魔狂の森 侵
お久しぶりです!2週間ぶりの投稿となりました。
今回は少し長くなっておりますが、最後まで読んでいってください!
僕達は東の帝国バンガーから逃れる為に、すぐ東隣にある魔狂の森へと逃げ込むこととなった。あと一息というところで帝国の衛兵に阻まれてしまったが、突如として現れた謎の筋肉ムキムキな小人の登場により状況は好転した。城門を破壊し投げ捨てた人外的な力に言葉を無くしたが、そのおかげで隙ができ、無事、魔狂の森へと逃げることが出来たのだが……………
森に入って5分も経たないうちに魔物と遭遇しました。
魔狂の森の恐ろしさは魔物が際限なく湧き続ける結果、異常な数の魔物が生息していることだけではない。
魔狂の森に棲まう魔物はそれぞれがこの森で生き残る為に適合……いや、進化と言う方が正しいのだろうか?
ともかく!強いの!普通の魔物と魔狂の森の魔物を比べると魔狂の森の魔物の脅威度は5倍以上だ。
めっちゃ強い………………
そんなヤバい魔物が蔓延る森の中、僕達が遭遇したのは、森の狂犬の群れ。
…1体1体の強さはそれほどでもない。そう、1体だけならそこまで脅威ではない。
しかし、群れならば?
話が変わってくる。
群れには司令塔が居る。
だから、統率の取れた動きで襲ってくる。
………まるで狩りをするように。
圧倒的な個体より、統率の取れた群れの方が脅威になり厄介だ。
なぜなら、統率を取っている時点でそれなりの知性を持ち合わせているからだ。
魔物が知性を持ち合わせたら何になる?
知性を持った魔物…すなわち、魔獣だ。
魔獣とは、100年に一度現れると言われている魔物だ。
1体現れるだけで都市が滅ぶと言われる程の化け物。
勝算などない。
魔獣とは知恵比べでしか人間は勝てない。……
しかし、それも微々たる差だが…………
あらゆる分野で人間に勝る生物、それが魔獣だ。
実は魔獣のよりももっとヤバい奴がいるのだが……今は止めておこう。
ということで、この森にはそんな魔獣がうろついている。………というか魔獣しか居ない。
それでは何故魔獣たちはこの魔狂の森から出てこないのだろう?
その理由は………………
「すず!もういいから!」
僕は思わず叫んでしまった。
走りながら聞くような内容じゃないと思ったから。だって何言っているか解んないんだもん!
「え~、ここからが良いところなのに…」
すずは残念そうに呟いた。…溜め息と共に。
「こっちは……ハァ…すずみたいに………い、移動できないんだよ!?」
僕の隣を走る由希がまさに死にかけの形相で叫んだ。
今は由希にすごく親近感が湧いてくる。
だって………僕と由希はずっっっっと走ってるのにすずだけ魔法で飛んでるんだもん。
ずるい!!
…でもこのままじゃ体力が切れて追い付かれるのが落だ。
それならまだ体力がある今の内に応戦した方が得策なんじゃないか?
そんな思考が頭をよぎったとき、
「このままじゃ藍音はともかく、由希が持ちそうにないから戦うよ!」
すずの判断の下、戦闘の火蓋が切られた。
「僕も丁度そう思ってました!」
僕は、わざと速度を落としてあの森の狂犬達との距離を詰めさせる。そして振り向きざまに抜刀し、僕目掛けて飛び上がった1匹を切り捨てる。
「ギャンッ!!」
断末魔を上げて絶命した。
次いで後ろに構えていた3体に向けて走り出す。
3匹は散開して攻撃を躱そうとしたが、そんなことはさせない。
「《加速》!!」
きっとワンちゃん達の目には僕の姿は捉えられなかっただろう。だってディラさんですら追い付けない速度なのだから。
そして《加速》した勢いを殺さずにそのまま剣を振るう。
すると振り切った先数メートルが吹き飛んだ。
3匹を巻き込んで地面が抉れて消え去っていた。
「すずの方は………大丈夫そうだね」
どうやら心配はいらないようだった。
「天罰の雷」
すずが魔法を発動させた途端、すずを囲んでいたワンちゃん達が一瞬にして雷に飲み込まれて跡形もなく燃え尽きた。
威力半端ねぇ………
この調子なら安心だ。
「あとは由希の方だけど………」
色々心配な由希の方を見やると………
「はい良い子だね~!うわ~!よしよしよしよし!」
なんか小っちゃいワンコとじゃれていた。
あれ、森の狂犬の子供だよね?
