女神は不在につき①
情報を元に教会に向かうと、教会は思いの外、人が居らず閑散としていた。
▷ちょうど、今の時間は早朝の礼拝も終わり人も街に戻っている時間ですね。司教か神父が中にいるはずですが乗り込みますか?
「ねぇ、リライアさん。司教と神父って何が違うの?ごちゃごちゃして、分からないんだけど。キリスト教での神父さんと何か違うの?」
▷この世界の司教は使徒を指します。神父はそのお手伝いをする人ですね。
「簡単に言えば、この世界では、女神様の御使いを気取ってるオッサンが司教で、それを手伝ってるのが神父ってことだ。俺たちの世界のキリスト教で使われてる名前と同じだけど、全くの別物と思っていい。比べるのもキリスト様に失礼ってもんだ。」
怖い怖いと、つぶやきつつ教会の中を覗き込む。
ローソクの灯りに加え、ガラス窓やステンドグラスから差し込む明かりのおかげで中は比較的明るかった。
閑散としているが、人が全く居ないというわけではない。お祈りをしている人の気配もあるし、中で掃除をしているシスターの姿も見られた。
「ん?懺悔室もあるのか……魅玖、懺悔室だぞ、懺悔室。行ってこいよ。」
▶︎ちょ!元魔王にそれ言います?しかも、今代の魔王が懺悔とか!ちょっと、面白いんですけど。
「たしかに、魔王が懺悔室に入ってる姿とかシュールな光景だな。面白そうだから行ってみよ。」
▶︎マジか、この魔王は!
「えぇ!?行くの?」
「うん。調べるにしても、入ってみないと分からないしな。」
「や、やめた方がいいんじゃないかな……。」
皆が静止する中、無言で教会の中に足を踏み入れた。渋々といった様子で、観月とシルクが後を着いてくる。
「おー、女神様像があるな。」
「あ、本当だ……。」
たくさんの椅子が並ぶ教会のイメージ通りの内部をゆっくりと歩んで行くと、祀られている女神様像を見上げる。
結構、大きいな。
三メートルくらいありそうな石膏の像だ。
見た目はハヤーに似ていて、色香と共に包容力も漂うグラマラスなお姉さんだ……。
「(……ん?あの顔……どっかで見た事ある気がする……。)」
両手をゆったりと広げて、今にも抱きしめようとするような仕草の彫刻を眺めて俺は首を傾げる。
「にしても……この女神様、えっろ!」
「声に出てるよ、おバカ……。懺悔してこいマジで。」
俺の叫びに隣の観月は、頭を抱えて深く息を吐いた……。
「うーん……綺麗な人だ。この人が女神様なのか。こりゃ、会うのが楽しみだわ。」
「私たちはこの世界で、この人を見つければいいんだね?」
「だと思うけどな……。まぁ、とりあえず今は中を探るか。女神のお姉さんの名を語る不届き者達を粛清しないとな。」
俺は周りを見渡し魔力の残滓を探す。
【天使キラー】の称号のおかげで、天使に対する戦闘にバフが付与されているせいか簡単に天使の気配を見つけることもできるようになっていた。
これなら、隠れている天使を見つけることも容易いだろう。
「シルク、頼めるか?沢山の証拠が欲しい。できるだけ沢山。“天使が犯罪に関わってる証拠。それを指示している者の痕跡。あと、王都の連中に関する資料。”なんでもいい。とりあえず、集めて欲しいんだ。」
「う!」
シルクはコクリと頷くと、十程のスライムがシルクの周りに集まってくる。
「教会の中をくまなく見て回って、どんな小さな情報でもいいから手に入れてくれ。」
「う!」
ーぷぷ!
ーぷるん!
シルクの号令で、スライムたちが一斉に教会中に散らばった。
ーーーーーーー
教会併設施設内部。
ここは教会に併設された養護施設。
児童養護施設である。
経済的な理由や虐待など、さまざまな理由で保護者と生活することが難しい、そして社会のサポートが必要と判断された児童が入所する施設だ。王都もこの活動を支援し補助金を出している。
入所した子どもたちを保護し、生活習慣を身につけたり社会生活に必要なスキルを得られるよう、支援を行っている。自立に向けた支援、退所した者に対してもアフターケア支援を行っており、まさに社会から零れ落ちた子供たちの最後の砦と言ってもいいだろう。
黒い噂もなく、とてもクリーンな環境といえる。
(マルフォイ家諜報員の情報より抜粋)
さて、表向きは慈善活動に勤しむ優良施設だが、その裏では何があっているのか。
人間の調査では入手できない情報も……
ーぷるん!
ーぷぷん!
スライムたちなら見つけることが可能なはずだ。
なぜなら、彼は僅かな隙間さえあれば、スルリと入り込んでしまえるのだ。鍵の有無など関係ない。
足音もなく、まるで水が床を無音で伝うように静かに、それでいて速やかに施設内を這い廻る。
中の住人にも気付かれないように、視界に溶け込み息を殺して巡り続ける。
「うー……。」
しかも、その恐ろしさはこれだけでは無い。
クイーンであるシルクの統率の元、“意志を持って”目的の物を探していくのだ。
天性の隠密スキルに加えて、意志を持った無駄のない行動。
これはもはや、“A級の諜報員”といえるだろう。
ーぷぷん?
ーぷぷー……。
「うー……。」
念話で会話をしているのか、シルクが長椅子に腰を下ろし目を閉じながら、声を漏らしている。
▷スライム特有のネットワークですね。念話というより、その優れた感覚器で地中を通して会話しているんですよ。
象も足の裏にも同じような感覚器があり、それで遠方の仲間と会話しているそうですよ。
「へぇ……。」
▶︎それに加えて、シルクさんに従うスライム(この辺りほぼ全部)は感覚を共有できますからね。クイーン特権で。やろうと思えば、ここから路地裏のスライムとでもリモートで会話や視覚を共有できるんですよ。
「すごいな、スライム。今も全員とやり取りをしているんだよな?」
「うー……。」
目を閉じる横顔を隣に腰を下ろして眺める。
まつ毛、長いな……。
俯いたことで流れた銀髪とそのカーテンの向こう側で揺れるまつ毛に思わず感動を覚える。
可愛いなぁ……。不意打ちでキスしようかなぁ……。
「うー……///」
「ん?」
▶︎あの、お忘れでしたらお伝えしますけど、当然ながら主従関係である旦那様の意識もシルクさんにダダ漏れですからね。
「あ、そうだったね。しまった。」
シルクを見ると真っ赤になった耳や頬が、髪のカーテンの向こう側に見える。
「シルク……可愛いなぁ。」
「うー!」
ぷくー!っと頬を膨らませると、シルクは目を開けて俺を見上げて呻く。
邪魔するな、ってことだろうな。
ならば、少しでもシルクを応援しようと、シルクのやる気が倍増する提案をしてみよう。
「シルク、膝に乗る?」
「うー!(キラキラ)」
膝を叩いて見せるとシルクは目を輝かせて頷くと、俺の膝に座わり背中を預ける。
すっぽりと収まったシルクを後ろから抱きしめると、嬉しそうなシルクが足をパタパタと上機嫌なご様子で揺らした。
「ふふ……!」
「うー……♪」
「シルクちゃん、ちょろすぎだょー。」
膝の上で上機嫌のシルクを見て、観月は苦笑を浮かべた。
そういう観月も、ちょろ甘いとその場の誰も口にはしなかった。
だって、この場のみんながみんな、サカエに対して“ちょろ甘”なのは自覚していたからだ……。




