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黒崎のその後

俺の名前は黒崎叶くろさきかなえ。よく京極華蓮きょうごくかれんとかいう鬼に絞められている人です。可哀想だと思う人は挙手!!

・・・

誰もいないことは分かってるよ…

「なんでここなんだよ〜!?」

だって俺は今、魔王の国ジャッジ・アーク、いわゆる地獄にいるのだから。

・・・

時は遡り、みんなと別れた後、俺は不運なことにも如月由希きさらぎゆきと同じ方角に進んでしまい、荷物持ちをさせられていた。……俺が持っているカバンが大きい事もあり「ついでに入れてよ〜」と無理矢理由希の荷物を突っ込まれた。…何が入れられたかは知らんがめっちゃ重い…

「ねえねえ由希~。疲れたよ~、休憩しようよ~」

声を掛けても返事してくれない……こっちはお前の荷物まで持ってんだよ!?と叫びたくなったが、出来なかった。

気付いたら、目の前には無限の荒野が広がっていた。

「嘘だろ…」

ここにはつい先日来たばっかだってのにもう来ちゃったよ…そう。ここから先ほどの場面に繋がります。

「なんでここなんだよ〜!?」

・・・

いくら叫んでも誰も返事をくれないので荷物の確認を始めました。

どれどれ?由希が入れてきたのは………

魔法の杖、腐りかけの食料(これが大半)、そして自作であろうビーエ…いや止そう…あれは突っ込んじゃダメなの物だ。

あの天然はなんちゅうもん入れてくれ天然てんねん!!…おっと、思わずダジャレが…

いつもなら飛んで来るはずの華蓮の拳は……今はない。

素晴らしい…痛く無いなんて!

……こんなことで感動してる場合じゃなかった。これからのことを考えないと…

「グルッ?」

突然生き物の鳴き声がしたような気がした。

「え?」

後ろに振り返ると多数の狼型の魔物。全体が狩りのモードらしいが…獲物はなんだろう?………

・・・

「分かってます!俺でしょうね!!ここら辺には俺しか肉ないもんね!!!」

全力で逃げてます。ですがもう少しで追いつかれそうです。

「みんな〜!助けて〜!誰か〜!」

せっかく異世界に来たのにこんな早くに死にたくないいぃぃいいぃぃぃぃいいいい!!!

…そしてとうとう追いつかれました。

『アウォーン!』

勝利の宣言だろうか?…こうなった以上どうすることも出来ないので、精々美味しく食べて下さい痛くないように!!

魔物の口がすぐ目の前に来たところで失神しかけたが、魔物から垂れてきた血によって引き戻された。

「……え?」

魔物たちも困惑しているようだ。だって魔物から垂れてきた血の出元を辿ると剣が刺さっていた。そして勢いよく引き抜かれ大量の血飛沫が宙を舞った。

「…え?」

そして剣の柄に視線を移していくと…骨だった。

鎧を着た骸骨スケルトンが魔物を刺したのだった。しかしそう理解する前に、

「ぎやあああああぁあぁあぁあぁぁぁ!!!!!!」

大絶叫

しかも後ろにまだまだ居る。あぁ、これ終わったな…と目を瞑り走馬灯が掛けて行くのを感じながら最後の時を待ったが…一向に訪れない。それにやけに静かだった。

目を開けると…魔物の死体があちこちに散らばっていた。

「…ドユコト?」

マジで意味分かんないんですけど…しかも骸骨スケルトン達は俺に向かって跪いている。てことはさ……もしかして…

骸骨スケルトン共!並べ!」

俺の号令で全ての骸骨スケルトンが整列した。

これはもう確定だな。俺は、

死霊使いネクロマンサー

だと確信した。

「フフフッ…フハハ…フハハハハハハハ!」

笑いの三段活用を使ってしまったが、まぁいいだろう!なんせ俺にもスキルがあるってことが分かったんだからな!これでスキルがないって裏でバカにしていた帝国の臣下達を見返せる!よっしゃああぁぁぁぁ!

「お前達!貴様ら骸骨スケルトンの大将は俺様だ!このことを頭に叩き込んだ奴から俺について来い!」

勢いでその場を駆け出す。もう恐れるものは何もない、全能感に充ち満ちていた。しかし、後ろを向いても一体も居なかった。

「は?」

思わずキレそうになったが、先ほどいた場所から響いてくる音が怒りを鎮めた。

ガンガンガン!コツコツコツコツ!

