悪役令嬢だと罵られて国を追い出されたわたくしが、天使たちに救われたお話
「貴様は聖女であるレイナを影で虐げたな!」
「そのようなことはしておりません!」
「うるさい!レイナが泣きながら俺に訴えてきたのだ!嘘なはずがない!」
「そんなっ…」
「貴様はこの国の公爵家の娘でありながら、そして俺の婚約者でありながらなんという悪女だ!レイナが悪役令嬢、などと言っていたがまさにその通りだな!」
大国の公爵家の娘として生まれたわたくし。名をルシア。王子殿下の婚約者でもあったわたくしだけれど、突然聖女様を虐めたと濡れ衣を着せられて悪役令嬢というよくわからない言葉で罵倒された。
「貴様の両親とも話をつけた!貴様は貴族籍から外された!両親からも捨てられたのだ!」
「そんなっ…」
「父上からも許可を得た、婚約は破棄し貴様を国外追放処分とする!」
わたくしを可愛がってくれていた両親、将来の妃として愛してくださった王子殿下、期待してくださっていた国王陛下。慕ってくれていた使用人と領民たち。
みんな聖女様が教会に引き取られ、わたくしの前に現れた頃から少しずつおかしくなっていった。何故かわたくしを疎むようになり、わたくしに掛けてくれていた愛情を聖女様に向けるようになった。
そしてこの仕打ち。わたくしは衛兵に引き摺られ、そのまま馬車に乗せられ隣国との境に捨てられた。
「…どうしよう」
絶望の中、わたくしは立ち尽くす。
隣国との国境を守る、隣国の兵士に同情の目を向けられる。
ぼろぼろの姿で立ち尽くすわたくしに話しかけてくれる。
「お嬢ちゃん、すごい扱いをされていたけど大丈夫?」
「は、はい…」
「国境を越えるには許可証が必要だけど…さっきの男たちがなんか足元に投げてたよな。許可証だったりしない?」
「あ…はい、そのようです」
「なら、はやくこっちにおいで!ようこそ、我がハイリヒトゥーム帝国へ!!!」
わたくしは…おそらく国王陛下からの最後の情、そしてハイリヒトゥーム帝国の親切な兵士さんの優しさで国境は越えられた。
国外追放処分になったのに国内に留まったらただでは済まない。
助かった。
「お嬢ちゃん、とりあえずこうなったら衣食住をなんとかしないとね。お金は持ってる?」
「いえ…」
「じゃあ、こうしよう。この地図の、ここ。ここに行ってごらん。そこで、これを見せて。話を聞いてもらえると思う」
「え…」
「大丈夫、俺を信じて」
親切な兵士さんはそう言って微笑む。
わたくしの手を掴んで、なにかのバッジを渡してくれた。
その綺麗な瞳と親切な態度に、わたくしは彼を天使か何かかと思った。
「…わかりましたわ。ありがとう、親切な天使様」
「え、天使?」
「行ってまいります」
きょとんとした彼に背を向けて歩き出す。
辿り着いた地図の場所には、帝国の国境を守る兵士のための寮があった。
そこも当然無断で入れる場所ではなく、どう声をかけようかと思ったがぼろぼろのわたくしを見て寮の周辺を警備する兵士さんが声をかけてくださる。
「どうしました、お嬢さん」
「あ、えっと…」
なんと言えばいいかわからなくて、わたくしは手の中のバッジを見せる。
「ふふ、またグラオベンのお節介ですか」
「え…」
「どうぞ、お嬢さん。中へご案内します。あれの言うことを聞いておかないと後がおっかないので」
「???」
「あ。そのバッジはグラオベンに返すまで、絶対に失くしてはいけませんよ」
柔らかな笑顔で応対してもらえる。
あの天使はグラオベン様というのか。
覚えておこう。
バッジも、失くさないようにギュッと握り込む。
「お名前を聞いても?」
「ルシア…と申します」
「ふふ、素直ですね?偽名くらいは使うかと思いましたが」
「え」
