真実を探す その1
パオラさんとワンピースを作り始めて、随分と経つ。
なかなかブラウ商会に来れなかったりもしたので、夏用の型紙で作ったのは正解だった。
「パオラ様、、、あの、、、」
「はいはい、どうしました?」
「この前、小説を読んだのですが、続きが気になって、、、続きの巻が出ていないので、、」
パオラさんは縫物をしながら聞いてくれている。
「あの、、、あるお金持ちの家に一人息子がいたんですが、母親が亡くなってしまって、後妻を迎えるんです。で、その後妻にも息子が産まれる。」
「・・・・まあ、随分とべたな設定ですね、、、で?」
「その頃から、先妻の息子の体調が思わしくなく、病気がちになるんです。」
「精神的なものではなくて?」
「ええ、、、、随分と経ってから、、、毎日少しづつ毒を盛られていたということがわかるのですが。ですけど、、、」
「んんんん、、、、、まあ、跡継ぎ問題?先妻の子が邪魔だった、って。犯人、もうわかってるわよね?」
「まあ、、、、そうなんですけど、、、、その後妻が、なんというか、、、ふんわりとした箱入りお嬢さま、みたいな、、、、、」
そこまで説明した時に、隣で爆速で刺繍をしていたミラさんが口をはさむ。
「ふりよ。ふり。まさかそんな人が、、、って思わせる、ふ・り!」
「・・・・そうですよねえ、、、、」
「だって、小さい子供にそこまでするなんて、信じられない!よっぽどの恨みか、金ヨ、金!」
「ですよね、、、、」
「その話のどこにあんたは引っかかるわけ?いい人過ぎ!!」
「・・・・ですよね、、、、でも、なんだか、、、夢見がちなお姫様みたいな、守ってあげたくなるような、、、そんな、いつまでも娘さんみたいな後妻だったんです。しかも、、、、先妻の息子を気遣うような、、、、」
「ソフィーちゃん、夢見過ぎよ!そういう奴いる。裏であかんべーしてるみたいな。」
「・・・そうねえ、、、他に考えられるとしたら、、、、その後妻の親?とか?でも、同居してないと毒なんか盛れないしね。」
「えーお金持ちなら使用人位連れてきたかもよ?」
「まあ、、、、身分によってはそうねえ、、、、」
「で、そのお金持ちの家を乗っ取ろうと考えて、一服盛る?あら、、、なんでひと思いにやんなかったのかしら。そのほうが簡単なのにね?」
「・・・・そりゃ、、そんなことしたらばれるからでしょ?元も子もないわ。」
「ああ、、、なるほど。」
二人共、針を持つ手を休めずに、これだけよくしゃべれるなあ、、、、と、感心。
「要は、、、、死ななくて、ただ、体が弱くて家督を相続するには不安がある。だから次男坊に家督を譲ろう、、、って、ギリギリのところをせめた、ってことかしらね。」
「金持ちの考えることって、、、よくわかんないわね。はーい、完成!うん、我ながらいい出来。」
「あら、今回の図案は新しいのね。いいわ。」
「でしょ?ちょっと自信ある。」
「さて、ソフィーちゃんのワンピースは、いつごろ完成かな?」
「あ、、、、、はい、、、、」
*****
殿下は執務室で、例の3人と順調に仕事をこなしている。
その間だけ、ブラウ商会に出掛ける。
夕方は、クロエさんの家で晩御飯をごちそうになる。
もう、ご飯は安心して食べられるようになったんだけどね。殿下はレオさん達に会うのを楽しみにしているし、私も楽しい。
クロエさんと作っている小さい畑のトマトも収穫できるようになった。毎日が、穏やかに過ぎていく。
ただ、、、、、、
「ああ、ソリン君。ちょっといいかね?」
その日、執務室にお茶を出した帰りの僕に話しかけてきたのは宰相殿。
立ち話も何なので、応接室にお茶を出す。人払いもした。
「どうされましたか?」
「いや、、、他でもない、息子たちのことなんだが、、、」
「はい。よく働いてくださっています。さすがです。」
「ああ、ありがとう。それでな、、、、家の仕事もあるので、そろそろ長男だけでも返してほしいんだがな、、、殿下に伝えてくれないか?」
「・・・・・」
「頼む!」
「では、、、あと3人。嫡男殿の事務処理能力を補うには、事務官があと3人必要かと。次男様と三男様は、もう登録を済ませておりますので、動かせませんよ?」
「・・・・・事務官3人も、、、、」
「そうですね。これから、10月の大舞踏会を詰めなくてはいけませんし、、、、これからまた忙しくなるタイミングですから。ただ、、、、身元は宰相殿が保証してくださる方に限りますよ?信用していますので。」
ため息と一緒に、宰相殿がお茶を飲む。
「では、その条件を飲む代わりに、一つお願いがございます。失礼して、座っても?」
宰相殿に許可を得て、向かいの席に座る。
大きな声で言えることでもないので、、、、、
「実は、、、殿下は御幼少の時分から、少量ずつ毒を盛られ続けておりまして、、、、」
ヒュッ、と、宰相殿ののどが鳴る。
「台所とダイニングを急いで作りました。なんとなくはお判りでしたよね?」
眼を見開いて、僕を見る。
「・・・・・」
「それに気付いたのは、先にここに滞在されていた、リーさんという方だそうです。それから殿下は、城下の物を口に入れませんでした。水さえ。・・・皮肉なことに、戦時中、ここの食事をとらなかった殿下は、健康になられました。」
「・・・・・そんな、、、まさか、、、毒見係は、死んでいないぞ?」
「そうですね。でも、多分、頻繁に毒見係の者が替わっていませんでしたか?即効性のものではなかったようなので。」
「・・・・・」
「そう、、、、毒見係が死ななかった。だからこのことは、長い間、見逃されてきてしまったんです。」
「・・・・・何を調べろと?」
「話が早くて助かります。皇后陛下の、、、実家から付いてきた侍女や侍従、それから、毒見係を管理していた者、あとは、、、その者たちが、外部からのものと接触しているか、、、、ですかね?」
「・・・・しかし、、、、殿下はなぜ、、、、」
「殿下はなぜ?そんな大事なことを黙っていたか、ですか?」
ふふっ、と、ソリンが苦笑する。
「皇后陛下の指示だと思っているからでございましょう。」
「・・・・・」
「こんなことをお願いしておいて、大変恐縮なのですが、、、、一歩間違えると、とんでもない不敬になってしまうので、、、、宰相殿もお気をつけて。あなた様を信用しているからこそのお願いです。」
「・・・・くっ、、、、」
「嫡男殿は、このご返事と交換でございますね。」
お気をつけて、と、心配しているようなことを口にしながらも、ソリンの笑顔は迫力があって怖かった、、、、