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1年生時のみのイベントである校外演習。
その目的は入学したてで精霊と契約していない生徒の精霊契約。またはすでに契約しているものであれば新たなる精霊との契約や精霊との信頼度を高めるために比較的弱い魔物の討伐が主になる。
この経験値が非常に大事で、例年Sクラスや場合によってはAクラスの生徒からも精霊真装が扱える生徒がちらほらと現れるほど。
生徒によって目的が分かれるため実力テストの有無であったり、パーティーを自らで決めたりと自主性が重んじられるのである。
また、この演習は大きな山を1つ使った2泊3日のサバイバルであり、将来冒険者になることを希望している生徒にとっては非常に意味のある演習となる。
今回、レイのパーティーは全員精霊と契約済みではあるもののエリスの新しいパートナーを探すために精霊との契約を目的とした演習となるため場所がかなり肝心となる。
「そういえばエリスの使役精霊はどんなやつなんだ?エリスの精霊と相性のいい精霊を探したいからな。もちろん言える範囲で構わないが。」
「ぼくの精霊はシルフなんだ。風の力を使ってぼくや味方の精霊のスピードを上昇させたり相手の行動の妨害ができるよ。」
「なるほど。バッファー兼デバッファーってところだな。となると、自分へのバフを活かすために戦闘能力の高い精霊がいいとは思うんだが。」
「そうなんだよね。だから水属性の精霊でいろいろ試したりしてたんだけど2体の精霊、しかも属性が違う精霊を操るのがあんなに難しいと思わなくて…。」
「精霊の同時使役は私でも難しいわ。わざわざ2体同時に操るよりも1体を極めた方が強いもの。」
「そうだね。わたしは不得意でもないけど同属性の精霊だからなぁ。」
レイ達4人は演習前の最終確認を行なっている。
時間になり次第目の前にある転移ゲートから演習場所へ転移を行いそのまま演習開始となる。
「1番早いのは精霊真装で武装化した自分にシルフのバフをかけることなんだけどね。契約したての精霊じゃなかなか難しいわね。」
「せ、精霊真装!?僕にはまだ無理だよ…フェリちゃん。」
「それができたらエリスも今頃はSクラスだな。ただ武装化すること自体はいいアイディアだと思うぞ。」
学生として飛び抜けた実力を持つからこそぶっ飛んだアイディアが飛び出るフェリであったが存外今回の案はヒントになったようだ。
「エリスが得意な武器はなんだ?」
「と、得意な武器?武器なんて使ってこなかったから得意なものはないかも…ご、ごめんね…。精霊術を杖で効果アップさせたりはできるよ。」
「なら魔法が得意な精霊なんかいいんじゃないか?魔法を使う時はどうしても無防備になってしまうから速度上昇のバフや妨害はかなり相性がいいと思うぞ。」
「そうだね。じゃあそれでよろしくお願いします。」
「おう、2人もよろしくな!」
「ええ!」
「もちろんです!」
こうして演習の目標が決まり、開始時間を迎える。
「リーダー、フェリ・ティーナス班、転移ゲートを通って演習を開始してください。」
「いいんですか?エミリアさん。」
「ん?まぁ問題ないだろう。アカリとの戦いもみただろう。」
「でもあれはあくまでもテストなので…実戦じゃないんですよ?」
「あれでも私達と別れたあとはソロ冒険者として活動してたんだ。お前は生徒を心配しすぎる。信じてやれ。」
学園の理事長室でエミリアとクレアが話し合う。
「向こうの素性はわかってるんですか?」
「ああ、概ねな。まあでも今回は学園に対してよりもあの森に用がありそうな感じだったな。」
フィールドタイプの巨大な演習場は学園が管理している。
普段から結界を張り巡らせ、危険な魔物が中に入らないように。もしくは演習場から精霊が流出しないように。
特に精霊に関しては独自の繁栄を遂げているため外部への流出はできるだけ回避しなければならない。
「所詮コソ泥だ。精霊王の相手にもならんよ。」
「水属性の精霊となると基本は海や川が思いつくが…この山に海なんてないからな。」
「中央付近に大きな湖があるみたいよ。そこにいきましょう。」
「でも中央付近は危ないんじゃ?」
「エリス安心しろ。演習中は特に教師陣の警戒が強くなる。少しでも異常値を感知すればすぐに応援がくるさ。
それにフェリに関しては学年トップだぞ?むしろ緊張感なさすぎて多少危ないくらいがちょうどいいくらいだ。」
「そうよ、エリスみたいな可愛い子を私がやすやすと敵の牙にかけるようなことするもんですか。」
「え、だからぼくは男なんだけど。」
「わたし的にはフェリ×エリスちゃんよりもレイくん×エリスちゃんのほうが…。」
「おいこら。」
全く緊張感がないが緊張でガチガチになるよりはマシだろうと肩をすくませるレイ。
「これがフラグにならないといいけどなぁ…。」
「レイ、なんか言った?」
「いいや?よし、じゃあ向かうとしよう。」
「ノア。見つかりましたか?」
「いえ、ピエル様申し訳ありません。」
「急ぐのです。あの方の隣に相応しいのは私であると魂に刻みつけてやらねば。」
「首尾はどうだ?」
「あぁ、粗方見当はつけてある。」
「まさか1番手こずると思っていた侵入がこんなにうまくいくとはな。」
「入っちまえばこっちのもんだ。今日入ってるのは1年生だけらしいからな。もしかち合っても実力でねじ伏せられる。なんなら精霊ごと奪ってやってもいいさ。」
「穏便に済むならそれが1番さ。そもそも俺たちはあの精霊の対策しかしてないからあまり油断していると痛い目を見るぞ。」
「わかってるって。とっとと終わらせて晩餐と行こうぜ。覚悟しろよウンディーネ。」