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9.武器を選ぼう

 武器をしまい込んである部屋に案内されたが、途中でサラが発狂したように声を上げた。


「ちょっとぉ、この家の間取りはどうなってんのよぉ!」

「うわっ、びっくりした。いきなりなんだよ」


 ニールは目を丸くさせながらサラを振り返った。


「だっておかしいじゃない。この家、こんなに広かったの?」

「そういえばそうだな」

「そう?」

「外観と中の広さが違うとなれば、やはり不思議アイテムという事で説明が付きます」


 サラはちょっと冷めた目を紬に向けた。


「あんたのその何でもゲームと結び付けて納得するの、やめたほうがいいと思う」

「ですが、理屈を考えすぎても身動きが取れなくなってしまいます」

「そういうモンだって納得できればなんだっていいんじゃね?」


 春斗が二人の間に入った。

 咲良はそんな三人を見ながらニールに聞いた。


「結局、どういう事なんですか?」

「どういうって、単に空間拡張の魔法がかかっているだけだぞ」

「それだとただ広くなるだけで、部屋数が増えたりはしないんじゃないの?」


 ニールはがしがしと頭をかいた。


「あ~、まぁ、そっからか。この手のアイテムは使い手の考え方っつーか、思念?精神?に影響されるんだよ。初めて使う時にある程度の間取りを思い描けば、キノコの方が気を使って使用者が望むように整えてくれるんだ」

「キノコが気を遣うの?」

「おう」

「なんで?」

「胞子を運んでくれるからじゃねぇの?」


 疑問に疑問で返されてしまったが、なんとなく言いたいことはわかる。

 種を食べる鳥と同じと考えれば納得がいく。

 美味しい実の代わりに、おうちを提供してより遠くに胞子を運ばせようというキノコの生き残り大作戦なのだ。


 いつの間にか三人の少年少女たちは無言になっていた。

 夜、寝ている間にキノコの傘から胞子が飛んで行く様を想像してしまった。

 テレビのニュースでよく見るスギ花粉の映像を連想する。

 このキノコのおうちの周辺にも胞子がいっぱい飛び、定着し、新たなキノコが生まれる光景は、いつしか森がキノコまみれになるホラーな展開へと想像が広がっていく。

 新たなキノコも胞子をまき、やがて森は木の子によって浸食され、胞子をすった動物たちもやがて……。


「ニールはずっとここで生活しているんでしょ?でもキノコ、みないけど」

「そりゃぁ俺が食ってるからな」

「は?」


 ニールは目を閉じ、どこかうっとりとしたように微笑んだ。


「あれは美味いんだよ……」


 そんなニールを見て、キノコが(食べられないように)気を使って夢のマイホームを作る理由がわかってしまった。


「ごほん。キノコの話はここで終わりだ。今から武器を選んでもらうからな。そっちに集中しよう」

 

