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女神に代わってお仕置よん!につき④

~ 所変わって、教会内部 ~


観月とシルク、ハヤーが開戦の狼煙を受けてやってきたのだが、到着した時点で教会内は少し不穏な空気に満ちていた。


教会内で五人の大人と一人の天使が向き合っていたが、和やかに談笑している様子ではない。

むしろその空気は天使を皆で取り囲み問いただしているような、そんな空気であった。


取り囲んでいる者たちの中心にいる人物。

皆の代表として司教が、天使に問いかける。



「ウリエス……。貴方、天使の身でありながら、女神様を裏切るのですか?」


「裏切る……?何を言ってるんだよ。美神教(カリテス)を裏切ったのは、キミの方だろう?」



裏切り者と罵られ、ウリエスと呼ばれた天使は不快感を露わにすると睨みつけるように司教を見る。



「何をいうのです?私たちは今も昔も敬虔な信者ですよ。女神様に日々感謝を捧げ、今日も女神様の示す未来を共に見据えて祈っているのです。それが私たち、教会の人間なのです。それなのに、女神様の使徒といわれる貴方が司教である私のことを信じられず、大天使様の教育を否定するなどそんな悲しいことを仰るなんて……。いったいどうしたというのですか?」


「世間話ついでに、ボクは天使の皆から聞いたんだよ。大天使様から“この羽根の新たな使い方”を教えてもらって一人前になるんだって……。でも、その使い方はおかしいだろ!?羽根を武器に変化させて、異端者と戦うのは分かるさ。でも、侵略したり奪ったりするために使うなんて、そんなこと間違ってる!天使は“祝福”を与え、人々に寄り添う存在であって、人々から幸せを奪う存在であっちゃいけないんだよ!」



ウリエスは叫びをあげて心中に秘めていた嫌悪感を吐露する。現在、闇で行われている天使の“祝福”に失望したことを叫ぶ。


ウリエスの本気の言葉にシスターや神父は戸惑いの色を見せて、話の中心にいる司教を見る。


シスターや神父は知らないのだ。

あの忌まわしき“祝福”の正体を。


『祝福とは神秘的なものであり、天使や司教しか知りえない“奇跡的なもの”である。故に祝福を天使より授かることはとても幸運なことである。感謝を持って受け入れなさい……。』


そう彼女たちも学んできていたからこそ、その場に誰もが混乱していた。


司教が祝福を賛辞し、祝福の執行者である天使がそれを完全否定しているのだ。


周りの者たちは、わけがわからないだろう。



影から覗いていた観月はどうするべきか迷っていると、天使は司教達に背を向け、踵を返して歩き出す。



「人々に祝福を与える尊ばれるべき存在が、まさか、私欲の体現者であるゴブリンと同じだったとは。心から失望したよ。ボクはここを出ていく。もう会うこともないだろう。」


「この崇高な奇跡をあろうことか、ゴブリンと同じですと?何を戯けたことを!美神教(カリテス)を愚弄する気ですか!?」


「こんな、“大罪宗教”潰れてしまえ!ボクは外に出て、宗教外の人間に真実を語るよ。天使崇拝なんてものはまやかしだって。ただの強姦魔だってね。」



肩越しに振り返った天使は吐き捨てるように、呟くと中指を立てて教会の入口に向かって歩き出す。



「な……なんて愚かなことを……。」


「愚かは君たち美神教(カリテス)の盲信者さ。バーカ。」



振り返ることなく、天使は羽根を広げると大きくひと羽ばたきして風に乗ろうとかけ出す。



「待ちなさい!ウリエス!!!」


「じゃあな、“怠惰と強欲の司教様”。そして、無知の盲信者諸君。」


「怠惰と強欲ぅっ!?愚弄するのもいい加減にしなさい!」



羽根が風を捉え、今まさに飛び立とうとした瞬間だった……。


ードッ!


