ゴーレムさんはお茶目さんにつき!②
「すごいな……。この美しい彫刻がゴーレムなのか?とても、そうは見えないが……。」
「……。」
ー スッ……!
「ん?」
マジマジと見つめるハロルド様の視線が気に触ったのか、眉を寄せたハヤーは無言で手を振り上げる。
ま、まさか、平手打ちする気じゃ!?
「ハヤー!スティ!」
俺は突発的にハヤーを止めようと手を伸ばすが、急に動いたもんだから足がもつれて、ハヤーに抱きついてしまう。
さらに俺の手はなんと……!
ースルン……!モミュ……♡
「あっ……!んん……!?」
服の襟元にゆとりがあるせいでスルリと手が服に入り込み胸に触れてしまう。
まるで、水を入れたゴム風船のように柔らかな感触が手に伝わってくる。
「なっ!?ハ、ハレンチです!」
抱きつかれ、さらに胸を揉まれたことでハヤーの怒りがこちらに向く。意識が向いたのはいいが、おまけで平手が俺の頬を打った!
ーパーン!
「ブファ!?」
「……ハッ!?申し訳ございません!主様!」
「とっ!大丈夫?急に動くと……危ないよ?(イケボ)」
衝撃でクルクルと目を回す俺を後ろから抱きとめると、観月が俺を肩から覗いて苦笑していた。
「ドキッ!ちょっとやだー。イケメーン!」
「ふふ……!冗談がいえるくらいには大丈夫そうだね。よかったよかった。」
俺を抱える観月はニコリと微笑むと、頭を撫でながら優しく話しかけてくる。
「だ、大丈夫か!?サカエくん!すごい音がしたぞ!?」
「あはは、大丈夫ですよ。少し、手元が狂っただけです。な、ハヤー。」
「すみません、主様……。」
「言ったただろ?手元が狂たっだけだよ、“お互い”にね。俺こそごめんね、ハヤー。」
心配して歩み寄るハロルド様に俺は手を振ると、隣のハヤーが深々と頭を下げる。
わずかに肩を震わせている姿に不安の色を見た俺は『謝るのは俺の方だよ。』と、ハヤーの身体に触れたことを詫びる。
「だけど、ハロルド様は身分が違う。冗談でも手を上げていい人じゃない。非礼を詫びるのは俺にじゃなくてハロルド様にだよ。」
「っ……。申し訳ございません、ハロルド様。私は人と接する機会が今までなく、まじまじと見られることに慣れていないのです。つい、警戒の色を見せてしまったことを心よりお詫び致します。」
俺に諭され、ハロルド様に深々と頭を下げるハヤー。
「い、いや!私こそ、申し訳なかった。レディに対して失礼なことをしたのは私の方だ。どうか、キミこそ謝らないでくれ。本当に申し訳なかった。」
ハロルド様は頭を下げ返すと、手を振りハヤーの行いを許してくれる。
何とか不問にしてくれて良かった……。
相手は貴族なのだ。
手をあげようものなら、問答無用で拘束されても文句は言えない。
出会ったばかりでお別れは悲しいよ、ハヤー。
「サカエくんも申し訳なかった。この子も、キミの大切にする女性の一人なのだろう?」
「えぇ。この子もまた、私の大切な女性です。先の遺跡で出会い仲間に……家族になりました。」
ハヤーに手を差し出すと、キュッと俺の手を取り握りしめてくる。 いきなりじゃなければ、以外とすんなり受け入れてくれるみたいだ。
「そうか。キミにも嫌な想いをさせてしまったな。家族を他人からマジマジと見られたら不快になるだろう。申し訳ない。」
「いえ、お気になさらず。」
「しかし、ゴーレムか。今代の魔王軍にダークエルフがいるらしいが、ゴーレムを多用する者だそうだ。旧四天王の一人ガブラスの叡智を受け継いでいるらしい。」
「っ……旧四天王!?」
「っ……ダークエルフ!?」
「うー……。(同じタイミングで、驚いた反応を見せたけど、ハヤーさんとご主人様は違うものに惹かれている様子。……ダークエルフさんかぁ。ご主人様、好きそう。)」
「なんだろうか。何か、教えてはいけない内容を伝えた気がする。」
「むーっ!」
「あはは……。(そして何故か、ミツキくんから睨まれているのだが……。)これは……失敬。忘れてくれ。」
観月はハロルド様を目を釣りあげて睨んでいた。
その様子を見て、ハロルド様は背中に冷たさを感じる。その気配はまるで、警戒する虎だ。
まぁ、稀代の女好きに対して、美麗で噂のダークエルフの情報を与えたとあっては、本妻から睨まれても仕方ないだろうと、一人納得するとハロルド様はハヤーに手を差し出す。
「私はハロルド=ワルフォイだ。よろしく頼む。」
「私は新たにサカエファミリーに加入しました、ハヤーと申します。よろしくお願い致します。」
ハロルド様の手を握り返すと、微笑み返すハヤー。
その手の感触に再び、ハロルド様は目を丸めた。
「温かい……。この子、本当にゴーレムか?」
「えぇ……。私はゴーレムですよ。このように……。」
ハヤーはハロルド様と握手をした“手首から先”残して一歩下がる。
一歩下がったハヤーの右手首から先は、彫刻が折れたようにボッキリと無くなっていた。その折れた手首はハロルド様と握手をしたままだ。
「あぁーー!!?手、手、手ぇぇーー!?」
自身の手を掴む細い手と、ハヤーの手首を交互に見ながらハロルド様は絶叫をあげる!
