⑤
アカリ・レイリーク
この学園に入学する生徒皆の憧れでもあり、教師陣ですら彼女実力に惚れ込んでいる。
王立アストルム学園史上最強の精霊使い。
「理事長。集合の時間からしばらく経ちますが、まだ待機でしょうか?」
「いや、もうすぐ来るぞ。すまないな。わざわざきてもらったのに待たせてしまって。」
「いえ、とんでもないです!ただ理事長から直接実技テストの相手を指定されるのは初めてだったものでして。
どんな方なのです?」
「私も今のあいつのことは詳しく知らなくてな。4、5年前のことなら知っているのだが、その情報は今とは全く違うだろう。
1つだけお前に役立つ情報があるとすれば、レイは冒険者経験者だ。しかもかなり長い期間な。実践経験に関してはお前にも引けは取らないだろう。あとは精霊同士の相性だな。」
「……私のセイレーンと同格の精霊ですか?」
「どうだろうな。私もレイの精霊の本気を見たことがない。ただそれでもセイレーンにも引けは取らないと思うし、私のアクアリウスにも匹敵すると思ってるよ。」
「理事長がそこまで仰るとは…少し楽しませてもらえると嬉しいのですが…。」
アカリは少し口角を上げながらレイが到着するするのを待つ。
(なぁ、誰か戦いたいやついる???)
レイは頭の中で精霊達に問いかける。
レイが使役する精霊は複数おり皆好戦的だ。
したがってこの問いにより精霊達の中で軽い暴動が起きる。
やれ私が行くだの、お前は引っ込んでろだの。おおよそ精霊から発せられる言葉とは思えないくらいの汚い言葉が飛び交っているわけだが。
(まあどうせエミリアもいるんだろうしミカかヘカテのどちらかのほうがいいか。ミカとヘカテはどうだ?)
この問いに多方面からブーイングが飛ぶわけだがレイにとっては慣れっこなのでいちいち気にしない。
(ミカでいいよ。めんどくさいし。アタシは戦いが嫌いなんだ。平和主義者だからね。)
(あら、では私がレイ様と一緒に身の程を弁えない虫ケラの相手をして差し上げましょう。
レイ様、よろしくお願いしますね。)
(お、おう。ほどほどにな…。)
ほどほどでは済まなそうな感じはするものの一応精霊達の暴動は鎮静化されミカは気合を入れる。
「お待たせ致しました。」
クレアとレイが到着すると、既に生徒会長アカリとエミリアの両名が待っている状態だった。
「申し訳ありません。エミリアさん。1年生の皆さんに説明してからだったので遅くなってしまいました。」
「大丈夫だ。私は気にしていないが…こいつは少し待たせすぎたかな。」
エミリアの横に佇むアカリは昨日の入学式での代表挨拶の時とは人が変わったかのように、魔力ダダ漏れの状態で不適な笑みを浮かべている。
「理事長!あまり適当なこと言わないでください。まるで私が戦闘狂みたいな言い方じゃないですか!!」
「お前は十分戦闘狂だろ…いや、すまない。もう少し言葉を選べたな。
レイ!ここにいる戦闘マシーンがお前の相手だ。」
「理事長!!」
(これわざと煽ってるなぁ…。そんなことしなくたってテストくらいできると思うんだけど。)
レイは茶番に若干イラつきながらもニヤニヤしているエミリアをみてため息をつく。
「わかったよ。
生徒会長、お手柔らかにお願いします。」
「え、ええ。お互い怪我のないように頑張りましょう。」
さすがは生徒会長。1年時から代表をはってるだけはある。すぐに冷静さを取り戻しレイと向かい合う。
「クレアも見ていくといい。そのために3年をたくさん連れてきたんだから。」
「ではお言葉に甘えて。両者ともお怪我のないように。」
全員冷静そうにみえて、ちょっとずつ魔力が漏れ出している。戦闘狂しかいない異常地帯でこれを止められる者はいない。
「それでは、アカリ・レイルーク対レイの試合を始める。ルールは説明したとおり、どちらかが負けを認めるか、審判である私が試合を止めるまで。一応ダメージカットの結界は張ってあるが過信はしないように。
それでは始め!!!!」
エミリアの合図とともにアカリは強烈な魔力を練り精霊を呼び出す。
「出ておいで!セイレーン!!」
アカリの掛け声に合わせて何もない空中に水飛沫が舞い上がり5メートルはあろう美しい水龍が姿を現す。
「セイレーン、模擬戦だけど少し力を入れていきますよ!」
『承知致しました。マスター。この姿で戦うのは久しぶりですね。』
アカリの使役する精霊はセイレーン。本来は人魚のような姿をしているが、使役者であるアカリが魔力を強くこめることで姿を龍に変える。
精霊のランクはS-ランク。
アカリの水属性への適応率と相まってその力は世界でもトップクラスを誇る。
「おおー。すごいな。とにかくシンクロ率が高い。そりゃ大会で結果を残し続けてる訳だ。そもそもあれに勝てるやついないだろ。」
「お褒めいただき光栄です。あなたは理事長のお墨付きらしいので最初から飛ばしていきますよ!」
「じゃあこちらも行きま…へ?」
レイが言うより早く、金髪碧眼の美少女が既にとんでもない魔力を撒き散らしながらアカリのセイレーンを睨みつけていた。
『……ミカエル。以後、お見知りおきを。』