「ごめんなさい。実は、僕は隣国の様子が最近おかしいと少し色々探っていて。グラオベンのは何も知らないので完全なる善意ですから、どうか悪く思わないでやってください。僕への文句は聞きます」
そう言った彼に慌てて首を振る。
「いえ、わたくし、そんな…」
「辺りを嗅ぎ回っていた僕のような者にまでお優しいルシア様には感謝を。では、そんなルシア様にお礼をして差し上げましょう」
「え?」
「これは僕からのお礼。ということで、遠慮なく受け取ってください」
そう言ってわたくしは、兵士さんから寮の使用人用の服を与えられた。
「ここで雇って差し上げますよ、ルシア様。これから貴女は、ただの平民の女の子です。そしてこの兵士のための寮の寮母です」
「え!?」
「ちょうど、前の寮母が辞めてしまって困っていたのです。ここ、辺境だから人もなかなか捕まらなくて」
「…ありがとうございます!」
頭を下げるわたくしに、兵士さんは微笑んでくれた。
寮母になることが決まって、色々すべきお仕事を教えていただきこの寮についても教えてもらった。
この寮は、国境を守る兵士さんのための寮。ここの兵士は訳ありの人が多い。何故か知らないが、家族といざこざがあって騎士になる道すら捨てた貴族の生まれの力自慢がここに来るらしい。何故なのか。
天使ことグラオベン様も、雇ってくれた兵士さん…オラーケル様も良い家柄の方らしい。
けれどここの兵士は皆、境遇が境遇なので問題児も多いから気をつけてとのこと。
兎にも角にも、頑張って働こう。
「ルシアちゃん、今日もご飯美味しかったよー」
「ルシア、ご馳走さん」
「ルシアさんはいつも一生懸命で偉いねぇ」
「君がいなきゃ俺たち飢えてたよ」
「ふふ、皆様のお役に立てていれば幸いです」
問題児と聞いて構えていたのだが、兵士の皆様はわたくしにも優しい。
最初の挨拶の時点で、訳ありの女の子を拾って寮母にしたとオラーケル様が言ったらめちゃくちゃ哀れんでくれたのだ。
不慣れな仕事にも魔術を駆使してなんとか挑むわたくしを応援してくれて、色々と手助けもしてくださった。最近はようやくきっちり、寮母としての日々の役目を果たすことができるようになってきた。
「ルシアちゃんが来てくれてよかったよー」
「ルシアさんは私たちの癒しだよ」
「ルシア様の懸命な姿を見て、やる気を回復しているところはありますね」
こうしてなんでもない日でもたくさん褒めて甘やかしてくださる皆様に、なんだか胸が熱くなる。
特にグラオベン様はわたくしをたくさん甘やかしてくれるのだけど、今日はどうにもお疲れのご様子。
「グラオベン様、元気がないようですが大丈夫ですか?」
「ルシアちゃーん!今日国境に変なのが来て大変だったんだよぉ〜」
わたくしに泣きつくグラオベン様。
そんなに疲れるほどの変なのとはどんな方だったんだろうか。
「レイナとか言う女でさ」
「!?」
「ルシアちゃんは悪女だとか、この帝国にも聖女の導きをとか言って…許可証がなかったから国境は通さなかったんだけど」
「…」
青ざめて震えるわたくしに、グラオベン様は戸惑った顔をする。
「え、ルシアちゃん大丈夫?」
「あ…わたくし…」
「ルシア様、大丈夫です。我々ここにいる兵士は全員、魅了魔法の対策済みです。我が国は〝聖女〟という存在に一度痛い目を見ていますから、そもそも国全体で対策は万全なのです」
「あ…」
オラーケル様の言葉に安心するとともに力が抜ける。
床に崩れ落ちたわたくしに、皆様は駆け寄ってくださる。
「なに、ルシアちゃん聖女に酷いことされたの?」
「そういえば隣国は確か…聖女とかいうのが現れた頃からおかしくなったな」
「そうか、訳ありって聖女に危害を加えられたのか!可哀想に!」
「俺たちのルシアさんに酷いことをしたなんて許せねぇ!」
皆様の雰囲気に、わたくしを責める感じはない。ここでは、聖女様に関わっても怯える必要はないのだと知って涙が溢れた。