金属のぶつかる音や乾いた棒…というか骨をぶつける音が聞こえていたからだ。

戻ってみると…一体余さず全員が自身の頭を叩いていた。

「あ……そういう意味じゃないんだけど…」

言葉の通り意味を受け取ってしまうのか…頭に叩き込めって物理的にって意味じゃないんだよね……

「お前らやめろ!いいから俺について来い!」

そう言った瞬間、全員頭を叩くのをやめ、俺について来るようになった。

…な〜んか勢いを削がれたなぁ…

そんなことを考えながら俺と骸骨スケルトン達は進んで行った。…方角は分からないけど…

・・・

あれからどれくらい経ったか分からない…俺たちはずっと歩いているが、永遠に荒野が続いている。いつこの魔王の国ジャッジ・アークから出ることができるのか分からないまま歩き続けている。

……人の温もりが欲しい…ずっと骨に囲まれて生活してるんだよ!?いい加減人間成分補充させてくれませんかね!?亜人…というか骨成分は過剰摂取だよ!!……

誰か〜、誰でもいいから人間に会わせてくれ〜…

そんな願いも世界は無情に切り捨てる。

何か奥の方から戦闘音が聞こえてくるのでとりあえず骸骨スケルトンを偵察に向かわせた。

「ちょっとあっちの方確認してきてくれない?音がする方。確認してきたら戻ってきて何があったか報告頼む」

すぐに数体の骸骨スケルトンが移動を始めた。

……しばらくした後、骸骨スケルトン達が戻ってきた。

どうやら3種族が争っているらしい。…もしかしたら新しい配下アンデットをゲットできるかも!と言う期待を込めて俺はその戦場に向かった。

…そして俺の眼下に広がっているのは………

魔物達の闘争ファントムフィートだった。


我ながら良いネーミングセンスだ、と自画自賛していたが、状況は最悪だ。

おそらくは、魔王という指導者を失ってどうすれば良いか分からなくなり、挙げ句の果ての種族間闘争だろう。…面倒くさいなぁ……

「君たち、これ、なんとか出来る?」

一応聞いてみたが、首を横に振られた。

「で、ですよね〜…」

だって明らかに強そうだもん!アイツら!3種族いるけど、一方は巨人ででっかい武器振り回してんのに対して、もう一方は人間と同じ大きさだが、明らかに違う。腕が6本あるし、巨人を一方的に投げ飛ばしてるし…さらにもう一方はもう生物じゃないし、機械じゃん。ありとあらゆる部位からコードが伸びていて、威力が桁違いの大砲、光線ビーム、そして腕剣ブレード…2種族をまとめて薙ぎ倒している。そりゃ無理だよあれは…しかも死体は残っていない。光線ビームが焼き払っているからだ。

死体がないならここにいる意味がない…でも、逃げられない。なぜならすでに戦場のど真ん中!なんかこっちに移動してきたっぽい!ふっざけんなやゴラァ!!!!

「もう終わりだな…」

今度こそ死を覚悟したが…やはり訪れなかった。

「やぁ少年!こんな所に一人でくる度胸は認めてあげるけど、命知らずにも程があるってもんだよ?」

「はぃ?」

突然どこからか声がした。

辺りを見渡すと全員が戦闘を止めて空を見上げていた。

見上げてみると骨のドラゴンスケイルドラグーンにまたがる中年男性がいた。

「それに…君も死霊使いネクロマンサー……なの、かい?」

俺の後ろを見ながら言う。

「はい…多分……」

絶対とは言えないので、そう答えた。…今思うと、スキルがあるのは嬉しいけど死者を操るって勇者としてどうなの?敵役だよね?これって…

「多分?間違いなくそうでしょ。でないと今頃その骸骨スケルトン滅多刺しハチのすにされてるよ」

あ、そうなんすね。思考の逃げ道も塞がれましたっと……

「でも、死霊使いネクロマンサーだとしても、俺は成り立ての雑魚ですよ?つい最近、命令に具体性を持たせなきゃいけなくて、要らない言葉は省かないといけないことを知ったばっかですよ?」

ぶっちゃけ、具体的に示さないと行動してくれないのが少し面倒くさかったりするんだよね。

しかし、この発言は中年男性を困惑させるには十分だった。

「なんだって!?君は命令に具体性を持たせられるのか!?」

「え?あ、はい…?」

なんかヤバいこと言いました?

