鳴波のその後
「ふぅ....コレでいいかな~」
ゴブリンの解体を済ませながら呟く。
「流石はナルハ!やっぱお前がいた方が楽だわ!ハハハハハ!」
みんなとの別れから1年後。僕は今、冒険者パーティの助っ人として働いている。
時は遡り、あの後、僕は冒険者ギルドがあるという話を商人から聞いた。護衛をしてほしいと言われ、ついでに馬車に乗せて行ってくれるというのだから断る理由はなかった。ここは東の帝国の領地の最西端にある町、ムーティーレだ。この町の中心に冒険者ギルドがあると教えてもらい早速ギルドに向かった。
「すみません。冒険者登録ってできますか?」
......周りの視線がイタイ...
「ハイ!冒険者登録ですね!できますよ!軽い試験...というか、審査を受けてもらいますがよろしいですか?」
綺麗なお姉さん...受付嬢ってマジで美人なんだなぁ…
「問題ありません!」
こういうのはさっさと済ませよう。
「それではこの水晶に触れて下さい。これで魔力と属性を測り、登録します。それでは早速...」
「オイ小僧」
お姉さんの言葉を遮る野太い声...な~んかあるあるな展開だぞ~これ。
「小僧って、僕のことですか?」
とりあえず聞いてみる。誤解だったら大変だからね。
「オメェ以外にどこにいやがる!!」
誤解じゃなさそうだね。安心安心!
「僕になにか御用でしょうか?」
「ここがどこか分かってんだろぉなぁ?子供が来るところじゃねぇんだよ」
「いや~、お金が無いもんなんで...」
はやく退いてくれないかな~。
「舐めてんのかクソガキが!!冒険者ってのは!!命をかける仕事なんだよ!!魔物と戦ったり、災害のからの救助や支援!!子供の遊び場じゃねぇんだよ!!分かったらさっさと出ていけ!!」
面倒くさいなぁ。こういう人。…根は良さそうなんだけど…でも、下に見られるの嫌いなんだよね。
「はぁ......大丈夫ですよ?僕こんななりですけど結構強いんで!多分貴方より、ね」
最後に最大限の嫌味を込めてニヤリと笑う。こんな煽りに引っ掛かかるのなら、たいしたことないな。
「なんだと?.....だったら俺様を倒してみやがれ!!」
はい引っ掛かった~!これで手加減の必要は無くなったよね?よし!やっちゃおう!
突っかかってきた冒険者がものすごい形相で、剣を抜き放ち切り掛かってくる。なんか、素晴らしいほどのモブ加減。なんか泣けてくるよ~。
「死ねぇ!!!!!!」
ちょっとそれは言いすぎじゃないですかね?でも僕は振り下ろされた剣を念動力で受け止める。あたかも素手で止めているように見せながら。
「なにぃ!?」
「言いましたよね?僕は、強いって!」
勢いよく30%くらいの力で弾き飛ばす。そしてすかさず懐に潜り込み拳をねじ込む。
「グハッ!!...」
冒険者を壁にぶっ飛ばした反動で、砕けた壁の破片が飛び散る。
ワンパンKO!めちゃスッキリする!!!………………
そして気づく。ここはどこでもない冒険者の巣窟、冒険者ギルドである。要するに、周りは全員冒険者!やっべーや!襲ってきたら逃げ場ないじゃん!!
とか思っていたら、受付嬢のお姉さんがこちらを見ていた。.....一応確認しとこう.....
「あの~、勢いでやってしまいましたけど...いい、ですよね...?」
「ハイ!全然大丈夫です!今のは完全にこいつが悪いので。この方にはしっかりと教育をしたのちに登録を抹消しておきますので!本当に申し訳ございませんでした!」
いい人だ、このお姉さん...ありがとう!!!でも……
「大丈夫なので気にしないでください。それに、登録抹消ってのはちょっと可哀想なのでやめてあげてください。根はいい人そうでしたし…。それより!この水晶に触れればいいんですよね?」
「あ、はい…」
そっと水晶に手を近づける。そこで気付く。
あれ、僕ってほぼ全属性持ってて、魔力量は知らないけど魔法訓練するとき教官が先に倒れていたから案外多いような気がするんだけど...こんなところで知られて良いのだろうか?...まぁなるようになれ!
そして水晶に触れたら...あるある的な展開で水晶が割れてしまった...
「ッッッ!?」
あちゃー、こりゃあきまへんわ。注目集めてしもうてますやん!
「...水晶が割れるのなんて、初めて見ました...あ、でも登録はできてますね。えっと、お名前はアイネ・ナルハ様、年齢は17歳、魔力は測定不能。まぁ、割れてしまったので仕方ありませんね。属性は...5種類!?嘘でしょ...」
「.....おいおい今5種類って言ったか?」
「言った言った。今まででも多くて3属性までじゃなかったか?」
...どうしよう...てか帝国の皆さん?先に教えて欲しかったよね、一般常識。今知ったよ?最大3属性って。
「規格外過ぎます...ナルハ様は何者なんですか...」
何者って....どう答えればいいんだ?
