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18。不和の種


 少し開けた場所で円陣になるように座った。

 咲良、マリス、春斗、サラ、紬の順だ。


「都合の悪い事かどうかはわからないけれど」

「それは私たちが決めることだわ」


 咲良がバッサリと切り捨てる。


「うん、そうだね……。まずはエリザベートの事を、というかリーヴァイの事を話そう。強い魔法使いは、たいていはリーヴァイの弟子なんだ」


 なんだそれ、という顔をしていたのだろう。

 マリスは困ったように視線を空に向けた。


「人材育成はあの人の趣味でもある。そこでエリザベートとエスメラルダの双子の姉妹、神官ヴィンスと弟のデニス、王子である俺と兄のサイラスは一時期一緒に指導を受けた」

「ちょっと待ったーっ!なんか今、聞き捨てならないことを聞いたわよっ!あんたが王子様?」

「ああ~やっぱりそこに食いつくんだ」

「当然です」


 サラと紬にじと目で見られ、マリスはちょっと居心地が悪そうだ。


「神の代行者はアンタの兄で王子様?」

「その通り」

「神官の弟はどうしているんだ?」

「彼は遊学中でこの国にはいない。リーヴァイが結界を張っているから帰ってこられないんだ」

「兄王子と神官は神の代行者になる前から知り合いだったって事?」

「そうだ。リーヴァイの元で修行中にサイラスが神の代行者になり、親友のエリザベートが専属の護衛としてついた。修行が終わると俺は冒険者に、ヴィンスは神官に、エスメラルダは王付きの秘書官、デニスは留学とそれぞれに別れた。それからはあっていない」


 よくある話のようにも思えた。


「それのどこが都合の悪い話なの?」


 サラの疑問にマリスはため息をついた。


「……サイラスとヴィンスは幼馴染で親友だ。その幼馴染にはもう一人、レイラという女性がいる」


 四人は何となく先が読めた気がした。

 男二人に女が一人。

 よくある話だ。


 神の代行者は世界に影響を及ぼす存在だ。

 それがたった一人の存在によって世界の命運が左右される事態になるのは好ましくない。

 それなのにサイラスは神の代行者になった。

 確かに都合の悪い話だ。


「なんでサイラスは神の代行者になったの?」

「責任感からだろう。王としての教育を受けていたから、神の代行者の重責は承知していた。だからサイラスは告白することはなかったし、ヴィンスも何も言わなかった」

「ああ、それであの反応だったのね……」


 咲良が手と手を取り合ってと言った時にエリザベートが笑った理由が分かった。

 親友だからこそサイラスの手を払いのけることができなかったのだ。

 そこにあるのは友情か憐みか罪悪感か。

 そう考えれば納得がいく。

 恋心なんて抑え込もうとしたって抑えられるものじゃない。

 若い男女が愛しい人を前に指をくわえてみているだけなんて耐えられないはずだ。


「じゃあなぁに、神の代行者のサイラスがレイラさんへの片思いをこじらせて世界を破壊しようとしているわけ?」

「可能性の一つにそれがあるが、部外者の僕らにはわからない」


 実のところ、あの三人の間に何があったのかはわからない。

 わからないことを憶測で論じても意味がないので咲良は話を変えた。


「エリザベートはどうからんでくるの?」

「彼女はレイラと仲が良かったな。師であるリーヴァイを敬愛しているのに、なぜ敵にまわったのかわからない。レイラとリーヴァイならリーヴァイをとると思っていたから余計にわからないんだ」


 四人は昼ドラかっ、と心の中で突っ込みを入れていた。

 恋愛泥沼関連でこの事態が引き起こされているとしたら、確かに外聞的にも都合が悪い話だ。


「情報が少なくて何も判断ができませんね」


 少なすぎて判断材料がない。


「で、誰が私たちを召喚したのか、マリスは本当に知らないの?」

「ああ」

「予想もつかない?」

「本当にわからない。変革の騎士は予想が付かないから、明確な目的がある人間ほど召喚する必要がない。召喚する必要があるのは、目的が達成できなくて自棄になった人間か、博打好きで厄介ごとを面白がる傾向の人間くらいだ」