これは誰だって怖すぎるだろ……。
「ハヤー、悪ノリしすぎ。」
「ふふ……。さっき、見つめてきたお返しですよ。」
ギュッ!ギュッ!と遠隔でも操作できるのか、掴んだ手に力を込めて見せるとハロルド様は更に絶叫をあげる。
「悪かったー!すまなかったー!これはダメだ!怖い!怖すぎる!」
「ふふ!これに懲りたら、女の子をマジマジと見つめちゃダメですよ?」
「分かった!気をつける!神に誓って!」
「ふふ!お願い致します。」
ハヤーは固まって動けないハロルド様の手から右手首を回収すると、自身の腕にくっつける。折れた跡もなく、綺麗なものだ。
脱着可能なのか……。知らなかった……。
「ゴーレムですから。再生や巨大化と加工はお手の物です。やろうと思えば、別の姿にもなれます。」
「へー……。スライムの擬態能力みたいだな。」
「うぅっ!?」
「近いですね。」
「うぅっ!?」
まさに、シルクのお株が奪われそうな大ピンチである。
でも、大丈夫。シルクはシルクの良さがある。キミの蕩けるような柔らかさは天上天下どこを探してもきっと居ないだろう。
隣でショックを受けているシルクの肩を抱きしめると、シルクは甘えるように顔を擦り付けてくる。
「ふふ……。ハヤーの紹介も終わったし、教会に向かおう。情報収集だ。」
「ハッ!?驚きすぎて意識が飛んでいた……。教会に行くのだったな。気をつけて行きなさい。」
「はい!教会にアンリ様が近づかないようにお願い致します。」
「あぁ、可愛い姪っ子だ。怪我はさせられないからな。こちらは任せておきなさい。」
ハロルド様は了承するように頷くと、メイドを呼び寄せ出口まで案内を頼んでくれた。
ハロルド様の屋敷を出てすぐに、屋敷の警備をしていたマタイ隊長が声をかけてきた。
「やぁ、サカエ殿。先程、報告が来たよ。遺跡の調査をありがとう。中をウチの副隊長と数名が確認したが、モンスター一匹いなかったそうだ。住民の安全が守られてホッとしている。全て、倒したのか?」
「えぇ。全部、燻製にしました。」
「燻製……。どおりで、副隊長がソーセージが食べたくなったと叫んでいたわけだ。おかげで今日は隊の皆で飲み会が急遽立ち上がったぞ。サカエ殿もどうだ?」
「あはは!俺は酒が飲めないので。」
「なんだ、下戸なのか?まぁ、美味い料理も用意してある。街の“黒猫屋”という店に居るから、夜は皆で待っているよ。」
「絶対参加なんですね。あはは……。」
「はは!もちろんだ!来なようであれば、ギルドマスターに奢りをエサに呼んできて貰うとしよう。」
「ギルマスまで……うわぁー。破産しますよ?あの酒豪を呼ぶと。」
「上等だ。私も酒豪だからね。一度、手合わせしたいと思っていた。」
「む……。私も酒豪ですよ。」
と、何故か話を聞いていたハヤーさんに火がつく。
うそだろ……?
たしかに年齢ですれば、百歳くらいかもしれないけどマジか?そもそも、ゴーレムに胃袋ってあるのか?
「早く、お酒の飲める歳になりたいなぁ。美味しいって聞くけど……どうなんだろ。」
それを聞いて、観月も隣でポソり……。
一番呑みそうね!あなた!
※ユースケと観月は18歳です。お酒は20歳になってから!
「分かりました。仲間も飲みたいようなので、今夜お邪魔します。」
「ふふ!待っているぞ。ついでにサカエ殿の知り合いも何人か呼べばいい。何人でも大歓迎だ。」
「俺の知り合いですか。分かりました。」
俺は渋々頷くと、マタイ隊長に手を振って歩き出す。
こりゃ早々に片付けないと怒られそうだ……。




