女神に代わってお仕置よん!につき③
俺はハロルド様に許可を貰い、屋根の上に登らせてもらう。ここは、どの建物よりも高く見晴らしがいい上に、街の中央にあるため街全体を警戒するには絶好の場所だった。
「シルフィ!」
『はーい♡』
「そろそろ、あちらさんが動き出す頃だ。俺とシルフィは大天使を抑える。観月、シルク、ハヤーは俺が大天使を抑えてる間に教会を制圧してくれ。司教はシルクが取り押さえろ。制圧が終わったら、観月はハロルド様に連絡して衛兵に司教を引き渡してくれ。」
「うん!」
「うー!」
「承知しました。」
俺はシルフィの風から流れてくる情報を元に、敵の出方を伺う。
『教会の方から街の上空に飛翔してくる奴がいるよ。大きさは、ダーリンと同じくらい。たぶん、これだよ!』
「確認した。あれが大天使か。」
シルフィの言う通り、町外れの教会から白いツバサの生えた何かが真っ直ぐに飛んで来るのが見える。
それは街の上空に停滞すると、キョロキョロと周りを見渡していた。
恐らく、俺たちを探しているのだろう。
「やっぱり、スライムたちが持ってきた物の中にマーキングされてる物があったんだろうな。」
『よくわかったね?』
「天使は信者を狙って、襲いにくるだろ?たぶん、一般人が持ってなくて、信者が持ってる何かを目印に判別してると思ったんだ。それがこの……聖書さ。」
俺は武器箱から鎧を取り出し身に纏うと、聖書を片手に甲冑の中でほくそ笑む。
『つまり……スライムたちが乱暴に奪ってきた聖書が異常に集められた場所を狙って、襲撃してくるだろうと予想してたわけよ。』
『なるほどね……。』
視線の先では大天使が何かを発見したのか、ゆっくりと下降していく。
その先には一つの民家があった。
民家の屋根に降りると大天使は首を捻ってしばらく考え込む。気配を消したまま、そっと二階のエントランスに降りると、窓から中を覗き込んだ。
中に人の気配が感じられないのだろう。
大天使は再び首を傾げつつ、今度は窓に張り付くようにじっくり中を覗き込む。
そんなにしても、気配がないだろ?
そりゃそうだ。なんたって……。
『そこには……誰も居ないからな!』
ーギリギリ……!
俺は武器箱から取り出した剛弓【邪龍のアギト】に鉄製の矢を番え、五割ほどの力で引き絞る。
MAXで引き絞れば、着弾地点である家は木っ端微塵になるだろう。
それほどの威力を放てるほど、この剛弓の威力は高いのだ。
『我が憤怒、存分に喰らえ!!』
ー グオオォーーー!!!
【邪龍のアギト】から発される龍の咆号と共に、一本の鉄製の矢が大天使のガラ空きの背中に向けて放たれた!!
「ん……?がっ!?」
背後から聞こえた咆号に気付き、振り返る大天使。
自身へ目掛けて飛んでくる矢に気付いたのか身をひねり、なんとか背中への一矢を避ける。
しかし、気付くのが遅かったために完全に避けることはできず、その背中から生えた純白の片翼を貫かれてしまった。
「ぐっうぅ!?痛っ……!?」
貫かれた羽にはぽっかりと穴が開き、とめどなく血が流れる……。
その背後には貫かれた矢が窓をぶち壊して民家の中へと飛び込んでいた。
大天使の羽根をくり抜き、さらに民家の窓をぶち抜いて中まで飛び込む威力に、俺は満足気に頷く。
『いいねぇ……!』
『相変わらず、馬鹿げた威力だねー。』
隣でシルフィの驚嘆する声が聞こえる。
間近で見るのは何度目だろうか。
シルフィもいい加減慣れてきているようだった。
『でも、今はこの威力が心から頼もしく感じるよ。さすが、邪龍と呼ばれた世界最強のドラゴンだ。』
ーグルル!グルル!(そうだろう!そうだろう!)
