如月のその後
「貴方って人は何をしているのですか!?どうしてこんな…こんなにも聖水が散らばっているのですか!?」
神官に怒鳴られている少女が1人いる。だが、その少女は悪びれる様子もなく……
「だって~、最初から分かってた事ですよね~?私がドジだってこと!!」
その少女…如月由希は喚いていた。
・・・・・・・・・・
私は今、教会を追い出されるように出てきたところです。1年の契約が切れたからという理由で…別に追い出された訳じゃないですよ?追い出されるようにってだけで…私、良い子でちゃんと働いてましたし?神様への祈りもちゃんとやってたから追い出される訳ないんですよ!……こんな言い訳をしててもただ虚しいだけですね…自分でナレーションをしながら帝都に向けて歩いていく。虚しい…
「はあ…みんなはこんな事にはなってないんだろうな~…」
この世界に来て1年が経とうとしているが、未だに慣れない。前の世界でもドジだった私をカバーしてくれていた仲間も今は別々の場所に居る。…もうすぐ会えるけど…
そんなドジな私の1年はというと………
みんなと別れた後、私は南に向かっていた。…不本意ながら叶と一緒に……
なんでよりにもよって叶なの?意味分かんない…しかも……
「ねえねえ由希~。疲れたよ~、休憩しようよ~」
さっきからうるさい。大きなカバンを背負っているにしても、私よりも体力ないの!!
「ねぇ、ちょっと黙ってもらって良いで……」
後ろを振り返りながら告げると…誰も居なかった……
え?叶はどこに行ったの?いきなり消えたの?何それ?神隠し?
「黒崎叶さ~ん!!どこに行ったんですか~!!!!」
叫んでも返事がない…本当に消えちゃった……
「…いよっしゃあああああああああ!!!!」
1人になれた開放感がたまりませんねこれ~!自由だ~!!!………
あれ?確か荷物は重いからって事で叶のカバンに入れていたような……?てことはさ…
無一文
…詰んだ…詰んじゃいましたよ、私……どうしよう……?
「ひええええ、だ、誰か助けて~!!!」
誰かの叫び声が聞こえてきた。
「誰かの助けを求める声…行くしかないよね!」
私は声の方向に全速力で走っていった。
「さっさと神具とやらを出せよ!そしたら命だけは助けてやる」
聖職者みたいな格好をしてるおじさんが3人の盗賊に襲われていた。
「そこまでよ悪党ども!この私の前で悪事を働くなんて…とても愚かですね!」
あっても無いような脳味噌で捻り出した言葉がこれです。私…国語ダメなんですよね…
「あん?なんか言ったか女。後で相手してやるから…ちょっと待ってろ」
…カチンときちゃいました!!この私をコケにするなんて…許さないんだから!
「この私が来たからにはもう大丈夫ですよ!私は勇者の一人なんで!!」
「なっ!?ゆ、勇者様なんですか!?おお……これは神からのお導きか?………ありがたやー…」
おじさんはいきなり空に祈りだした。
「ふん!勇者だと?何言ってんだ?それじゃぁ勇者様の武器を見せてもらおうじゃねえか!」
・・・武・器?そういえば………?
「…わ、私は武器なんて物は持ってない!ひ、必要ないからね!」
叶が持ってたから今はないんだよ~!
「必要ないだと?でもその格好からお前さんは魔法使いだろ?杖がねえと魔法使えないのにどうやて戦うんだよ馬鹿じゃねぇかよ!あはははははは!!」
そうなんだ…じゃあ、更に詰んだってことですね…ハハハハハ………
「でもよう兄貴、勇者の一人ってことは他にも居るってことだろ?目ぇつけられたらまずいんじゃ……?」
「平気だろ?証拠さえなければ良いんだからさ!」
「その通りだ弟よ!証拠さえなければいい!!」
……私…どうなっちゃうんでしょう?…でもここで退く訳にはいかない!………
「勇者である私に勝とうだなんて、ば、馬鹿じゃないですか!?ちょっとは考えを改めるとか…」
というのは嘘で早く退いてください!お願いします!!
「…行くぞ兄弟!!!」
『おう!!』
3人が同時に切り掛かってくる。…攻撃魔法を使えない私に!!
嫌だああああああああ!!死にたくないいいいいいいいいいいいいい!!
