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8.お宅訪問

 滑空して滑るように開けた場所にジョズが着地した。


「ありがとな~」


 春斗は地面に降り立つと、ジョズの頭を抱えるようにしながらナデナデする。


「君は本当に賢いのね。おかげで助かったわ」


 咲良も優しく首を撫でる。

 そんな二人を紬が微笑ましげに見つめていた。

 役目を果たしたジョズたちは音もなくその場から姿が消えてしまい、少しだけ寂しく思った。


「ねぇ、あれを見て!」


 きょろきょろとあたりを見回していたサラが声を上げた。

 変わった形の家がでんとそこにある。


「ここにきてファンタジックなおうちですね……」


 巨大なキノコを連想させる形だ。

 しかもでかい。

 屋根の柄は赤地に白の水玉模様。

 壁は白にピンクの水玉模様。


「可愛い~」


 おとぎの国に出てきそうな家にサラと紬のテンションは上がる。


「あんな家、あったんだ。空から見た時は何も見えなかったっけど」

「こういった場合ですと、認識阻害とか結界の影響で見えなくしているというのがお決まりのパターンですよ」


 春斗の質問に紬が訳知り顔で解説を入れた。


「やっぱあれ、家なんだ。誰が住んでるのかな」

「マリスさんのおうちだったりして」


 どんな人物が待っているのだろうか。


(配管工の人が住んでいたりはしないよね?)


 咲良はほんのちょっとだけ期待した。


「んじゃ行くか。異世界とはいえ、初めてお邪魔するって緊張するよな」


 春斗の感覚では、お城は家というよりは公共施設なのでカウントされない。


 「そうですね。手土産に一つも持ち合わせていないことが悔やまれますわ」


 緊張感があるのかないのかわからない春斗と紬にサラが呆れるが、いい意味で緊張が抜ける。


「ごめんください」


 臆することなく春斗はドアの前で声を上げる。


「呼び鈴はないの?」

「いやいや、こういう場所ならノッカーでしょう」


 きょろきょろするサラに咲良がドアについているノッカーを指さすと、春斗が景気よく打ち鳴らす。

 コンコンといい音が響いた。


「……ノッカーってけっこううるさいのね」

「これくらいじゃないと聞こえないんじゃないか?チャイムだってうるさいだろ」


 そういいつつ春斗はノブにてをかけた。


「あっ、ヤバ!開く。大丈夫かなぁ」


 そういいつつ春斗はドアを開けた。


「鍵もかけずに不用心ですわね」

「鍵をかける必要があるほど人が来るとは思えないけどね……」


 せいぜい道に迷った遭難者か野生の生き物くらいだろう。


「ごめんくださいーっ、お邪魔しまーすっ!」


 意外とぐいぐいいく春斗にくっついていく感じでサラが入り、つづいて咲良と紬が入った。


「ちょっと、これ、不法侵入じゃないの?」

「返事がない時点で倒れているかもしれないでしょう。確認だけはしておかないと。誰もいないとわかったら外で待てばいいんだし」


 春斗に劣らず咲良もマイペースだ。


「うう、なんか罪悪感が……」


 良心が痛むのかサラは胸を押さえている。

 躾の行き届いたよい子だ。

 それに比べて紬は嬉々として物色している。

 棚やタンスを開けないだけの理性は残しているが。


「これがリアルRPGですのね……。生活様式は私たちと変わらないようですが、木材が主流です……。金属製品は台所用品と家具に少々……」

「紬………楽しそうね。」


 ありとあらゆるところを見ながら独り言を言っている紬にサラは呆れ、春斗と咲良は苦笑する。


「紬の新しい一面を発見した感じ」

「そうだね。でもまぁ、ちょっと安心したかな。大人びていたから心配だったんだ」

「心配?どうして?」

「サラちゃんはストレスを外に発散できるから、精神的には一番健康。紬ちゃんは春斗と同じで内側に溜め込むタイプだからね。春斗は私がいる分、気が楽だろうけど、紬ちゃんは一人だから……」