俺の賞賛する声が聞こえているのか、弓から嬉しそうな、それでいて誇らしげな龍の笑い声が聞こえる。
やっぱり、生きてるだろ、この弓……。
視線を大天使に向けると、遥か彼方の民家の前で立ち尽くしている。
他の下級天使のように、痛みでのたうち回るようなことはしないようだ。
さすがは大天使。痛みに対する耐性もしっかりと体得しているようだ。
『でも、それもいつまで続くかな?』
俺は矢を木製に変えると、火魔法を付与して、大天使に向けて弓を射る。
大天使は再び襲い来る矢に気付いたのか、軽く矢を避けると、俺の位置を捉えることに成功したのか大天使は俺の居る位置に向けて飛び立とうと羽根を広げた……。
驚いたな……傷が塞がってる。
だけど……。
『背中がお留守だぞ?』
「っ!?」
俺が肩を竦めて笑ったのが見えたのか、大天使は思わず飛び立つことを戸惑った。
その瞬間、大天使の背後から爆発音と共に窓から炎が吹き出し、大天使を背中から包み込んだ。
これには流石の大天使もダメージを恐れたのか、炎から逃れるために空へと飛翔する。
「ぐっ!?羽が少し焼かれた。家の中に、何か仕込んでたな?アイツ……ふざけたマネしてくれるじゃないか……。」
大天使は怒りを露わにすると、焦げた羽根を大きく羽ばたかせて屋根の上で待ち構える俺に向けて一気に距離を詰めてきた。
『さて……引き付け開始だ。一旦、逃げるぞ。シルフィ!よろしく!』
『うん!それじゃ、いっくよー!』
俺は怒り心頭の大天使に背を向けると、俺は街の外を目指してシルフィと共に飛翔した。
大天使の追ってくる様子を確認しながら、俺は街外れの林に向けて飛翔を続ける。
『ダーリン。降りる場所は林でいいの?』
『あぁ、お願い。視界を遮る物が多い方が優位に立てる。』
『分かったよ。』
シルフィの誘導で、俺は林に降り立つとすぐさま大天使の視界から逃れるように、草木の中に身を隠す。
「ちぃっ!逃がすか!」
大天使は俺の降りた場所に続いて降りると、俺の隠れた場所へ手を向ける。
まるで銃を撃つような手の形を茂みに向けると、その指先に眩い光が灯った。
「【聖なる光矢】!!」
大天使が叫んだ瞬間、指先から無数の光の玉が放たれた。
ー ダダダダッ!
まるで、俺たちの世界でのアサルトライフルのような射撃速度で、茂みの中を撃ち抜いていく。
それ、アローっていうより、バレットじゃない?という、心のツッコミはさておき、俺は必死で攻撃を重ねる大天使を眺める。
え?眺める余裕あるのかって?
えぇ、ありますとも。
だって、この人……。
「くっ……!コイツッ!出てこい!」
ードドドッ……!
全然違う所に撃ってますもん。
大天使ががむしゃらに撃ち込んでいる真横の茂みから顔を覗かせ、じーっと大天使を観察していた。
全然、気づかないな……。
まぁ、好都合だ。これを機に、『大天使』のスペックを確認しておこう。
「どうだ!?そろそろ、つらくなってきたんじゃないか?大人しく奪った資料を返すなら、助けてやらないこともないぞ!?」
目の前の大天使は、今まで倒してきた天使よりも幾分か成長しているようだ。
年齢でいえば、俺たちと変わりないくらいだろうか。
見た目は完全に青年だな。おツムは弱そうだけど……。
街中でとかで、ナンパとかしてそうなチャラいイメージだ。
お兄さん、こんな軟派なタイプは大っ嫌いですよ。
(↑もちろん、自分のことは棚に上げている笑)
……昨日の天使もこうなるのかなぁ。
やだなぁ。こうはなって欲しくないなぁ。
「くっ!これだけ打ち込んでも、出てこないか!?いいだろう!なら、もっと凄いのを見せてやる!」
大天使は羽根を広げ、高らかに叫んだ。
んー、傷付けたはずの羽は綺麗なものだ。
自己回復能力でもあるのか?