「前者はともかく、後者は嫌な人種ですね」


 この状況を面白がる時点で頭がおかしいと紬は言いたくなる。


「うん、わかった。何もわからないという事がわかったということで、この話はおしまい」


 大雑把なまとめ方で咲良は話を打ち切った。

 これ以上は時間の無駄だし、意味がない。


「ちなみに、今名前が挙がった人で戦闘力の序列をつけるとどうなる?」

「一番はリーヴァイ、二番はデニス。三番はヴィンス。四はエリザベートと俺。五番手はエスメラルダ。最後がサイラス。ちなみに世界最強はリーヴァイで、デニスは我が国最強」

「世界で言うと、デニスさんはどれくらいなのです?」

「四番手ぐらいじゃなか?ヴィンスは十番手には入らないが二十以内には入る。俺はランク外」


 世界に通用する強さと持つのはヴィンスまでで、マリスとエリザベートはせいぜい国の中では強い方のくくりに入るという程度だ。


「サイラスさんは?」

「う~ん……兵士よりは強いけど、騎士だとどうかなって感じ」


 わかるようなわからないような。


「つまり、私たちは最低でもお城の騎士よりは強くならないといけないわけですね?」

「そうだな。エリザベートと戦うなら、卑怯とか考えないで全員でかからないと負けるよ。俺でさえ、今のエリザベートには勝てない」


 エリザベートを退けられたのは奇跡みたいなものだったのだと四人は知った。

 マリスは涼しい顔をしながらも内心は穏やかではなかった。

 エリザベートとの戦力差は僅差でマリスの方が上だった。

 しかしエリザベートは変わった。

 変わってしまった。

 サイラスの世話役としてリーヴァイの元を離れた後、彼女に一体何があったのだろうか。

 自分と彼女との差。

 覚悟だとマリスは思った。

 エリザベートは何かを覚悟し、決意した。

 自分だからわかる。

 今の自分ではエリザベートには勝てない。

 逃げ出した神の代行者、兄のサイラス。

 探し出して連れ戻して、それからどうするというのだろう。

 自分の役目は二つ。

 眠りについていない人たちの保護か討伐。

 神の代行者の保護という名の捕獲。

 兄に会う事がなければ、居場所を知らなければ任務を遂行できない。

 そして会わなければいいのにとも思っている時点で色々とダメだろう。

 迷っている自分ではエリザベートには勝てない。

 だからリーヴァイは変革の騎士の案内人にマリスをつけた。

 迷いを断ち切らせるために、決意を促すために。


「まずは素材を持ち帰って、私たち専用の武器をあつらえる。今はこの目標をこなすことだけを考えましょう。で、素材はどこにあるのかマリスは知っているの?」

「案内はできるが、そこへ行くのは君たち自身だ。それを手に入れられるのも、君たち自身だよ」


 なぞかけのような言葉に四人は首をひねる。

 マリスはそれ以上の事は教えるつもりはないらしく、にっこりと笑って拒絶の意志を示した。


「ねぇマリス。この世界って人殺しをしても罪に問われたりしないの?」


 サラが素朴な疑問をぶつけた。


「人殺しは罪だ」

「私たち、サイラス達と戦うのよね。それって……」


 出会った敵はエリザベートだけだが、彼女はこちらを殺す気満々だった。

 だからサラは生死をかけた戦いなのだと思った。

 そして自分には無理だとも思った。


「リーヴァイも言っていたと思うけど、最終的な決断は俺たちが下す。君たちが彼らと戦うのはいわば成り行きだし、この世界の事情は無視していい」

「それで世界が崩壊しても?」


 心配そうにサラが尋ねると、マリスはちょっと困ったように笑った。


「それで君たちに責任転換もおかしいよね。この世界は俺たちの世界なんだから」


 エリザベートとの戦いで四人がマリスを頼らなかったように、世界の命運を四人に託すつもりはない。

 マリスの矜持だ。


「仮に君たちが彼らを殺したとしても、罪にはならない事だけは言っておくよ」

「なんで?」

「なんでって……降りかかる火の粉を払うのに問題がある?向こうが殺すつもりできているのに?君たちは圧倒的な強者じゃないでしょ。手加減して生け捕りにできる実力があるならともかく、相手は圧倒的な強者で君たちを殺しにかかっている。反撃してうっかり殺してしまったとしてもそれは身を守るための行動でしかない」


