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ひび割れし信仰につき

作戦の全容は詰まるところ、大天使を町外れの林へと誘い込んだ後に何があったのか?

その続きを話す方が早いだろう。


『(あれー?なんか、俺、思いっきり悪役じゃない?)』という疑問は脇に置いて、突き出される槍を篭手で凌ぎつつカウンターで拳を突き出した。


うん。それだけだったのに……。



「がはっ!?」


『あ……。』



見事にカウンターが決まり、相手の顎に拳が入る。

鈍い音と共に大天使の首はガクンと揺さぶられたようで、再びコチラを見た大天使の視点はズレているようだった。



『(うわ……。見事に入っちゃったよ。大丈夫かな……?)』


「ど、どうした?終わりか?そっちが来ないなら、こっちから行く……ぞ?あ、あれ?」



威勢よく叫びながらも、足に力が入らないのかフラフラと酒でも飲んだようにふらついている。



『無理をするな。少し腰を下ろした方がいいぞ?』


「何を、言う。たった一発で倒れるようなオレではない!オレは大天使なん……だ、ぞ?あ?」



案ずる声を挑発と受け取ったのか、天使は負けじと一本踏み出す。

その瞬間、力の抜けた足から崩れるように地面に倒れ込んだ。



『あー……。だから言ったんだ。まったく。』


「くっ!これくらい……ぐっ!」


『まぁいい。しばらく動けないだろうし、このまま拘束させてもらおうか。』



スライムの糸を編み込んだ強めロープで大天使を拘束すると、その前に腰を下ろし目線を合わせる。



「オレをどうするつもりだ!?」


『さて、どうしようか。お前には二つの道が残されている。一つはこのまま、討伐される道。』


「あ……くっ……!」



首元に矢を突き付けると、大天使は絶望を顔に浮かべて見つめ返してくる。

死を目の前に、その大天使は完全に意気消沈していた……。



『そしてもう一つは、今から美神教(カリテス)の本部に向かい、事の顛末を報告する道だ。』


美神教(カリテス)に報告だって……?そんなことをすれば、お前は美神教(カリテス)の敵となって、全世界が討伐に乗り出すんだぞ?自殺行為だ。」


『ふふ!そうだ。お前には、我を美神教(カリテス)の敵として、世界の平穏を揺るがす魔王として美神教(カリテス)に報告して欲しいのだ。そうすることで、舞台は整う。この世界を終わらせるため地獄より現れた魔王の存在を……世に知らしめるのだ!』



自ら、美神教(カリテス)を滅ぼすために現れた敵であると、両手を広げ高らかに宣言した。



「認めるんだな?自分が美神教(カリテス)の、世界の敵であると!」


『あぁ、認めよう。不足なら言葉にして、あえて告げてやる。我は魔王アスモデウス!美神教(カリテス)の明確な敵だ。美神教(カリテス)を壊滅し、世界を我が“理想”に塗り替えんと力を振ると、ここに宣言する。』


「確かに聞いたぞ!?お前はオレたち、天使の敵!美神教(カリテス)の敵!そして、世界の敵だ!」


『あぁ。その認識で異論ない。 同時にこれも追記しておけ。我には多くの仲間が居るということを!我と戦うなら、それなりに戦力は必要だぞ?』


「な!?」



立ち上がり、周りを見渡してみせる。

俺の視線に気付いた大天使は、同じようにぐるりと周りを見渡すと目を丸めて言葉を失う。


木の影から沢山の甲冑を着た兵士が、ゾロゾロと現れたのだ。

その数、百はあるだろう鎧の軍勢だ。



ーガシャガシャ!

ーガシャガシャ!



「まったく気配を感じなかった……。」


『驚くのはまだ早い。ここに居るのはまだ、一部。我に着いてきた可愛い仲間たちなのだよ。皆、心配性でな。ふふ……。』



含み笑うと近付いて来た兵士に軽く手をあげる。深々と頭を下げた兵士が側に控えるように片膝を着いて側に座った。


それに倣ってか、周りの兵たちも次々に近づいてきては、皆が側で跪いていく。



「な、なんて数だ……。林の向こうにも、まだいるのか?バカな……いつの間にこんな準備を!そんな情報、一切入ってなかったぞ!?」


『ふふ!さぁ、この街の教会は今頃、我が仲間が攻め落としている頃だ。次はどの街の教会にしようか?隣町か?はたまた、王都に直接乗り込んでやろうか?なぁ……?どちらがいいと思う?それとも、もっと数を増やした方がいいか?五百くらいでどうだ?まだ、必要ならもっと連れてくるぞ?』



