京極のその後
「それじゃ、始めようか」
これから、私は戦う。何と、とは言わない。敵、という明確な定義がないから。どんな罵声を浴びせられるか分からないが、きっと大丈夫だろう。だって………
・・・
私、京極華蓮はみんなが楽しそうに話す姿を見つめていた。私はこの後どうするかを決めていた。多分叶とかは無計画なんだろうけど…私はちゃんと計画を立てていた。
今後何が必要で、何をするべきなのか。私はどういう立ち回りで動けば良いのか。
決して許されることでは無いと思う。でも、それなりの覚悟はしている。
今後の戦いの為にも、みんなには強くなってもらわなければならない。
「...でも、みんな多分強くなってるんじゃない?一年後には……じゃないと困るし。私もみんなも...」
ふと呟いた。多分、誰にも聞こえていないと思う。それなのに…
「華蓮なんか言った?」
鳴波には少し聞こえたらしく聞き返してきた。
「いや、一年後が楽しみだなぁって。みんなをボッコボコにしてあげるから!」
今は誤魔化すしかない。そして気丈に振る舞っておかなければならない。
「なにそれ怖い」
鳴波の返しに2人して苦笑した。
みんなは知らないままでいい。これは魔王を倒した私の責務だから。
・・・あの時、魔王を倒す手前。彼女は私に言った。
「貴様に出来るのか?」
と。何、とは言われなかったが直感的に理解した。そして彼女も理解していた。彼女にも私にも、しっかりとした理念があることに。それを目が語っていた。
「やるからには全力で、が、私のモットーなんでね」
「フッ...全力、か。いつまで続けられるかのぅ...」
彼女はそう言い、微笑みながら私の発動した魔法に呑まれた。
・・・彼女の本心は分からないが、託されたのだと信じよう。
魔王とのやり取りを思い返していたらもうお別れの時間になった。
「それじゃ!みんな一年後にまた会おう!そして模擬戦で誰が一番強くなったか決めよう!」
鳴波の声にみんなで答える。
『おう!』
「じゃあ行こうか、それぞれの旅に!」
みんなが歩き出す背中を見ていた。
私は姿が見えなくなるまで見送っていた。多分、これが最後だから。しっかりと目に焼き付けておかないと。親友たちとの思い出の数々を、これからは積み重ねることが出来ないと思うと、悲しいし、こうするしかない事にやるせなさを感じる。しかし、覚悟は出来ている。いや、しなければならなかった、と言う方が合っているかもしれない。
さっき、私は託されたと言った。その根拠が記憶だ。魔王を倒した時に記憶が流れ込んできた。魔王の記憶だ。記憶は全てではなく、断片的なものばかりだったが情報を知るには十分だった。私は記憶から世界を知った。だから責任が与えられた。請け負わされたのだ。私は過去の惨劇を繰り返す。その為には力が必要だ。
「…拠点、何処にしようかな…」
私は転移した。行き先は…
魔王の国
「やっぱりボロボロだな~」
私が繰り出した爆炎の消失の影響で内装が滅茶苦茶になっていた。
広範囲を一気に焼き払う魔法を一点集中で放火したので壁も吹っ飛び、ヤバい雰囲気が漂い、まさに魔王城って感じになっていた。
「まずは修繕からっと…」
戦闘の後が残っているのも雰囲気が出て良いんだけど、やっぱり自分が住む以上は綺麗にしておきたい。とは言っても、材料がない。ここ周辺に資材らしき資材は無い。詰んでいる。さて、どうしたものか……と、ここで閃く。
スキル使えば出来るんじゃない?、と。
私のスキルは《物質変換》だから、そこらへんに散らばっている物も資材にできるのでは?…てことでやってみよ。
ちょうど目の前にいい大きさの壁の一部であったであろう岩石があった。
スキルを使うには念じればよかったはず…
岩石に手を触れさせ念じる。
「黒いレンガに変われ」
途端に岩石はレンガに変わった。………めっちゃ便利!
