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女神に代わってお仕置よん!につき⑤

「なんてことを!お前、それでも神職者か!!」



二人の亡骸を目の前にして、ウリエスは頭を抑えてグッ!と歯を食いしばると、目の前の殺人鬼を睨みつける。



「天使如きが、少々、言葉が過ぎるんじゃありませんか?どちらの立場が上か、分かっていないようですね……?いいでしょう。司教である私が直々に“教育”……いやぁ?もうお前は不要です。しっかりと処刑してあげましょう!」



手を向けて、司教は苦笑してみせると大きく口を開けてウリエスに向けて呪文を唱えた。

高速の光杭が司教の元から射出される。



「くっ!」

ーズドン!



横に転がるように飛び退くと、ウリエスのいた場所に深々と杭が刺さる。

どうやら追尾性はなく、《ヒット確定》の攻撃でもないようだ。


ならば、とウリエスは魔力切れを狙い、脚を動かして教会内を逃げ回る。



「ふむ……ちょこまかとされては、当たりませんね。ほら、あなた達?ぼーっとしてないで、あの堕天使を捕まえなさい。さもないと、あなた達も腹に穴が開きますよ?」


「は、はい!」



ウリエスの狙いに早くも気付いた司教は、周りを急かして取り押さえるように命じる。

命の惜しい天使とシスターたちは挙ってウリエスを取り抑えようと駆け出した。



「どこまでも卑怯なヤツ……。本当、アイツ(魔王)とは大違いだな。」


「一体、誰と比べているのか知りませんが、コレもまた上に立つ者の能力ですよ?下々の者たちを力で捩じ伏せ、思うままに操る。それは上に立つ者だからこそ許されるのです。器が違うんですよ。」


「だとしたら、お前の器はきっと底抜けだな。器とは名ばかりの壊れた器だ。ゴミ同然だよ。」


「……くッ!?おのれぇ……どこまでも愚弄しやがって!早く取り押さえなさい!全員、壁に縫い付けますよ!?」



司教はウリエスの小馬鹿にするような態度に、完全に頭に血が上ったのか怒号を飛ばして、皆を急き立てる。



「は、はい!」



司祭に命じられるまま、皆、我先にとウリエスを捕えようとかけ出す。


手負いの子供に向けて、三人の大人と天使が三人。皆自分の保身の為に、鬼のような面で追い回す光景はまさに、ここが教会であることも忘れるほど醜いものだった。


ウリエスは伸ばされる手を掻い潜り、隙を見ては飛んでくる天使の矢を槍で打ち落としながら、何とか司教の魔法を無力化できないか考える。


指輪がマジックアイテムだとすれば、あの指を切り落とせば或いは……と考えるもそんなことが現実的にも不可能なのはわかっている。


その手を切り付けるためには、自身の武器である槍の間合いに入らなければならない。


しかし、近付けば近付くほど、司教の【|神の釘《死傷をもって戒めるモノ》】が当たるリスクは上がっていく。


しかしも、この周りの連中の手を躱しながらとなれば、成功する可能性絶望的だ。



「くっ!(何とかならないのか!?コイツらの動きが止まれば……!あの司教に一泡吹かせられるのに!)」


「フフ……!さぁ、いい加減観念して、私の裁きを受けるのです!その命をもって、女神様への非礼の詫びとしなさい!」


「うるさいよ、豚野郎!罰を受けるのは、アンタだ!」


「ぶ……!?くぅおのおおぉー!!死ね!死ね!死ねえぇー!」



度重なる侮辱に耐えかねた司教は手を向けると【|神の釘《死傷をもって戒めるモノ》】を放った……。


冷静さを欠いた司教の攻撃は、焦燥に駆られていた周りの人間たちの足を竦ませる。

皆は巻き添えを恐れたのか、怯えた様子でその場にしゃがみ混むと、頭を抱えて逃げ惑った。


今が好機!司教までの道が完全に開かれた。


その距離、十メートル。



「いける!いや、いくッッ!」


「なっ!?」



最小の動きで飛んできた光の杭を避けると、最後の弾が着弾したことを横目で確認しつつ、前に向かって駆け出した!


