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旅路

命乞いをするのだろうと思っていた。


命だけはお助け下さい、なんて言われたら、笑ってやろうと。


何の苦労もない王女が、幽閉されていたとしても、まさか、こんな環境下で過ごしていたとは、、、、

薄汚れたエプロンで、皆で畑仕事をしていた小さい娘が、王女の名乗りを上げたのに驚く。

当然のように、自分の身を守るだろう。国民を切り捨ててでも。そう思っていたのに、、、


自分の命と引き換えに、国民の食料を求めたこの娘の目は、、、まっすぐだった。


*****


崩れ落ちた王城や、焼き払われた城下、破られた倉庫、踏みつぶされた民家、、、、

あちこちで、ブリアの兵が、共同墓地を作っている。

放牧用だっただろう柵は壊され、時折、森の中をさまよう痩せ果てた牛を見かけたりする。人影はない、、、、我が軍の進行に恐れをなして隠れているのだろう、、、


王子と王女を連れて、国内を回る。

避難所になっている教会で、二人を降ろす。


「フールはブリアに下り、5年の猶予を持って、独立を、、、、」


容赦なく石が投げつけられる。弟をかばった王女の額から血がにじむ。


「・・・・独立を目指します。皆様、ご協力をお願いいたします。」


どこに行っても、似たようなものだった。投げられるのは、石だったり、腐ったトマトだったり、、、


僻地に行くと、まだ遺体の処理が進んでいない。フールの兵士の遺体が累々と積み重なっている。吐きそうになって口元を押さえる王子の手を取って、王女が言う。


「見なさい。私たちが見なくてどうするの?私たちが守り切れなかった国民がどうなるか、、、しっかり見なさい。」


幼い姉弟は、始終無言だった。

張り付いたように、馬車からの風景を見ている。



時折、ブリア国旗を掲げた大きな荷馬車とすれ違う。

各教会に、支援の小麦を運び込んでいる。帰り荷は、共同墓地の脇に集められた金属、槍だったり、鎧兜だったり、、、を積み込んでいく。


「・・・あれは?」

「ああ、、、追剥をしているわけではないぞ。あれを集めて持って帰るように、俺の友人に頼まれているんだ。」

「・・・・・」

「なんに使うのかはわからんがな。」


ブリアの兵は、手に手に同じ規格のスコップを持っているのでわかりやすい。

埋葬のための穴を掘ったり、放牧用の柵を直したりしている。

時折、、、出来上がった土盛りの前で、跪いて祈りをささげている。

「・・・ああ、、、、」

口数の少ない娘の口から、思わず言葉がもれる。


何か月かかかって、国中を回った。

フールの王都に戻った頃は、もう冬の匂いがした。


王都は大河を天然の要塞として、それを背に建てられていたが、今はそこに野営用のテントがたくさん設営されている。

その一つに、王女を案内する。


「冬前に、軍の半数を撤退させる。半数は残し、治安の維持と復興のために動く。

王女、お前は人質としてブリアに連れて行く。王子はここで教育させる。国元から復興の指示を取るものを派遣させた。フール側は宰相が唯一、使えそうだ。

いいか、、、5年だ。」

「・・・・はい。」

「今日は弟とゆっくり過ごせ。最後の夜だ。明日早朝に、出発する。」



護衛の兵に、自害しないように気を付けるよう指示し、テントを後にする。

すみ渡った空に、星が瞬きだす。


「じゃあ、後は頼んだよ、リー。」

「ん、ああ、、、乗り掛かった舟?」

「将軍も置いていくから。あと、ブリア語を公用語にする予定だから、その方向で。王子の教育係はなるべく早く見つけて送り込むから、それまでよろしく頼む。」

「はい、はい。で、誰が来るのさ、こっち?あの王子と宰相だけでは何ともならないよ?」

「俺の弟。俺が帰還したら、すぐ出発させる。」

「・・・・・え、、、と、、、それは大丈夫なのカナ??」

「ああ、、義母はあれだが、弟はまともだ。継承権は放棄した。俺の臣下として送り込むから。本人は了承している。・・・・まあ、、、、義母の、、皇后の思惑は別かもだけどね。」

「フールの国王にでもなれると思ってんじゃない?まあ、その手もあるケド・・・・相変わらず、、、めんどくさいなあ、、、、でもな、お前、もうちょっと味方増やせヨ?今後のこともあるしな?」