「よし!この調子で全部直すか」
気合い十分。全身に力が漲ってくる。一気に終わらせよう…
・・・
全部修繕するのに半年かかりました。かなりデカかったからね、この城。
この半年間はずっとスキルで物質の加工を繰り返していた。スキルを使っていく中でいくつか気付いたことがある。
1つ、
物質を変えるには直接触れてなければならない。多分、これが1番大切だと思う。
途中一々移動しなければならないのが面倒くさくなったので、横着をして寝そべったまま物質を変えようとしたら...出来なかった。
え?なんで?っと思ったけども、触れて唱えると変えられた。しばらく物質に触れる触れないを繰り返して確かめた結果、触れていなければいけない事が分かった。まぁ、遠くからの遠距離で変えられたら強過ぎて相手にならないだろうから仕方ないのかもしれない。
1つ、
自分が知っている物質にしか変換出来ない。
コレも当たり前だ。適当に物質名を思い浮かべて念じてしまえば、もし存在している物だった場合変換出来てしまう。それはどうなの?って自分でも思っていたので試してみたら、変換した途端に砕け散りました。
1つ、
コレは前のモノに関係するが、変換するには明確なイメージが必要ということだ。この前、居眠りしながら作業していて、次の日の朝、起きたら直したはずの壁に亀裂が入っていた。思ったより焦った。他の部分も何か問題が出てきているんじゃないか、という事で丸一日かけた確認作業を行いました。しかし、問題があったのは昨日の夜作業したところだけ。なので原因解明の為、色々研究した。結果、イメージの強さだろう、という結論に至った。同じ物質に変える時、ぼーっと何も考えずに変換した物と、しっかりイメージして変換した物では強度が全然違ったのだった。ぼーっと変換した方はどんな物質でも拳2、3発で破壊出来るが、しっかりとイメージをした方では、物質によるが、破壊するのに上級の攻撃系魔法でも10発は必要だった。
つまり、どれだけ明確なイメージを持って変換するかが強度を決める最も重要な事だと分かった。だから、自分が知らない物質に変換しようとすると、イメージが定まらず、物質を形成する最低限の強度すらなく、砕けてしまうのだ。
以上の3つがこの半年で気付いた私のスキルの特性だ。しかし、もう一つの《想体同化》はよく分かっていない。
想いと体が同化するってどういう意味か分からない…なんか想いが強ければ強いほど力が増す、って言われてるけど。今の今まで発現したことがない。
まぁそのうち分かるか。
・・・
城の修繕が終わって二ヶ月が経つ。みんなとの約束まであと3ヶ月とちょっとくらいだ。
この二ヶ月は城には居なかった。周辺の調査というのが本命だが、実験という意味合いも兼ねている。
自分が変換した物質は、スキル使用者がどれだけ離れると効果がなくなってしまうのか、という実験だ。
私はできるだけ城から離れた。まずはこの魔王の国の端まで離れた。端まで行くのに魔法をフル活用して3週間掛かった。この3週間、一回も食事、睡眠をとっていない。それでもこんなに端まで行くのに時間がかかる。
この世界は良くも悪くも単純だ。この世界が惑星なのかは分からないが…
地球で例えると、東と西で半球型に真っ二つに切った感じ(簡単に言えばボールを縦に切った感じ)、が、この世界の人類国家と魔王の国の境界線だ。東側が人間の国で、西側が魔王の国。要するに、全く領土の広さが同じなのだ。
でも、どう考えても地球の半分を魔王一人で統治するのは酷なんじゃない?とか思っても、実際に統治していた前の魔王は凄かったんだなっと思う………おっと、話がそれたな。
とにかく、地球の反対側から反対側へ移動するようなものってこと。馬鹿みたいに遠いでしょ。
だから転移陣があるんだけどね。人間の国からはあまりにも遠すぎるから。……………ですので帰りは転移しました。
そして実験結果は成功。特に何も問題はなかった。崩れてなかったし、、亀裂も入っていなかった。
今回のことで、一度変換したものは元に戻ることは無い、ということが分かった。
そして残りの一ヶ月と1週間は人間の国に居ました。食料や家具、生活必需品などを買いそろえた。
お金はどうしたのかって?