「ぐっ!?」



突如、背後からの肩への痛みにウリエスはバランスを崩すと地面へと滑り込むように落下した。



「痛っ!また、肩かよぉ……。魔王といい、いい加減にしてよ、もう!」



痛みを感じて肩を見ると一本の矢が刺さっていた。

矢を引き抜くと、矢の刺さった部分から鮮血が飛び散る。

痛みと怒りから、矢を射った犯人を探すべく振り返ると、そこには四人の天使が司教たちを押し退けてやってきていた。


「お前ら……!」


「司教よ。ウリエスはおかしくなってしまった……。きっと、“悪魔”にかどわかされてしまったんですよ。とても、信心深く人間の未来を想っていた彼だからこそ、悪魔はウリエスを恐れ、道を踏み外すようなことを耳元で囁いたんです。ウリエスはまんまと悪魔の囁きに耳元を貸してしまった……。」


「哀れな……ウリエス。」


「悲しいよ……ウリエス。」



天使たちはまるで劇を演じるようなオーバーアクションと大声で、ウリエスの状況を憂うと司教に向き直り両手を広げた。


ウリエスに対して言っているようで、実はその言葉はこの場の全員へと向けられたものだった。



『ウリエスは悪魔の仲間になったのだ』と。

『ウリエスは犠牲者なのだ』と。

『ウリエスは清められなければならない』と。


目の前の人間たちに向けて、天使たちは叫ぶ。



「(言葉に微かな魔力を感じる……。コイツら、人の心に呪いをかけてるのか。ボクが“裏切り者”だと皆の頭に刷り込んで、ボクを消すことに躊躇いをなくさせるために……!)」



天使たちの声を聞いて、明らかに目に憎悪や悲しみを浮かべたシスターや神父たちが、ウリエスを見つめている。



ー哀れな天使様

ー非道な悪魔め

ー悪魔に渡すな

ー天使様の魂を救済しろ



口々に周りの者たちは呟く……。

ただ一人、司教は効果がないのか、不敵な笑みを浮かべてウリエスを見ていた。



「っ!?お前ら……!どこまで人間をバカにすれば気が済むんだ。人の心を魔法で操作するなんて、絶対にやっちゃいけないことだろ!」



怒りを込めて立ち上がるウリエスは、皆に暗示をかけた天使に向けて叫ぶ。

誤解を解くために、人々に向けて叫ぶようなことはしない。


人の心は純粋で染まりやすく、また繊細で壊れやすい……。それを理解しているからこそ、ウリエスは皆に向けて“暗示の仕返し”を行うことはしなかった。


ここでコチラ側に皆の意志を取り返しても、また重ねがけされる。


綿の塊のような心を素手で引っ張り合うような応酬を続ければ、やがて散り散りに引き裂かれ皆の心が壊れてしまうことを危惧したからだ。



「ボクたち天使は、女神様の御使い。ボクたちの行いは女神様の手により行われた御業であり、ボクたちの口をつい出てくる言葉は女神様のお言葉なんだよ。そんな簡単なことも忘れてしまったのかい?」


「どうやら、ウリエスは信仰心をも失ってしまったようだ。女神様の御心がその身に降りていないからこそ、その声も届かずに理解できないのです。可哀想に……。」



ー 可哀想なウリエス……

ー 愚かなウリエス……

ー解放を!

ー悪魔に拐かされた肉体から魂の救済を!



天使と司教の言葉に、シスターたちがロザリオを掲げて祈る。

まるで、ウリエスが悪魔であることは最早疑いようのない事実であるというように、強い意志を持ってウリエスを睨みつけている……。



「(あんなに優しい人達が、今はボクを消すことに躍起になってる……。心理操作されているとしても、心から相手を信じていなければ通用しないのが、ボクたちの魔法だ。それだけ、今のボクは信用されてないってことか……。本当、ボクは何をやってきたんだろ……。もしも、魔王と出会ってなかったら、目の前の天使たちのように今夜にもそうなっていたのかな……?)」



