帝国 逃
前回までのあらすじ!
ディラさんによって始まった、下位対応力の一つ、《加速》を獲得するべく、永遠に走らされた鳴波!死にそうになりながらも無自覚に《加速》を獲得する事に成功!そして1年ぶりの帝都で時雨、如月と合流するが、何故か衛兵に追われてしまう。慌てて駆け込んだ城で待っていたのは敵意剥き出しの皇帝だった。そして華蓮は魔王となり叶も同伴していた事実を知った僕達は、弁明することも出来ず………………
投獄されました…
・・・
ということで!
僕達3人は仲良く牢獄にいま~す!
・・・
こんなにワクワクって感じじゃないんだけどね。
なんか暗いし、ジメジメしてるし、所々苔が生えていたり……あとは…
「きゃあぁ!?ネズミ!?こっちは蜘蛛っ!?もうヤダー!」
由希の悲鳴が響く。そして、それにツッコミを入れるのは、
「もう、いい加減慣れなよ。何回目?ネズミ見て叫ぶの…それに蜘蛛は最初からいたでしょ…」
すずの呆れた声が溜息と共に発せられた。こんな会話が投獄されてからずっと続いています。
そして、すずの反応に納得がいかないのか由希は反発した。
「だってしょうがないじゃん!?生理的に無理無理無理~!」
「いや由希の部屋の方が汚いでしょ!?」
と、思わず僕が叫んでしまった。すると……
「ちょっと藍音さん?何か言いましたか?」
由希が怒気を含んだ笑顔で問うてきた。
「いや、何も?……」
それとなく視線をずらしてみたが…
「嘘をつくな!ハッキリ聴こえたからね~?」
由希が更に怒気を含ませた鬼の形相で僕の顔を覗いてきた。
「あ、う...」
言葉に詰まってしまう。だってしょうがないじゃん?この前(と言ってもこっちに転移してくる前だけど)由希の部屋にお邪魔したことがあるのだが……そりゃどえらいこっちゃな状況。悲惨な光景が広がっていたのだ。床一面に散らばっていたのはB〇……まぁ、あの時は思わず扉を閉じちゃったんだけどね……耐性がなかったから…。
……兎にも角にも!僕が言いたいことはただ一つ!由希は片付けが出来ないということだ!だから驚くほど汚い。
だから特段僕が悪い訳ではなく、片付けが出来ない不衛生な印象を持たせてしまった由希も悪いのだ。
決して僕だけが悪い訳ではない……きっと…。
「ねぇ藍音?私の話聞いてますか~?お~い!!!!」
「黙れ!!反逆者共!……皇帝からの御恩情だ!ありがたく思えよ!」
衛兵がいきなり怒鳴ってきた。そして、ついでに中身が入った袋を投げてきた。
由希の声で駆けつけてきたのか、それともただタイミングが良かったのか…どちらにせよ僕は由希の言及から免れることができた。
さすがは由希という感じで現金なもので……
「わあ!ご飯だって!皇帝って優しいのかな!」
「「それはない」」
優しかったら……というか皇帝が人の話をちゃんと聞いてくれる人だったら今僕達は牢獄に居ないだろう。
とりあえずは恩情に甘えて頂くことにした。
袋の中身は乾パンらしきパサパサなパンと、水袋が人数分入っていた。
贅沢は言えないので食べるが、やはりお世辞にもおいしいとは言えない。
が、無いよりはましだ。と思いながら食べた。
少し腹が膨れたこともあるのだろうか?二人とも少しは落ち着いたみたいだった。
・・・しかしそれは僕の誤認だと思い知る。
「どうなってんの!!華蓮が魔王って!?あとなんで叶はついて行ったのよ!?」
由希がいきなり(それもだいぶ大きな声で)問いかけてきた。
「知らないよそんなこと……」
僕がその問いに対する答えを持っているわけがない。
今だって正直、混乱が収まらない。よりにもよって華蓮が魔王だなんて…
「…とりあえず、この後どうするのか話し合わないと…」
すずの言葉で現実に引き戻される。
すずはすごく冷静だった。
「とりあえず、帝都を出るのは絶対だよね?でも、その後どうする?行く宛なくない?」
「いっそのこと帝国潰す?そしたら追っても来ないし…」
「「できる訳あるか!?」」
どうして由希は突拍子のない事を言うんだ…
「…帝国からは出た方がいいと思う」
すずの意見は正しいが僕達にはその前に大前提がある。
「……とりあえず、どうやってここ出る?」
そう。
僕達はかなり大口を叩いていたが(実際は由希だけだが)ここは何処でもない牢獄なのだ。しかも補足情報として地下だよ。
地下牢獄。
逃げ出すにしても難易度高いと思うんだけど………
しかし、そんな考えも杞憂に過ぎなかった。
「あ~、それは大丈夫。ていうか一番簡単だと思うけど…」
すずが即答してきた。
「へ?」
僕は思わず腑抜けた声を出してしまった。
「…いやいや!ここ地下だよ!?簡単なわけないじゃん!?」
「いや、魔法使うから」
冷静に返答された。
「あ…そういえばそんなモノもありましたね……」
確かに魔法使えば簡単……なの、かな?