そりゃぁ、盗賊を数回ボコッと…
まぁ、お金には困ってないわけ。
それでついでに色々見物していたら気になるものを見つけた。
それは、とある昼を過ぎ、もう少しで夕方になろうとしている時のこと。
「これは…《勇者の伝説》…って本?」
それはたまたま寄った本屋にあったある一冊の本だった。
「おりゃまぁ、お嬢ちゃんはその作者の勇者様のことが好きなのかい?」
「え?」
いきなり声を掛けられた。
かなり年老いたお婆さんだ。お婆さんは
「私も好きなんだよねぇ、その勇者様が。その本はねぇ、外道って言われてるんだけどねぇ……」
そんな呟きから話は始まった。
「そうだねぇ、なんだか不思議なんだよねぇ、この物語は。魔王を倒す勇者様のお話はねぇ、他にも沢山あるんだけどねぇ、これだけは他と違うんだよねぇ。普通は、残虐な魔王を倒して封印し、世界は救われた、って終わり方なんだけどねぇ、これだけは……」
お婆さんはそっと上を向きながら言葉を紡いだ。
「これだけはねぇ、勇者様が魔王を倒すまでは一緒なんだけどねぇ。でも、その後が違うんだよねぇ。…これだけは…この本だけは、魔王を封印せずに一緒に冒険を始めるんだよねぇ。そして、いつしか勇者様と魔王はお互いに恋心を育み、最後はお付き合いして終わるんだよねぇ…あ、あとそれは最新の7巻なんだよねぇ」
………少し早口ですっごいネタバレを聞かされた挙句に、なんかすごくあるあるな恋愛小説みたいになってるじゃん……それに7巻って…勇者様、それでいいのか…?
「…魔王と一緒にって、それは人類への裏切にならないんですか?人類の敵の代名詞みたいな存在じゃないですか、魔王って……」
勇者は何故魔王と一緒にいることを選んだのか、理解できなかった。人類を裏切ってまで魔王との人生を選んだのかよく分からない。きっと酷く謗られたはずだ。人間には受け入れて貰えなかったはずだ。……私も似たようなものだけど……
「この物語が実話とは限らないよ、お嬢ちゃん。ただ、私が1番好きなだけなんだよねぇ。でも、私はこれが…この物語の勇者様が1番、勇者様らしく感じるんだよねぇ。なんと言うか、お人好しなところが他の物語よりもしっかりと書かれていて、人間らしいんだよねぇ…だからこれは外道と呼ばれているんだよねぇ」
「どうしてですか?」
どうしてこの物語は外道なのだろうか?別に恋愛小説の題材にされたって良いじゃないか。
「どうしてって言ってもねぇ…。勇者様に感情を持たせている以外にないんだよねぇ。お人好しなところとか、人間らしさとか、そういう感情はなく、ただただ魔王を倒す為だけに生きる英雄…そういうのだけを国は認めているんだよねぇ」
「お人好し…」
この時、私の脳裏にはある人物の面影が浮かんでいた。
叶といつも一緒にいて、周りに気配りができて、優しかった友達………
赤羽根幽
一瞬彼が勇者なんじゃないか?とも思ったが、前の勇者は800年前に死んでいて、それでも200年の時を生きた人なんだから、あの体の脆かった幽には到底無理だろう。
「……勇者が死んだ後、魔王はどうしたんですか?」
愛する人を失った魔王が大暴れしていたら、王道にも程があるって思ったからつい聞いてしまった。
「そうだねぇ、魔王には寿命がないからねぇ…つい半年くらい前に討伐されたらしいけど、どんなに倒しても50年経てば復活するからねぇ。理由は分からないけど………これは私の勝手な妄想だけどねぇ。魔王は自分を倒してくれる人の中に、勇者様を探していてるんじゃないかって思えるんだよねぇ。転生の可能性に賭けて、定期的に確認する為に蘇っているんだと思うんだよ。魔王はどんなに時間が経とうとも、勇者のことが忘れられない。もう一度勇者に会いたいから…こんな老人でも、乙女心は忘れてないんだよねぇ…」
…どんなに歳を取っても乙女心は変わらないことを思い知らされた。私に乙女心があるかは怪しいけど……
「まぁ、確かなことは分からないし、これはただの物語だからねぇ…。でも、この物語を書いた作者はどんなことを考えて作ったんだろうねぇ。勇者と魔王の恋愛なんてねぇ…フォースさんの頭の中を見てみたいもんだねぇ」
フォース………どんな人なんだろう?…?
