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第二話

 ――ドンッドンドンッ


 回想に耽っていた僕の意識を、何かを叩く音が現実に引き戻す。

 反射的に音の出所と思わしき方向に目をやると、その方向にあったドアが勢いよく開け放たれた。

 

「おう、大丈夫かいアンタ!」


 入ってきたのは筋骨隆々な顎髭をたっぷり蓄えた男性。詰められるだけ詰めました、みたいな筋肉の量をしている。首なんて自分の筋肉で勝手に締まりそうな程ミチミチだ。…あれ本当に呼吸できるのか?

 そんな僕のくだらない心配をよそに、男性はこちらにドカドカと歩み寄ってくる。近くに来ると威圧感というか、迫力がすごい(主に筋肉の)。男性が身に纏った簡素な服は、筋肉により引き延ばされ、今にも弾け飛びそうだ。


「なんでぃ、人の体じろじろ見て。俺が見つけなきゃ、アンタ今頃魔物の餌になってたとこだぞ?ったく、いくらこの辺に魔物が少ねぇからって町の外でこんな時間まで眠りこけるやつがあるか。もっと命は大事にしろってな。」


 男性は呆れたようにそう話す。

 魔物…、神様との会話でマナとか出てきた時点で薄々感じてはいたけど、この世界にはやっぱり地球にはなかったような技術や生物がいるようだ。

 ――本当に異世界に転生したんだ。

 何ともなしに感慨深く感じてしまう。

 まだ実感は沸かないけど、そうでもなきゃ説明できないこの状況が、その事実だけは確かなものだと教えてくれていた。


「それで、どうだい体調は?俺が見つけた時にはまるで死体のように見えたもんだが…、その様子じゃ大丈夫そうだな。どれ、俺ぁ用事を済ませてくるからおとなしく寝とけや。」


 そう言い残すと男性は、開けっ放しのドアからまたドカドカと出て行ってしまった。

 忙しない人だけど、悪い人じゃなさそうだ。親切ついでにこの世界の事もあとで教えてもらおうかな。

 ひとまずベッドから足を下ろし、立ち上がる。

 視界の位置がとても高い。いつもであれば脚立や台を持ってこないと、決して見ることのできない景色だ。神様に言った要望は、今の僕とは正反対に、だったからきっと僕の元の身長は、やはり群を抜いて低かったのだろう。

 でもこれからは高身長のバラ色人生が待っていると思うと、自然と口角が上がってしまう。


 全身を見てみたくなり、鏡がないか周囲を見渡すと、部屋の隅にかけ布の掛かった姿見のようなものが目に入る。

 裸足のままで近づき、両手でかけ布を外すとそこには曇りきった姿見が現れた。これで全身を見ることが出来そうだ。

 申し訳ないと思いつつ、掛け布をぞうきん代わりにして必要最小限の範囲を磨いてみると、薄らぼんやりではあるが全体像を見て取ることが出来た。


 ――出来たはずのなのだが、どうやらこの鏡はこの世界の技術でできた特殊な鏡のようだ。

 だってそうだろ?目の前に立っている僕は男なのに、鏡に映った人物は 身長は190㎝前後の高身長で顔立ちは僕の面影があるけど、どっからどう見ても女性にしか見えないんだから。

 鏡に映った人影は、紫銀に艶めく肩ほどまでの長髪を生やし、その胸部には肥満とは違う女性特有の双丘が見てとれる。大きさは身長とは違い人並みの様だが、その形はとても魅力的だ。その下に続くよく引き締まった腰から少し大きめの臀部にかけてのバランスは、まさしく曲線美というに相応しいものだった。

 総じていえば、そこに映っているのは美女と言って差し支えない人物だ。


 ほらね?男が前に立って女の姿を映したら、それはもう魔法とか超技術とかに他ならないよね?

 ――しかしなんというか…、顔は童顔なのに、妙に母性溢れる身体つきっていうか――安心感を抱かせるような姿だなぁ。


 ガチャッ!

 魔法の鏡の前で一人鏡像の容姿に感心していると、背後のドアが再び勢いよく開け放たれる音が部屋に響いた。

 振り返ると、お盆に何かを乗せた先ほどの男性が片手で蓄えた顎髭を揉んでいた。


「大人しく寝とけって言ったろが…。――お、そいつぁ『真鏡(まことかがみ)』か。そこにしまってたのすっかり忘れてたぜ。まぁ、名前のまんまだな。要は写った対象の()()()姿()しか映さないって代物だ。魔物の擬態とか、被呪して変容した物品の元の姿を知るのに使われてたな。にしても、アンタが魔物の類じゃないってわかって安心したぜ!ヌッハハハハ!」


 ――は?

 頭が一瞬フリーズする。


「――こ、この鏡って……っ!」


 ハッとなり、思わず両手で口をつぐんでしまう。

 口から出た声は、明らかに男の(それ)とは異なっていた。

 さっきの鏡像の特徴を思い出し、慌てて後頭部に手を当てるとさらりとした感触の長髪が手に触れる。続けて、身に着けている服の襟口をつかみ強引に引っ張り中を覗き見る。

 目に映るソレは男の自分が見て良いものではない――と、直感が視線を無理矢理に服の外へとそらした。

 危なかった…。もう少し見続けていたら無事では済まなかったと、割とマジでそう思った。


「ヌハハハ!忙しねぇ嬢ちゃんだ!何か訳ありなんだろうが、俺の家には生憎、この先も嬢ちゃんを食わせてやれる余裕がねぇんだわ。まぁなんだ、嬢ちゃんはかなりデカいが別嬪さんだから、稼ごうと思えば町にでも行って娼館で働けばいくらでも稼げるとは思うが…正直、娘と同じような年頃の嬢ちゃんにそんなことしてほしいとは思わん。」


 待て待て!今の状況だって飲み込めてない僕に、今後の生き方なんて決められるわけないだろ!

 …あ゛ーくそぅ。…正直、今の自分の事はまだ受け入れらないし、身売りなんて以ての外だよな…。

 僕が頭を抱えて唸っていると、男性は言葉を続ける。


「でだ、俺の使わなくなった装備品をくれてやるから、それで近場の町で『冒険者ギルド』に登録して、ギルドからの報酬で生きていく、『冒険者』っつー生き方をお勧めするが、どうだ?その他にも生き方はあると思うが、先立つものが手っ取り早く集まるのが冒険者だしな。」


 そういう生き方もあるのか…。冒険者っていうと、よくゲームとか小説とかに出てくるアレか。

 ――今の僕にはちょうどいいかもしれない。この体のことについてもよく考える時間が欲しいし、何より冒険者なんて、サブカルに溢れた日本で育った男子が憧れないわけがない。

 

「じゃ、じゃあそれで――」


 男性の提案に同意の言葉を返す。

 あー、やっぱりこの声どう聴いても女性だよなぁ…。

 なんだか自分の口から出てるのに、妙にどぎまぎしてしまう。だってしょうがないじゃん!こんな近くで女性の声が聞こえることなんて今までなかったんだから!


「そうかい!そいつぁ良かった!早速持ってきてやるからその間にこれ食っときな!腹減っただろ!」


 そう言うが早いか、男性は持っていたお盆をベッド横のテーブルに置き、足早に部屋から出て行ってしまった。

 もう一度鏡を見遣る。そこは相も変わらず美女の姿が映っていた。

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