 マリスの淡々とした説明はほんの少しだけ心を軽くさせた。

 殺す殺せないはともかく、うっかり、弾みで、偶然、相手を殺してしまったらという恐怖はある。

 そんな彼らの表情を見てマリスは困ったようにほほ笑んだ。


「殺伐とした世界でごめんね。本来はもっとほのぼのとした世界なんだけどね……」


 王子が冒険者をやっているくらいなのだから、平和だったのだろうという事はわかる。

 今が非常事態のさなかで、自分たちがそれに巻き込まれていることもわかる。

 わかるからといって感情が納得しているわけではないが。


「でも、どうして『変革の騎士』は『異世界』の人間じゃなきゃいけないの?この世界にはあなたみたいな強い人はたくさんいるでしょうに」


 サラの質問にマリスが同意する。


「俺もそれが納得いかなかったんだ。だから君たちに同行して俺も生きている鉱石を取り込んで強くなって変革の騎士になれたらとか考えたこともあった」

「あった、ということは今は違うのですか?」


 紬の質問にマリスはため息交じりに頷いた。


「ああ。君たちに会って、この世界の者では変革の騎士にはなれないのだとわかった」

「何をもってわかるの?変革の騎士になれるって望めば、この世界の理ではなれるでしょう?」

「そう簡単な事ではない。我々の意識には、変革の騎士は召喚された異世界人に限るという思い込みがある。世界の常識にとらわれていては、常識外の事などできるはずもない」

「非常識だって言いたいわけ?」


 咲良がジト目でマリスを見ると、彼は苦笑した。


「どちらかといえば、知識を有していながら無知である強み、かな。君らの常識を俺たちは知らないけれど、君たちは俺達の常識を知ることができる。けれど理解するには時間がない。だから自分たちの常識を優先させる」

「それがマリスから見れば非常識なの?」

「ちょっと違うかな。水たまりがある。俺たちはそれを凍らせて取り除く。でも、君たちは布に水を吸わせて取り除く。俺達からすれば君たちの行動は非常識で非効率的。水を吸わせた布の行方によっては別の問題が生じる。それが変革の騎士たる由縁だと思う」


 バタフライエフェクトを起こすのが変革の騎士。

 マリスの話を聞いて咲良はそう結論付けた。


「この世界にはない常識を持ち込むことによる弊害を知った。そして魔法を使ったのはさっきの闘いが初めて。そこでサラちゃん、君は二つの魔法を連続で使った。紬ちゃんは同じ魔法に変化を加えた。生まれたばかりの赤ん坊が立ち上がって歩き出したかと思ったら走り出したようなものだ。魔法を知らないはずの君達はなぜこんなにも早く魔法を使いこなせた?」


 マリスの問いかけに四人は視線を交わした。

 魔法というものは存在しない。

 でも概念は存在していて、それを形にした絵物語があった。

 存在していなくても知っている。

 しかし魔法という本質は知らない。


「マリスのいっている事は何となくわかる気がする。知識はあるけど本質的な理解はしていない。俺たちは魔法がどうやって発動するのかなんて知らなかったけれど、魔法がどう使われているかは知っている」

「そこがおかしいよね。魔法が存在しない世界で、魔法がどう使われているか知っているって、変な話だと思わないのかい?」

「私たちのいる世界は、なんていうか、想像した事を文章にする事を職業にしている人たちがいるの。超能力とか魔法とか武器とか色々と出てくるのよ。想像力がものすご~く逞しいの」


