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帝国 序

僕は今、草原を走っている。

この一年で手に入れた《加速》を使っているので最西端の街、ムーティーレから帝都には遅くても5日でつくことができそうだ。

この《加速》というのはディラさんに教えてもらったものだ。

ゔ…嫌な記憶が蘇ってきた。

・・・

「ナルハは剣筋は良いんだけどね…なんかこう、鋭さ?速さ?が、足りないんだよ。

足運びというか…ステップというか……」

とあるクエストの途中でディラさんに言われた。

どうやら、僕の剣は基本しか知らなかった事もあるけど、良くも悪くも普通。

先が予測しやすいという事だ。しかし、僕の剣撃は威力が桁外れなだけに攻撃を受けようとしても、剣ごと斬られることになるので受けることができない。要するに、典型的な剣士ゴリおしなのである。

そんな僕を気にかけ、ディラさんはアドバイスをくれた。

そして、僕の能力を底上げする方法があるとか…

「これはあんまり有名ってほどじゃ無いんだけど、使える人は少なくない、下位対応力ローアビリティーって言われてるものだよ!」

そう言ったディラさんは僕の目の前から消えた。

「え?」

いきなり掻き消えたディラさんをキョロキョロ探していると………

「今の見えた?」

後ろから耳元に囁かれた。

「うわ!?」

僕は思わず前のめりに倒れ込んでしまった。

「ナルハ大丈夫!?ごめんね!?そこまで驚くとは思わなくて…」

ディラさんがものすごい勢いで謝ってきた。

別に怪我をしたわけでもないし、どこか痛いとかでもないから大丈夫なんだけどね。…ただ心臓にダメージが……………

「…大丈夫です……気にしないで下さい…」

「本っ当〜にゴメンね。…でもこれを扱えたら…便利だと思わない?」

含みのある笑顔でこちらに問いかけてきた。

「そりゃあ、まぁ…あって損はないと思いますけど……」

「じゃあ決まり!習得の仕方を教えるね!」

そうして、ディラさんによる下位対応力ローアビリティーを習得するための訓練が始まった。


下位対応力ローアビリティーとは、スキルではなく、誰にでも扱うことが出来る神々からの祝福ギフトなのだと。扱えるようになるにはそれなりの修練が必要とされるのだが、修練は獲得する祝福ギフトによって変わるのだと。

例えば、料理関連の祝福ギフトを得ようとするならば、包丁捌き、手際の良さ、火加減などの基本的な技術を極めれば獲得できる。

剣術ならば、素振り、足運び、技の型などを極めることで獲得できる。

ならば《加速》とはどんな修練を積めば良いのか……?

もう分かるだろう。加速………走ること。

ということで永遠のランニングが始まった。


「き………キ、ツイ…………」

「まだまだだよ!あと30kmで終わりだよ!頑張れ〜!!」

これに悪意がないことが恨めしい………

ここ1週間、永遠と走らされている。休憩挟みの一日500km。

命の危険を感じながらもディラさんに叱咤され走っています。

「ペース落ちてるよ〜。距離伸ばそうか〜?」

「は、はい〜!!!………………」

まさに鬼教官……なんでこんな事になってるんだよ…自分から頼んだんだけど………

やっぱりキツイ……

こんなことになるなら頼んでなかったよ!?本当に辛いよ!?

最近は何で走ってるんだろう?って走りながらぼーっと考えていたりしている。

本当に死にそうです。

あぁ…なんか川が見えてきた……。なんかこの前もこんな景色見たなぁ……

そして何度目か分からないよく分からない川を渡りそうになった時、声がした。

「はい!終了!………って!?止まって!?戻ってきて〜!終わりだよ!!」

「…………………え?………………終わった……………」

終わった?……って言った?…本当に終わったのかな……?

意識が朦朧とする中、後ろからいきなり衝撃が与えられ、前のめりに倒れ込んだ。

「ナルハ!よく頑張ったね!…だ、か、ら!良い加減に力抜いて!もう終わったんだから!」

そう言われましても体が言うこと聞かないんですよ……感覚がもう無いんです……

「ちょ!?本当に!?抑えられないから!?…ちょ!?ダルシュ!こっち来て!ナルハ止めるの手伝って!」

ダルシュさん?何で呼ぶんだろう?何かあったのだろうか?もしかして魔物?魔物だったらディラさんに近距離の戦闘は向いていない。だったら私が助けてあげないと……

やけに重い背中を無理やり起こそうとすると更に重さが増す。

何なんだよ、これ。

早くしなくちゃディラさんが危ないのに……こんな時に動けなきゃ意味がないだろ?

もう既に限界を迎えている体に鞭打って起き上がらせ、ランニングで折れかけた心を奮い立たせる。やらなきゃダメなんだ。僕が。守らないと。みんなを。

「ちょ!?何でこんなに力あんだよ!1週間走り続けてたんだろ!?どこから体力出てきてんだよ!?」

「ナルハってやっぱり……うわぁ!?」

ディラさんの悲鳴か?

