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10。夢のマイホーム


 部屋に戻るとニールは大雑把に地図を描いた。


「ここが俺んち。で、材料はここら辺のぷかぷか浮かんでいる岩が入り口な。一つの岩に一個体住んでるって話だ」

「ちょっとぉ、何よこの地図。幼稚園生なの?ねぇ、なんで道がないの?」


 家の絵が地図の下に書いてあり、上の方に岩の絵があり、真ん中に森の絵がかいてあった。

 道は書かれていない。

 ニールは頭をガシガシとかいた。


「この森がなぁ、癖もんなんだよ。地図がいらない森なんだ」

「意味が分からないんだけど」

「目的の場所を目指していれば勝手に目的地に到着する」

「何それ、やっぱり意味が分からない」


 渋い顔でサラは助けを求めるように仲間の顔を見る。


「目的なく森に入るとどうなりますの?」

「永遠にさ迷う羽目になるな」

「何それ、怖い……」


 森の木が人の意思を感じ取って道を開けてくれるので、地図が必要ない。

 その反面、ちょっとでも迷いがあれば道に迷う。


「なぁに、目的があるから大丈夫。二、三日森の中を歩けばたどり着けっから。たぶん」

「なんで語尾に余計な一言をくっつけんのっ!」


 すかさずサラが突っ込んむ。

 きれっきれの突っ込みに咲良は感動していた。


「そこはほれ、己の意思の強さによるからな。個人差が出る」

「ああ、そういえばリーヴァイさんもそんなことを言っていたわね」


 強い願い、強い思いが物理的な力になる。


「ああ、それってさぁ、思い込みの強い者勝ちってことだよね?」

「間違っちゃいないが、なんか違う……」


 なぜかニールが可哀そうな物を見るような目で咲良を見ている。

 紬たちも何か言いたげな顔をしていた。


「とにかくその材料のある、浮かんでいる岩の事を考えながら歩けば、自然と森を抜けられるって事ですよね?」


 ちょっといたたまれない気持ちになった咲良は慌てて話を元に戻す。


「ああ、そうだ。三時間ほど歩けばつく距離だが、人間の集中力ってのはそうそうもたねぇからなぁ。ま、二日もあればつくだろうさ」

「三時間が、二日?」

「人間、ふっと別な事を考える瞬間ってのがあるだろ。家族の事を考えた瞬間、道はそっちに繋がっちまう」


 この世界に家族はいない。

 その場合、どうなるのだろうか。


「家族が死んじゃっていなかったらどうなるの?」


 咲良がおそるおそる聞いた。


「ゆかりのある場所に繋がればいいけどよ、へたすると永遠の迷子になるな。……あ、そうか。お前らは異世界人だっけ」


 今思い出したと言わんばかりにニールは手を打った。


「異世界と森は繋がってないから、そっちの事を考えたらひたすら迷うだけだな」


 この世界の人間より、迷う確率は高い。


「ああ、なるほどね、だからマリスか」


 片手で自分の髪をかき混ぜるようにがしがしとかいた。


「だーっ、俺たち、根本的なところで間違ってんな。つかリーヴァイの奴、もっとちゃんと伝言をよこせっての」


 はぁぁっと深いため息をついた。


「たびたび話に出てくるマリスって誰?」


 素朴な疑問をサラが口にした。


「冒険者だ。年は俺と変わらん。見てくれはいいが笑顔が胡散臭い。人当たりがよくマイペースな男だ」


 褒めているのかけなしているのかよくわからない、


「ここで落ち合うような事をリーヴァイさんに言われたんだけど?」


 春斗が思い出したように聞き返す。


「戻ってこないところを見るとあのバカ、迷ってやがるな」


 現地人でも迷う森。

 言葉も出ない四人だった。

 なんかもう、森に入ったら出られる気がしない。


「ちなみに、いつ出かけたの?」

「昨日の夕方だ。飯をとってくるって意気揚々と出ていったんだが……。あいつが戻るまでまつか?もともとあんたらに同行させるつもりでリーヴァイもこっちによこしたんだろうし……」


