア 火を出す魔術。触媒として世界的に普及している。
持続的な微風 極東の島国で発明された、微風を持続的に生じさせる魔術。
自己再現術式 自らの心の内を再現する。多くの人々の創り出す世界は平凡で、人を傷つけることすら出来ない。またそれは人間としての成長の終わりを意味する。
ショット級
殺傷する程度の効果は持つが、ほんどの場合、必ず対象を殺害することは無い魔術。またこの級に該当する魔術は罰ではない。
代表例
弾く色 指先に塊の流れの魔力を生じ、それを対象目掛けて射出する。完全性の低い、単純な魔術であるが故に派生も多く、また魔術師はこれを生涯忘れることがない。
槍頭を砕く音 自身に向かってくる物体に対して真横から塊の流れの魔力をぶつけ、砕く。
厳拳 魔術で強化された右ストレート。紀元前、盗賊王ガン=ヘラサスが用いた事が始まりとされている。その姿はまさしく原始的かつ蛮族的かつ勇者的右ストレートである。
絶対的な死の魔術級
必ず対象を殺害する、若しくは大規模な災害を引き起こし多くの人々が死ぬ至る程度の効果を持つ。
代表例
絶対的な死の魔術 対象を殺す
鳴神神楽 極東の島国での大飢饉、その解決として豊作の神の力を再現しようとした罪として与えられた罰。大規模な雷雲を呼び、大洪水を引き起こす。鳴神の巫女よ、その神楽の舞をもってして、多くの人々の贄となりたまえ。
何処までも青い青い空 曰く悪意の集合、曰く雲も夜も無い空、曰く灼熱の太陽、曰く枯れ果てた捨てるべき土地。
疫病の魔術級
世界魔術条約に於いて、疫病や大規模認識改変などの、この世界に不可逆的な変化を齎す魔術の一切の使用及び研究、発明を禁ずる。
代表例
風邪症候群 取り返しのつかない結果だ。
天国の存在証明 天国の存在証明という、人類が未来永劫かけて行うべき所業を魔術によって成そうとした罪、その代償として人類の認識に地獄という罰が与えられ、そこに果てない死への恐怖が産まれた。元来、人類とは蟻に近しい生命であったのだ。
伝染する戦争病 人々の意思を一つに統合し、精神的な神を産もうとした罪、それに対する人々の闘争本能を刺激し、争いを呼び起こす病という罰。
冒涜のウィンネス=フランクブルク
使用された事がない、若しくは記録が古すぎるなどの要因で魔術の結果、どの様な影響を及ぼすのか分からない魔術が分類される。
代表例
''水星'' 偉大なるナフル=ニール・マーキュリーが産み出した魔術。使用された記録が無いためその影響は未知数。伝承によれば歴史を覆し得る破壊力を齎す。
罪と罰
到底再現できようが無い事象を魔術によって再現しようとした時、それとは全く違う性質の現象を再現してしまう。即ち、罪と罰である。
魔術の有無に関わらず、最初から人間にはそれ以上に成る上がる権利もそれ以下に成り下がる権利も持ち得ないのだ。人とは、人である。
扉の陣
自らが到底再現出来ない現象を扉を開くことによって、ここでは無いどこかから莫大なエネルギーを取り出しそれを無理矢理再現する為の陣。しかし、これは便利なものでは無い。なぜなら殆どの場合、扉を通して再現した現象は罰であるからだ。
これは本来、理論は完璧だが、エネルギーが不足している状況でのみ使用される、限定的な陣である。理論無くして再現するなど、まさしく愚の骨頂だ。
真円
完全性の最もたる象徴であり、星教において最も重要視される図形。しかし、この世界はそれほど丸くは回らないだろう。
聖遺物
聖人などの遺品や遺骸。その効用は本来の意味での魔法、奇跡に値する。しかし聖遺物の中に分類される殆どの物品は古の教会の魔術師によって造られた贋作、即ち罰である。
条約の執行者