「そんな…精々進め、とか守れ…くらいだろ出来て……」

ヘーソウナンダーオレッテスゴインダー………て!敵役の方が似合ってるって遠回しに言われた様なもんだよ!?これ!?

「…君は……もしかして、あの……」

中年男性は悩み出したようだ。

「………いや、話しは後だな。とりあえずこいつ等を狩り尽くそう(かたずけよう)かな」

そう言うなり中年男性は眼下を見て急降下し、ヤバそうな奴らに突っ込んでいった。

「ちょ!?大丈夫なんすか!?」

骨のドラゴン(スケイルドラグーン)を使役するには確実に自身の方が強いという意識を植え付けなければならない。そしてあの男性は使役している。ということはかなり強い、ということになる。が、あの数と強さは覆せないだろう。

「安心したまえ!私達はこんな雑魚には負けはしないさ!」

帰ってきた言葉は確かな自信と、それを実現できるという力強さが伝わってきた。

「!!…眷属よ来たれ!悪意の暴威(アンガーマリス)

術が唱えられた途端に地面から様々な手が湧き出てきた。そして瞬く間に大量の眷属(アンデット)が現れた。

「やれ!」

あんなにも強そうだった3種の魔物が一方的に蹂躙されていく景色を俺は忘れないだろう。

「フゥ、ようやく静かにお喋りが出来そうだね…君の名前は?」

魔物の殲滅が終わったとたんにいきなり話しかけてきた。

「えっと…黒崎叶くろさきかなえです」

「…君が?」

何故疑問形で返されなければならないのだろうか?

しかもあの間なんだよ!俺のことを知っていそうなニュアンスだったし…何者だ?こいつ…

「うわぁ…なんか思ってたのと全然違う……彼の友達だからもっと強いのかと………」

なんかムカつくなこいつ!彼って誰だよ!俺知んないんだけど!こっち来てから出会った男性はおじさんしか居ないですよ!

「でもまぁ、鍛えれば化けるかなぁ…でも彼が言うほどの人物かと言われるとちょっと…ん?どうかした?すっごい顔してるけど…?」

「全部テメェのせいだよ!人のこと散々貶しやがって…なんなんだよ!やっと人に会えたと思ったのに!ボコボコに…」

「僕人間じゃないよ?」

喚き散らしていたが、急に冷静になった。

「…え?」

えっと…人じゃない?と言うことは幽霊?アンデット?でもドラゴンに乗ってたよね?…骨だけど……

「君は種族を見分けることもできないのか…まったく…この先が思いやられるよ」

「だから貶すのやめてもらっていいですかね!?」

「だって事実じゃん!弱いのがいけないんだよ?もっと強くなったら誰にも文句は言われなくなると思うよ?」

本当にイラつくなぁ…事実だけどさぁ…もっとねぇ…何か言い方変えるとかさぁ…

「初めてだよ、彼の言葉が外れたのは…あぁユウ様…あなた様の期待に黒崎は応えられそうにありません!」

……ん?今、ユウって言ったか?…まさか…!?

「…彼って、赤羽根幽かばねゆうのこと…ですか?」

おじさんの目が見開かれた。

「…まさか言い当てるとは……でも期待外れなことに変わりは無い。君には…」

「ちょっと待ってください!…幽はこの世界に来てるんですか?」

もし彼、赤羽根幽がこの世界に居るのだとしたら早く探さなければならない。あいつは俺の大事な親友だからな!

「落ち着きたまえ。…彼のことが心配なのかい?」

何故そんな質問が必要なのだろうか?

「そりゃぁ心配ですよ!一緒に転移してなくて取り残されてるんじゃって……」

「残念ながら…彼はもう居ないよ」

「…え」

遮って発せられた言葉は無情な現実だった。

「自己紹介が遅れたね。私はアント、さっきも言ったけど人間じゃなくて智慧ある死体(ハイリッチ)だ。そして…かの勇者ユウ様の弟子だ」

「はい?」

「だからユウ様の弟子だ」

「…いやちょっと待てよ!」

「何か問題でも?」

いやいや問題だらけだろ!