てかすごい由希に懐いてるし………何体か和やかに眺めてるし………
あそこだけ戦闘の雰囲気がゼロなんだけど…こっちは一生懸命戦ってるのに………
何か解せん。
「ちょっと由希さん!?そんなに和んでないで手伝ってくれませんかね!?」
今も喋りながら攻撃を捌いている身としては早く加勢してほしいのだが…
「!?…こんっっなに可愛い子たちと戦えるわけないでしょ!!ちょっとは考えなさいよね!!」
どうやら由希の逆鱗に触れてしまったらしく、憤慨して怒鳴ってきた。
そういえば、由希は可愛いものに対しては物凄くデロデロになるんだった……そして可愛いものを愛でているのを邪魔すると、今の様にキレる。
学校帰りにペットショップに立ち寄った時。
暗くなってきたから帰ろう、と声を掛けたら…
「何言ってんの!!私からこの子たちを奪おうってんならそうは行かないんだから!。ね~!」
と、犬や猫などに話しかけていた。
結局僕達は由希を残して先に帰った。
次の日に由希から聞いたことだが、どうやら営業時間ギリギリまで店に居たらしく、店員さんからもう帰ってくださいと言われるまで時間に気が付かなかったらしい。そしてその後しばらく駄々をこねたらしく、出禁にされたのだとか。
それほどまでに可愛いものに目がない、それが如月由希という人物なのだが………
あれはどう考えても罠だろ。
ちょっとずつ大人たちが距離を詰め始めたし、あと2、3メートル進めば一気に飛び掛かられることだろう。
どうすればいいんだ?今殺っちゃうと絶対由希が怒るし、かといって助けなかったら由希が死んじゃうし……面倒くさいけど怒られる方がマシか…。
由希に近づいているワンちゃんを斬ろうと一歩踏み出すと、
『飛べ!!』
いきなり声がした。
何か嫌な予感がしたので慌ててその声に従い地を蹴り下を見下ろすと、元居た場所から無数の死体が出てきていた。
「……あっぶなっ!?」
声、ありがとう!………
でも、あの声誰だ?すずや由希の声じゃなかったし、男の声だった様な気が………
『右の木を蹴って回避!!』
また声がした。
今回も従うと、真横にあった樹木からも死体が出てきた。木の中を進んできたの!?
全然気付かなかった…、この声がなかったら死んでたじゃん、僕。
「?………うわあああ!!ゾンビ!!ゾンビだ~!!やだ!!臭い!!キモイ!!どっか行って!!きゃあああぁぁ!!」
うん。由希は正気に戻ったみたいだね。
「ひいいぃぃ…うわっ!?どうして犬も襲ってくるの!?さっきまで仲良かったのに~!!」
どうして襲ってくるかって?そりゃ自分の子供を投げ捨てられたら親は怒るよ………。そもそもすずが説明してたじゃん。魔獣は知性があるって。それなのにどうしてじゃれあ………
「藍音!!危ない!!」
突然すずが叫んだ。
え?僕?僕が危ないの?どうして僕が…?
「後ろ!!」
声のままに後ろに振り向くと………………
人型の牛がいた。
ミノタウロスだ。
すでに大斧を振り下ろす体形になっていた。
着地した瞬間なので回避は不能。
受け止めように体格に差がありすぎる。
身長は3メートルくらい。隆起した筋肉だけを見ても絶対に今の僕じゃ勝てない。
それに僕は気配に気付けなかった。それほどまでに潜伏が上手い………
魔獣。
あ………………終わった………………………………
こんなので終わるのか?僕の人生は。
華蓮や叶にも会っていないし、幽に関しても何も掴めていない。
そんなので終わってしまうのか?僕は。
何もできずに、ただ二人に迷惑をかけて、一人だけこの世界から、人生から退場するのか?
そんなのまっぴら御免だ。
まだ死にたくない。
死にたくない。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!
………でも、もう駄目なんだ。避けられないのだから。
ミノタウロスの勝ち誇った笑みが目に焼き付く。
こんな時になんだけど、なんだかすごく遅いな。
大斧が迫ってくる1ミリ1ミリがはっきりと見える。これが「死」ってやつなのか?時間の流れが減速したこのように思えるこの瞬間が。
あれ、当たったら痛いよなぁ…
でも、しょうがないのかな…
もう、どうすることもできない。僕はこのまま………
意識を投げ捨てようとしたその瞬間、
『何諦めてんだ?当たらなかったら痛くないし、死にもしねぇだろ?』
いきなり声がして、無理矢理意識を引き戻された。
この声はさっきと同じ………
と、考えたとき。不思議なものを目にした。
僕は剣を下ろしていたはずなのに何故か、ミノタウロスとの間に受け止められる形で構えられていた。
「え………?」
僕が何が起きているか理解できず動揺していると、
『…ったく、らしくねぇ。代われ』
はい?
