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悪辣令嬢は助けない。

作者: Mea

楽しんで頂ければ幸いです。

ーーー"第一王子の婚約者選び"会場にて。


パーティーに参加した令嬢達がそわそわと浮き足立つ中、レティシアは少しでも早くパーティーが終わるよう祈っていた。


周囲の令嬢達とは異なる理由で、そわそわと落ち着かない気持ちを抱えたレティシアは、そっと口に含んだ紅茶を飲み込む。


早く帰って最近お気に入りの本を読みたい彼女にとっては、この無駄な時間が面倒で仕方なかった。


(始まって30分も経つのに、本人は現れない。


代わりなのか第二王子が現れて、令嬢達はそちらに夢中。


確かに、第一王子よりも第二王子の方が王位継承権は高いけれど。


それにしても、パーティーの主役が来ないことを気にかけもしないなんて。)


再度そっと持ち上げたカップを傾けて紅茶を飲む。


(なんてつまらないパーティーなのかしら。)


優雅な仕草でカップを置いた彼女は、お花摘みという名のパーティーからの逃走を試みた。














(王宮の警備がこんなので大丈夫かしら?)


あの後、あっさりと案内係を撒いたレティシアは、警備の騎士の目を潜り抜けて、人気の全くない廊下を歩いていた。


(退屈なパーティー、退屈な時間。なんて退屈な1日なの。)


うんざりとした気持ちを抱えつつ、ゆっくりとした歩みで目の前の曲がり角を曲がる。


曲がった先にあったのは、先程まで居た庭園とは比べものにならない程小さな、見窄らしい庭園だった。


手入れされていないのか、草木は伸び伸びと育ち、栄養の足りない花々は萎れている。


(ここも王宮の中、よね?)


王宮の中に手入れされていない部分があるなんて、と純粋な驚きが小さな音となって唇から外に溢れでた。


周囲に誰もいないことを確認した後、ゆっくりと歩みを進めて庭園に入る。


(手入れのされていない庭園、ねぇ。一体第何王子のーーー)


かさり


音を出さぬ様慎重に歩みを進めるレティシアは、小さく鳴った音の先に、草木の生い茂った叢の中で蹲る小さな塊を見つけてしまったのだった。














叢の中で泣きながら膝を抱える少年は、ブルブルと震えながら必死に救いを求めていた。


「ーーーだれか。だれでも良い。だれか、助けて。」


そのあまりにも哀れな様を見て、レティシアは、愚かにも目の前の少年を数年前の自分に重ねてしまった。


そっと立ち去ろうとした足を止めて、漏らすまいとした息を吸う。


愚かで哀れで救い様の無い少年に向けてーーー


















ーーー温度を感じない声で彼女は放った。


「無理。救いは無いわ。」


返ってくるはずのない返事にびくりと身体を揺らした少年は、人が居た驚きと相手から返された非常な言葉に大きく瞳を見開いた後、固まった。


「救いは無いわよ。」


固まった少年にとどめを刺すよう、レティシアは再度言葉を放つ。


再度びくりと身体を揺らした少年は、告げられた言葉をゆっくりと飲み込み、理解できないという表情になった後、目の前の人間をキツく睨みつけた。


静かな庭園に、泣き伏していた少年の怒りを孕んだ大きな声が響く。


「じゃあ、どうすれば良いんだ!僕に一生このままで居ろと、僕は死ぬまでこのままだと言うのか!!!」


救いを求める少年の想いを含んだ真っ直ぐな声が鼓膜を揺らす。


(この国の王子は揃いも揃って、馬鹿ばっかりね。)


数年前の自身を棚に上げてレティシアは息を吐く。


呆れたと言わんばかりにため息を吐いた少女を、目の前の少年は更にキツく睨みつけた。




「経験者からのアドバイスよ。」


「ーーー、は?」


いきなり意味不明な言葉を放つ少女に少年は間の抜けた声を上げる。


「ここにこの現状をどうにか出来る人が1人いるわ。」


「ーーー、え?」


きょろきょろと忙しなく視線を動かした少年は、周囲に他に誰もいないことを確認すると、そっと目の前の少女を窺い見た。


"君って、こと?"