 咲良の力説にマリスがちょっと引き気味だ。


「そこが一番の違いなのかもしれない。世界のありようを変えたければ、神の代行者になるしかない。どんなに抗おうとも、それは絶対の理。想像を現実にすることが許されているのは神の代行者だけだから。そこに干渉できるのは異世界から召喚した者達だけ」

「代行って言っても、神様の力を使うんだよね。神様の御業に干渉できるの?」

「俺たちはこの世界の住人だけど、君たちは違うだろ。神様が違うんだからこの世界の理とは違う理の中で生きている」

「だーっ、難しいわっ、何言っているのかさっぱりよっ!もっとわかりやすく例えてよ!」


 サラが爆発したようだ。


「神様じゃなくて国って考えたらわかるんじゃないかしら。私たちは外交官みたいに、その国の法律に縛られない特権があると思えばわかるかな?」

「うん、なんとなくわかった。わかったけど、今はそれ、関係ないよね」


 バッサリとサラは話を打ち切る。

 今は変革の騎士とは何か、を話し合う場ではない。


「そういえば、神の代行者を取り戻すために何か行動、したんですか?」


 紬が話を変えた。


「全部返り討ちにあった。全滅だ」


 マリスが苦い顔で答えた。


「ヴィンスとエリザベートが向こうにいる時点でこちらに勝ち目はない。しかも警護に当たる者達はみな強者だ。リーヴァイが動ければ話は違うのだが」

「え……そんなに?」

「そ、そ、そ、そ、そんなに強いの?」

「ああ。前も話したが、あの二人はこの国どころか世界最強だ」

「だったらリーヴァイが戦えばいいじゃない」


 サラが文句を言うと、マリスは小さくため息をついた。


「彼は国全体に結界を貼っている。そういった大規模魔法は一度途切れるとかけ直しが大変なんだ。戦いの最中に魔法がとけたら大変な事になる」

「どうたいへんになるってのよ」

「サイラス達に逃げられる。捜索範囲がこの国から全世界に広がる。そもそも逃げ切れば向こうの勝ちなんだから、手を出してくる必要はないんだが……」

 紬が気が付いたように目を見張った。

「ではなぜエリザベートはこちらに攻撃をしかけてきたのでしょうか。サイラス達の勝利条件が世界の破滅なら、潜んでその日を待てばいいのに」

「一枚岩じゃないってことか?どう思う、咲良」

「素のマリスは俺なんだねぇ」


 咲良の感想に全員の目が点になった。


「育ちがいいのに、俺様キャラだったなんて、びっくりだよ」

「今それどーだっていい話だよな」


 春斗が突っ込むが、咲良はどこ吹く風だ。


「大事な事だよ。それだけ追い詰められちゃったって事でしょ」


 全員の目がマリスに向けられた。

 心なしかマリスの頬が引きつったような気がした。


「クールなふりをしているけれど、実は切羽詰まっていたと」


 紬がずばりと言い放つ。


「いや、お、うん、あー、それ、今掘り下げる必要がある?」


 咲良のペースにうろたえながらマリスが言い返す。


「私たちの知らない事情でうろたえているのなら、それは何かと思って」

「ああ……うん……君たちを不安にさせたなら謝るよ。確かに、慌てていた。君たちに話していない事なんて山のようにあるけれど、情報過多にならないように話していいない事は多い。エリザベートはこちら側の事情をよく知っているから……君たちが彼女の甘言に惑わされてしまったら大変だからね」


 マリスは小さくため息をついた。


「彼女はとても頭がいいから、嘘を言わずに人を惑わす事もできる」

「嘘を言わないで、どうやって人を騙すのさ」


 サラが口をとがらせて文句を言う。


「たとえば俺は王子だけれど、王子の仕事なんてしないで冒険者として活動している。でも城の人間は俺に城に戻って欲しいと思っている。そう聞いたら、なんて思う?」

「冒険者じゃなくて王子に戻って欲しい?」

「継承権的に考えても俺はいなくてもかまわない王子だ。うがった見方をすれば、城の人間は俺に王に望むから戻って欲しいと思っていると考える。実際は城の兵士が軍に勧誘したいって話だが、噓は言っていない」


