その幼なじみ、頑張り屋さんにつき
「観月、もう一回。」
「だ、だめ!もうおしまい!これ以上は、私が保たないから!」
「えー……。」
「また明日ね!明日!」
「(明日ならいいのか……。)」
ぶーたれる俺に、観月は真っ赤になって首を振ると、布団に丸まって完全防御の姿勢で叫ぶ。
結局、顔が出てるから狙われている唇は全然、隠れてないけどね。
「えー……。」
「一日一回!じゃないと、私が保たないの!今も心臓がバクバクなの!」
「……はぁ。観月となら、ずっとしてたいのに。」
「も、もう!世界救うんでしょ!ほら、ステータスみよう!先に進まないよ!」
「もう、ここで永住するのも、ありだと思う。子供をたくさん作ってさ……。」
「それは、魅力的……って、だめ!終わっちゃう!転生物語がステータス確認で終わっちゃうから!それにハーレム作るの夢なんでしょ!?なら、ここから出ないと!」
「……え?驚いた。ハーレム作っていいの?」
「そりゃ……嫌だけどさ。たぶん、止められないから。」
「止められない?」
「なんだろう?そんな気がするんだ。一緒に過ごして来て、いつも思うことがあるの。たぶん、ユーちゃんの一種の才能なんだと思うんだけど、ね?」
もそもそと、布団から頭を出して、観月は真剣な顔で頷いた。
「ん〜?俺の才能っていえば……ハレンチだね!」
「一生封印してて欲しい才能だね。でもたぶん、それに関することなんだけど。なんでか分からないけど、ユーちゃんからエッチなことされた人はみんな、ユーちゃんが好きになるんだよね……。」
「…………は?んなバカな。そんな夢みたいなこと、あるわけないって。」
そんな、ハレンチなことされて喜ぶ女の子が続出する世界なんてあるわけない。
だとしたら俺は今頃、学園中の女の子とイチャコラな毎日を送っていたはずだ。
「私もバカなこと言ってると思うんだけど、たぶん、間違いないんだよ。例えば、クラスの女の子はユーちゃんのこと好きだったよ?」
観月は指折り数えながら、俺を好きだったという女の子の名前を次々と挙げていく。
確かにクラスの女の子たちの名前だ。
間違いない。俺がハレンチなことして追い回していた女の子たち。
一度ならず、二度三度とトライしてみんな、パンツを拝ませて頂いた天使のような女の子たちだった。
男子からは、その思い切りのよさに憧れられていたが女子からは完全に警戒されてたっけ。
特に風紀委員の霧島さん。
『栄咲遊助!!またお前か!そこに直れ!』
まぁー怖いのなんの。
剣道をしてるためか、いつも手に持った竹刀がよく似合ってたな。
でも、なんでか俺の前では隙だらけでパンツ見放題だけどな。
霧島さんだけは、毎日のようにパンツもおっぱいも堪能させて頂きました。
むふふ……!
国士無双女子も、俺のハレンチの前では赤子の剣だったわい!
「あ、ちなみに、霧島さんもユーちゃんのこと好きだったよ。というか、好きすぎて半ばストーカーしてたね。ていうか、見せに行ってた。半分露出癖に目覚めつつあったよ。」
「え……?マジ ?どおりで俺の行く先々で邪魔してきたわけだ。って、えぇ!?露出癖!?なにそれ!?」
「怖いよねー。ユーちゃんに関わると何かしらの性癖に目覚めさせられちゃうんだよ、きっと……。それより大変だったのはクラスの方だったんだよ?みんな、ユーちゃんのこと狙ってたから幼なじみの私は肩身が狭くって……。だから、私は……。ふっ……。厳しい修行に身を投じ、ユーちゃんを護り候う。」