「・・・・・」


リーと将軍と、なんだかんだ話しているうちに、星空になった。



*****


国境を超える頃、風に雪が混じるようになった。

「後、5年見れないんだ。よく見ておけ。」


高台で王女を馬車から降ろす。

着ていた粗末なドレスの裾が、色あせた金髪が、、風で揺れるのを見る。

王女は雪が積もり始めた大地に深々と頭を下げ、馬車に乗り込んできた。


「ありがとうございます。」


表情はない。


辺境伯の屋敷でしばらく休み、王女の衣装も整えてもらい、王都を目指す。年も明け、1月の末になっていた。


*****


王城で国王陛下に報告に上がる。もちろん、フール国の王冠とティアラも持っていく。王女も連れて行く。


「ただいま戻りました。」

「ああ、大儀であった。今後はお前の思うままに進めよ。で、、体調はどうだ?」

「・・・問題ありません。」


そう、皮肉なことに戦場での食事は、俺にとっては、《《安全な食事》》だった。おかげで筋肉もついた。・・・国王が、真っ先に俺の体調を気にしたことに、驚く。まあ、、、子供のころから、体の弱い子だったから、、、


「戦況の報告は全て読んだ。お前の帰還前に、あちこちから戦勝祝いが届いている。後で確認しろ。それでな、、、、」

「・・・はい。」

「お前に王位を譲る。10月の大舞踏会で、戦勝宣言と、戴冠式を行う。」

「たまわりました。」

「チャールズにはフールに出かける準備をさせている。奴は継承権を放棄した。まあ、、、知っていたか。」

「・・・はい。」

「お前の片腕として働くと、意気込んでいた。まあ、よろしく頼む。」

「彼には、期待しております。」


侍っていた大公と公爵も膝をつく。


「フィリップ様に忠誠を誓います。」


王女を紹介すると、軽く頷かれた。

国賓扱いするように伝え、侍女に渡す。



*****


事後処理の報告書や、賠償金の請求、フールの再建計画など、やることは山積みだった。国政もある。


そこに加えて、大舞踏会での褒賞のリストも作る、、、、


フールから連れてきた王女のことは、、、失念していた、、、まあ、国賓扱いだし、、

あまり心配もしていなかった。



ひと段落したある日の午後に、王城の廊下を歩いていると、裏庭に3人の侍女と女の子が一人いるのを見かけた。女の子は蹲っていたが、ずぶ濡れのようだった。まだ2月だぞ?

「?」

そっと近づいてみる。


「まあ、ずぶ濡れで、汚らしい、、、」

「あなたね、フィリップ様に媚を売ってるんですって?王妃にでもなるおつもり?」

「そうよ、早く国に帰りなさい!属国の王女なんか誰も相手にしないのよ?」

「まったく、こんな娘が国賓だなんて、ねえ?」


なんだ?これは、、、


「フィリップ様には、皇后陛下のご実家からお妃がまいりますのよ?あなたがいたら目障りだわ。」


へえ、、、、

切っても切っても、生えてくるんだな、、、、


すらりと剣を抜く。

最後のセリフを口にした侍女の首元に当てる。すっ、と、血がにじむ。

「・・・ひっ」


「誰が?誰の?お妃だって?面白い話をしているねえ、私も聞かせてもらっていいかな?」

にっこり笑ってみる。


「衛兵!何をやっている!早くこの侍女を拘束して連れていけ。後で家門を報告して来い。」

わらわらと衛兵が集まる。


ずぶ濡れの王女を抱えて、自室に向かう。思ったより軽い。

「ばあや!早く、この子を風呂に入れて。怪我がないか確認して!」

「あらあら、、、、まあ、、、」


風呂場まで運び込む。


その間、自室の控えの間に、王女の荷物を運び込ませる。・・・ことのほか少ない。

運び込んだ荷物から、着替えを持って行ったばあやが、

「・・・・ぼっちゃま、、、なんというか、、、、まともな着替えがございません、、、、」

着換えさせられた王女は、、、肩がずり落ちそうなドレスを着せられていた。

「・・・・・」

「・・・なんでも、この年頃の子は大きくなるのが早いから、大きめのサイズで洋服を作るように指示があったみたいで、、、、」

ばあやが申し訳なさそうに言う。

「・・・・・」

























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