先ほどとは異なる表情を向けられたレティシアは、笑い声をあげたくなるのを我慢して、持ち歩いている扇を広げて表情を隠す。


(そんな目で見ないで下さる?笑ってしまうところだったじゃない。)


ひくりと震える口端を抑えて、気持ちを落ち着かせた彼女は、そっと扇をしまいつつ言葉を続けた。


目線は真っ直ぐ。


目の前の少年を見つめて。


畳んだ扇で指し示した先は。


「ーーー貴方よ、あなた。」


「ーーー、は?」


何度目かの間の抜けた声を上げた少年は、再度目の前の少女をキツく睨みつけた。


「無理だよ!」


再び庭園に響く怒声。





レティシアは何度目かの溜息を吐いて、少年相手に変に取り繕うのを辞めた。


淑女の仮面を投げ捨てて、足を開いて腕を組む。


顎を持ち上げて見下す様な視線と共に、目の前の少年に言葉を放った。


「無理無理言ってんじゃないわよ。ぴーぴー泣き喚くくらいなら、がむしゃらに手を伸ばしなさい。足掻いて足掻いてどうしようもなくなるまで足掻くのよ。自分の事くらい自分で救いなさい。」


それから。


「誰かに救いを求めるのなら、誰かが救うに相応しい人間になりなさい。何も持たない者を助ける程、貴族の世界は甘くないわ。」


放たれた言葉は、レティシアが、かつての少女に伝えたいこと。


経験者の彼女だからこそ、レティシアだからこそ言えること。


強い想いを秘めた射抜く様な目線を受けて、少年は俯いた。


「ーーーったら。」


「なによ。」


「足掻いても何も変わらなかったらっ!僕はどうすればっ!」


顔を上げた少年の両目から流れる透明なモノを見て、彼女は心の底から安堵した。


(まだ、泣けるじゃない。)


涙を流せる間はどうにか足掻ける。




レティシアは続ける。


少年の言葉を鼻で笑いながら。


「ハッ、本当にどうしようもない馬鹿ね、貴方。決まってるじゃない。」


「なーー」


「逃げるのよ。全てを捨てて。」


「はーー」


「それまでの貴方を殺して、生まれ変わるの。皮だけ同じ、全く別の人間に。いくらでも方法はあるわ。見た目を変える、行動を変える、思考を変えるーーー他にも、いくらでも。貴方が貴方でいる必要がないのなら、貴方は貴方として生きていかなくても良いでしょう?」


「ーーー」





息を飲む少年に、彼女は優しく笑いかけた。


ーーー続く言葉は、やはり、無情。


「それが無理なら、無理ね。」


「ーーーっ!」






遠くからレティシアを探す声がする。


(そろそろここにも捜索の手が回る頃かしら。)


誰かに見つけ出されるよりかは、自分から行った方が楽だろう。


庭園から出るべく数歩進んだ後、ふと立ち止まってーーー


「経験者からのアドバイスよ。利用するの、貴方が持つ全てを。生まれも、立場も、貴方のその身さえも。」


少年はもう、何も言わない。


「貴方がその全てを上手く利用できたのなら、いずれは。なんてね。」


では、ご機嫌よう。


レティシアは、パーティー会場に戻った。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー数年後。





カツカツとヒールの音が王宮の廊下に響く。


続いてバンっという鋭い音を立てて執務室の扉が開かれた。


執務机に座って書類を処理していた青年が顔を上げる。


「ルイ!これはどう言う事なのっ!」


青年は目の前に突き出された書類をちらりと見た後、その書類を持つ女性に視線を戻した。


「何の事だ、レティ。」


しらばっくれるルイに我慢の限界を超えたらしいレティシアは執務机に拳を叩きつけた。


「いつの間に、私とルイが婚約するなんて話になってるのよ!」


「はて?レティが言ったのだろう?私が用いる全てを利用すれば良い、と。」


レティシアは、何も悪いことはしていないと言わんばかりのルイを睨みつけた後、小さく溜息をついて元の表情に戻した。


「確かに、言ったわ。でも、それとこれとは別でしょう。」


やれやれと呆れたように首を振るレティシアを笑顔で眺めるルイ。


(反省してないな、こいつ。)


相手は現王太子なので、賢いレティシアは言葉を呑み込んだ。


レティシアの呆れた視線を受けたルイは、芝居がかった仕草で話出す。


「何、人間、誰しも欲深いものだな。一つ願いが叶うともう一つ、もう一つと欲してしまう。」


「なーにが『人間、欲深いものだ』、だ!私を利用しようなんて千年早いわ!」


「いいや?利用しようなんて、考えてもいないぞ?」


胡散臭い言葉を受けたレティシアがジト目で尋ねる。


「じゃあ、何で私を婚約者にしたのよ。」


ルイは、その目を愛おしそうに見つめた後、質問に返事をした。


「ハハッ、そう恨めしげに見つめるな。喰らいつきたくなる。」


「くーーーっ。」


「言っただろう?お前が欲しくなった、と。」


「なっ、なっ、ーーーっ。」









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーその年。


王太子とその婚約者の仲睦まじいエピソードが国中に広まったとか。


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