「はーっ!見よ!これが選ばれし者の力だ!」
『うわ……。典型的なヤラレ役のセリフだ。』
羽根を広げると、さらに羽根が二枚追加される。
なるほど、天使の成長には羽根の数にも影響を及ぼすのか。
天使は二枚で、大天使は四枚と。
ということは、熾天使は六枚になるのか。
変幻自在の太い触手が四本。
真っ向からやり合うと、少し厄介かもしれないな。
相手の力も分からないし、ここは様子見でいいかな。
先程と同じように、指で銃のカタチを作る。
それに合わせて背中の羽根が変化し、黄金の筒が両肩にセットさせれる。
残りの二本を地面に突き立て、身体を固定しているようだ。
なるほど、理にかなっているように見えるが……その見た目は紛うことなき、アレ。
『(ガンキャ〇ンだ……。)』
「くらえー!【聖なる杭】!!」
ーズドーン!!
両肩のキャノン咆から眩い光を放ち、目の前の木々を吹っ飛ばす天使。
「ふふ!どうだ!」
『どうだと言われてもなぁ……。』
「なっ!?いつの間に!?」
『いや、いつの間にも何もずっとここに居たんだが……。』
俺は苦笑を浮かべつつ茂みから出ると、肩を竦める。
勝手に勘違いして、勝手に攻撃して、勝手に悦に浸っていたのはお前だろうに……。
そんなに、憎らしげに睨みつけないで欲しい。
「お前、何者だ?その魔力といい、姿といい魔王と言って遜色ないレベルだが。本当に魔王なのか?」
『あぁ、お前には名乗っていなかったか。』
俺はマントを靡かせ、抑えていた威圧スキルを全開にして一歩踏み出すと大天使の前で、威風堂々と名を明かす。
『我はアスモデウス。魔王アスモデウスだ。今代の魔王とは別の存在である。この歪んだ世界を正し、我が理想の世界を創りあげるために地獄よりやって来た。お前ら、美神教の行いは、我が愛する存在たちを傷付けた。まさに我が逆鱗に触れたお前らは万死値する。全員……粛清だぁ……!』
「なっ!?まさか、本当に魔王だったなんて。司教はそんなこと言ってなかったぞ!?」
俺の威圧に、天使は思わずたじろぐ。
能力は天使の何倍もあるが、中身が伴っていないせいか、まるで今までの天使と変わらない印象だ。
『お前の前にも三十ほどの流れの天使を討伐したが、皆同じことを言っていたな。お前らの協力者である司教とは、“怠慢”なのだな。身の回りで異常が起きているのにロクに調べもせず、次から次に我の目の前に天使を送って来る。須らく我の贄となっていったぞ。フフ……。』
証拠とばかりに、大天使の前に魔石をばら撒く。どれも、天使から奪った魔石だ。
「っ!微かに天使の気配を感じる……。本当に……お前が仲間を討伐したのか……。」
『安心しろ。お前もすぐにこうなる。仲間と共に眠るがいい……。そして、何も知らない教会の天使どもも同じように粛清してやる……。』
「っ!?教会の天使たちまで狙っているのか!?」
まぁ、人を襲ったことがないというし、本当は討伐するつもりなんてないけどね。
昨日、会った子は中身はちゃんとしてたし。
でも、こう煽るように言っとけば、コイツは美神教の危機を十分に感じてくれるはずだ。
『人を襲うことに戸惑いがなくなれば、それはモンスターと変わらん。モンスターは討伐されて然るべきだ。我は我と、人と魔族と天使と全ての存在が協力し合える世界を求めているのだ。己の欲を満たすだけのバケモノなど、人であろうが魔物であろうが、我が目指す世界では不要だ。』
「勝手なことを……!教会の天使には誰一人触れさせない!オレが護る!」
『ならば、戦え!己の平穏を脅かす我を、己が持つ全ての力を以てねじ伏せるがいい。それができぬのであれば、ここで散れ!』
「……お前を倒す!倒して、天使の繁栄を見届ける!」
『フフ……!』
不敵に微笑む俺に天使は姿勢を落とすと、触手を四本の槍に変化させて一足で飛び込んできた。
魔王と大天使、それぞれの未来をかけた戦いの火蓋が今、切って落とされた!
『(あれー?なんか、俺、思いっきり悪役じゃない?)』という疑問は脇に置いて、突き出される槍を俺は篭手で凌ぎつつカウンターで拳を突き出した……!