異世界から来た勇者の一人です!
とでも答えればいいのか?いやいや、自分で言うのもなんだけど無理があるって....
「えっと...そうだ!東の帝国、皇帝陛下の近衛騎士だった者です!」
一応スカウトあったから使ってもいいよね!
「近衛騎士ですって!?」
………ありゃ?またやらかしましたか?
「...凄すぎます!ナルハ様!たったの17歳で近衛騎士様だったなんて!」
「う、うん...そうですね...アハハハハ...」
「それでは冒険者ランクも最上位でいいですね!普通はF.E.D.C.B.A.S.Zと段階を踏んでいくのですが、そんなの時間の無駄ですからね!優秀な方には高難易度のクエストを受けていただきたいので!」
えっ、ちょま...
「登録完了です。こちらがギルドカードになります。身分証としても使えますので、何かあれば使って下さい!」
黒色のカードが渡された。そして冒険者ランクはZ。マジか~...最上位ランクから始まるってドユコト...?まあいいか。
「ありがとうございました!」
てな感じで冒険者登録を済ませた。その後は色々なパーティの助っ人をしたり、たまには高難易度のクエストを受けたりして活動していった。最近巷では、Zランク冒険者が色んなパーティの品定めをしているとかいないとか、そんな噂があるらしいが、僕がこの噂を知ることはなかったのである。
………………
そして話は戻り現在。今回は前衛を任されていた。本当のパーティは前衛1人、盾役2人、魔法使いが1人、弓使い1人の5人だったらしいが、その前衛が怪我をしてしまいクエストに参加できないらしい...でもクエストを受けないとお金が無いという悪循環が発生しそうなので僕を雇ったそうだ。なんせ僕もお金が無かったからね。え?なに?1年も活動してたならだいぶ貯まってるだろって?そりゃ貯まってるよ。でもお金っていくらあっても困らないじゃん?だから念のために貯めてるの!!
……みんなと別れてからもうすぐ1年が経つ。お金もだいぶ貯まった。こうやって魔物と戦っているのは華蓮達との約束、模擬戦の為の鍛錬も兼ねてのことだ。
「あのよぉナルハ、お前こそ良ければだが…このまま俺達のパーティに入らねぇか?そうしたらもっと稼ぎも良くなるし、死ぬ可能性も減るだろ?」
盾役だ...今の僕の悩みがコレだ。助っ人に入る度に勧誘を受けること。有難いんだけどね。
「ごめんなさい。僕は自由に旅をしていたいんです。それに、今どこかに所属とかすると面倒なんですよ。他にも勧誘を受けたパーティもありますし...厄介ごとは御免なので」
こういうのはハッキリ言っておかなければならない。前のパーティはストーカーになったからね...返り討ちにしたけど。
「...そうか。お前がそう言うんじゃしょうがねぇ。でもなんかあったら頼ってくれよ!俺達は仲間なんだからな!」
このパーティは人柄のいい人ばっかりでよかった~。
「でも礼はさせてくれ!この後換金してから飯でも行こうや!」
「それは是非!」
他人のお金で食べる飯は美味い。こういうのはついて行くものなのだ。
...
「それじゃ、クエストの達成とナルハへの感謝を込めて~、乾杯~!」
このパーティのリーダー、前衛のダルシュさん(もう怪我は治ったらしい)が音頭をとった。
『カンパーイ!』
僕達は今ギルドが経営している食堂に来ている。今回は肉だ!牛らしきもの、豚らしきもの(絶対に豚じゃない)、鶏肉...焼き肉だ~!
「つっても良くわかったな。ディラ。ナルハが成人してないって」
ディラ(本名はディラフラフ)は弓使いのエルフだ。本当は居酒屋っぽいところに行く予定だったのだが...
「ナルハって成人してないっしょ!お酒飲めなくない?」
「えっ!?ナルハ、成人してないの?」
一斉に見られる。
「えっと...はい...」
この世界の成人年齢は僕たちの世界と同じ20歳であるが、ギルド登録した時から1年たっても今の僕は18歳である。
「嘘だろ!?成人してないのにどうやってギルドに入ったんだよ!?」
「えっと...それは後ほど...」
どうしよう...このままじゃまた近衛騎士とか言わなきゃいけなくなる!なんとかならないか...
とか考えていて、今に至る。
「おいナルハ~」
うわぁ~無理だな~これは。無言の圧がスゴイ...仕方ないか...
「僕、実はこのえ...」
「別にどうでもよくない?それ。人には言いたくないこともあるんだよん!それにほら、ギルドって実力主義って感じだから特例で入れてもらえたんじゃない?」
ディラさんの助け舟!乗るしかない!