 兵士も城の人間だ。


「伝え方次第で、受け取り方次第で話がだいぶ変わって伝わる。だからエリザベートが余計な事を言う前に何とかしたかった。俺たちの間には信頼なんてまだない。仲たがいさせるなんて簡単だ」

「だから疑念を植え付ける言葉を残したと。確かにあの人、嘘は言っていませんでしたね」


 紬が感心したように頷いた。


「君達には必要な情報は与えてあると言っても、他人にそんなことはない、隠し事はあるなんて言われたら疑ってしまうだろ。小さな棘となって刺さったら、いつのまにか杭になって信頼関係にひびが入っていたなんてシャレにもならない」

「うわっ、ありえる」


 サラは腕を組むとうむうむとしきりに頷いていた。


「印象操作ってヤツね。それでなくてもマリスって胡散臭いし」

「えっ、ひどくない?俺、そんなに胡散臭い?」


 マリスがみんなを見回すと、見事に視線をそらされた。


「なんつーかさ、マリスの立場がもう疑ってくださいって情報のオンパレードなんだよなぁ」


 サイラスの弟であり、この国の王子だが出奔して冒険者をしているが、現在は王国のために働いている。


「そうだよねぇ。これ幸いと王位を簒奪とか考えているかもしれないし」

「紬ちゃん、君、俺に厳しくない?権力より自由を選んだから冒険者になったんだけど」

「でも今は寝ないで国のために働いているじゃない。王子という肩書が色々と役に立つからなんでしょ。権力どっぷりじゃん」


 マリスが言葉に詰まるのを見てサラはしてやったりとニヤリと笑った。

 どちらが悪役かわからない。


「まぁまぁ。マリスさんの複雑な立場はわかりますから。あなた達も、からかうのはやめなさい」

「「は~い」」


 顔を見合わせて可愛らしく返事をする二人を見てからかわれたと気づいたマリスががっくりと肩を落とした。


「どちらにせよ、俺の仕事は採掘場までの案内だから、もうすぐお別れなんだよね」

「えっ、そうなの?」

「話、聞いてたかな?そういう話だったんだけどね」

「でもでも、採取したあとはどうすればいいの?」

「ニールのもとに戻ればいい。その後は精霊を見つけて契約。それが終わったら城に戻ればリーヴァイが指示してくれると思うよ」

「それ、随分と無責任じゃないですか?」


 紬の文句にマリスは首を横に振った。


「勘違いしてはダメだ。君たちを呼んだのは俺達じゃない」


 いきなり突き放された気がして四人は口を閉じた。

 彼らはあくまでも、異世界人を一時的に保護しただけ。

 異世界人の面倒を見る義理も義務もないのだ。


「わかっています。メリットがあるから親切に面倒を見てくれただけだって」


 変革の騎士を放置できないから、監視と行動の誘導をする。

 その見返りに情報と戦うために必要な物を用意してもらった。

 ただそれだけの関係だ。


「依存するつもりはないので、安心してください」

「すまない、そういうつもりでは……」


 あからさまに一線を引いた咲良に戸惑った様子を見せたのはマリスの方だった。


「最後まで一緒について行くことも考えたが、エリザベートの事を考えると俺がいると不和の種になると思ったんだ。それは付け入る隙になる。だから一緒にはいけない」


 明確な損得があればわかりやすいが、変革の騎士という何をしでかすかわからない存在である以上、手を組むのはおたがいに危険が伴う。

 意図せず国を亡ぼすことになったらマリスは迷わず四人を殺すだろう。

 だから一緒に行動しないほうがいい。


「話は終わりだ。採取しに行こうか」


 一緒に行くはずの言葉が、別れを告げる言葉に聞こえた。





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