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少し短いです。話の区切りが良かったのですみません。
『久しぶりだな。主よ。我の相手はあの小僧で間違いないか?』
「あぁ、絶対に殺すなよ。なんかこういい感じに勝ってくれ。」
『またよくわからない注文を。相変わらずだな主は。』
「その子がレイの使役精霊ってことでいいのよね?」
「ああ、その通りだ。勝ったら友達になってくれる話忘れてないだろうな!」
「え、えぇ。」
いくら強大な力を持つ精霊だったとしても、2属性を合わせ持つ精霊などありえない。
それすなわち感じた光属性の精霊を操るものが他にいるか、レイが光属性の精霊をさらに隠し持っているか。
前者ならともかく、セラフィムですら隠れようとするレベルの精霊だ。
後者の場合、フェンリルに加えてその精霊も使役していることになる。
学園トップどころではない。世界どこを見渡してもそんな人間は数えるほども存在しない。
「終わってから聞けばいいわよね!行くわよ!!!」
まず動いたのはフェリ。セラフィム共にレイ達から距離を取る。
「遠距離タイプか。フェンお前に任せる。」
『承知した。』
フェンリルはそれだけ言うと自身の周囲の気温を下げはじめる。
『遊んでやろう。どこからでも来るといい。』
「あまり甘く見ないことね。セラフィム、シャイニングレイ!」
セラフィムは手元に弓を取り出してフェンリルに向かって構えると間髪入れずに矢を穿つ。
放たれた矢は1本のみであるが放たれてからフェンリルとの距離を詰める間に光の矢はその数を数百にまで増やす。
「まだまだ終わらないわよ!シャイニングレイ!」
連続して同じ矢を穿つセラフィム。
フェンリルには無限とも見える無数の光の矢が襲いかかる。
『なかなか綺麗な景色ではないか!防御くらいはさせてもらうぞ!アイスエイジ!』
フェンリルは冷やしていた自分の周りの温度を一気に絶対零度まで下げる。
飛んでくる全ての矢を凍らせてしまおう。という魂胆である。
しかし…
ドドドドドドドドドドド!!!!!!!
フェンリルに迫る無数の矢はその威力を緩めることなくフェンリルに襲いかかる。
「おい、何やってんだドアホ!友達1人かかってんだぞ!!!」
『むむぅ…なかなかやりおる…。』
しばらくして煙の中から現れるフェンリルは無傷ではあるものの少し呻くような声をあげて反応する。
「あれ食らって無傷とはね…。レイ!十分だわ。貴方の勝ちでいい。
そもそも勝ち負け関係なく、貴方なら喜んで友人になるわよ。」
「え…?フェリもまだまだできるだろ?いいのか?」
「ええ、シャイニングレイならまだまだ余裕で撃てるんだけど、これ以上やるとこの場所がとんでもないことになるわ。
貴方も後から教師にいろいろ聞かれるのは良くないんでしょ?」
「あ、あぁそれはそうだな。助かる。フェン、お疲れ様。戻っていいよ。」
『くぅん…』
フェンリルはただただ矢をぶち込まれただけで反撃できずに若干不服そうではあるが仕方なしに姿を消す。
そもそも同格の精霊同士の戦いでフェンリルは精霊任せにされているのだから善戦してるとは思うのだが、身近にミカエルというぶっ壊れの精霊がいるためフェンリルなりのプライドである。
「セラフィムもお疲れ様。」
戦いを終えてるはずなのに、なお少し青白い(気がする)顔を懸命に縦に振ってセラフィムもその場から消えていく。
「なんかあの子も調子悪かったみたいだしね。原因は結局わからなかったけど。」
「あまり精霊に無理させないほうがいいぞ?」
お互いなんとなく原因はわかっているが必要以上の情報を聞き出すのは精霊使い内での御法度である。特に学生のうちはなにが武器になるかわからない。そのあたりは2人ともしっかりしているようだ。
「少し大きい音も出してしまったし、戻りましょうか。授業後時間あるかしら?パーティーメンバーを紹介するわ。」
「おう、こっちのメンバーにも声をかけておくよ。授業終わったらまた食堂集合で。」
この後再び集まった2人とそれぞれのパートナーであるエリス、リナと挨拶を済まし、無事にレイのパーティーメンバーは揃ったのだった。
「あ、私がリーダーでもいいかしら?場所は好きに決めてもらっても構わないけど、少し目立たないといけない理由があるの。」
「構わないぞ。リナはなにか演習でやっておきたいことはあるか?学園の教師陣に守られてる状態だから多少の無理が効くなかなかない機会だ。
できることならパーティーの希望は叶えたいしな。」
「わたしはフェリの手伝いをするだけだからエリスちゃんのことを優先して大丈夫だよ!
あ、でもフェリが言う通りそんなに強いなら魔物倒して、その報酬で美味しいものが食べたいかな〜」
「そうか。わかった。強そうな魔物がいたらみんなでフルボッコにするとしよう。
あとエリスは男だぞ?」
「「えっ???男????」」
「えへへ…」
これが友達かぁ…と感慨深くなるレイはその楽しい会話を噛み締めながら校外演習当日を迎えるのであった。