塞ぐ
三題噺もどき―ひゃくはちじゅう。
お題:沈む・抱え込む・助けて
「……」
外は大粒の雨が降っている。
心なしか、風も強く吹いているようだ。
時折窓を強く殴る音がする。
雨がバチバチと窓を叩く。
風がゴウと窓を殴る。
「……」
外がそんな状態だから。
私も、こんな風になる。
「……」
朝から嫌なことが続いて。
昨日の夜から、そんな感じで。
今週の頭から、こんな風で。
今日はずっと、こうで。
―生まれてこのかた、ずっと。
「……」
それがつもりに積もって。
たまたま今日限界を迎えて。
いつもなら気にならないものが、気にかかって。
視界に入って、やけに目に付いて、うざったらしくて。
「……」
全てが。
自分に攻撃的に見えて。
「……」
人に会う事が、怖くなって。
「……」
だから、部屋の中に引きこもって。
カーテンを全部閉めて。
外の音も聞こえないように、イヤホンをつけて。
音楽は流れていない。耳を塞ぐためだけだ。
「……」
自分の視界も塞ぐために。
布団にもぐって、フードを深くかぶって。
膝を抱え込むように丸くなって。
―ぎゅうと、自分を抱きしめるように。
「……」
何も考えないように。
「……」
―それでも。
思考は巡るものらしく。
むしろ、こうするからよくないのだろうか。
でも、私は、私を守る術を知らない。
「……」
今朝あったこと。仕事でのこと。学校でのこと。
―生きてきたこと。生まれてきたこと。生きたままでいる今の事。
「……」
あの時の後悔と。あの日の懺悔と。そんなものばかりがグルグルと回って。いまさらそんなものしたって、意味はないのに。後悔しても、懺悔しても、戻るものはないのに。
「……」
それなのに、思考は巡る。
あの時こうすれば。あの日こうしていれば。あの時はもっとこう。あの日は。あの時は。あの日、あの時、あの日、あのときあのひあのときあのあのあのあの――――。
「……」
巡る思考は、流れるように。流れる思考は濁流に。濁流はいずれ渦になって。
「……」
いつの間にか、涙があふれていたけれど。そんなものもうどうでもよくて。
―呼吸ができなくなっても。どうでもよくて。
「……」
ただ身体を抱きしめて。
耳を塞いで、視界を塞いで。
―思考の渦に沈んでいく。
「……」
こんな時に、助けを求められる人間が心底羨ましい。
だって、抱え込まなくて済む。自分を守る術を、他人に見出せる。
「……」
誰にも助けてと言えない私は。
「……」
ただ一人で。
静かに。
独りで。