 本当であったら、ここでマリスと合流し、一緒に材料を取りに森に入るというのがリーヴァイの描いた計画だ。

 そのマリスは狩りに出かけたまま森で迷っているらしい。

 もう不安要素しかない。


「団体で森に入って、みんな別々の場所を思い描きながら歩いた場合はどうなるの?」

「そりゃ当然、一番気持ちが強い奴の行先にたどり着く」

「……咲良先輩の言った、思い込みの激しい奴の独り勝ちってあながち間違っていない世界なんだ……」


 そこまでいってはいないが、サラの言いたいことはわかる、


「なるほど。その時々で行先が変わるから団体の方がよりコロコロ行き先が変わって時間がかかるってことね?だから二日もみたと」


 咲良が無難にまとめると、ニールは笑顔でうなずいた。


「その通りだ。あとマリスをつけるのは、あいつが強いからな。森には獣はもちろん、魔物も出る」


 ニールは表情を引き締めた。


「お前さんたち、戦えるのか?」


 言っては何だが、目の前の少年少女からは強者の存在感というものを感じない。

 武器庫での様子を見る限り、使えそうなのは春斗だけだ。


「戦うって、まさか……」

「肉食の獣と魔物」


 サラの顔が青くなる。

 ニールの不安が一気に大きくなった。


「おいおい、本当に大丈夫なのかよ」

「ん~訓練程度ならやったことはあるけど、実戦はない」


 春斗は剣道をやっていたし、咲良は薙刀をやっていたし、紬は弓道部だ。

 しかもサラに至っては訓練すらない。


「……キャンプ道具一式と食い物も持っていけ」


 戦力ゼロの四人の様子を見かねてニールが言った。

 まさかの自力で野営コースだったのかと戦々恐々とする四人。

 無人島生活番組が脳裏を横切った。

 できる気がしない。


「ありがとうございます」


 四人は心の底からお礼を言った






 マリスとすれ違う可能性が大きいので今日はニールの家に泊まることになった。

 もちろん家に、ではない。

 野営の練習である。


「……テント?」

「パオーン的な何か?」

「紬ちゃん、そのボケはちょっとわかりにくいよ。パオは一部屋しかないからね」

「どっから見てもキノコのおうちだろう」


 目の前にでんと出現した、ニールの家と同じようなキノコのおうち。

 手のひらに乗る大きさだったのに、ニールが魔力を込めて地面に叩きつけるとそのキノコはおうちになった。


「ちょい手狭だが、まぁ旅をするならこんなもんだろう」


 中に入るとすぐにコンロが二つとシンクがくっついたキッチン付きのリビングがあり、左右に四畳半の部屋が二つずつ、突き当りはトイレと風呂。

 常識って何だろうと四人は思った。

 話を聞けば、ニールの家も移動式簡易ハウスとのこと。


「カプセルの中に何でも閉じ込めちゃう発明家がいたよね。七つのボールを集めるやつに」

「俺は四次元ポケットのほうを連想したけどな」


 咲良と春斗はすでに達観というスキルを手に入れていた。


「……なんでキノコなの?ログハウスや掘立小屋じゃダメなの?」

「とういか、このキノコ……本物なんでしょうか?」


 菌類の中で生活。

 よく見れば壁は壁紙でも漆喰でもない不思議な感触。

 四人の思考はそこでストップした。


「一応、レアアイテムだ。この大きさだと百年ってとこだな。俺のは三百年モノだ。寿命は千年と言われているが、どんな豪邸になるんだろうなぁ」


 キノコのお城。


「……シュールですわね」


 そっとキノコのおうちから目をそらす四人。

 色々と想像すると突っ込みどころが多そうだ。

 このキノコのおうちがたくさん生息している場所はどうなっているのか。

 小さなキノコのおうちから大きなキノコのおうちがひしめき合っているのだろうか。


「やばいっ、俺、いま森に入ったら間違いなくキノコのおうちがある場所に出られる!」


 春斗が頭を抱えてうなるように呟いた。

 サラはちょっと乾いた笑いをさっきからこぼしている。

 紬は何の好奇心スイッチを押されたのか、目をキラキラと輝かせていた。

 咲良はもう考えるのを放棄した。


「キノコ自体はそこまで大きくなんねーぞ。空間拡張魔法が常時かかっているから、大きさは俺の家が限界だ。あとは中が勝手に広くなっていつの間にか部屋数が増える」

「そういえば、ニールさんの御宅も、見た目より中は広くできていましたね」

「見た目のインパクトがでかくて間取りなんて気にならなかったな……」


 キノコのおうちを見ながらしみじみと春斗が呟いた。

 このあと、四人は大人しく野営のレクチャーを受けた。






 キノコのおうちにお中には家財道具はない。

 ニールの好意でベッドを三つと使っていない台所用品をもらった。

 ソファーと大きな絨毯と座卓のテーブルももらった。

 そしてハンモックももらった。


「あ、私はハンモックでいいよ。みんなはベッドを使ってちょうだい」


 使う気満々な笑顔で咲良が言うと、春斗がおもむろに首を振った。


「何言ってんだよ。女の子はちゃんとベッドで寝ないと。ここは男である俺が寝る」


 心配そうな顔で咲良を見る春斗の目は期待にキラキラと輝いていた。


「何言っているの。戦闘力が一番高い人が寝不足で力が出ないのは問題でしょ」

「戦闘力なら咲良の方が上じゃねーの?」

「今現在、魔法を使えるのは春斗だけなんだけど」

「若い者は床の上でも寝れるけど、年取ってくるとそうもいかないだろ」

「春斗、あんた私をいくつだと思っているの?」


 言い争いは徐々にヒートアップし、もはやただの姉弟げんかに発展している。


「……交代で使えばいいじゃん」


 サラがぼそりと呟いた。


「お互い気にならないなら交代で使えばいいじゃない」

「そうですね。でも、そこまでお二人がこだわるハンモックの寝心地、気になりませんか?」

「なる。でも寝ている途中で落ちるのが想像できてちょっと嫌」

「そうですね。ああ、でも床すれすれに設置して布団を下に引いておけば落ちても痛くはないのでは?」

「……そこまでして寝たくないかな」


 ロマンよりも合理性を求めるサラとゲーム脳の紬はハンモックの存在意義について語り始めた。


「おーい、そろそろ次の説明していいかぁ?」


 暇を持て余していたニールがとうとう声を上げる。


「あの二人は放っておいていいわ。話は私と紬で聞いとくから」

「そうですわね」

「お、おう。じゃあキッチンの使い方な」


 くだらない姉弟げんかをよそに、ニールと少女二人は和気あいあいとキノコのおうちについて語らった。



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