「藍音はどんな脱走手段を考えていたの?」
由希さんや、できれば触れないでほしかったな……
そう思いながらも説明をしなければいけない雰囲気なので観念します。
「えっと…お恥ずかしながら、この檻をぶち破った後に衛兵を掻っ捌いて地上に出るのかと…愚考しておりました……」
俯きがちに語尾を弱めながらそう告げると……
「そ、そんなの無理に決まってんじゃん!ちょっとは頭使いなよ~!」
由希が腹を抱えて笑い始めた。
頭使えって………誰に向かって言ってんですかね?
もしかして僕?そんなことないよね?ここはとても、とってもにこやかに………
由希を睨んでおこう。
「なんか藍音、纏ってる空気が重いよ?」
「いや~そんなことはないよ?」
睨み続行。
「いや、なんか剣呑な感じが………」
「ないよ?」
「あ、うん……」
あくまでもにこやかに。そう、にこやかに。にこやかに相手を睨む。
「……ねぇ、そろそろ話戻してもいい?」
すずが呆れたように聞いてきた。
「……うん。いいよ」
でも僕はずっと睨むけどね。
この後のすずの話をまとめるとこうだ。
まず、すずの魔法でこの牢獄から脱走。
その後も魔法を継続しながら城に潜伏。
衛兵に見つかった場合は僕が先行して倒す。
そして城の中にある転移陣を使って転移する。行先は……
「私がお世話になっていた町の人たちを頼る手もあるんだけど……出来れば避けた方が良いと思うんだよね」
すずは自分で提示した手段を切り捨てた。
「どうして?私もお世話になったマイルスさんって人に頼ればいいじゃん!…って思ってたんだけど………?」
由希は何故止めた方が良いのか分かっていないようだった。
そんな由希に諭すようにすずは続ける。
「だって今私達は、公になっているかは分からないけど反逆者として扱われてる。それは分かってるでしょ?」
「うん」
由希は素早く頷いた。
「だったら私達だけでこの『反逆者』という肩書を背負わなきゃいけない。たとえそれが意味の分からない言いがかりだったとしても、他の人…私達がこの一年でお世話になった人達には絶対に迷惑を掛ける訳にはいかないんだよ。私達と一緒にいるだけでその人達も反逆者の仲間として酷い仕打ちをされかねないからね…」
要するにすずは、私たちの問題には誰も巻き込んじゃいけないってことを言っているのだ。
僕と由希は顔を見合わせて頷いた。
僕もムーティーレの皆に迷惑はかけたくないし………
「……でも、誰も頼れないとなると…どうするの?私達だけで帝国から逃げられるのかな?」
由希は自信がないようでかなり後ろ向きな様子だった。
ついさっき、僕達に「帝国潰す?」って言ってきた人物は何処に行ったのやら……
そんな不安そうな由希を落ち着けるようにすずが、
「大丈夫。計画を変更すれば確率は上がると思う…」
と、告げた。
「計画を変更って…いったいどんな感じに?」
僕はすずに訊いた。
「私が提案したことなんだけど、転移陣に向かうのは辞めてそのまま帝国を出ようと思うんだよね」
いきなり計画の方向性が真反対に変わった。まさか潜伏から逃走に変わるとは……ん?でも………
「ねぇ、すず。帝国を出たところで行先はどうするの?」
そう。一番重要であろう行先が僕達には無いのだ。
しかし、すずには考えがあるようで…
「とりあえずはすぐ横にある森に逃げ込んで、隣の国に行くのはどう?」
すずの考えは帝国の隣の国に逃げ込むことだった。でもちょっと待てよ?
「えっと…隣にある森って……」
魔狂の森って呼ばれてるヤバい森だったような気がする…
一年前の旅も避けていた所だ。
「ちょっと~!?魔狂の森に入るの!?死んじゃうよ!?私!」
由希は心底嫌そうに叫んだ。
それもその筈。
魔狂の森とは危険な魔物が際限なく湧き続ける、正に魔が狂う森。
この森は少なくとも前の勇者が亡くなった後から誰も足を踏み入れていない。
とある童話曰く、勇者でも森から1ヶ月は出てこなかったらしいのだ。そんな危険な場所に自ら飛び込むような馬鹿は存在しない。それほどヤバい場所なのだ。
「由希は治癒があるから大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃないよ~…」
すずの辛辣な言葉が刺さったのか由希が倒れてしまった。
だが、すずは続ける。
「でも森を抜けるのが一番確実だと思う。それに、藍音と私が前衛で攻撃して、由希が後衛で回復してくれれば、ある程度の魔物は倒せると思う。……どうかな?」
最終的な決定は僕達に委ねる様子だ。だったら!