司教までの距離、七メートル。



「あ、あれ……?」


「くっ!?」



このまま、敵の懐へ!そう一歩踏んだウリエスだったが、急に足から力が抜けるとそのまま崩れ落ちるようにその場に倒れ込んでしまった。


その姿を呆気に取られた顔で見ていた司教はなにが起きたのか瞬時に理解すると、ニタリと笑いウリエスを見下ろす。



「気持ちで動いていた身体も、限界が来てしまったようですね?フフ……。戦闘の訓練をしていないのです。身体もできてないのに、そんな大怪我をして動き回れば、当然の結果と言えるでしょう。」



司教はつかつかと靴音を響かせてウリエスに近寄ると、倒れたウリエスの頭を踏みつけた。



ーゴン!ゴン!ゴン!



何度も何度も踏みつけられたウリエスの顔には地面に打ち付けられ、青アザや裂傷ができていた。

口元には、血が滲んでいる。



「ぐ、うぅ……!(あと少しだったのに!)」


「フフ……アハハ……!ハハハ……!私をコケにした罰です!泣いて懇願するまで、お仕置きしてあげましょう!【|神の釘《死傷をもって戒めるモノ》】!」



ーズドン!



「ぎぃ!?痛っ!!」



立とうと踠いていた手に、司教が光の杭を落とす。


光の杭が地面に磔るように手を打ち付けていた。



「この杭は私が魔力を送る限り顕現し続けます。地面に縫いつけた状態のまま、貴方の肢体に一本一本と杭を打ち付けてあげましょう!どうです?恐ろしいでしょう!?謝罪するなら、脚くらいは見逃してあげてもいいですよ?」


「……ふ。ふふ!私利私欲に溺れた豚野郎に謝る言葉なんかないね!」



ファーーック!!と、無事な手で中指を立てて見せると、ニッカリと笑って見せるウリエス。


最後まで、この天使は……譲らない。

たとえ、肢体が杭に打ち抜かれても、この天使の心は折れることを知らないだろう……。



「貴様ッッ!この期に及んで!もう、許さん!!」



有利な位置に立ったはずの司教も、その顔を見た瞬間には感じていた優越感も安堵も嘲笑も全てが吹っ飛んだ。


ただ一点の曇りない怒りに塗り挙げられた心で、司教は手を向けて叫ぶ!



「【|神の“大”釘《死傷をもって戒める“巨大な”モノ》】!!!」


ーズズズ……!!!



意識的に魔力を多く送り込み、今までよりも何倍も大きな杭を生み出すと司教は地面に磔にした天使の頭目掛けて杭を射出する!



今までもよりも重く低い音を立てて光の杭は、天使の目前へと迫ってきた。



「……魔王。後のこと、頼んだよ。全部、《ぶっ壊して》。」



迫り来る杭を、目を閉じて迎え入れるウリエス。


その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。


まるで、人々を想う天使のように安らかな笑みを浮かべて、自身の家である教会の破滅を《魔王》に託したのだった。



「それはいくらなんでも、無責任じゃないのかな?しっかりと、あなたが正していかないとダメじゃない。」


「え?」


「「なっ!?」」



ートトン……!



突如、頭の上から聞こえた声に驚いて顔をあげると、短いスカートの中でピッタリと肌を護る純白のパンツが見えた。


次に見えたのは、よく磨かれた銀色の刀身とそれを支えるように取り付けられた“ドラゴン?”の金装飾。


長い槍のような物を軽々と振るう、明るい橙色の髪の少女だった。


そして、全てを黙らせるほどの……その腕力!!



「ふっ!うう~~りゃあぁーー!!ぶっ飛べえぇー!!!」


ーカキーン!!