「単糸閃光」
私に到達する手前で、盗賊三兄弟の体が剣と共に真っ二つになった。
「え?」
戸惑う私。何が起こったのでしょう?…てかグロッ!!!!!
「うへええええええ……」
「…こんなので吐いてたらこの世界は厳しいと思うけど?」
跪いた状態の私の背後から突然声がした。振り返ると、黒っぽい肩なしドレスの上半身にプリーツミニスカート、袖は和服チックで、黒いハイソックスでストラップシューズを履いている少女がいた。
「えっと…どちら様でしょうか?」
「……答える必要ある?」
……なんなのこの人?聞いてるじゃん。答えてよ……
「えっと……助けてくれたんだよね?ありがとう~!こんなに幼いのに強いんだね!」
勢いで頭を撫でようとした手を振り払われる。そしてこの見知らぬ少女は震えていた。
「どうしたの?どこか具合が悪いとか…」
「私は幼くない!!しっかり見ろ!!屈んでいるからそう見えるんだ!お前よりも背も高いし年齢も私の方が年上のはずだ!!20歳舐めんな!!!」
「20歳なの!?…じゃなくて、20歳なんですか!?」
驚きのあまり気分の悪さのも吹っ飛び立ち上がった。すると目の前には胸部があった。
「言っただろう?私の方が高いって!」
私の身長は153cmだ(ちなみに中学から伸びていない)。しかし、彼女の胸部が目の前にあるということは15cmは私より高い…てことは168cm?
「身長は168cmくらいですか?」
「!?…なんで分かるの?キショッ…」
後退りながら言われた……でも当たってたって事かな?
「いや~良いな~。そんなに身長があると……そういえば私自己紹介してなかったね!私の名前は如月由希よろしくね!」
「…ミュゲです。よろしく…」
ミュゲって名前なのか~…確かミュゲってフランス語で鈴蘭って意味だったような気がする…。花言葉は…
「幸せの再来、純粋…ね……」
「え?何?」
「いや!良い名前だな~って!」
幸せの再来ってなんかロマンチックだしね!
「…おかしな人…私は行くけど、あんたはどうするの?」
「私は…どこか自分を活かせそうな仕事がある場所に向かおうかなって…」
「…属性は?」
「え?神聖だけど…」
「なら、神聖国家ホークレットがいいと思うよ。あそこは神聖属性を優遇してるから」
ここで思わぬ情報ゲット~!やったね!!
「じゃあそこに行こうかな!」
「それならあの祈ってるおじさんに付いて行けばいい。あの人、多分ホークレットの人っぽいから」
指差しながら言う。てかあのおじさんまだ祈ってる………
「分かった!ありがとね!それじゃ!!」
ミュゲに別れを告げた後、おじさんに駆け寄っていく。
「おじさん!もう盗賊はいなくなったよ」
「ご先祖様よりを承りし加護に依りて……お?倒してくれたのですか!」
「私じゃなくて彼女が……」
紹介しようと後ろを振り返ったら誰もいなかった。
「彼女…?ここには貴方様しかいないようですが…?」
「…まあいいや!それよりも私を神聖国家ホークレットに連れてってよ!」
要件と私情を伝えた途端、おじさんは感極まったように…
「おお…私のような者にもまだ役目があるのですね!…コホンッ!お任せください!この私、枢機卿第3席のマイルス!謹んで勇者様を我が国までお連れしますぞ!ささ、こちらの馬車にお乗りください」
導かれるまま私は馬車の荷台に乗った。襲われたのにも関わらず馬車と荷台は無傷だった。
移動しながらマイルスさんの話を聞いた。
マイルスさんは神聖国家ホークレット出身で今は枢機卿として活動しているそうだ。
枢機卿とは教皇を補佐する役職なのだとか…てことはかなりのお偉いさん!?どうやら、教皇の代理として東の帝国の北にある中立国エンチャーテルで行われた会議に出席していたそうだ。そんなに忙しいなら休めば良いのに…とか呟いたら、
「なりません!もし世界会議に参加しなかった場合、国の品位を落とすどころか良好な関係にある国々まで敵に回すことになります!」
この会議は各国のお偉いさんやお偉いさんの代理、あとギルドマスターとかも呼ばれるらしい…今では各国の情報がギルドに集まっているらしいので、主な理由は情報提供かな?
