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第一話

 気が付くと、そこはベッドの上だった。

 いわゆる、知らない天井だ、というやつだ。

 どこにでもありそうで、その実見たことがない白っぽい質素な木目調の天井に、その横ではアンティークっぽい質素なランプが吊るされている。

 

 男の子を突き飛ばしたところで記憶が途切れているが、この様子だと僕はどうやら生きているようだ。

 よくぞまぁ、あの状況で生きていたものだ。我ながらこの生命力には拍手を送りたくなる…のだけど、何だか今の感想に違和感を感じる。

 まぁ、そんなこと考えても仕方ないか…。


 しかし、生きていることは良いとして、ここは一体どこなのだろうか。

 病院にしては、あまりにも周囲の雰囲気がおかしいように感じる。

 上半身を起こして辺りを見渡すも、人の気配は感じないし、生きているとはいえ、あんなことがあったというのに、僕の腕に点滴などといった医療器具の類も付けられてはいないのは、常識的に考えても不自然だ。

 …しかし、何だか僕の腕、やけに長く、ほっそりとしているような気がする…。それに妙に色白だし…。

 

 自分の腕を訝しんでいた僕の脳裏に、掠めるように断片的な記憶のノイズが奔る。


「君を――させる際――望みは――…」


 じゃあ――な身体に…


 誰かと話している自分。

 内容は覚えていないけど、なんだか大事なことを話していた気がする。


 そのノイズを皮切りに、徐々に事故の後の記憶が蘇ってきた。


「君という人――死んだ…本当に申し訳ない――」


 誰かの謝罪。

 そうだ、事故の後、僕は一度目を覚ましていた。

 いや、目を覚ましたという表現は正しくない。だって、あの世界では二度と目を開けなかったんだから。


 あの事故で僕は死んだ。だからさっき自分で、生きている、と思ったときに違和感を感じたのだろう。

 そして一度死んだ僕は、誰かと話していた…。

 そう、神様と。


――――――――――――――――――――

 事故後―――


「君には大変に申し訳ないことをしてしまいました…。」


 事故の衝撃で意識を失った僕は、意識の暗がりの中で、そう声を掛けられて目を覚ました(便宜上)。

 辺りは真っ暗。上下左右前後が不覚で、平衡感覚がおかしくなりそうな空間だ。


 その声は妙に落ち着く声色で言葉を続ける。


「こんなことを言っても言い訳にしかならないけど、完全に予定外の事だったのです…。」


 声の主はひどく落ち込んでいる様だった。

 僕は何かしゃべろうともしたけど、なぜだか声を出すことが出来ずに黙っていた。


「…あぁ、ごめんなさい。今の君は意識体でしかないから、発声器官を持ち合わせていないのです。言いたいことを意識してもらえれば、後は私の方で読み取らせてもらいます。」


 なんだかよくわからないけど、言いたいことを考えれば伝わるらしい。

 ここはどこですか?僕はいったいどうなったんでしょうか?

 声に言われるとおりに、人に話しかけるように頭に言葉を浮かべてみる。


「そう、それで大丈夫です。さて、ここはどこか、君がどうなったか、でしたね。まず、ここは私が君と話をするために作り出した、所謂精神世界のようなもの、と思っていただければ大丈夫です。そして君がどうなったか…、この問いに関しては、端的に言えば君は亡くなってしまった、と言うしかありません。実際はもっと複雑ですが、事実として伝えられるのは君という人間は死んだ、という事です。これに関しては後程説明させていただきますが、本当に申し訳ないことをしました…。」


 声はあらかじめ言う事を考えていたかのように淀みなく言葉を連ねる。

 自分が死んだ…、にわかには信じがたいことを伝えられたのに、なぜだか僕の頭はそれをすんなりと受け入れられていた。


 僕は死んだ、ではここにいる僕は何なのでしょうか?

 至極当然な疑問を思い浮かべる。


「今、私と話している君は意識体、つまりは体を持たず、魂、心だけの存在です。通常、その状態で自我を保ち、存在することはできません。が、今は私が君の存在を保っているので問題ありません。君の生前の肉体は、生命活動を維持する機能を失ってしまったため、君が私なくして存在するには新たな肉体が必要になります」


 ん?新たな肉体って…、僕は生き返れるという事なんですか?それとも、新しい命として生まれ変われるということですか?


「どちらかと言えば新しい命として生まれ変わる、という事になるでしょう。君の魂、意識が宿るのは元の肉体ではなく、新たに私が用意した肉体、そしてその肉体で生きるのは君が今まで生きてきた世界とは別の世界となります。なのでこれは、君の世界でいう所の異世界転生、というものです。」


 声は淡々と、僕が聞いたことに対して分かりやすく受け答えをしていく。

 だが、答えとして出てくる言葉はどれも、こんな状況でなければ一笑に付すような、戯言と取られてもおかしくないものだった。


「もちろん君が今まで生きていた世界で、元の体で生き返るがベストなのでしょう。ですが、一度死んだ人間を元の世界で生き返らせるのは、例え我々…、君に分かるように言うと、神であろうと禁じられているのです。尤も、今回はそれだけが理由ではありませんが…。えぇ、分かっています、勝手に巻き込んでおいて私の言動は身勝手そのもの。君に叱責され、糾弾されても仕方のないことです。」