世界魔術条約違反者を執行する部隊。魔術師モラルの乱れは世界秩序の乱れであり、世界秩序の乱れは魔術師モラルの乱れである。
魔術師倫理委員会
魔術師の倫理を定め、その逸脱者が居ないか監査する国際組織。またその下部組織には隔たりなき医療魔術師隊が存在しており、世界各地で医療魔術による無償の医療活動を行っている。
天体魔術
天文学的現象を魔術モデルとして再現する魔術。その多くは研究資料として使われ、またその資料名、つまり魔術としての名、それにはロマンス的表現が多く使われる。かつて地動説が異端とされていた時代、天文学者たる魔術師は自らの研究を魔術とし、その触媒を本や絵画、芸術の内に隠した。
魔術モデル
彫刻や天文学的現象の説明の際に使われる、形の再現のみを目的とした、魔術で造られたモデル。それが彫刻であったなら、形は精巧だが色や触感、重量は実物とは程と遠い。
星の魔術師
最も一般的な魔術師。単に魔術師と呼ばれる事が多い。天文学を元として魔法の源たる水星を目指す。魔術師とは元来占星術師であり、天文学者なのだ。
星を見上げ、星を観測し、星を再現し、星を理解する。いつか、揺籠から離れる赤子達に、祝福を。そしてその先に多く学びありますように。
教会の魔術師
元々は人自らが神の座を簒奪する為、神の再現を目的としていたが、現在においては教会に反する異端者を抹消する為の教会の保有戦力という意味合いが強い。
穢れを以てして穢れを祓え。歓喜せよ、それが神の思し召しなのだ。
東洋の魔術師
東洋における魔術とは武芸の一つであり、東洋の魔術師とは武人なのだ。またその特性上、戦闘に有用な魔術の殆どは東洋発祥である。
天下制す武人は万に通ず。だからこそ多く学び、多く戦うのだ。
古の教会の魔術師
500年ほど昔に存在した、現在の教会の魔術師とは性質が異なる、教会の協力者としての魔術師。異教に誑かされ、神に叛き、その座をすら簒奪しようとした。決して許されるべきではない。
太陽、神を観測し、世界を理解しようとしたが、蝋は溶けて地に堕ちた。蝋が溶けるのなら素材を鋼にすればいい。それでも足りないのなら、もっと堅牢でもっと軽量な翼を携えればいい。それでも足りないのならなら、翼を捨て、新たな形を模索すればいい。魔術は言っている、地球は回っていると。
バベルの塔、イカロスの翼
教会の魔術師におけるタブー。自ら神たらんとしてはならぬという戒め。思い上がりし傲慢という罪には際限なき絶望という罰を。
魔女狩り
滅命の陣事件を発端とした魔術師を対象として行われた虐殺。元々古の教会の魔術師のみが対象だったが、他の魔術師はおろか、一般人を巻き込み、魔術史が100年後退したと呼べるほど凄惨なものとなった。
滅命の陣
古の教会の魔術師最後の罰。人を造った神の所業を再現した罪、その罰として与えられたのが滅命の陣である。これは周囲にいる人間を分解し、再び再現するという陣である。この分解、再現という過程において魂はエネルギーとして陣に保存され、再構築される事は無い。結果、生きた死体を創り出す陣となった。また陣にエネルギーがある限り稼働し続けるという特性が付与されていた為、その陣は十字騎士島ごと封印された。最終的な犠牲者数は凡そ15万人以上であり、魔術史史上最悪の事件となった。
故に教会は人の身で神の所業を成そうすることを禁じ、それを背信としたのだ。許されぬ罪には、久遠の代償を。
リオニ
魔術師倫理委員会の設立、魔素の仮定、指向性反転魔術、地動説魔術モデルの発明、伝染する戦争病の撲滅、瞳海隊の設立、医療魔術の民間普及など、その功績は計り知れない。現代魔術の基礎を創り上げた人物と言って差し支えないだろう。
しかし、彼がエルフという種族であったがために、絶滅戦争でその命を絶たれた。