そして世界会議の帰りにあの盗賊に襲われたそうだ。馬車と荷台が無事だった理由は…
「盗賊たちの狙いは大司教以上が持っている神具でした。言ってしまえば神具以外には興味が無いと言う訳で…だから馬車と荷台は無事だったのでしょう」
神具…神々より賜りし、武器などの戦闘に向いているもの、鏡などの日常生活で使われるもの、様々な形に扮してこの世界に存在している物体のことらしい…
「神具はとても珍しいものでかなりの価値があります。それに、神具を売ったら一生遊んで暮らせるほどの大金が手に入りますしね」
……あれ?神様から貰っているものをそんなに簡単に売っちゃっていいのかな?
「その神具ってのは売っていい物なんですか?神様から貰っているんだから罰とかが当たるんじゃ…?」
マイルスさんは少し落ち込んだ様子で…
「いえ。そうではないんですよ。神具っていうのは発掘されるんです。それこそいたるとこらから……ですので、直接神から授かっているわけではないので、発掘者の判断に委ねられてるんですよね…」
それってどうなんですかね?さっき賜っているとかなんとか言ってたよね?詐欺じゃん。
「……ですがいくつかは存在していると聞いたことがあります。なにも、先代の勇者様が使用していた神具…いえ、あれは神器ですね。は、直接もらい受けたと、文献には書かれていましたよ」
神具と神器の違いは性能の差らしい。訳が分からなくなってきた……
その後もしばらく話は続き、5日後くらいにホークレットに着いた。
・・・
私は今床を拭いています。水の入った瓶を割ってしまったからです。
ホークレットに着いたらマイルスさんの紹介で直ぐに教会に入ることができた。だって私、神聖属性だもん!
初めは、毎日同じことの繰り返しでつまらなかったけど、人の怪我を治した時に見られる笑顔が嬉しくて、私が人の役に立っている!という実感が沸いて楽しくなってきた。
…でも問題があったんだよね。それはある日の出来事………
「ユキさん。治療をよろしくお願いします」
「は~い!」
私はある老人の治療を頼まれた。どうやら木を切っている最中に落ちてしまったらしく、全身を酷く打撲し、腕も折れていた。
「おぉ……ワシは助かるのかのぅ…?」
「大丈夫だって!おじいちゃんは助かるよ!教会の皆さんが治療なさってくれるんだから!」
孫らしき人物が必死におじいさんに声をかけていた。あんな姿を見せられたら意地でも直さないとね!
「治療をしに参りました、ユキと申します」
それっぽく登場し声をかける。我ながらいい感じ!
「あぁ…お願いです。おじいちゃんを助けてください!いつも両親を亡くした私のために働いてくれているのに…こんな最期を迎えてほしくないんです…」
ご両親を亡くした後からずっと世話を見てくれた祖父を助けたい。なんていいお孫さんなの!
「ご安心ください。それでは治療を始めますので、少し離れていてください」
患者に向き合う。今回はかなりの重症なので普通の回復魔法じゃ足りないと思う…だったらどうするか。もう最上位回復魔法をぶっ放つしかないよね!
「生還の光鐘」
おじさんは光に包まれ一瞬で完治した。
「んおぅ……」
「おじいちゃん……」
さあ、治ったおじいちゃんを抱きしめてあげて……
「うおおおおおお!!力が漲るのぉ!!」
「お、おじいちゃん!?」
いきなり飛び起き、そして腕立て、腹筋、懸垂などを超高速で行い始めた。
「いやあああああああああ!!!!!!!」
お孫さんの悲鳴。あれ?おっかしいなぁ。感動的な展開になると思ったんだけど…どうしてこうなったんだろう?