「なっ!?危なっ!!」



向かってきた光の杭を、野球の要領で全力で打ち返す。

打ち返された杭はなんと、ピッチャー返しよろしくで、まっすぐに司教に向かって巨大な砲弾となって返っていった!


まさかまさかのカウンター攻撃に、目を丸めると咄嗟に司教はしゃがみこむ。


グオングオン!と重い唸りをあげて、光の杭は変な回転をしながら司教の頭上を通り過ぎると、そのまま教会に設置された石像へと激突した!


罰当たりなことに、美神教(カリテス)の崇める象徴である女神様の石像にだ。



「め、女神様の石像が!?あ、あなた、なんてことしてるんですか!?女神様の偶像に当たってしまったじゃないですか!なんと罰当たりな!!」


ーぐらり……ズドーン!!



少女を振り返った瞬間、司教のすぐ後ろでぐらりと石像が傾く。

そのまま司教の無防備な背中に目掛けて石像は倒れ込んできた。



「やったー!ホームラーン♪」


「なんだ、あの小娘ガ八ッ……!?」



目の前で楽しそうにはしゃぐ女の子に、気を取られていた司教は、背後から衝撃を受けて吹っ飛ばされるとそのまま意識を失った……。



「……ま、マジで?」



その場の皆は頭の上ではしゃぐ少女と、気絶した司教を交互に見る。

その光景を一番近くで目の当たりにしていたウリエスは引き攣った笑みを浮かべて苦笑するしかなかった……。



「はーい、皆さん!とりあえず、拘束させてもらいますねー。問題がないと解れば、解放しますので、取り調べには素直に応じた方が賢明ですよー。」


「は、はぁ。」



観月の合図で、中へと招き入れられた衛兵たちが中にいた人々を形ばかりに拘束していく。当然、石像の下で気絶していた司教も拘束され、マジックアイテムも取り上げられた。


呆気に取られていた天使たちは、ウリエスの説得により拘束は免れるも、どうしていいか分からないのか、呆然と立ち尽くしていた。


皆が拘束され、兵士たちに連れられていく中、シルクにより治療を受けていたウリエスはふと、周りを見渡す。



「魔王は来てないんだね?」


「ユーちゃんは別行動中だよ。今頃、大天使を引き付けて街の外にいるんじゃないかな?」


「大天使相手に一人で戦ってるの!?そんな無茶な!?」


「あはは!大丈夫、大丈夫。ユーちゃんなら問題なく相手できると思うよ。それに、今回は倒すことが目的じゃないし?」


「え?どういうこと?」


「それは……あ、戻ってきたみたい。」



教会を出る兵たちと入れ違いに、足音を響かせて悠々とユースケが戻ってくる。

特に荒事が起きた様子もなく、怪我ひとつ無いようだ。

元気そうな姿に、ウリエスは小さく胸を撫で下ろした。


ウリエスの様子を見ると、少し驚いた顔を見せたがすぐに状況を察したのか、ニコリと微笑みかける。



「協力してくれたんだな。ありがとう、天使くん。お前のおかけで、無事に作戦は終了できた。」


「え?あ、作戦?」


「違うの、ユーちゃん。協力どころか、今回はこの子が功労者って感じだよ。一人でここにいる天使たちと司教を相手に戦ったんだ。」


「へぇ……!大丈夫だったのか?って、その怪我をみれば熾烈を極めたのは一目瞭然か。痛かったろう?」



僅かばかりの感謝の礼にと、回復ポーションを取り出しウリエスの傷口にかけていく。

しばらくすれば、傷も塞がり跡形もなく美しい肌へと戻るだろう。



「あ、ありがとう。でも、いいのかい?貴重なポーションなんだろ?」


「命を張って、自分の意地を貫き通したヤツに使って、勿体ないなんてことあるわけないさ。これこそ、十分に価値のある使い道だよ。」


「あ……。」



空になったポーションを見せて笑うと、よく頑張ったと頭を撫でて傍らで見守る天使たちを眺める。



「この教会は、もうダメだろう。司教は恐らくこのまま審問にかけられて、隠された真実を掘り起こされる。きっと、厳罰を与えられるはずだ。天使に関することだけなら、上から圧力をかけて揉み消されることもあるだろうが、今回の情報には《人身売買》の証拠もセットで入ってるからな。」