ここでふと、とある人物の顔が脳裏に浮かんだ。
いや、違うな。
ただの勘違いだな。うん。あいつに文章が作れるわけがない。絶対にないな。うん。
勝手に頭の中で浮かんだ人物と名前を想像から切り捨てた。
「はぁ…いろんな作者が題材にして勇者様の物語を書くもんだから、どれが本物かは、もう分からなくなってしまったからねぇ」
大量の本が置いてある棚を見ながらお婆さんは言った。
この時私は絶句した。何故ならその本棚に並んでいる本全てが勇者の物語だったからだ。
勇者の奇譚、勇者の悲劇、喜劇、快進撃などなど、多岐にわたる様々な種類があった。
…きっと、簡単なんだろうね。昔のことを知る人は居ないし、勇者は誰でも知っているからね。………それでいいのか勇者…?
「お嬢ちゃんはどれが本物だと思う?」
「え?」
お婆さんの突然の問いに戸惑ってしまった。
少しの間考えていると…
「私はねぇ、やっぱりこの《勇者の伝説》の勇者様だねぇ」
「でもこれは外道だって……」
「外道を好きになってはいけないのかい?」
問い返されてしまった。
「いや、別にそういうわけじゃ…」
「ならいいじゃないか。結局はどれも実話という確証がないんだよねぇ。でも、だからこそなんだよねぇ。私達がどれを本物と信じようが他人に文句を言われる筋合いはないんだよねぇ」
お婆さんから発せられる言葉がやけに遠くに聞こえるような気がした。
「いいかい?お嬢ちゃん。最後は自分で決めたものを信じるんだよ。誰がなんと言おうと、それだけは、他人には犯すことのできない絶対の自信になるからねぇ…」
そう言いながら、お婆さんは店の奥に行ってしまった。私はその場からしばらく動くことが出来なかった。小鳥の囀り聲で意識を戻されると、空が少し赤くなっていた。
「もうこんな時間か…」
多分30分くらいは立ち止まっていたのだろう。
私は城に帰った。
・・・
約束まであ1ヶ月。
………人が足りない。
まさかの人員不足に陥っていた。
そんな中、城の戸を叩く人物がいた。
「何かようですか?」
「うわ!?マジで人が出てきたよ!」
私を見るなり大声を出して後ろに飛び退いた。
失礼なやつだ。
「出てきたって…ここ私の拠点なんですけど……?」
「こんなところを拠点にしてんの!?」
「こんなところって…ちゃんと補修はしましたし、家具も揃えましたので普通の生活は出来ますよ?」
「マジかよ……魔王城を根城にするなんて…なんて度胸だよ…」
度胸のクソもないんですけど?…だって私が倒したんだもん、魔王。
………てか、さっきから失礼じゃないですかね?この人。人の家に口出ししてきて、なんかイラつく。………
私の前に立っているこの中年男性…本当に何しにきたの?
「あの、すみません。どちら様ですか?」
「あぁ、私かい?私はアントだよ。智慧ある死体です。そして、ついこの前弟子ができて浮かれているものです!」
元気よく自己紹介したちゅうね…アントさんはニヤけていた。別にあなたの個人的感情は聞いてないのですけど…しかも死体?人間じゃないじゃん。
「そうですか…そして何の用ですか?」
特に用事がないなら帰って欲しいんだけど……
「あ~特に無いっていうか、今は無いっていうか…うん!そんな感じだね!」
「………」
多分私の今の顔はすごいことになっていると思う。反射で、じゃあ帰れよ!って叫びそうになったのを必死に止めたのだから。
「?……どしたの?すっごい表情してるよ?」
いや、あなたのせいですよ。あなたが用も無いのに私を呼んだからですよ?
「まぁ、年頃の女の子だから色々あるんだろうさ!……ところで!君!配下を探しているんじゃないかい?」
アントさんにどう言い返してやろうか考えていたところ、いきなり私の悩みにドストレートな質問をしてきた。
「はい…どうやっても一人じゃ厳しいんで一緒にやってくれる人が欲しいなと……」
今の悩みを打ち明けると…
「任せてくれたまえ!私の弟子を君に預けるから、こき使っても大丈夫だよ」
「いいんですか?最近できたお弟子さんなのでは?」
死体の弟子って人間なのかな?