クツクツと笑みを浮かべながら、震える大天使を見下ろすと、さらに青ざめた表情を浮かべて俺と周りの兵たちを交互に見やる。



「まだ増えるのか!?美神教(カリテス)相手に、戦争でもする気か!?」


『今更だな。これは戦争なんだ、天使よ。さぁ、どうする?ここで粛清されるか、伝書鳩のように情報を持って飛んで行くのか。どっちだあぁ~?』


「ぐっ!?うぅー!こんなのすぐに伝えるに決まってるだろうが!」



大天使は当然だというように叫ぶと、バタバタと暴れて、縄から抜け出そうとする。

美神教(カリテス)に迫る脅威に、いても立ってもいられなくなったようだな。



『そうか、そうか。それは僥倖。では、疾く美神教(カリテス)に向かってこのことを伝えるがいい。今のところは見逃してやる。』


「っ!オレを逃がしたことを後悔するといい!美神教(カリテス)は必ずや、お前と反逆者たちを討ち滅ぼしてみせる!覚悟しろ!魔王アスモデウス!」



縄を焼き切ると、大天使を解放する。

切れたことを確認した大天使は、一気にその場を飛び立つと、少し空を旋回してからどこか彼方へと飛んでいった。



『ふぅ……。シルフィ?ヤツはちゃんと飛んで行ったか?』


『うん!大丈夫!今、街には戻らずそのまま、隣町街の方に向かって行ったよ。このルートなら、王都まっしぐらだね。』


『そっか……。とりあえず……。』



俺は装備を解除し、ボックスに仕舞い込む。

肩に乗ったシルフィの頭を撫でると、周りで座していた兵士たちに向き直る。



「作戦は終了!みんな、お疲れ様!」



ーガシャンガシャン!

ーガシャンガシャン!



俺の労いに皆答えるように、立ち上がると拳を打ち合わせている。


ーガシャン!ガシャン!



「しかし、声一つ挙がらないと、中々に異様な光景だなー。」


『あはは!だねー。まぁ、仕方ないよね。』



苦笑を浮かべるシルフィに頷くと、兵士たちの前にアイテムボックスを広げる。



ーガシャーン!ガラガラ!



近寄ってきた兵士は突如、その場に崩れ落ちると、その鎧の隙間からニュル〜ンとスライムが出てきた。

毎度おなじみ、シルク傘下のスライムたちだ。

みんなに協力を仰ぎ、こうして一芝居打ってもらったのだ。



「お疲れ様!ほい、おやつ!いつも、ありがとうな!」


ーぷるーん♪ぷー!ぷー!



鎧をアイテムボックスにしまったスライムたちに、干し肉を手渡していく。


受け取ったスライムたちは嬉しそうに手(?)を振って、ニョルニョルと街へと戻って行った……。



「よし!おしまい!」


『これで、こっちの戦力が沢山いるって印象を与えられたかな?』


「あぁ。最低でも百の兵は用意できると思ってくれるだろう。そうなれば、相手も準備するしかない。ヤツが本部に戻れば、美神教(カリテス)は大慌てだ。その間に、俺たちはできる限り戦争の準備をして行くぞ。あらゆる手を使って、美神教(カリテス)を弱体化させ、王都にとってお荷物にしてやる。王都自ら、切り捨てたくなるようにな!フフ……フハハハ……!」



腹から大声で笑う俺を見て、シルフィは小さく息を吐くと、『まるで、悪役だよぉ。』と呆れ気味に呟く。


否定も肯定もしない。


俺は美神教(カリテス)にとっては、突然現れた侵略者であることに間違いはないのだから。



「悪も正義も、結局は最後に勝った者が決めるんだ。そして、その後の歴史で悪にも正義があったことが解き明かされる日が来る。それが、歴史ってやつさ。だから、今この時に正義だの悪だの、考えるだけ無駄なのさ。」


『そんなもんなんだねー。』


「あぁ。そんなもんだよ。」



肩に乗るシルフィに微笑むと、アイテムボックスを担いで街に向かう。


ヤツらの歪んだ正義を覆す準備を始めるために、俺たちは歩き出すのだった。



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