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美神教《カリテス》の大天使につき①

厳かな雰囲気が漂う聖堂に多くの人々が集まっている。

皆、手にロザリオを握りしめ目の前の女神像に向けて真摯に祈りを捧げていた。


その姿を遠くから見て、柔らかな笑みを浮かべる男がいた。


美神教(カリテス)のエンブレムを背に着けたローブを羽織った男は、手に杖を持ち椅子に腰を下ろしている。


その周りには、シスターが三人ほど控え、訪れる人々を男と共に見つめていた。



「ふー……。もうすぐ、祈りの時間は終わりですね。今日も多かった……。ふふ……。信仰心が深いことは実に素晴らしいことです。」


「えぇ……。本当に素晴らしいことです。これも、司教様のこれまでのご尽力があってこそ。本当に、司教様は素晴らしいお方です。」


「ふふ……。いえ、私など大したことはありません。全ては女神様の御加護があったらからこそ。私はその一部をお預かりしているに過ぎませんから。」



傍らに立つシスターはうっとりとした表情で、男を見つめるとほぅ……と息を漏らし胸の前で祈るように手を組む。


司教と呼ばれた男はシスターに微笑むと、座っている椅子からゆっくりと腰を上げ、列の最後尾の女性に目を向ける。



「あの女性……よく見ますね。たしか、目を患っていたようですが……。」


「はい。半月前に突如、目が見えなくなったそうです。彼女はあらゆる医者や呪い師を頼りましたが、その目に光が戻ることはなかったそうです。その後、知人の紹介で縋るように、美神教(カリテス)に入信されたと聞いています。毎日のように、祈りに来られている姿をよく見ます。きっと、女神様も心を痛めておられることでしょう。」


「…………そうですね。それだけ敬虔ならば、そろそろ奇跡が起きてもいい頃でしょう。」



司教はゆっくりと盲目の女性に近付くと、驚かせないように静かに優しく話しかけた。



「いつも、熱心に祈られていますね?」


「……その声は、司教様ですか?」


「はい。【美神教(カリテス)王都支部司教 シモン】と申します。 良ければ、より貴女の願いが届くように、共に祈らせて頂けますか?もしかしたら、今日が祈りの届くその日なのかもしれませんよ?」