「あーあ、可哀想に」
「そんなに酷いことをされたんだな」
「もう大丈夫だから」
ここは、この居場所は奪われないのだと。
安心してばかりで、兵士の皆様が聖女様への怒りに瞳を燃やしていたのに気付かなかった。
「…ルシアちゃん」
「はい、どうしました?」
「隣国で、聖女を騙った魔女が処刑されたよ」
「え?」
「結局、五十年前の我が国と同じ結果になったねぇ」
グラオベン様の言うことには、五十年前にこの帝国にも聖女が現れたらしい。
が、聖女だけが使える特殊な魅了魔法を悪用しまくり傾国の女となった。
結果、正気を保っていた者が聖女を魔女として処して国を取り戻したらしい。
我が国に生まれた聖女様も、別人だろうけれど全く同じことをしたので全く同じ末路を辿ったとのこと。
「まあただ、隣国を助けてあげたのは俺たちだけどね」
「え」
「聖女の使う特殊な魅了魔法への対策術をね、彼らに使ってあげたの。完全なるボランティアで。まあ結局、正気に戻った国王様曰く後でお礼はしてくれるらしいけど」
「それって…」
「そう、ルシアちゃんのための報復でーす。まあ、皇帝陛下にはお許しいただいたから大丈夫。恥を忍んで実家に頼み込んで、許可もらった」
グラオベン様の言葉に周りを見渡せば、みんな頷いてくれた。
「うっ…皆様…ありがとうございますぅ…うぅううううう…」
「え、ルシアちゃん泣かないで!?」
「ルシアさんは泣き虫だなぁ」
「大丈夫大丈夫、いい子いい子」
「ルシア様、これでもう安心ですからね」
グズグズ泣くわたくしを優しく愛情で包み込んでくれる皆様。
そこにグラオベン様は爆弾を落とす。
「それで隣国の人達も正常に戻ったから…ルシアちゃんを迎えに来たいって言ってるみたい」
「え、嫌です」
素でお断りしてしまう。
「だよね!魅了魔法の被害者とはいえ、ルシアちゃんには悪い印象しか残ってないよねぇ」
「はい」
「そっちも実家に頼み込んで全力で阻止してもらってるから安心してね。もうルシアちゃんは我が帝国の国民だから手出しはさせないって。この歳で親の力に頼るのも恥ずかしいんだけど仕方ないよねー」
グラオベン様の言葉に皆様も頷く。
皆様はご実家との折り合いが悪くてここに来たはず。
なのにここまでしてわたくしを守ってくださった。
「あ、そうそう。ルシアちゃん」
「はい」
「ルシアちゃんはもうあっちに帰るつもりはないよね?」
「そうですね」
「もう色々な心配要素もとりあえずは安心できたよね?」
こくりと頷けば、グラオベン様がわたくしの手を握る。
「じゃあ、俺と結婚を前提に付き合ってくれない?」
「…え?」
「婚約も破棄されてるし、そもそもあっちにはもうルシアちゃんに手出しさせるつもりないし。問題ないでしょ?」
「でも…」
「父上や兄上もなんか、ルシアちゃんの話をしたら珍しく協力的でさ。魅了魔法による被害者なのもそうだけど、ルシアちゃんの人柄を話したからこそかな。ルシアちゃんが受け入れてくれたら結婚も認めてくれるって」
その代わりたまには顔を見せに家に帰って来いって言われちゃったけど。
そう言って笑うグラオベン様に、勢い余って抱きついてしまう。
「わたくしなんかでよろしければ、ぜひ!」
「なんか、じゃなくてルシアちゃんがいいの!」
「グラオベン様ー!」
「ひゅーひゅー!」
「おめでとう!」
わたくしはこうして、皆様に守られて幸せな居場所を手に入れ素晴らしい天使とお付き合いすることになりました。
祖国や実家にはもうむこうから縁を切られていたことから、結局その後は手も口も出されることはなくなりました。今はグラオベン様と順調に愛を育みつつ寮母を続けて幸せに暮らしています。
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