「そうなんです!特例で入れてもらえて...」
「でもさっき近衛がなんとか言ってなかったか?」
ぐっ...鋭い...
「え~?そんなこと言ってませんよ~」
「そうか?...ま、いいか。ディラの言う通り、言いたくない事の一つや二つあるよな!」
「まるで自分にも秘密があるように聞こえるけど、なんかあるの~?」
「ねぇよ!!」
「本当かな~?」
「だから本当だって!!」
ディラさんがダルシュさんをいじりだした。本当に仲が良いな、このパーティは。
この後もみんなでワチャワチャ話しながら食事は進んでいった。そしてあっという間に夜も更けていった。
気付けば、みんな酒に酔いしれ潰れていた。気持ちよさそうな寝息を立てている。今起きているのは僕とディラさんだけだ。するとディラさんが、
「ナルハってさ、実は魔王とやりあったことあるんじゃない?」
いきなりぶっこんできた。
「………え?そんなことないですよ~…だって魔王とやりあったらさすがに死んじゃいますって!」
とにかく話を変えなければ、ぼろが出そうだ。だが、僕がぼろを出すよりも前に…
「………そっか……私はあるよ?魔王とやりあったこと」
爆弾投下
「……えっ?」
「たしか100回くらいかな~……詳しい数まで覚えてないけど」
「あんなのと100回も戦ったんですか!!」
「やっぱり知ってんじゃん」
あ…………やらかした…………
「魔王ってさ、服のセンスほとんどなかったけど、なかなか可愛かったでしょ!」
「そりゃあ、まぁ……」
たしかによく憶えている。
漆黒のドレスに朱色のローブを纏い(それが似合っていない)、側頭部からは2本の角が生えていた。そして、なんで魔王なんだと思うほどに美しく可憐な顔立ちをしていた。だから、黒崎なんかは
「……やべぇ!!めっちゃ可愛いじゃん!魔王って!!!すみませ~ん!俺の嫁になりませんか~!!!」
とか言ってたりしてたっけ?でも、
「人間ごときが妾に交際を求めるとは…絶対に嫌じゃ!!最低でも妾よりも強い男を選ぶわ!!貴様のような弱い人間が、妾に勝てると思うなよ!!」
という感じですぐに振られて絶望してたら華蓮が吹っ飛ばしちゃってたんだよね……
「だよね!あの子めっちゃ可愛かったよね!…でも私はもっと可愛い子知ってるから!」
「そ、そうなんですね……」
可愛い子知ってる?…………一体何が言いたいんだ?
「まぁ私が言いたかったことは、私も魔王と戦ったことがある先輩だよってこと。行先は分からないけど、そろそろこの町を出るころだと思ったから一応伝えたかった」
僕は驚かされる。この人には何が見えているのか分からないが、華蓮と同じような感覚になる。まるで自分の全てを知られているかのような感覚に…
「ディラさんはすごいですね。ディラさんが言う通り明日の朝には出発しようと思っています」
「思ったよりもかなり早いね…分かった!見送りに行くよ!みんなを連れてね!」
笑いながらディラさんはそう言った。
「ありがとうございます」
僕はそれだけ告げ、食堂をあとにした。
次の日の朝。僕は帝都に向けて出発することをディラさんに伝えていたのでみんな見送りに来てくれた。
「みなさん!お世話になりました!」
「礼はいらねぇよナルハ。俺達の方が助けられてんだ。気にすんな。また冒険しような!」
「ハイ!是非!」
「それじゃ、またな!ナルハ!」
「みなさんもお元気で~!」
お互いに反対に歩き出す。でもすぐに足音が近づいてくる。振り返るとディラさんがいた。
「どうしました?ディラさ...」
ん。言い終わる前にディラさんの顔が目の前にきたかと思うと耳元で...
「帝都に行くんでしょ?気をつけた方がいいよ?あそこは君たちにとって安全じゃない。いずれ害するモノに変わる」
「えっ?どういう意味ですか?」
ディラさんは離れて笑いかけてくるだけ。
「ちゃんと伝えたよ!私、記憶力には自信があるんだ!」
「どういうことですか!伝えたって...誰からですか!」
ディラさんは笑うだけ。でも、段々と儚さを滲ませた微笑みに変わる。そして、
「かばねゆう」
…………え?
「彼からの伝言だよ。それじゃ!」
最後はいつもの笑顔に戻っていた。僕は背を向けて走り去って行く姿に何も言えなかった。彼女は確かに赤羽根幽と言った。いつもみんなと一緒にいて、こっちにくる時も一緒にいた行方不明の友達。なんならこちらの世界に来ているのかさえも分からなかった彼が、今この世界にいるということが分かった。そして彼女が何故知っているのか。僕は疑問を抱えたまま帝都に向けて出発した。
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