「一人じゃないよ。俺達がいる」

「そうだね。だから春斗は好きだよ」


 咲良が満面の笑みを浮かべると、春斗も同じように笑みを浮かべてここだけほっこりとした雰囲気だ。

 ガタン、と別の部屋から音が聞こえた。

 春斗の顔が瞬時に引き締まる。


「今、物音がした。誰かいるんだ」

「誰でしょうか……」

「あっちよね。行ってみましょ」


 何かあればフォローできるように咲良は一番最後についていく。

 音がする部屋まで来ると、扉は空いていたので中がよく見えた。

 本を動かすような音が聞こえる。


「誰かいる」


 サラがごくりと息を飲み込む。


「すいませ~ん。旅の者ですが、マリスさんかニールさんはいらっしゃいますか?」


 春斗が緊張を押し隠しながらも部屋の中に問いかける。

 書斎なのだろうか。

 壁際にはびっしりと本棚がならび、そこにはぎちぎちに本が入っている。

 窓際にあるソアーには男が一人、いびきをかきながらのんきに眠っていた。


「あのう……マリスさんですか?俺達、リーヴァイさんに言われてきたんですけど……」


 おそるおそる四人は男へにじり寄る。

 全く起きる気配のない男の様子に、四人は部屋の真ん中でどうしようかと視線をかわしたその時、ガチャンと大きな音が四人の周りで響いた。

 天井から鉄の棒が四人を囲むようにいくつも落ちてきて、あっという間に閉じ込められてしまった。


「はぁ?」

「あらあら……」

「ちょっとーっ、何よこれーっ!」

「一般的に言う、鉄格子で作られた罠?」


 咲良の言葉に今まで寝ていた男が目を開けて勢いよく立ち上がった。


「はーっはーっはっはっかかったな馬鹿もんがっ!驚いたか盗人め!しばらくそこに閉じ込められているがいいっ!」


 テノールの良い声でとんでもないことを叫んだ。

 うまく罠が作動して悦に入っているのだろう。

 腰に手を当てて反り返るようにしながら高笑いをし、中であっけにとられている四人に気が付かない


「ははははは、泣いてわめくがいいってぇお前たちは誰だっ!」


 牢の中に目を向け、ようやく四人の存在に気が付いた男が目をむいて固まった。

 むさくるしい夜盗ではなく、世間知らずなお坊ちゃんとお嬢ちゃん達が気まずそうな顔でハイテンションに盛り上がった自分を見ていると思ったら恥ずかしくなったのか、男はあわあわとし始めた。