しかし、僕が返事をする間もなく体が勝手に動いていた。
そしてミノタウロスの攻撃を正面から受け止めた。
お互いの得物がぶつかり合い凄まじい衝撃が迸った。
僕の身体が受け止めているから、必然的に僕にも衝撃が来るかと構えていたが、全然…というか全く何も感じなかった。
「藍音……?」
すずが恐る恐る問いかけてきた。
返事をしようとしたが言葉が出てこなかった。代わりに出てきた言葉は……
「かなり鈍ってるな。衝撃を全然抑えられなかったし…よっ!」
掛け声とともにミノタウロスを蹴り飛ばした。
これ………僕の身体じゃない!!!
だってあんな壁みたいな巨体どうやっても蹴り飛ばせないし、まずあの振り下ろしだって受け止めきれずに潰れてるだろうし………
どうなってんの?
感覚もないし……もしかしてもう既に死んじゃってる?
そんな一人の呟きに応えるものが一人。
「いや、生きてるぜ。死んでない、安心しろ」
僕だ。正確には僕の身体だ。
これ、どうなってんだろう?
「お前の身体を一時的に借りてるだけ。後でちゃんと返すから」
いや、返す返さないの問題じゃなくてですね、貴方誰ですか!?
「おっとまだ沢山魔獣が残っているから早めに片付けないとな!」
おいコラ話逸らすな!
という僕の声は届かず僕の身体に宿っている誰かさんは魔獣の殲滅を始めてしまった。
まず最初に突っ込んだのは蹴り飛ばしたミノタウロスだった。
「まずは……一体!」
そして固そうな筋肉で包まれた首をあっさりと斬り飛ばした。
そして森の狂犬や死体の方を見やると…………
「こりゃこっちの方が良いや」
そう言ってミノタウロスが使っていた大斧を拾い上げると、
「たしか斧って……こうだったよな?」
そう呟くと、
「横振り!」
左の脇に抱えたかと思うと、それを目にも見えない速度で横に振り払った。
すると目の前にいた無数の魔獣が一気に吹っ飛び地面は僕が剣を抜き放った時とは比べ物にならないほどに抉れていた。
「まぁ、こんなもんかな?」
僕の顔は満足そうに笑っているようだった。
「ねぇ……。藍音、なの?…………」
すずが訊いてきた。大分警戒しているように見える。
「あ~、今は違うな。俺が一時的に身体を借りてる状態だから」
ふっ、と吐き捨てるように言い放った。
「藍音は死んだんですか?」
次は由希が訊いてきた。こっちは心配しているのか目が潤んでいた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。ぶっちゃけそろそろタイムリミットだし。もうすぐ代わると思うけど…、説明した方がいい?」
なんか今の僕悪そうな顔してそう……案外表情筋の動きで判るもんなんだな。
「……説明してくれるんですか?」
すずはまだ警戒しているのかずっと距離を開けて会話している。
「いや、しないよ」
「「え?」」
二人そろって目を点にしていた。
そんな二人を無視して僕の口は動く。
「だって、今説明しなくてもいずれ絶対に知ることになるし。それに今は特例中の特例だし。本来なら俺は出てこれないからもうひとりが……って、言っても今は分かんないよな。うん。しょうがない。まぁ、俺が出てくることはもう無いって考えてもらって構わないよ」
そう僕の口は言い捨てた。
「本来ってどういう……」
すずが訊こうとすると…
「悪いな、もう時間だわ。しばらくこういう現象は起こらないから安心しろ。……あ、あと一つ」
何かを思い出したように付け足した。
「この森を抜けた後か、抜ける前に多分誰かに会うと思うけど、そいつに付いていってボウブレッジに向かえ。着いたらどうにかして上層部に『ロワジュを招集』と伝えるんだ。そしたら何とかなるから。頑張れよ!踏ん張ればあと一回は会えるかもだし。じゃ!」
そう言った瞬間、いきなり重力の重さが加わってきた。
戻った、のかな?