吐き気がする……。そう、ポツリと呟くとウリエスは血の流れる肩を抑えて、ゆっくりと立ち上がる。



「女神様の名を私利私欲に利用するクソ野郎の集まりめ……。美神教(カリテス)なんて……滅べばいいんだ。」



天使は再び中指を立てて司教に向けると、そのまま親指を立てて下に向ける。

周りのシスターや神父がざわめき立ち、失望の色がその目に浮かぶ。



「|Go to hell. Fucking guys……《地獄へ落ちろ。クソ野郎ども……》。」


「っ~~!!お前たち!あの堕天使を始末しろ!私の前から消しさるんだ!」


「ウリエス……覚悟しろよ。」

「ウリエス……馬鹿な子。」

「ウリエス……さよなら。」



最後に見事にメンチを切って見せたウリエス。

その悪態は、司教の自尊心を揺さぶるには効果は抜群であった。

怒りのボルテージが一気に最高点に達した司教は、周りの天使達に指示を飛ばす。

武器を手に前へと出る天使たち。


三対一の圧倒的劣勢。傷を負ったウリエスでは最早、劣勢というより負けが確定した殺し合いだった。



「堕天使か……。ふふ……。それもいいかもしれないなぁ。確かに、ボクに真実を教えてくれたのは魔王だし。あながち間違ってないかもしれない。」



天使はツバサを広げると触手に変化させ、二対の槍を用意する。

軽く振って、傷への負担を考慮しつつ、ウリエスは前へと踏み出した。



「さぁ、殺り合おうじゃないか……。クソ天使ども……。自分の本分を忘れた者たちは皆、“粛清だぁ……。”」


「粛清されるのはお前だ!ウリエス!」



ー ガキン!



互いにかけ出すと、槍を振り回し相手の槍を受け止める。

カウンターで槍を突き出すが、それも掠ることなく二人は難なく避ける。


同じ体型同年代の相手であり、同じ師から習った槍術では決着が着かないことは、互いに分かっていた。


同じ経験を積んでいるからこそ、避け方もカウンターの出し方も、全てが互いに筒抜けだった。


つまりは互いに、なにかイレギュラーなことが起きなくては、勝負はつかないと分かっていたのだ。



ーぽた……ぽた……。



「どうした、ウリエス!少し、動きが鈍くなったんじゃないか?」


「(イレギュラーなら起きてるんだよな。誰が見ても、明らかに不利なのはボクだ。あちらはまだ無傷。だけどボクは始まる前から、怪我させられてる。その上……。)」


「ウリエス、覚悟!」


「くっ!」


ーシュ!ドドドッ!



ウリエスのいる場所に周りから挟撃を仕掛けてきた天使が矢を撃ち込んでくる。


槍を器用に使い矢を弾き飛ばすと、ウリエスは一歩下がり、振り下ろされる槍を避ける。



「意識が逸れたな!?その首、もらったぞ!」


「させるかっ!」



振り抜かれた槍は切っ先を切り返して、再び下からウリエスの腹に目掛けて突き出される。


ーガキン!ズバッ!


「痛っ!」


「消えろぉ!ウリエスゥー!」



突き出された槍を弾くが、切っ先が僅かに横腹を掠め肌が切れる。


また傷が増えてしまった。


それでもウリエスの戦意は薄れない。

むしろ、速さと重さの乗った槍は洗練された一撃となり、追撃をかける天使の腹へと向かって突き出された!



「ふっ!」


「がぁッアアッ!!!?」



命のやり取りの中で、限界まで集中力が研ぎ澄まされる。かろうじて、突き出された槍は見事……!!



「あ゛あ゛あ゛……?お腹……ボクのお腹……血が……血が出てるよぉ……!!?ウリエスウゥゥー!!ウリエスゥーッ!!」



相手の腹に切っ先を届かせた……!



「い、いだいぃ!?痛いよぉッ!死ぬうぅぅ!」



あまりに腹の傷が痛むのか、地面に倒れてのたうち回る天使。

それを冷めた目で見下ろし、ウリエスは天使の首に槍を突き付ける。



「痛い?そうだよね。」


「あぁ!?痛ぃ!?」


ープツッ!


でもね?とウリエスは首元に突き付けた切っ先を軽く押し付け、天使の首に新たに傷を負わせた。


刺した痛みと共に、つー……と生暖かい血液が傷口から垂れる感覚。

その瞬間、完全に天使は自分の敗北を悟った。


肩に矢が刺さろうとも、全身に切り傷が付けられようとも、目の前のウリエスは果敢に前に進み続けていた。

自分は腹に少し刺さっただけの少しの傷で、こんなにも狼狽え今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいなのに……。