 立ち止まったニールはドアを大きくあけると、大げさに手を広げて中に入るように促した。

 部屋の中には様々な武器が置いてあった。

 壁に飾られてあるのもあれば、木箱に乱雑に放り込まれ場者など様々だ。

 それぞれが知る武器もあれば、どう使っていいのかわからない代物もある。


「すごいね……」

「どういう基準で選べばいいんでしょうか?」

「直感で選べ」


 紬の質問にニールは簡潔に答えた。


「考えるより感じろ。ここはそういう世界なんだ」


 重々しく言われ、反論しようとしたサラは冗談ではない空気に口をつぐむ。


「俺はこれ」


 春斗は片手剣を選んだ。

 装飾品の一切ない、兵士の支給品と言われれば納得するような剣だった。


「私は弓道部なのでこれがいいです」


 紬もすぐに弓を選ぶ。

 和弓そのものだ。


「よし、私はこれ……って、何コレ」


 目を閉じたサラは自分のカンに従って指をさした武器を選らんだ。


「なんか、リーヴァイさんが持っていた奴のミニチュア版?しかも見た目より重いし」


 バットより短い長さの棒の先端は六角柱の形に膨らんでおり、先端はとがっている。


「そいつぁメイスっていう武器だ」

「使用方法はぶんなぐる、です」


 ニールに紬が補足したとたん、サラの顔が青ざめる。


「ぶん、なぐる……」


 何とも言えない顔で手の中の武器を見つめるサラの肩を春斗が励ますようにそっと叩いた。

 初心者にはうってつけの武器だが、絵面てきには最悪だとサラはがっくりと肩を落とした。


「私はこれかなぁ」


 咲良の声に全員が振り向いた。

 そして彼女が手を伸ばして掴んだ武器を見て押し黙る。


「ん?どうしたの?」

「お前さん、それでいいのか?」

「はい。これに呼ばれたような気がしたので、これにしました」


 はきはきと答える咲良の手には巨大なカマがあった。

 いうなれば、死神が持つようなカマだ。

 黙っていれば咲良はちょっと冷たい感じのする美人だ。

 にっと口角を上げた美女と死神のカマ。

 妙に似合ってて怖い。


「扱えるのか?」

「もちろん。短期留学でカナダに行ったでしょ。その時、草刈りでさんざん使ったから」


 死神からただの農民になった瞬間、紬があからさまにがっくりと肩を落としていた。


「剣は?」


 どこか探るように小さな声で春斗が聞いてきた。


「冬樹が一緒じゃないから、やめておく」

「そう」


 春斗の寂しそうな顔は見なかったことにする咲良はわざと大きな声を上げた。


「あっでもこれって鞘がないけどどうしよう。さすがに抜身のまんまだと危ないよね」


 誤って仲間を傷つけてしまったら悔やんでも悔やみきれない。


「お前ら、収納アイテムはもっていないのか?」

「それ、何?」

「簡単に言えば魔法で次元に穴をあけてそこに荷物を放り込む……ってなんだ、持ってんじゃねぇか」

「えっ、どこに?」


 きょろきょろとするサラにニールは笑みを浮かべた。


「お前さんの手甲に透明な石が付いているだろう。そいつがそうだ」

「えっ、これが?飾りじゃなかったの?てゆーかどこから入れてどこから出すの?」

「この手のタイプは念じて取り出しができる。しかも装着者限定だな。リーヴァイから説明がなかったのか?」


 問われて四人は戸惑ったように視線をかわした。

 そして咲良が代表してリーヴァイと別れた経緯を簡単に説明する。

 敵の襲撃があり、ろくな説明がないまま出発したのだ。


「そうか。そりゃぁ大変だったな」


 こちらが思ったよりもニールはあっけらかんとしていたので、こっちの方が拍子抜けだ。


「あいつがくたばるところが想像できねぇ」


 ちょっと遠い目をして物騒な事を呟くニール。

 過去に何があったのだろうか。


「どうすれば出し入れできるのか、教えてくれませんか?」

「わかりやすいのは吸い取る、吐き出すイメージだな」

「てことはあれだ、猫型ロボットの四次元ポケットを想像すればいいんだな」


 さっそく春斗は剣のつかを手甲の石にあてた。

 すると一瞬で小さくなって消える。


「んで、出す」


 石からつかの部分だけがひょっこりと飛び出している。

 春斗はそれを掴むと引き抜くように取り出した。


「おお、イメージ通り」

「へぇ。やるな……。慣れるまで大抵は四苦八苦するんだが、鮮やかなもんだ」


 春斗がお手本を見せてくれたおかげでイメージがしやすくなったサラたちも同様にやってみる。


「うわっ、不思議だわ……」


 出したりしまったり、しまった状態で手を振ってみたりと色々と試している。

 出現方法は自分が想像した通りにできるので、紬と咲良は直接手の中に、サラは春斗と同じように石から引き抜くように取り出す。


「便利ですね。元の世界に戻っても使えたらよいのですけれど」

「魔法が使えないから無理だと思うよ。あったら便利だけどね」

「春斗、夢がないよ。ここは俺が将来造ってやるって言おうよ」

「いや、無茶ぶりすんなよ。だいたい俺は、理系は理系でも生物学がやりたいんだよ」

「生物?」

「おう。将来の夢は獣医だ」


 サラの疑問に春斗は胸を張って答えた。


「よし、全員武器の確認はすんだな?じゃあ部屋に戻るぞ」


 話がそれ始めると、ニールが部屋に戻るように促した。


「あ、ニールさん。ちょっと待ってください」

「なんだ?」

「予備にもう一つ持ってってもいいですか?」

「かまわん」

「ありがとうございます」


 そういって咲良は断面が六角形の身長ほどもある長い棒を手に取った。


「槍じゃなくて崑?」

「予備だからいいの。そもそも最初の武器でかなわなかった相手に使いなれない武器を持ったって勝てないでしょ」

「だからってなんで崑?」

「使い道が色々ありそうだから。杖とかつっかえ棒とか踏み台とか、荷物をくくりつけるとか?」

「……いや、ちょっと長すぎんだろ」


 目頭を押さえながら春斗が言い返す。


「木の枝よりは強そうだし」

「ははははは、お前ら面白いな」


 漫才のような春斗と咲良の会話にニールが大笑いをしていた。




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