お茶会
6月。庭園のバラの花が咲き誇っている頃、皇后陛下主催のお茶会が開かれた。
「まあ、この度の功績、ご立派でございました。ご挨拶が遅れてしまって、、、」
挨拶した皇后陛下はそう言うと、
「殿下の体調もよろしいと伺っております。・・・・それと、チャールズが、フールに向かいましたでしょ?お役に立てばよろしいのですが。」
「はい。ありがとうございます。チャールズを信用しています。どうしても中核となって引っ張って行ってくれる者が必要でしたので。手を挙げてくれた彼に、感謝しております。」
「そう言って頂けると、、、」
そう言って、皇后陛下は柔らかく微笑まれた。
「今日は、、、、そのフール国の王女様もご招待したのですが、、、、」
「ああ、先にお知らせしました通り、体調がすぐれず、ご遠慮したいと、、、」
「そう、、、残念だわ、、、」
話している後ろで、ソリンがきれいな姿勢で微動だにせずに侍っている。
「まあ、その子があなたの新しい侍従ね?」
「・・・はい。ソリンと申します。」
「まあ、、、、そう、、、あなたも近くに人が置けるようになったのね?よかったわ。」
「・・・・・」
「今日は、侯爵以上の御令嬢を何人かご招待しておりますのよ?イリアからも何人か、、、お話なさってみてね?お天気が良くて良かったわ。」
そう言うと、首を少し傾けて、また笑った、、、、控えていた侍従に連れられて、招かれた客人へ挨拶に向かって行った。彼女の侍従は、皇后陛下の少し年上ぐらいか?
親鳥が雛を守るようなしぐさに、思わず感嘆する。
・・・・この方が、、、皇后陛下?
16になる息子がいるとは思えないほど、若々しく、、、、なんというか、、、お嬢様?しかも、、箱入りの、、、、しかも、、ふんわり?
このおっとり加減が、演技なら、、それこそ恐ろしい。
ソリンは、、、、困惑していた。
思い描いていたのは、それこそ魔女のような毒々しい女、、、自分の息子を王位につけるために、まだ幼い殿下に毒を盛り続けた女、、、、???
・・・・・まあ、人の腹の内なんかわからない。
フールの将軍も、優しくていい人だと思っていた。よく、私や弟を、高い高いしてくれた。私も弟も、彼が好きだった。二人まとめて馬に乗せてもらったこともある、、、
ソリンの困惑をよそに、お茶会は進んだ。
もちろん殿下は出されたお茶もお菓子も手を付けない。
色とりどりに咲き誇ったバラに引けを取らない、綺麗に着飾った御令嬢方。
殿下の身体が弱かったので、立太子されてもなお、みんな様子見をしていたらしい。決まった方がいらっしゃらないのは、、、そう言う事情と、殿下本人が長生きできそうにない、と思い込んでいたからだろう、、、と、ばあやさんが教えてくれた。
ばかげている、とソリンは思う。
先の先を見通せる、素晴らしい王になるだろうと思う。
フールが無事復興したら、弟にまた会えたら、、、殿下がどんなに素晴らしい人なのかを教えてあげたいと思う。そして、精いっぱい恩返しをしよう。もちろん、、、賠償金も頑張って払おう。
殿下には、殿下がこっそり憧れているレオさんとクロエさんのような、温かい家庭を築けるような、素敵な方と結婚してほしい。そして、長生きしてほしい。
うん、うん、、、、
殿下がご令嬢方から称賛の声を頂いたり、これでもかアピールを受けている。そつなく、かわしているようだ。そんな姿を、バラ園を背景に眺めていた。
「そこのお兄さん、ちょっと」
声を掛けられたので、振り返ったが誰もいない。
「?」
「聞こえないの?」
足元を見ると、綺麗に着飾った小さいご令嬢が、僕のスラックスを引いていた。
「・・・どうなさいましたか?お嬢様?」
僕は目線が合うようにしゃがんでご令嬢に話す。
「私は大公家のフローレンスよ。あなた、私を父のもとに案内しなさい。」
・・・・フローレンス様は、、、、迷子なんだ、、、
まあ、確かに、ご令嬢方と、御側付き。家によっては親子ともども来ているし、そこに護衛官、給仕係、、、、皇后陛下の御側付きだけでも大層な人数、、、この身長だと、見渡せなくて探せないな、、、ふふっ