「ど、どうした急に……。」
フッ……と観月の目から光が消えると拳をぎゅっと握り、不敵な笑みを浮かべていた。
そういえば、ある日、観月が泣きながら帰った日があったんだ。
気になって聞いたけど、なんでもないの一点張りだった 。
それからしばらくして、唐突に薙刀を習い始めたんだよな。
そのまま、ぐんぐんと成績を伸ばして全国インターハイで一位を獲得したんだ。
本当、凄いよな。
しかも、勉強の方も常に上位に居たし。
まさに、文武両道才色兼備の名を欲しいままにしていたのが目の前にいる幼なじみなのだ。
幼なじみとして鼻高々だよ、本当。
「え?もしかして、薙刀も勉強も、俺にクラスメイトを寄せ付けないためにやってたのか?」
「あ、うぅ……///」
まさかと思い、つい出た言葉だったが実は的を得ていたようで、観月は顔を真っ赤に染めると布団に顔を埋めて押し黙ってしまった。
マジかー……。通りで前から女子たちがチラチラと観月を警戒していると思ったら、そういう事だったのか。
「可愛いやつめ。」
「うぅ~……。だって、ユーちゃん、変態なことばかりしてるようで、なんだかんだ、凄いじゃない?私も置いていかれないように、側に居ても釣り合いが取れるようにしたかったの!」
「そうか?俺が成績で観月に勝ったことないぞ?」
発表の時には、いつも観月の順位が俺の上にいつもいることが多かった。
勉強に関しては小学生の時からだったと思う。俺にはそれが、当たり前だったので俺からすれば、観月の方が断然凄いと思うが。
「小学生、中学校までは良かったよ?でも、学園に入ってからだよ!!ユーちゃん、いつも二十番を切らなかったでしょ!?みんなも知ってるんだよ?必ず、上位近くにいるの。エリートクラスの人達が並ぶ中に普通クラスのユーちゃんがいるから、私も頑張るしかないじゃん!」
「…………あ、それたぶん、生徒会長に捕まって、毎週勉強を叩き込まれてたからだ。まぁ、指導はわかりやすいし、何よりあの太ももが良かったからモチベーションは維持できたな……。」
「知ってるよー。あの学園のマドンナ的存在の桜城さんでしょ?こっちに来る前に、言ってたけど、桜城さんも狙ってたからね。放課後は、ユーちゃんをいつも探してたよ。ユーちゃんとの時間を作るために勉強会してたみたいだけど……そのせいで、ユーちゃんの成績が鰻登りになって!!それに追いつき追い越すために、どれだけ時間が必要になるか!!うぅ……テスト前はつらかったー……。つらかったんだよぉー!!」
頭を抱えて、観月は深くため息をつくと、ほろほろと涙を流す。
本当、相当キツかったんだな……。
ごめんな。
でも、観月の吐露はそれで終わりではなかった。
ムクリと顔を上げると俺を涙目で睨みつける……。こ、怖いんですけど……。
「あと、アレだよ。弓道……それとアーチェリー……陸上部……水泳部……その他諸々!文芸部まで!!どんだけ!どんだけの部活を渡り歩いてハレンチして……ハレンチして!!好かれて、また捕まって、指導されて、ハレンチして!!なんでか、いい成績挙げて!郡大会!?県大会!?知らない内にメダルなんか貰ってきてるし!意味わかんない!意ー味ーわかーんなーいーよー!!」
色々とついでに思い出してきたのか、とうとう爆発した観月は布団を叩きながら、ジャバジャバと水道全開のような涙を流して叫びにも似た声をあげ始めた。
たぶん……幼なじみという縛りが解けて、今まで蓋をしていた心の中身が出てきたんだろう。
よかったよかった……のか?