「あぁ、そんな!司教様が祈ってくださるなんて……私などに勿体ないですよ……。」


「女神様の代理人として、苦しむ人々を救うのは司教である私の使命ですから。気にしないでください。」



20代にも満たないうら若い女性が、突然の病に苦しむ姿に司教は心を痛めたのだろう。

戸惑う女性の手に手を重ねると、その手を引いて女神像の前へと誘う。



「さぁ、共に祈りましょう。貴女の目が見えるように……。」


「あぁ……!ありがとうございます!司教様ぁ!」



座る女性の前に立つと、司教は懐からロザリオを取り出し、女性の額に押し当てる。


そのまま、ゆっくりと長い時間をかけて二人は祈りを捧げていた。


しばらくして、おもむろに司教は祭壇の上のフラスコを手に取ると器に液体を取り出す。

指先を少し濡らすと、女性の瞼を優しく撫でた。



「え!?司教様?」


「大丈夫。私が祈りを捧げて造った聖水です。さぁ、祈り続けてください。わずかでも、祈りの力が強くなるように。」


「は、はい!」



女性が祈り続ける間、司教は丹念に聖水で瞼を洗い続ける。

数回それを繰り返した司教は、強く頷くと静かに離れて両手を広げた。



「さぁ!目を開けてみなさい。」


「…………あ、あぁ!」



司教に言われ、素直に目を開けると、突如差し込む光に目が眩んだ女性は驚きのあまり目を閉じる。


それでも確かに感じた光の存在に、女性は感動でうち震える。



「見え……見えました……!目が!目がぁ!光を感じます!ぼんやりとですが、真っ暗だった視界に光を感じました!」


「素晴らしい!貴女の願いが女神様に届いたのです!これこそ奇跡だ!あぁ!なんと素晴らしい!これぞ、女神様の御業だぁ!」


「あぁ!見える!暗闇に閉ざされていた視界がくっきりと!ありがとうございます!ありがとうございます!女神様ぁー!司教様ぁー!本当にありがとうございます!」



両手を広げ、女神像に感謝と賛美を送る司教の腰に抱きつくように、女性は涙を零しながら感謝の気持ちを泣き叫ぶ。


盲目の女性の目に光が戻る。こういった奇跡が、この教会では度々起きていた。


故に、その奇跡を求め、噂を聞きつけた人々が次々と入信するようになって、ついには、この国のほとんどの人間が美神教(カリテス)へと籍を置くことになったのだ。


人類の半数がこの王都集まっている現状では、つまるところ、人類の半数が美神教(カリテス)に入っているということになる。


その手は王都から、少しづつ、近隣の街に伸び現在も入信者を増やしていた。


もはや、王都と美神教(カリテス)は切っても切れない間柄となっていたのだ。



「さて、今月の奇跡は十分でしょう。また来月の奇跡のために力を蓄えなくては。」


「お疲れ様でした、司教様。今回も見事な奇跡でしたね。」



女性を正面の扉から見送ると、司教はシスターたちを伴って自室へと向かう。



「全ては彼女の祈りの強さのお陰ですよ。私は少し、お手伝いしたに過ぎません。それでは、私は自室に戻ります。あなた達も、ゆっくりと休みなさい。」


「……はい、司教様。」



自室に戻ると告げられ、明らかに落ち込んだ様子のシスターたちはキョロキョロと周りを見渡すと一歩前に出る。

何やら顔が赤く見えるのは気のせいではない。



「し、司教様?お疲れではありませんか?宜しければ、その……私たちに“マッサージ”をさせていただけませんか?」


「いえ、大丈夫ですよ?今日は特に強い奇跡は起こしていませんから、一晩休めば、どうということはありません。」


「そ、そうですか……。」


「……ふふ。どうしたんです?皆さん、顔が赤く息が荒いようですが?早くお部屋に戻って休まれた方がいいのではないですか?」


「うぅ……!司教様ぁ、意地悪しないでください。」


「ふふ!女神様の代理人である私は意地悪などしませんよ?それとも、私の“説教”がお望みですか?」


「あ、あぁ!はい!是非、お願いします!」



“説教”と聞いて、シスターたちはその身を震わせると、荒い息で興奮気味に何度も頷いた……。



「何とも、まぁ、敬虔な信者ですね、あなた方は……!ふふ……!いいでしょう、部屋へ入りなさい。順番に……“説教”を行いましょう。」


「ありがとうございます!司教様ぁ!」



部屋へと誘う司教に続いて、シスターたちは嬉しさと火照りに顔を綻ばせながら部屋へと入っていった。


それからしばらく、司教の部屋からは艶やかな女性の声と共に家具の軋む音が響いていた。


「今日もお盛んだったね、司教様?」


「……やめてください。人を猿のように言わないでくれますか?私は説教をしていただけですよ。」



シスター達を自室へと帰し、疲れた身体をベッドに横たえると突如、かけられた声に首だけ向ける。


ベッドの片端には、椅子に座った白髪の青年が本を片手に微笑んでいた。



「うん、猿ではないね。猿の方がもっと純粋に、行為を楽しんでいる。シモンは色々と頭で考え過ぎて、楽しむ余裕もない感じだ。もっと、肩の力を抜いたらどうだい?」



ジョーク気味に青年は笑うと本を置いて、司教のベッドに腰を下ろす。



「仕方ないでしょう。私はそもそも、この行為自体、苦手なのですから……。本能のままに、互いの身体を求め合うなど、まるで獣だ。全てが終わったあとの虚無感といったら……。はぁ……。なんで人間はこんな繁殖方法を選んだんでしょうね?」