「大丈夫だよ。最近っていっても、半年以上前のことだからね。それにあいつには、仕える存在が必要だと思った。仕える主人がいると人は何倍も強くなれるからね。君にピッタリじゃないか!心配しなくても、ちゃんと人間だよ?」
………それなら確かに、悪くはないと思う。丁度仲間が欲しかったし、どれほどの人数が集まるかは分からないけど、居ないよりはマシかもしれない…
「分かりました。できるならお願いします」
「任せとけ!それと、私に敬語は必要ないよ!」
アントさんがにこやかに言ってきた。
「分かりま……うん。分かった。よろしく」
本人が良いと言っていたのだから良いだろう。もともと相手に礼儀を尽くすのは苦手なほうだからな。……しょうがないからやらなきゃなんだけど……
その後、ある程度の日程を相談してから、アントさんは帰っていった。
・・・
その日の夜。
私はある夢を見た。
私の目の前には山積みの人間の死体。女、子供関係なく積み上げられていた。
呆然とその光景をながめていたら場面が切り替わった。
私に切りかかってくる無数の騎士達。それを私の意思とは関係なく右腕が薙ぎ払っていく。いくら血にまみれようが何も感じない。
おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。
………どうして何も感じないの?
そんな心の中での問いに答えがあった。
『貴様は覚悟したのであろう?やるからには全力とも言っていたではないか……』
どこからともなく…ぼやけた声がした。
『これは妾の記憶じゃよ。まぁ、これから貴様が辿る未来でもあるがな』
後ろを振り向いても誰もいない。
いや。居た。
誰かがこちらに歩み寄ってくる。
剣を片手に持った男が。
『妾の場合は奴じゃった。…貴様は誰に斬られるのかのぉ?』
男は目の前で止まった。顔はよく分からない。それどころか姿全体がぼやけて見える。
『………お前はすぐに無理をする』
男から聞こえた。
『貴様が何をなすのかは知らんが…………』
「精々抗ってみせよ」
「精々抗ってやれよ」
耳元からは女の声が。目の前の男も今の声はハッキリと聞こえた。
すごく、懐かしい声。
しかし、私の意識はここで目覚めた。
・・・
この日から、私には私の物じゃない記憶が増えていった。
・・・
気が付けば、アントさんとの約束の日にちになっていた。
出来るだけ片づけておかないと……
そう思い、作業に取り掛かった。
作業をしていると、ある一通の魔法通話がかかってきた。
「えっと………あ、うん。………はい。分かった」
・・・
しばらくして、部屋の扉が開かれた。
「おーい!連れてきましたよ!貴方の部下になりそうな奴!」
そう言われて投げ出された音がした。
「師匠!何するんですか!?」
「お前はもう十分なほどに強くなった。だから頑張れよ!」
という弟子への激励の言葉と共にアントさんは帰っていった。
……一瞬、ものすごく聞いたことのある声がした気がするけど…気のせいか。
「ありがとうございます。困ってたんですよね、部下というか配下が居なくて…」
そう言いながら振り返った先の人物は、
「え?」
思わず声に出してしまった。
私は2つの意味で驚いた。
1つ、それは人数が一人しかいないこと。もっとたくさんお弟子さんがいるのかと思っていたのに、たったの一人。なんか一気に気分落ちた。
そして2つ目。それは…なんと私の知っている人物だったからだ。
そして、相手も、
「え?」
と言っていた。
お前は驚かなくていいだろ、と思いながら、私はこの先を想いやった。
大丈夫かな?と。
不安でいっぱいだ。
しかし、配下にしてこき使うのも面白いかもな。
「自己紹介はいらん。今からお前は私の配下だ。よろしくな」
相手は情報を処理しきれていないのかフリーズしている。返事がないってことはOKってことだよね?
配下1人目、ゲットだぜ。
まぁ、これで最低限の準備はできた。
「それじゃ、始めようか」
これから、私は戦う。何と、とは言わない。敵、という明確な定義がないから。
どんな罵声を浴びせられるか分からないが、きっと大丈夫だろう。だって………
だってみんなは強いから。絶対に乗り越えられる。
そして……
戦ってくれる。
そう信じよう。
「よし、じゃあ手始めに………」
突然頭に痛みが走った。
「ッッッ!?」
『抗ってみせよ』
声と共に、私を黒い霧が覆った。
私の頭の中で知らない記憶の濁流が流れる。
記憶が消えていく。塗り替えられていく。私じゃない記憶に。
あぁ。
意識が薄れていく。
暗い暗い闇の中に落ちていく。そして………………
私の意識は途切れた。
そう思った。
一週間遅れてしまいました。
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