目の前の天使と自分では何か決定的に違う何かがある。

そう、本能で感じてしまった……。



「お前、おかしいぞ……。本当にウリエスなのか……?」


「ボクはボクさ。何も変わらない。変わったとすれば、一つ。痛みを知ったことさ。」


「痛み……?」


「ボクたちは……“痛み”を知らなかったんだ。それが、全てを狂わせたんだよ……。」



ウリエスは少し自嘲気味に笑うと、天使の腹に槍を突き付ける。

トドメを指すためでは無い。

意識を今感じている痛みに向けさせる為だ。



「ボクたち天使が、多くの人々に与えた傷はそんなもんじゃない。ボクたちを信じる沢山の人達が騙され、沢山の人達が傷付いた。中には断罪され命を落とした人たちもいる。それは全て、ボクたち天使が自分たちの為にやってきたことだ。そのせいで……多くの人々が犠牲になった。そんな組織にボクたちはいるんだよ。それがどういうことか、キミは分かるかい?」


「この痛みを、多くの人々に与えた……?美神教(カリテス)が?」



天使は自身の腹の傷を見て、みるみる顔が青くなっていく。

痛みを堪えて立ち上がると、天使は司教へと振り返る。

その目には、明らかな戸惑いが浮かんでいた。

自分たち天使は間違っていたのか、間違った意識を植え付けられてきたのかと、その目が司教を問いただす。



「嘘だよな?司教……?ボクの祝福は、人々に喜ばれるものだろ!?ボクたちの存在は人間から感謝されて然るべきものだよな!?」


「あはは……!まったく……何を仰いますか。天使ともあろう者が……。」



向けられる視線に司教は腹を抱えて笑うと、その様子に少し安堵した天使は、ほら見ろとウリエスに振り返る。

自分は間違っていないのだと、誇示するように微笑んだ瞬間だった……。



「まったく……そんなわけないでしょう?お前たちなど、ゴブリンと変わらない厄介者ですよ!【|神の釘《死傷をもって戒めるモノ》】!!」


「……え?」



ー ズドン!



司教の声と共に、天使の胸を太い杭が貫通する。

光輝くその杭は、熱せられた鉄のように天使の胸を焼き穿くとやがて光の粒子となって消え去った……。

後には何が起きたのか理解できないという顔で、絶命した天使がゆっくりと崩れ落ちるだけだった。



「やれやれ……。まったく、バカはバカのままでいてくれればいいものを。余計なことまで覚えなくていいんですよ。君たちは適当に種を振りまき、その数を増やしてくれればいい。その数で、私たち司教は評価され報酬を貰う。そういう決まりなんですから……。余計なんですよ、そういう考えは。君たちは考えず、私の為に馬車ウマの如く働けばいいんです。フフ……。」



司教の非情な行いに、その場の誰も声すら出せない。

その静寂の中を一人のシスターがおぼつかない足取りで、フラフラと天使の元へと歩み寄る。



「いや……いや……!いやああぁー!!」


「静粛にしなさい。ここは女神様の御膳ですよ。」



天使の亡骸に覆い被さるように、泣き崩れるシスターに向けて、司教は淡々とした声で忠告するもその声は届かない。


それはそうだろう。

目の前で、“最愛の息子”を殺されたのだ。


号泣しない母親などいるものか。


しかし、司教はそれすらも疎ましく感じたのか、そのまま指輪をはめた手を向けて小さく息を吐く。



「ぐがっ!?」


ーズドン!



鳴き声をあげるシスターの背中に、またしても光の杭が打ち付けられる。


まるで亡骸に伏したシスターを地面に縫い付けるように撃ち込まれた杭は……シスターの絶命と共に静かに光となって消えていく……。



「まったく、まったく……。この親にして、この子ありというものです。ここでは、女神様の代弁者である私が法なのですよ。私が静かにしなさいというのなら、貴方は舌を噛み切ってでも黙るべきでした。それをしない貴方は十分に断罪されて然るべきですよ。」



なんの罪もない人を一人殺しておきながら、全く悪びれる様子もなく司教は笑みを浮かべたまま周りを見渡す。


動いてみろ、叫んでみろ……次はお前だと言わんばかりに周りを威圧していた。


とんでもない化け物だ。


指輪の力だろうか?それとも、司教ならではのスキルだろうか。


ただ手を向けて呪文を唱えるだけで、次の瞬間には目の前の人間は絶命してしまうのだ。


それを平然とやれてしまうとは、この司教はどうやら頭が完全におかしくなっているようだった。


その狂気を感じた皆は、すっかりと思考が戻り、怯えた様子で目の前の司教と亡骸に目を泳がせる。


知らぬ間に、皆の身体はガタガタと震え始めた……。




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