「あーあーあー」
あ、うん。戻っ、てるね。はい。
「今は…藍音?」
由希の問いに応える。
「うん。そうだけど……さっき何が起こってたの?」
「……わかんない」
誰も答えられなかった。
この後少し話し合い、取り合えずまた進むことになったけど………
「クソ!!数多すぎんだろ!!」
「仕方ないよ!!だって魔狂の森だもん!!」
僕があてもなく吐いた怒号にすずが応えた。
「いやぁぁぁぁ!!足掴まれた~!!」
「木の蔦だよ!?それ!!」
由希さん、紛らわしくなるんでやめて下さい………
阿鼻叫喚。地獄絵図。
正にそんな感じ。
さっきの戦いも含めると既に3時間くらいぶっ続けで戦っている。もうそろそろ限界がきそうで結構キツイ………
「てか由希!!早く藍音にバフかけて!今私達が生きてるのってほぼ完全に藍音のおかげだからね!?」
由希に向けてすずが少し怒気を含みながら言った。しかし、
「分かってるけど感覚的にあと一回使ったら動けなくなるんです~!!」
由希は全く気にすることなく論外な弱音を吐いた。
「まだ回復魔法2回しか使ってないよね?」
一応確認しておこう。一応ね?もしかしたら気付いてないだけで他にもバフかけてもらってるかもだし……
「1日3回が限界なの~!!」
まぁびっくり。なんて使えない後衛。
「「お前この1年何してた!?」」
僕とすずがハモった。
仕方がない、思ってしまったのだから。
「えっと、修行?」
コテンっと首を傾げながら由希は答えた。
「修行?、じゃねぇよ!?……て、あれ?魔物どこいった?」
由希を問い詰めていて気付かなかったが、あれほど群がっていた魔獣が一匹も居なくなっていた。
「確かに。消えたね…」
すずも不思議に思ったのか周囲に探索をかけ始めた。
「やった~!勝ったんだよ私達!」
由希の元気な声が響く。こっちは満身創痍でそんな気力ないのに……すっかり祝勝ムードになっちゃったよ………
しかし、すずの発言で全てがひっくり返った。
「……由希?例えばだけど、魔物が獲物を逃してまで自分が逃げるって事の意味分かってる?」
すずの問いに由希は戸惑った。僕はなんとなく理解しているけど……………
「え?なになに~?」
あぁ、やっぱり由希は分かんないんだ……半ば呆れたようにすずが溜息を吐いた。
僕でも知ってる。こういうのにはお決まりがある。それは…
「……相手が圧倒的に強いか、自分達よりも上位者が近づいてきたときだよ。それも、私達が戦っていた魔獣なら尚更ね」
魔獣は賢い。だから絶対に勝てないと思えばすぐに退く。
しかし、今の僕たちは圧倒的というほど優勢ではなかった。切り込んでは引いてを繰り返していただけだ。となると………
突然、空気が重くなった。ほぼ直感的に視線をずらすと森の奥から紫色の何かが迫ってきていた。
僕の視線に気づいた二人も釣られて奥を見やる。
紫色の何かを見た途端、すずが叫んだ。
「ッ!?瘴気!あれは絶対に吸わないで!肺がやられるよ!…それに、瘴気が流れてきたってことは…」
肺がやられるって…吸ったらゲームオーバー的な毒かよ。となどと考えながら口元に布を当てていると、瘴気が濃くてよく見えなかったが、何か影が動いていたように見えた。とてつもなくデカい何かが……………………
「グオオオォォォォッ!!!!!!」
ずっと奥を見ていたら突然何かの雄叫びが響いた。
そして、影の正体が姿を現した。
「……瘴気を泳ぐ死の化身、死骨の鮫」
馬鹿でかい雄叫びを発した後、サメの骨格に似た魔物がとんでもない速度で突っ込んできた。僕達は間一髪のところで避ける。
………これは流石に無理だな……
全員生き残るのは。
この中で一番適役なのは……やっぱり僕か。
「……僕が時間を稼ぐ。そのうちに逃げて」
決死の覚悟で僕は死骨の鮫に突っ込んでいった。
「藍音待って!!……」
由希が呼び止めようとしたが、あえて聴こえていないフリをした。
「大丈夫!絶対に5分は稼いでみせるから……」
今出来るだけの笑顔で笑いかけた。だいぶ引き攣ってる様な感じだけど。
「そうじゃなくて!誰が私を運ぶの!!!」
由希のせいで思わず転びかけた。
何言い出してんだよ……自分で走れよ!!!!