「まぁ、好きこそ物の上手なれって言うし。」
「ユーちゃんが好きなのは、女の子でしょ!」
「好きだね!女の子の全てが好きだね!だから、女の子が頑張ってる競技も好きになるしかないよね!」
「結果これだよ!完璧超人の変態が出来上がったんだよ!それを、皆からガードするために、私、私は凡人ながらに、必死に頑張ってきたんだよおぉー……!うわああーん……!!」
ついに、蓋が吹っ飛んだ観月は、大洪水かと思うほどの涙を流して大声で泣き始めた……。
うん。もう、ごめん。本当、ごめん。
余計なこと言わんよ、もう……。
俺が女の子大好きなために、大変な思いさせて、本当にごめんね。
「ごめんな。大変な思いしてるの知らないで、呑気なこと言って。ありがとう。俺のために、頑張ってくれて。」
「うわああーん!ほんとだよぉ!私、頑張ってたのに、次から次に女の子追いかけて、少しは私も見てよおぉ!」
「見てるよ……。」
「見てなぃー!見てないもぉーん!うわああーん!」
「見てるよ。見てるから、いつだって、お前が一番なんじゃないか。」
言葉では伝わりにくいと思い、観月を抱き寄せ、しかと強く抱きしめる。
涙に濡れた瞳を見つめ、俺は強く彼女に頷いた。
「うぅ……ひっく……ぐすん……ほんと?」
「あぁ。いつも、頑張ってるのは知ってた。夜遅くまで勉強してるのも、空いた時間に薙刀を振っているのも知ってた。いつも、努力してる姿は知ってたよ。だから、俺も観月の努力に追いつくために色々なことにチャレンジしてたんだ。俺からすれば、観月の方が何倍も凄い女の子なんだよ?」
「私が、すごい……?」
「あぁ!すごくて、かっこいい女だ。」
「……ふふ。えへへ……ユーちゃんから、そんなこと言われたの初めてだなぁ。」
「いつも思ってたことだよ。俺のために頑張ってくれてたんだね。とても、嬉しいよ。ありがとう。」
感謝を込めて、観月の頭を撫でると、涙を拭い俺をじー……っと見つめ返してきた。
「…………ご褒美。」
「え?」
「私はユーちゃんのために頑張りました。たくさん、たくさん頑張りました。だから、ご褒美ください。」
観月は目を閉じると、軽く唇を差し出した。
ようは、キスをしたいらしい。
一日二回になっちゃいますよ?
なんて、野暮なツッコミはしないで、俺は観月の肩に手を添えると、そっと唇にキスをした。
ちゅっ……
「……えへへ。まーんぞく!」
「そりゃ、よかった。ついでに、服を着ないか?いい加減、俺の我慢が限界になる。」
満面の笑みを取り戻した観月は、満足そうに頷く。
俺は微笑み返すと、ついでにその豊満な胸を指でつついて警鐘を鳴らした。
彼女の泣き顔や笑顔。コロコロ変わる表情が面白くて、見ている内に滾るような欲求はだいぶ収まった。
今なら、襲いかかるようなこともないだろう。
「わっ!?そ、そうだ、私、裸!ゆ、ユーちゃん!あ、あっち向いて!あっち向いてホイ!」
「なんだ、そりゃ。」
「ホーイ!」
「はいはい……。」
自身の姿を思い出したのか、慌てた様子で観月は俺を振り向かせると服を着始める。
観月が服を着る音を聞きながら、俺はぼんやりと、先程までの話で気になったことを口にしてみる。
「なぁ、観月?」
「ん?なに?」
「観月のいう、ハレンチな特殊能力が本当にあったとしてだ。それ、いつから?」
「気付いたのは、学園に入ってしばらくした時かな?それが年々、強くなっていった感じ?それがどうかしたの?」
「いや、いくらなんでもおかしいだろ?やっぱり。別に特別イケメンって、わけじゃなくて、普通の男子が着替え覗いて、スカート捲って、胸さわって、それが恋に繋がるなんて違和感しかないって。さすがに、当人である俺が思うよ。」
「あはは……。どんなイケメンだったとしても、人としてセクハラはしちゃいけないよ……。でも、もしかしたら今回の転生みたいに、何かきっかけがあったんじゃないかな?」
「きっかけ……か。それも転生のように奇跡に近いような、何か……。奇跡?」
俺は頭を悩ませるが、別段なにかおかしいことはなかったように思う。
「あ、そういえば、転生前に神の加護とか言ってたね。それになんか、お姉さんも気になってたみたいだし。」
「加護ね。スターテスに何かあるかな?」
着替えを終えたのか、観月はベッドに座っている俺の背中に覆い被さると、ぎゅーっと抱きついてくる。
あれ?こんな、ひっつき癖あったっけ?
「それが、俺に開拓された観月の性癖か?」
「なにそれ。私に性癖とかないから。あるとすれば、“ユーちゃんフェチ”だね。ユーちゃんフェチ。ユーちゃんの全部大好き。ふふ……!」
「なんだそれ。」
ぎゅーっと、抱きつく力を強めて俺の首筋に顔を埋めると、大きく息を吸って甘えてきた。
まるで子犬だな。
俺は苦笑すると観月の頭を撫でて、自身の手元に向き直った。
「それじゃあ、確認してみるか。」
「うん!見よう!見よう!」
「「せーの、スターテス!」」
俺たちは目の前に手を向け、ようやくと言っていいスターテス確認を始めた。