「何を笑っているの?早く、案内しなさい。」
「はい。かしこまりました。フローレンス様。ちょっと失礼しますね。」
横抱きにして、大公殿を探す。弟のちょっと年下ぐらいかな?ぱっちりとした青いおめめと、縦ロールに巻かれた金髪がカワイイ。フワフワのレースふんだんなドレス、、、お人形さんみたい。幼児特有の柔らかさに、ほおずりしたくなるのを我慢する。
「私も殿下にご挨拶を、と、思っておりましたら、他の御令嬢たちのドレスの波に巻き込まれてしまって、、、、まったく、品のないことです。」
小さいご令嬢は、ぷんぷんと怒っている。未来の王妃候補だ。
「それでは、フローレンス様、まずは殿下のところにご案内いたしましょうね。」
花々が群がっているところに、横抱きにしたままのフローレンス様をお連れする。
「殿下、、、、大公家ご令嬢、フローレンス様が殿下にご挨拶に。」
殿下に膝をつかせるわけにはいかないから、このままだっこしていろ、と言われたので、僕も御前に進む。
「この度はご戦勝おめでとうございます。」
「これは、フローレンス嬢、ありがとうございます。ご一緒に庭でも散策いたしませんか?」
よほど、辟易していたのか、殿下は嬉しそうに笑って、フローレンス様の差し出した手に、軽く口づける。
「目線が合いませんので、このまま、この召使も一緒でかまいませんでしょうか?」
殿下はいたずらっぽく僕を見て、それからフローレンス様に微笑んだ。
「では、参りましょう。」
ちょっとおかしな構図だが、、、、殿下に手を取られたフローレンス様を抱っこしたまま、付き従う。
残されたご令嬢方はびっくりしたり、悔しがったりみたいだが、お相手が大公家のご令嬢とあっては、不平も言えない。思わず、笑ってしまった。
庭にある東屋のベンチに、二人並んで座る。
もちろん僕は後ろに控えている。
時折風が通って、バラの匂いを運ぶ。なかなかロマンティックだ。
しばらくお二人で、たわいもないお話をされていたが、殿下が大公殿を呼びに行くのに席を立った。
「いえ、殿下、僕が、、、、」
「ああ、いいよ。僕がレディに何か飲み物を取ってきたいんだ。何がいいかな、お嬢様?」
「・・・まあ、では、オレンジジュースをお願いいたしますわ。」
フローレンス様はほんのりとほほを染めて、微笑む。
殿下の後姿を見送っていたフローレンス様がつぶやく。
「思った以上に、素敵な方ね。お父様に無理を言って今日出かけてきてよかったわ。」
「ふふっ、、、、そうでございますね。殿下はご立派な方でございます。僕も尊敬しております。」
「貴方は、、、、殿下の従者なのね?そう、、、、」
「?」
「今後、私に必要なことは何かしらね?殿下の横に並び立てるように。」
「・・・そうでございますね、、、まずはお勉強でございますね。国内はもちろん、近隣諸国のお勉強などもお役に立つかと。あと、言語ですね。話が伝わるというのは、誤解を生まないためにも大事な事かと、、、」
「・・・・・」
「今、フローレンス様は充分にお綺麗です。そこに、知識、教養が身に着いたら、、、それはもう!本当に素晴らしいレディになられますよ?」
「・・・・殿方は、、、、あんまりお勉強ができる婦女子を好まないと、、、侍女が言っておりましたわ。」
「まあ、そんなつまらない殿方を相手になさるので?」
「あら、、、、そうね、、、」
フローレンス様は目をキラキラさせて笑った。・・・かわいい、、、、
間もなく、殿下がオレンジジュースを片手に、大公殿を従えて戻ってこられた。
「お待たせしたかな?お嬢様?」
差し出されたジュースを美味しそうに飲んで、フローレンス様はお父様とお帰りになった。横抱きにされたまま、恥ずかしそうに手を振っていらっしゃる。
「かわいいですね。殿下の婚約者候補。」
僕が持ち込んだ水筒のお茶を飲んでいた殿下が、むせる。
「・・・・あ?まだ6歳くらいじゃないのか?」
「あら、レオ様とクロエ様は17歳差だとお聞きしています。13歳差、、、、まずまずではございませんか?」
「・・・・・真面目に言ってる?」
「はい。可愛らしい方です。今から楽しみですね、、、ふふっ、、、」