急がないと。てか前…いや、目が見えてないのか?真っ暗だ。ディラさんの声は遠くから聞こえたような気がする。

普通じゃ間に合わない。

いつもより速く。もっと。速く。

………風の音がいつもよりやけに大きい。何でだろ。分かんないや。てか、さっきから森の中を走ってるはずなのに、一本も木にぶつかっていないのは何故だろう?

さっきからボヤけた白いモノは避けてるけど…もしかしてこれが木?

もしそうなら、

何で見えていないのに見えているんだろう?

でも、今はそれがありがたい。早くディラさんのもとに行ける。そろそろ森を抜ける頃だろうか。ディラさん。待ってて!

そしたら、いきなり足が踏み込めなくなった。

いや、下から風が来ている感覚があるから、多分崖から落ちているのだろう。

こんなことで僕の人生は終わってしまうのだろうか?

ごめんなさい。みなさん。ディラさんを助けられませんでした。

懺悔の言葉を頭の中で再生しているといきなり落下が止まった。

「グヘッ!!」

いきなり止められたことで息が詰まった。

「は〜…もう!危ないって何度も言ってたじゃん!それなのに何で進んだの!?」

もう聞くことができないと思っていた声が聞こえた。

「お〜い!大丈夫か!」

「ダルシュ!遅い!私力持ちって訳じゃ無いんだけど!」

「お前ぇが速すぎんだよ!俺たちは下位対応力ローアビリティーを持ってないんだからよ!」

「あんたが修練途中で辞めたからでしょ!?」

ディラさんの声…助かったの?

「いい?ナルハ?動かないでね?本当に落ちちゃうからね?」

そして僕の体はゆっくり持ち上げられていった。

・・・

「もう!どうして止まらなかったの!?あんなに叫んでたのに!!」

「ディラさんが魔物に襲われていると思って…それで、助けなきゃって…」

「どうして私が襲われてると思ったの?」

ディラさんは心底理解戸惑っていた。

「だって、僕が立ち上がったらディラさん悲鳴あげてたじゃないですか!」

自分が聞いた通りのことを伝えていると…

「…おいナルハ……こう言っちゃ悪いんだが…ディラは別に悲鳴はあげてないぞ?お前が修練が終わったのに走り続けてたから抑えつけてたのに、無理矢理立ち上がるもんだからよぉ…お前の背中から落ちただけだぜ?」

「え?」

じゃあ、全部僕の勘違いってこと?

何だかディラさんの視線がイタイ……

「えっと…その、お、お騒がせしました?」

『しまくりだよ!!!』

「…スミマセンデシタ」

この後、しばらくディラさんを中心に長い長い説教が始まった。

・・・

どれほど時間が経っただろうか?1時間とか?ようやく解放されたと思ったら、ディラさんに呼び出された。

「…あの、ディラさん?先ほど説教は終わったんじゃ…」

「ナルハ、どうしてたった1の週間で《加速》を獲得できたの?」

「え?」

僕、《加速》を獲得できてたんですか?

「その感じ、気付いてないようだね。ナルハはさっき、間違いなく《加速》を発動させていた。しかも、私でも追いつけないような速度でね」

「そう、なんですか…」

全然実感が湧かないんですけど…

「私でも1年かかったんだよ?それを1週間って…アイツ程じゃないけどバケモノだよ、ナルハは」

ディラさんが1年かかったモノを僕はたったの1週間で獲得できたのか?……何でだろ?………あ!

確か、僕たち勇者には特殊なスキルがあるんだった。その中に、

成長増進せいちょうぞうしん》…他の者よりも体力の上昇や、技の習得が早くなる。

ってのがあった。

もしかしてこれの影響だろうか?

「僕には成長増進せいちょうぞうしんっていうスキルがあるんです。多分これが影響してるのではないかと…」

「…へ?スキル持ってんの?」

気の抜けた声が返ってきた。

「はい…」

そしたら、いきなりディラさんに抑えつけられた。

「痛っ!?何するんですか…」

「私以外にそのこと言った?」

すごく警戒しているような声音で問いかけてきた。

「いや…誰にも言ってないですけど…」

どうしてこんなに厳しい表情をしているのだろう?