と、一瞬思ったがすぐに思考を切り替える。
僕は捨て身で突っ込んでいく。
…………2人とも、しっかり逃げてくれよ。
そう思った矢先、またも横槍が入った。
「死骨の鮫には物理攻撃が効かないんだよ!」
すずだった。しかも内容めっちゃ重要じゃん。
「えっ?」
急ブレーキをかけるが敵は目の前。あ、終わった…2回目の死の覚悟。
また勝手に意識が切り替わるとか……
無いですよね。はい…。
「「藍音!!!!」」
二人の声が重なった。
ゴメンね、2人とも………全く役に立てなくて……
「水矢」
突然声がした。
かと思うと、サメが消えていた。
「え、いったい何が……」
理解が追いつかずぼーっとしていると………
「いや~危なかったね~、ナルハくん!」
木の上から声がしたので、見上げてみると…
「あなたは…て、ディラさん!?」
「ヨッ!久しぶり…でもないか!」
「藍音!大丈夫?怪我してない?…てかこの人って……?」
由希、僕の心配かディラさんへの好奇心かどっちかにしなよ……。
「この人はディラさんって人で、僕がこっちに来るまで一緒にいたパーティのメンバーだよ」
僕はディラさんを紹介していると……
「あ!、その髪と目の色!あの時のお姉さんだ!」
由希がディラさんを指差し叫んだ。
「由希知ってるの?」
僕が訊くと、
「うん!私が教会を出た時にぶつかったお姉さんだよ!めちゃくちゃ綺麗だったから覚えてる」
意気揚々と語り出した由希であった。
「……あ、あ~、あの時の子ね…思い出した思い出した」
と、少しの間を空けて目を泳がせながら答えた。ディラさん、絶対覚えてないよね?
「忘れましたか?私のこと…」
由希が目を潤つかせながらディラさんに訊く。
あたかも昔離れ離れになった幼馴染的な雰囲気を醸し出しているが、彼女はぶつかっただけだ。普通はぶつかっただけの人を覚えてるわけないでしょ……
「いや、マイルスさんに会いに行った時にすれ違った子でしょ?5日前だから覚えてるよ」
いや覚えとんかい!記憶力いいなおい!
と、ここであることに気付く。
「あの、ディラさんがいるってことは…」
全てを言い終える前に奥から声が響いてきた。
「おいディラ!!いきなり走るなよっ、て…ナルハじゃねぇか!5日ぶり!なんだよディラ先に言えよ~。ナルハがヤバかったんなら俺らにも伝えろよな!」
やっぱりダルシュさんも居た。だいぶ息が上がっているが……
「いや、そんな暇なかったし…」
さては《加速》を使ったんだな。ダルシュさんの視線を避けるようにディラさんが言い淀んだところで、
「あの!……どうやって死骨の鮫を矢で倒したんですか?」
すずは心底不思議そうに語尾を弱めながら訊いた。
すずに訊かれたディラさんは目を細めて……
「君は…そっか。どうやったかって事だね。私があの骨に使ったのは技術だよ」
ディラさんは何気なく答えた。
「あいつには物理攻撃が効かない。骨だからね。だから魔法が有効的な攻略手段となるんだけど……でも、魔法が使えなきゃ倒せないってかなり鬼畜じゃん?そこで技術!自分で生み出すしかないけど、唯一無二の武器となるんだ!」
と、意気揚々と言葉を繋げた。
「技術は物理と魔法の組み合わせみたいなモノなんだ!まぁ異例もあるけど…。とにかく、技術が使えるのと使えないのとじゃ全然違うんだよ!私も教えて貰うまで知らなかったんだけどね~」
「技術ですか…。私の知識に含まれてないってことは……」
ディラさんの答えを聞いて、すずは何か考え事を始めたようだ。
「その技術ってのは僕にも使えますかね?」
僕は、ふとした好奇心で訊いてみた。
「ん~、練習すればね?ナルハなら下位対応力も人並み外れた速度で習得したから多分、技術も早く出来るかも。でも…だいぶキツイよ?私だって一つ目のアーツを使えるようになるまで半年はかか…」
言葉を紡ぎながらディラさんは歩き出していた。
が、
ふとディラさんが横を向いた時には、既に死骨の鮫が口を開けていた。
「あ、ヤバっ……」
ディラさんの口から間の抜けた声が発せられた。
「ディラさん!!」
手を伸ばすが届かない。そんな…助け、られないのか?…。
でも、目の前に死が迫っているディラさんは………
笑っていた。
「世代交代ってヤツかな?…ようやく、私もそっち側にいく頃合いなのかな………」
最後、ディラさんが何を言ったのかは聞き取れなかった。
そして、微笑んだままディラさんは、死骨の鮫に食べられた。
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