まず、ハイリッチって滅多に現れない伝説級の魔物なんだよね。そして眷属を連れて大行進。えっと、世界の危機です。

次に、幽が勇者だってこと。前の勇者は800年前に死んでるからもうこの世に居ないことが確定。

最後に、この中年男性改めアントさんは幽の弟子ということは800年は生きているということ。討伐されずにここまで生きていることには驚くしかない。そしてよりにもよって死霊使い(ネクロマンサー)。なんていう偶然なんだよ!!

「色々聞きたいことが山積みですが…まず、幽は俺のことをなんと言っていましたか?」

きっと俺のことは幽が教えたんだろう。そして俺が幽の話ほどの人物ではないと判断した。それを知りたくなった。

「君のことはね、大切な親友でいざとなったら誰よりも速く正しい行動ができる奴だって言ってたよ。そして、私は君の強化を任された」

「俺の?」

幽はだいぶ前の時代に存在していて、分からないはずの俺のスキルに合わせた人員を派遣したとなると………どうやって幽は俺の情報を手に入れてんだ?

「ああ。不思議に思うだろうが、こんなことはよくあることだ。あのお方は未来を視られていたからな」

「未来視のスキルを持っていたんですか?」

未来視のスキルを持っていたんなら可能だろうけど…

「いや、未来視ではなかったな。あのお方は世界に起こりうるあらゆる可能性を観測していたのだ。その結果が今だ」

世界に起こりうる可能性の観測?それって世界と繋がらないと無理じゃない?しかも繋がろうと思ったら世界を知らなければならないんだよね?ということは幽は世界を知っていた?そうなると幽は…ちょっと待てよ?俺、さっきからベラベラ喋ってるけど、どこでこんなこと知ったんだ?調べた覚えもないけど……?

「あの、俺なんかおかしいんですかね?知らないはずの情報をなんでか分からないんですけど知ってるんですよね…」

疑問を口にすると、

「あぁ、それは君が世界と無意識に繋がってるからだよ?いやぁ!あのお方の言うことは当たるねぇ!」

全然嬉しくないんだけど…だって世界と繋がってるってことは………

「君が想像している通り、すでに黒崎君は手遅れだよ。…ようこそ!こちら側の世界へ!」

やっぱりか……勝手に知識にあるから驚かないけど最悪だなぁ……だって面倒くさそうなんだもん。

「まぁ、何はともかくもう足を踏み込んでるんだからあとは最善を尽くして前進するのみ!」

「不本意ですけどね…」

勝手に巻き込まれて勝手に決められるとかたまったもんじゃない。…でも、俺だけで済むならそうしたい。他のみんなはどうか知らないでほしいと願うしかない。幽と同じ場所に行けるまで精々頑張ってみようかな!

「アントさん。俺を弟子にしてください!幽の期待に応えられるように頑張ります!失望はさせません!」

精一杯の誠意を込めて頭を下げる。

「いいか?かなり厳しいと思うぞ?」

「構いません!」

覚悟はできた。あとは進むだけだ。

「分かった。ここはいい練習場になるだろう。明日から始めるぞ!いいな!」

「はい!」

こうして俺はアントさんの弟子になったのだった。

・・・

そして早1年が経とうとしているころ、

「おい(かなえ)お前に合わせたい奴がいる。付いてこい!」

と言われいきなり修練場から連れ出され、かの魔王城へと連れていかれた。

そして中に入るとヤバそうな雰囲気が漂う部屋へと入っていき…

「おーい!連れてきましたよ!貴方の部下になりそうな奴!」

そう言って投げ出された。

「師匠!何するんですか!?」

「お前はもう十分なほどに強くなった。だから頑張れよ!」

という激励の言葉と共に師匠アントは帰っていった。

「ありがとうございます。困ってたんですよね、部下というか配下が居なくて…」

そう言いながら振り返った人物は、

「え?」

と言ってきたので、

「え?」

と、返しておいた。

俺はなんて運のない男なんだとつくづく思う。

この出会いは、運命的で必然であったモノなのかもしれない…。しかし、俺にとってはただの地獄の日々の始まりに過ぎなかった。

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