「人身売買までしてたのか……。あの豚野郎。」


「教会は間違いなく、この教会を切り捨てるしかないわけだ。それは同時に、人身売買を認めることになる。となると、“買い手”として名前が残っている数多の“貴族”たちにも影響が……ふふ!王都はしばらく大混乱だな。あはは!」



これから起こることを予想して、口元に笑みを浮かべたユースケは端で固まる天使たちに目を向ける。



「当然ながら、お前たち天使はこれから世界から信仰心だけでなく、疑心も受けるようになるわけだ……。」


「っ!?な、なんで、こんなこと……。」


「お前たちは悪くない。悪いのは、全部お前たちに正しい道を示さなかった“アレ”のせいだ。」



クイッと、ユースケが祭壇の方に指を向ける。そこには、地面に落ちて少し崩れた女神の石像があった。


美神教(カリテス)の象徴でもある、女神の石像。それは、地面に落ちた衝撃で一部が砕け、半分ほどヒビが入っていた。


まるで、今のこの場所とこれからの美神教(カリテス)を示すような姿に、その場の天使たちは思わず息を呑む。



「お前たちに正しい知識と力を与え、真に誰からも歓迎される存在へとさせてやれなかったのは、間違いなく俺たちと同じ“人間”であり私利私欲に塗れた“怪物”と成り果てた美神教(カリテス)の中枢の人間たちのせいだ。」


美神教(カリテス)が“怪物”……?」


「あぁ。怪物だ。俺は怪物を退治する。そして、真にお前たち天使が皆から許され、祝福され、共存できるような世界を創るんだ。」


「祝福される?ボクたちが?」


「あぁ。夜に紛れて飛びまわるのはもう、終わりにしよう。皆がこの青い空の下で自由に飛べる日を俺は心から願っているんだ。」



そう言って差し出された手に、怯えた様子だった天使たちは僅かに緊張を緩めると互いに顔を見合わせる。

そして、信じていいのか問うべくウリエスに目を向けた。



「ウ、ウリエス……。」


「冗談みたいだろ?でも、その人は本気でそう思ってくれてるんだよ。本気でボクたちの未来を考えてくれてるんだ。だから、ボクも信じてみようと思う。この人を。この人の目指す未来を。」


「ダメだった時は、俺の首をやるよ。」


「それだけの覚悟があれば十分だよ。フフ。」



手を取るように促すと、ウリエスはすっかり治った傷を確認して、ふと教会から《ゆりかご》に続く扉に目を向ける。



「なぁ、魔王。この奥の子供たちはどうなるんだ?」


「少なくとも、この教会は解体されるだろう。だが、子供を路頭に迷わせるわけにはいかない。俺の知り合いにお願いして、対応を考えよう。きっと、良くしてくれるはずだ。そこで、天使の皆ももう一度、天使“様”ではなく一人の人間として過ごすといい。新たな価値観を育み、本当に成すべきことを学ぶといい。」


「……本当に成すべきこと。うん!分かった!」



俺の手を強く握り返し、強く頷いた天使は輝いた目で見上げ返して来た。

澄んだ目をしている。

何とか穢れきる前に保護できたようだ。



「さぁ、天使の皆は羽を隠して、俺と共に来い。まずはお偉い様に報告だ!」


「大天使の方は大丈夫そう?」


「万事滞りなく!美神教(カリテス)は今頃、大混乱だろうよ。」



観月に答えるように、堕ちた女神像に目を向ける。


今頃、“逃げた”大天使がきっと撹乱させてくれてるはずだ。


俺は頷き、不思議そうな顔を向けるウリエスに今回の作戦の全容を明かした。




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