「ふむ。一部の学者の意見では、猿のような獣から人間は進化したと言われているね。スライムから進化すれば、或いは分裂して増えることもあったかもしれない。」


「ほう……分裂ですか。それはいいですね。無駄な労力を割かず、数を増やすことができるのは素晴らしいです。」



傍らに座る青年の手を取ると、司教は自身の方へ引き寄せる。

青年は導かれるまま、司教のベッドに潜り込むと優しく笑みを司教に抱きついた。



「なんだい?まだ、説教がし足りないの?」


「大天使相手に、“説教”はしませんよ。恐れ多い。」


「そう言って、この手は……なんだい?」


「“マッサージ”?」


「ぷっ!あはは!そう。じゃあ、お願いしようかな……。でも、優しくしてね?この前みたいに、噛み付かれたら、隠すのが大変なんだから……。」


「任せなさい。」


「んん!ちゅ!」



天使は司教の頬に手を寄せると、口付けを交わし互いの身体を丹念に触れ合い始めた……。


何度目かの絶頂の後、くったりとくたびれた天使が司教の身体に倒れるように抱きつく。



「はふ~……!さすが、司教様。すごく、良かったよ……。」


「ふむ……。見れば見るほど、不思議な身体ですね、あなたの身体は……。」


「そう?なんか変かな?」



胸元をシーツで隠しながら、青年は微笑む。


天使である青年は中性的な顔つき、というよりどちらかと言えば、女性的な顔であるが当人は男だという意識があるようだ。


他の天使たちも同じく、見た目は中性的であり男の心を持っているように感じる。



「変なことはありませんよ。ただ、男性というには……そうですね……いささか細身でしょうか。」



天使の身体をシーツの上から撫でながら、司教はその肉付きを確認する。

男性のように骨ばっているわけでもなく、身体もまた女性に近いように感じるが、乳房と呼べるほどの胸はない。



「あはは……。ご飯は食べてるんだけどねー。どうも、羽根の維持にエネルギーが持っていかれちゃうんだ。」


「決定的なのは、これ……ですね。」


「んん!?こ、こら!急に、触れないでよ!」



天使の包まるシーツの中に手を伸ばすと、その股を指でなぞりあげる。

天使は突然の刺激に身を震わせると、恨めしげな顔で司教を見上げた。



「あなた方天使には、男のシンボルがありませんよね?実際、どうなのですか?あなた方は男性なんですか?」


「男だよ。君たち男性の生殖器がオレたちはこの触手に変化しているだけなんだから。」


「ふむ。では……この穴は、なんになるんでしょう?」


「あ!や!も、もう!散々、遊んだでしょう!?もう!やぁ!んん!」



くちゅくちゅと湿り気を帯びた音を響かせるように弄る司教の手を抑えながら、天使は甘い吐息を漏らす。



「そ、そこは、“遊び穴”だって……。別に生殖機能はないの。んん!も、もう!触るなぁ!」


「かつて、天使にも男と女があった頃の名残り、と研究者の中では言われてましたね。ですが、中は女性のそれと変わりない……。不思議なものです……。」


「はぁ!はぁ!くぅっ!もう、屈辱だぁ。なんで、こんな穴があるんだよぉ。」


「まぁまぁ、気持ちいいのなら、良いではありませんか。一挙両得ですよ?男も女も経験できるなんて、素晴らしい身体ではないですか……。(私はゴメンですけど。)」


「おい、心の声が漏れてるぞ?シモン。」



トン!と司教の胸を叩くと、大天使は布団から抜け出て大きく伸びをする。

サラリと長い白髪が、その白い背中を流れた。

司教はその背中を眺め、堪らず息を吐く。

見た目だけなら美しい女性と変わりない。

思わず、再び背後から抱きしめてしまいそうになる気持ちをぐっと抑える。



「(猿のような行為に、嫌悪感は確かに持っているのに、目の前の存在には不思議と身を寄せたくなる……。その身体を愛でたくなる。征服したくなる……。不思議です。本当に……。)」


「ふふ……!」



シモンの心を知ってか知らずか、天使は肩越しに振り返ると小さくほくそ笑み、ちろりと唇を舐める。

その妖美な姿に、シモンは再びムクムクと自身の息子が猛るのを感じた。



「ガブリエル、満足して頂けましたか?」


「うん!スッキリした!ありがとう!おかけで、王都の中で怪しい行動をしてる異端者たちを捕まえることができそうだよ。ついでに敵の隠れ家も壊滅できるかも?」


「ふふ……!それは、良かった。気をつけて行ってきてくださいね?」


「あぁ!帰ってきたら、また遊ぼうね、シモン!」


「……えぇ。お待ちしてます。」


「ふふ!今夜は寝かさないからね♡」



大天使ガブリエル。

大天使の中でも、特に強力な力を持った天使。


王都の守護を任された彼は、同じく王都を任された司教シモンの懐刀として、異端者を葬ることを生業としていた。


彼一人で、天使百人以上の力を秘めたまさに、対軍レベルでの戦闘能力を持っている。


その彼は衣服を整えると、悠々と羽根を広げ教会を飛び出す。


それから司教の元に、『異端者の隠れ家壊滅』の報せが来るまでそう時間はかからなかった……。




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