そんなことを考えていたら後ろから…
「ちょっとユキさん!?いったい何をしたんですか!?」
「容体がひどかったので最上位回復魔法を使っただけですけど?」
「な!?」
声をかけてきた修道女さんが固まった。
「あの…どうしました?」
思わず聞いてみた。
「……いくら容体がひどいからってなにも最上位回復魔法を使うことないでしょ!!今あのご老人は回復限界状態なのよ!?」
回復限界・・・対象が必要としている回復量を超超えしたときに発症する状態。一時的にハイになり、周りが見えない超迷惑野郎に変わること。
「あ~、そんなことになってたんですね…まあいいじゃないですか!やっちゃったんだし!」
「よくありません!!」
この時はそそくさと逃げてお説教を逃れたけど、次はそうはいかなかったのよね…
・・・
「ユキさん。この聖水を倉庫まで運んでくれませんか?」
「はい!分かりました~!」
はい!もう分かったと思います!ご想像の通り…
パリンッ
全部割ってしまったのです。
これには皆さん激おこで…
「ユキさん!?何をしたんですか!?貴重な聖水を床にばら撒くなんて…あぁなんてことを…」
そして今に至り床を拭いています。
私だって割りたくて割ったんじゃないのに、この後1時間ちょっとのお説教が待っていた。
・・・
そんなこんなで1年が過ぎて行き…私は追い出された。
「はぁ…結局何にもできなかったな…」
この1年で学んだことはほぼほぼ回復魔法だけ。他のことは何にも学びませんでした。もうちょっと努力していたら違ったかもしれないが、いまさら考えても仕方がない。
しばらく歩いていると、マイルスさんが立っていた。
「お久しぶりです、マイルスさん」
「はい、お久しぶりですね、勇者様」
私の正体をこの1年で知った者はマイルスさんしか居ない。
「なんだか、今年は色々と騒がしい1年でした」
おもむろに告げられた言葉が刺さる。
「その節はすみませんでした…」
なんだろう?目を見たらいけないような気がする………
「いえいえ、別に謝ることではありませんよ。誰にでも失敗はあるものです。私だって過去にはいくつもの失敗をしてきました。今だって本当は此処に居てはいけないのに、他に身を寄せられる場所もないから教会にいるだけですから…」
「マイルスさん…」
とても悲しそうな表情をしていた。過去にそんなに自分を責めなければいけない失敗をしたのかな?
「…マイルスさんもそこまで自分を責めることないと思いますよ。私なんていつも仲間のみんなに迷惑をかけいて、それでもいつも許してくれてフォローをしてくれる。そんなみんなの力になりたいって思ってこの1年頑張ってみましたけど…案外うまくいかないものですね!」
慰めにもなってないかもしれないけど、少しでも楽になってくれるならそれでいいと思った。
「由希様はお優しいですね…どんな方にも全力で相手をし、どんな方にもその力を使って助けようとする…」
マイルスさんは空を見上げながら言った。
「あなたのような人がもっと世界に居たのなら、こんなことにはならなかったのかもしれません…」
「こんなことって…?」
何か意味ありなセリフに聞こえたけど…
「いえ、なんでもありません。ただの老人の独り言です。…でも一つだけ言わせてください」
……?
「由希様、何か困ったことがあったら頼ってください。私はいつでも貴方様の味方です。何があろうと、味方です。先代の方も頼っていたと私の祖父が言っていました」
「え!?」
マイルスさんのおじいさんが前の勇者の知り合いなのかな?
「まぁ、祖父も曾祖父から聞いたと言っていましたが…どうやら私の家系は代々勇者様の手助けをしていたそうで…」
「そうなんですね。じゃあ、困ったら頼らせていただきます!1年間お世話になりました!」
「はい、お疲れさまでした。それでは、旅の無事を祈っております」
深くお辞儀をした後、私は帝都に向けて出発した。
そして目のまえに胸部があった。
「ぶへ!」
思わず突っ込んでしまい、尻もちをついてしまった。
「すみません。前を見てなくって……」
「いいよいいよ~!そっちこそ怪我とかしてない?」
「はい…」
なんだこの人…というかエルフは!!めっちゃいい人~!!
「そう。ならよかった!気を付けるんだよん!」
手を振って私とは反対方向に彼女は進んでいった。
「……いい人だったな~」
凄く綺麗で艶やかな水色の髪の毛、湖の色をそのまま映したかと思うほどの透き通ったサファイアブルーの瞳………私もあんな風になりたいなぁ…
そんなことを考えていたら後ろから声がした。
「やっほ~マイルス!元気にしてた?」
さっきのエルフの綺麗な声。
「おぉ、これはこれは、ディラ様ではありませんか!お久しぶりでございます。本日はどのようなご用件で…?」
「えっとね、今日はアンデットに主点を置いた聖水か魔法具がないかって…」
あの人はディラっていう人なんだ…
今度また会えるかな~…
そんな考えを秘めながら私は帝都に向かったのだった。
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