「それでいくしかないっしょ!他に案も無いしね!」
すずが言うんだから信じるしかない。
由希も僕に続いて、
「分かったよ~…一人にはなりたくないからね。それに藍音が前衛なら安心できるしね!」
自分の中で踏ん切りを付けたのかこの作戦で行動することに賛同した。
「それじゃ!行動は早め早めにってことで!早速やりますか!脱獄!」
この時僕は、少しでも早い方がいいような気がした。何故かは解らないけど………
「それじゃ、始めるよ。霞の影」
途端に辺り一帯を霞が包み込んだ。
「な、なんだこれは!?急いでこの煙を消せ!」
見張りの衛兵が叫んでいるがその間に僕が檻を斬ってみんなで飛び出した。
………てか、僕達荷物なに一つとして取られてないじゃん…と今更ながら気が付いた。
そして僕は一人先行し衛兵たちを無力化していく。
「セアァ!!」
気合と共に一気に剣を振るい吹き飛ばす。
「グハァッ!!!!」
最後の見張りを気絶させるとすずと由希が駆け寄ってきた。
「それじゃ、とりあえず隠蔽魔法かけるね。魔法がかかったら城門まで走るよ」
「「了解」」
僕と由希はすずに素早く頷いた。
「認識消失。…行くよ!」
僕達は走り出した。地下から一気に飛び出し、廊下を走り抜け、突き当りにある窓を突き破った。
派手な破砕音を掻き鳴らし城から抜け出した。
一階だったので落下することなくそのまま走り出すことができた。
そして大通りに出た途端、一気に人が多くなった。
「これ、このまま走るの無理じゃない?」
すずに問いかけると、
「…屋根と飛び移りながら移動しよう。藍音は由希を抱えて移動できる?」
「分かった!」
短く返答し次いで由希を見やる。
「…ちょいと失礼」
由希を抱きかかえる。所謂、『お姫様抱っこ』ってやつだ。
「へ?」
由希は間抜けな声を出していがこの時僕は案外ヤバかったのだ。
お、重い………
かなり鍛えてきたつもりだったけど本当に重い!口には出せないけど…
「藍音行ける?」
すずが訊いてきた。
もう気合でどうにかするしかない。
「行けるよ!」
答えた瞬間僕とすずは同時に跳躍をし、屋根に上った。着地するときにバランスを崩しかけたがなんとか持ち堪えた。
そして一気に城門に向けて走った。
幾つもの屋根を飛び越えて城門に近づいていく。
とうとう城門が目の前に迫ってきたので屋根から飛び降りた。
そこで由希を一旦降ろしてまた走り出した。
しかし城門手前まで来た途端…魔法が切れた。
「ッ!?嘘でしょ!?この門…いや、城壁自体に魔法無効が刻まれてる!」
すずが魔法が解けた原因を突き止めると驚愕していた。
「見つけたぞ!反逆者どもを捕えろ!!」
魔法無効に気を取られている間に気が付けば衛兵が後ろから迫ってきた。
「やばいよ、これ……」
城門は閉められ脱出はほぼ不可能。
「こうなったらもうやるしかない!」
「近距離は任せるよ」
「え、えっと…ふ、二人共!頑張れ!!」
由希…あなたも僕達と戦うんですよ?と思いながら振り返ると、意外なことにちゃんと杖を出していた。しかもあれはマジの杖だ。教会のマイルスって人から貰ったらしいけど…
杖から滲み出てる魔力が半端ない………
そんなことを感じながら僕達は構えた。意地でも逃げるために……
「たった3人で何ができるって言うんだ?勇者様達よぉ!」
1人の衛兵が叫んできた。かなり舐めてるみたいですね。
「簡単に捕まえられると思うなよ……」
負け惜しみかもしれないが言っておく。
「フンッ!諦めろ。貴様らはもうなにも…」
「マァッスゥゥゥゥゥ!!!!!!!」
突然、衛兵の声を遮るように足元から声がした。
そして足元に居たのは………………
一年前の旅で遭遇したムキムキな小人だった。でも前会った時より大きいような気が……
「なんだ貴様?気持ち悪い見た目しやがっ、、、て、、、?」
衛兵が言葉を詰まらせたと思ったら、いきなり足元に影が出来た。恐る恐る振り向くと……………
小人が門をブチ破り持ち上げていた。
「マァァァァァアスゥゥゥゥゥウ!!」
そして投げた。
「うっそ………………」
重そうな門を投げた。
いや確実に持ち上げられる重さじゃない。
どんな筋力してんだよ、この小人……
「…!、今のうちに逃げよう!」
「う、うん………」
僕が声を掛けると二人は我に返ったように動き出した。
僕達は門を潜り抜け森に向けて走り続ける。
振り返るとあの小人がグットサインをしていた…様に見えたがすぐに土煙で見えなくなってしまった。
そして僕達は、魔物蔓延る魔狂の森へと逃げ込んだ。
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そして、この小説を読んでいただいた皆様に感謝を申し上げます。
「小説家になろう」に投稿を始めて2ヶ月とまだまだ短く、文章も拙い若輩者ですが、皆様に楽しんでもらえるよう物語を盛り上げてまいりますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。
それでは、ギリギリになってしまいましたが、この小説を読んでいただいた皆様、よいお年をお迎えください。
幸多き一年となりますようお祈り申し上げます。