「はぁ…よかった。絶対に私以外には言っちゃダメだよ?分かった?」

「は、はい…」

返事をしたら、いつものディラさんに戻っていた。

「分かったならよし!それじゃ帰ろっか!」

そう言って僕たちは町に帰った。

・・・

あの後、宿についた瞬間寝ちゃったんだよね。

マジであの時はヤバかった…命の危険を感じるってこの事なんだなって思ったもん。

そして、気付けば帝都が見えてきた。

1年ぶりの帝都。なんだか懐かしいなぁ。

門をくぐって僕は中心にある噴水に向かった。

すると、約束の一年までまだ日あるというのに…

「一年ぶりの帝都だっブヘッ!!」

「もう!相変わらず由希はドジなんだから」

由希とすずはもうついていたらしい。

「久しぶりだね2人共!僕より早かったんだね」

「あっ!藍音〜!」

「久しぶり」

僕を見た瞬間、二人が駆け寄ってきた。でも、二人が近寄ってくるとなんだか違和感があった。

「…ねぇ、2人共雰囲気変わった?いや、なんだろう…強くなったって言った方が良いのかな?」

僕の目には2人の周りが滲んで見えたのだ。

「えっへん!私は最上位の回復魔法が使えるようになったんだよ!スゴイでしょ!」

「私は知識を手に入れて、魔法はコンプリートしたし世界についても結構理解できた」

二人共しっかり成長していた。スキルを使いこなせるようにもなってるっぽいし。由希はともかく、すずはかなり手強くなってるかもな。

「あとの2人はどうなのかな?すずが1番早かったよね?」

由希がウキウキしながらすずに聞いていた。

「まだ来てなさそうだったけど...」

すずはあたりを見渡しながら答えた。

でも…

「華蓮が来てないのって珍しくない?」

「「確かに」」

二人が同意した。華蓮は時間に厳しい人だから、絶対に誰よりも早く来る。

そんな華蓮が来ていないと言うのだ。

なにか嫌な予感がする。ディラさんの言葉が脳内で繰り返される。


「あそこは君たちにとって安心じゃない。いずれ害するモノに変わる」


この言葉が妙に引っかかる。

…そしてそれは現実となった。

「いたぞ!!反逆者どもだ!!」

いきなり衛兵に叫ばれた

「捕まえろ!!!!」

何人もの衛兵が突っ込んで来る。

「なんかやった由希?」

真っ先に由希に聞いた。

「なんで私を疑うの!?」

「だって、大体の問題ごとは由希が原因じゃん?」

「ひどい!」

「理由は後で!とにかく逃げるよ!」

すずの声で僕達は走り出した。全力で。

「どうなってるの!?なんで私達追われてるの!?」

「んなこと分かんないよ!!とりあえず、︎城に行って確かめよう!」

「「うん」」

とりあえず城に行ったら警備が誰も居なくて簡単に入れた。そして急いで皇帝に会いに行った。

「皇帝!なんで僕達追われてるんです...」

急ぐあまりノックもしなかったがこの際些細な事だろうと思い飛び込んだら、衛兵に囲まれた。

「まさか国規模で!?」

由希が叫んだ。

「なんの用だ?反逆者ども!!」

上から声がした。あのおっさん…ウサン・クサク・バンガー皇帝陛下だ。

「だからなんで僕達が反逆者になっているんですか!?」

「とぼけるな!!まさか魔王を倒した者が魔王になるとはな!!」

は?

「待って?どういうこと?」

「これを見れば分かるであろう?」

皇帝の懐から結晶が取り出され、その結晶から映像が映された。

映っていたのは...

華蓮と叶だった。

「聞け!この世界に住まう者共よ!私達は大きな間違いを起こした。取り返しのできない間違いだ。それは魔王を倒したことである!何故魔王は50年に一回現れる?簡単な話だ。それは貴様ら愚民を滅ぼす為だ。自分達が最も賢く、強いと思い込んでいる貴様ら愚民を抹殺することだ。強者を虐げ潰し、弱者を見下し貶す。そんな貴様らに生きる権利があると思っているのか?答えは否だ!!貴様らに生きる資格はない!!…よって、この私が新たな魔王となり...貴様らに死をくれてやる。精々足掻け、苦しめ、最後に、身の程を弁えろ」

映像が終わった。

「貴様らに自由など与えるべきではなかったのだ...最初から手元の置いておくべきだったのだ...」

コイツは何を言っているんだ...それに、どうしたんだよ華蓮は!

「だったら私達が華蓮を止めます。それだったら文句ないでしょ!」

由希、タイミングが違うと思うなぁ。

「貴様らの言うことなど信用できんわ!即刻牢獄行きだ!連れて行けぇい!」

僕たちは衛兵に捕まってしまった。

「どうするの!?藍音!こいつら全員吹っ飛ばしてよ!」

「馬鹿か!マジで反逆者になっちまうぞ!?」

「そっか」

マジでやめてくれよ由希…

「ふん!よく反省することだな!貴様らには早急に死刑を与えてやるからな。それまで牢屋で大人しくしていろ!」

こうして、僕たちは帝国に反逆者扱いされ、華蓮は魔王になり、叶も魔王側になってる。そんな状況の中、僕たちは投獄された。

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