「ええっと、お邪魔してます……」


 春斗がすまなそうに頭を掻きながら返事をする。


「私達、リーヴァイさんに言われてマリスさんとニールさんに会いに来ました」


 不法侵入で殺されてはたまらないと言わんばかりにサラが畳みかけるように用件を言う。


「ならどうして家の中にいる?」

「お返事がないので倒れていらっしゃるのかと思いまして、勝手に入らせていただきました」


 紬が答えると、男はふむふむと頷いた。


「噂に聞く親切強盗というやつだな」

「人の話を聞けよっ!」


 男が呟いた瞬間、切れのある突っ込みをサラがいれた。


「この部屋に入ったらおじさんがいて、倒れているのかと思って近づいたら、突然檻が天井から落ちてきたんだ。」


 春斗が説明するが、男は聞く耳を持たない。

 黙っていればハリウッド俳優で通じそうな精悍で筋肉マッチョな体つきをしているが、ゴリラではない。

 咲良はひたすら筋肉を観察していた。


「だーかーらー私たちは変革の騎士って呼ばれる異世界人で泥棒じゃないんだってば!」

「む、変態の騎士だと?」

「違うわよっ、アンタ、わざと間違えて言ったでしょ!」

「む、心外な。よくある間違えだろうに。それで、何用か?」


 サラの叫びにようやく耳を傾けた男。


「私たちはマリスさんという方に会い、ニールさんという方に武器を作っていただくとの指示を受けてまいりました」

「そうだったのか。つまりお前達は押し込み強盗ではなく客人だな?」


 確認するように問われて紬たちはこくこくと頷いた。


「うむ、失礼した。私が鍛冶師のニールだ。ようこそ、我が家へ」


 ニールは優雅にお辞儀をして見せる。


「遠いところから来たのだろう。今、お茶を淹れよう」

「先にここから出せーっ!」


 サラの叫びが再び部屋の中にこだました。


「おう、すまんすまん」


 どういう仕掛けになっているのか、男がパンっと手を叩くと鉄格子は天井へと収納されていく。

 普段から天井裏に収納してあったのだろう。

 キノコのかさ中に牢屋。

 なかなかシュールだと思いつつ、四人はニールに客間に案内された。

 テーブルをはさんで腰かけると、ニールはお誕生日席につく。


「話はマリス経由で聞いている」


 ただし、すっかり忘れていた。

 副音声でそう聞こえたような気がした。


「変革の騎士が来たら武器を作ってやれとな」

「それでは、作っていただけるのですか?」


 紬が期待を込めた目でニールを見つめる。


「だが断るっ!」

「なんでっ!」


 強い拒絶に思わずサラが突っ込みを入れた。


「うむ。材料がないのだ」

「ああ……そうなんだ……」


 釈然としないが納得するサラ。


「じゃあ私たちの武器は作ってもらえないの?」

「いいや。お前らが材料を取ってくるなら作ってやるぜ」

「とってくるって、俺たち、採掘の経験はないんだけど」


 ニールは不思議そうに春斗を見た。


「採掘?その必要はないから大丈夫だ。俺が欲しいのは特殊な素材だ」

「鉱物ではないのですか?」

「いいや。なんつーか、鉱物みたいな生き物だ」


 きらぁんと紬の目が輝いた。


「それはまさかっ、メタルな何かっ?」


 春斗はもとよりサラも呆れて突っ込みを忘れた。


「紬ちゃんてけっこうゲーム脳よね……」


 二人の心情を咲良が代弁する。


「紬ってお嬢様だと思っていたんだけど……お嬢様でもゲームやるのね」

「つーか嗜むって感じじゃねぇよな。がっつりやってるっぽい」


 ひそひそとサラと春斗が話をしているが丸聞こえである。

 しかし紬は自分の世界に入っているのか全く気にしていないようだ。


「どのような生物なのでしょうか?」

「メタルな何かがどんなもんかはしらんが、誰もその姿を見た者はいない」

「何そのなぞかけみたいな説明……」


 見た者がいないのに素材で武器の材料になるとどうしてわかるのだろうか。


「そいつに会えばわかるらしい。そいつは鉱物であり生物でもある。すごい頑丈なんだがメンタルがものすごく弱くてな、自分の心を守ってくれる代わりにお前の体を守ってやるよというスタンスだ」

「共依存する鉱物の生物という事でしょうか」

「そうだ。宿主を守る代わりに体の中で子供を育て、宿主が死ぬと子供が出ていく」

「えっ、母体も一緒に出ていくんじゃないの?」

「俺は専門家じゃないから知らんが、宿主の死に衝撃を受けて一緒に死んじまうらしいぞ」

「寂しくて死んじゃうウサギみたい」


 なんて言ったらいいのかわからず四人が黙り込むと、質問が終わったと判断したニールは本題に入った。


「お前ら、武器はちゃんとあるのか?」


 腰に下げた短剣は見てすぐにわかったが、他に装備している様子がない。

 入り口に置いてきたのかと思って念のために聞くと、四人は首を振った。


「……どうやってここまで来たんだ?」


 このご時世、丸腰で森を歩いたら魔物にやられることは間違いない。


「リーヴァイさんがジョズさんを召喚してくださったので、それに乗ってまいりました」


 ああ、と納得したニールは立ち上がった。


「臨時でお前らに武器を貸してやるから、好きな物を選べ」

「ありがとうございます」

 

 きちんと四人がお礼を言うと、ニールは満足そうに頷いた。

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