 声はどうやら僕に叱責されるのもやむなし、と言っている様なのだがそれは杞憂だ。だって話の半分くらいついていけてないんだもの。

 なんなら異世界転生あたりで頭(便宜上)がショートを起こしてしまっていた。よって、今の僕に叱責する余裕などなく、情報の整理で精一杯となっていた。


「あぁ、すいません。話を急ぎすぎましたね。ですが、あまり時間に余裕もありませんので後程ゆっくりと思い返してもらえればと思います。さて、君が亡くなってしまったのは私、もとい神々が原因です。…これから君が生きていく世界で、我々という存在に人間でありながら肉薄した、邪悪なる者がいました。我々はその者を滅ぼすため、本来相容れぬ世界同士を干渉させ、その世界間で同一の魂を持つ片割れを殺すことで、もう一方も共に葬る、という無関係の人間をも巻き込む外法ともとれる力を使用しました。しかし、そんな外法を使用しなければ、彼の者を完全に滅することはできなかったのです。そして、彼の者と魂を共有する、この世界に生きる者が君だった…。君は確かにトラックに轢かれて死にましたが、過程はどうあれ君が死ぬというのは、因果律によって定められて起こったことでした。」


 因果律がどうこうはよくわからないけど、どうやら別の世界の僕と同じ魂持つ奴は、神様に危険視されるほどにヤバイ奴だったらしい。

 でも待てよ…、折角僕を殺してまでそのヤバい奴を滅ぼしたっていうのに、僕を生き返らせたら意味なくなっちゃうんじゃないんですか?


「えぇ、本来であればその通りです。君が生き返れば彼の者も同様に生き返るはずでした。ですが、事は我々が思っている以上に深刻だった。君が死んだことで、彼の者の肉体は確かに滅びました。…先程、今の君が存在できているのは、私が君の存在を保っているからだと説明しましたが、彼の者はそれを他者の助けなくして実現したのです。そして、その魂は変質に変質を重ね、もう既に君と魂の共有を絶ち、別の悍ましいモノへとなり果てました…。よって、君を生き返らせても、完全に別個の魂として独立した彼の者の復活が起こることは限りなく0%になりました。しかし、それは同時に彼の者の魂を完全に滅することが出来なくなった、という事実に他なりません。つまりは彼の者が何らかの方法で肉体を得てしまった時、再び彼の者は復活する、という事なのです。」


 なんだかヤバイ話っていうのはなんとなく分かった。

 でも僕を生き返らせる理由がない気がする。もちろん生き返りたいとは思うけど、万が一って事もあるし、その彼の者といかいうヤツの復活の可能性があるなら、僕は生き返らせない方がいい気がするんですけど…。


「…君は優しいですね。そんな優しい君だからこそ、隠し事はせずに伝えようと思います。初めに言っておくと、君の転生は我々の打算によって行われるものです。彼の者は恐らく、魂だけとなって、次なる肉体を求める動きを見せるはず。そして、それと同時に復活時にさらなる力を発揮できるように、マナの集積を行うと思われます。あ、マナというのは、これから君が生きる世界に満ちる、命の源のようなもの、と考えてください。しかし、同じ世界にかつて、彼の者と魂を共有していた君が存在すれば、多少なりとも彼の者のマナの集積を阻害できるかもしれない、と我々は推察しています。魂だけの彼の者と、肉体を併せ持つ君であれば、マナの寄りやすさは君に軍配が上がるでしょう。…ですが、彼の者は肉体があれば神に匹敵する力を持つ怪物、魂だけとなってもいつの日か必ず肉体を手に入れ、再び我々の前に立ち塞がるでしょう。…その時までの時間稼ぎに、君を利用しようというのです、我々は…。」


 僕を優しいと言うこの声の主の方が、僕は慈愛に満ちているように感じた。僕を利用するのは確かだろう。しかし、そこには誠実さがあったし、なにより打算以外でも僕を案じてくれるのがよく分かった。

 利用する、と声は言ったけれどそれが僕のデメリットになるという事もなさそうだし、何より新しい世界で生きる、という事に年頃男子ならワクワクが止められないのは仕方のないことだと思う。


「本当に君には感謝してもしきれませんね…。さて、君を転生させる際には基本スペックには色を付ける他に、外見だけになりますが、君の望みもできるだけ反映できます。どうしますか?」


 じゃあ、生前の僕とは正反対な身体にしてほしいです…。

 父さんには申し訳ないと思うけど、身長は母さんみたいに190以上にしてほしいな…。

 

「正反対…、なるほどわかりました。顔立ちなんかはどうしますか?公私混同させてもらえるなら、私は君の童顔結構好きなのでそのままにしたいですが…。(女性になってもかわいいままでしょうし…)」


 ん?最後の方何か言ってたかな…。よく聞こえなかったな…。

 まぁ、顔に関してはこのままでも大丈夫です。高身長に童顔でも問題なくモテるって雑誌でも見たし!


「モテ…?んっと…、で、では、私が責任をもって君の望みを肉体に反映させましょう!そして、転生前に一つ。君がどうしようもない窮地に立たされた時、転生時の君の荷物に入れてある結晶を砕いてください。ただ忘れないで。その結晶を砕くのは、本当にどうしようもないと感じた時のみです。私もその結晶を砕いた時、何が副次的に起こってしまうかは想定できませんので…。あくまで奥の手、という事です。…話はこの辺にして、いよいよ転生ですね。大丈夫、きっと君ならどんな世界でも幸せになれますよ。私は直接の手伝いはできませんが、どんな時でも君の事を見守っていますから。月並みですが、どうか君に幸多からんことを…」


 こちらを教え諭すように声はそう締めくくった。

 そして、こちらの返事を待つことなく僕の意識は眠りに落ちるように霧散した。

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