ゴーレムさんはお茶目さんにつき!①
依頼達成の報告しようと領主ハロルド様に謁見を願うと、メイドさんに部屋へと案内される。
アンリ様の姿はないようだ。
少しして、部屋の中にハロルド様が小脇に資料を抱えて入ってきた。
「やぁ、戻ってきたか。どうだい、進捗は?中にはコウモリ型のモンスターが居ると発見した住民が言っていたが、大丈夫そうかい?」
ハロルド様は、商談用のソファには座らず政務用の席に座ると書類を片手に苦笑を浮かべた。
どうやら立て込んでいる時に来訪してしまったようだ。
「今日は依頼達成のご報告に伺いました。依頼指示通り、中のモンスターと危険は一掃しています。また、遺跡の内部についてはコチラの報告をご覧下さい。」
俺は机の上に親指程の小ささの魔石を五十程並べ、内部の状況報告をまとめた資料を添える。ハロルド様は少し目を丸めたが、資料を閲覧すると笑みを浮かべる。
「はは……。君が来たと聞いた時、まさかとは思ったが本当にモンスターを討伐し終えていたとはな。」
ハロルド様は呼び鈴を鳴らすと、扉の向こうで控えていたメイドを呼び付ける。依頼達成の報告を受け、確認のために使いを送るのだろう。
「それで、ハロルド様。依頼を終えてしばらく手が空くので、今から教会に向かおうと思います。」
「なるほど……昨日の件について調査するんだな?」
「えぇ。教会に関しての情報や噂を教えて貰えますか?なんなら、教会内部に仲間を潜入させて裏を取ることも考えてます。」
「潜入を得意とする者までいるのか。一体、キミの仲間はどうなっているんだか。いやまぁ、才能に恵まれた人間は多い方がいいか。その分、やれることも増えるわけだしな。」
「えぇ。私の仲間は素晴らしい才能に恵まれた頼れる人達ばかりですよ。私の誇りです。」
ハロルド様の言葉に俺は笑顔で頷く。
隣では観月たちが少し顔を赤らめて俯いた。
それを見て、ハロルド様も微笑みを浮かべると『ノロケかね?』と茶化すように呟き背後の棚に振り返った。
棚にはたくさんの本があり一目で何が書いてあるか分からないようになっている。
「教会に関する情報はこの資料だな。」
「よく分かりますね?何も書いてないのに。全て覚えているんですか?」
「はは……!いやいや、これは特注の背表紙だよ。私にだけは、中に何が入っているか分かるように細工がしてあるんだ。」
お客さまの目もあるからね、とハロルド様は呟くと本を片手に商談机へとやってくる。
本を開くと中には、手書きの書類が沢山挟まっていた。
たしかに、あらゆる方面から集められた教会の情報がびっしりと書いてある。
この量……何か違和感があるな。
「もしかして、ハロルド様も教会を調べていたんですか?」
「ふふ!さすがにこの量だと分かってしまうか。あぁ……。教会というより、美神教についてだがね。ここ百年で、急激に信者を増やし今では人類の五割の信仰心を掌握している宗教だ。何かきな臭い情報もチラホラ聞くようになり、気になって調べていたが全容が掴めずにいた。しかし、昨日の話でやはり私の感に狂いはなかったことが分かった。私としては、得体の知れない宗教は即刻、この地より排除したい。協力してくれるか?」
「是非もありません。」
俺は差し出される書類を受け取ると強く頷き返した。
「その資料は持って行ってもらっていい。中には不確かな部分も多いと思うが、そこは現地で確認して貰いたい。」
「ありがとうございます。」
「恐らく、教会も一枚岩ではない。巨大な組織だからこそ、どんな思惑が渦巻いているのか、どれくらいの戦力があるのかも分からない。上手くいっている時には目の前の敵ではない者が、手ぐすを引いて待っていることもある。気をつけたまえ。」
漁夫の利を狙う者か……。たしかに、教会の中には色々な奴が居そうなんだよなー。
司教、シスター、大天使、そして未熟な天使たち。その他にも信者も多数いるだろう。
「はぁ……。頭が痛みます。」
「はは!日々の私も同じだ。特に最近は、ギルドのルーキーの動きは報告を受ける度にドキドキしているよ。」
「ギルドルーキー?…………え?あ、俺ですか!?」
思わぬところで名前を出され、自分を指さし飛び上がる。しかもつい、地が出てしまった。
「ふふ……!あぁ、キミの話は方々から流れてくるからね。実に面白かったよ。アンリもキミの話を聞くととても楽しそうに目を輝かせて話に聞き入っていた。」
「あ、そういえば、今回の依頼も私を見定めるためでしたね。」
「あぁ。アンリが偉くご執心な相手だというから見てみたかったんだ。アンリを任せるに値するかをね。」
アンリ様にえらく好かれているんだよなー。
「結果は誰の目にも明らかだがね。これだけ早く依頼をこなせて来るなら、冒険者として実力もある。それに、物事を深く知ろうとする探求心も。それと、ハーレムか。男として野心もあるし、ちゃんと皆も幸せにしている。」
「はい……幸せにしてもらってましゅ……///」
隣の観月を見てクスリと微笑むハロルド様。
観月は顔を赤らめ、顔を覆い隠してこくりと頷いた。
「私は十分に値とすると思うが……どうだろう?此度の件が片付いたら、ウチの娘と婚約しないか?」
「それはとても嬉しい話です……。私もアンリ様をとても魅力的に感じていますから。」
「そうか。一度、時間を作って街を巡ってみるといい。また、さらに見えることもあるかもしれない。」
「えぇ!是非!それでは、これから教会に向かいます。もしかしたら、危険もあるかもしれないので、アンリ様には内密にお願いします。」
「分かった。」
俺は頷き、資料を手に立ち上がる。
そろそろ教会に向かおう。今日の本番はコチラだからね。
「気をつけて行きなさい。何かあれば、私を頼ってくれて構わない。領主権を発動して、兵士を向かわせる。」
「ありがとうございます。ですが、ハロルド様も立場があるお方。荒事は俺たちに任せてください。」
「将来、叔父になるしな?遠慮はいらないんだが……。」
胸に手を当て、微笑み返すと少しつまらなさそうに口を尖らせるジェントルマン。
拗ねた顔が可愛い。アンリ様によく似ている。やっぱり、御家族なんだな。
「はは……!頼るべきところでは頼らせて頂きますよ!」
俺は深々と頭を下げると、皆を連れて部屋を出ようと扉に向かう。
「そうか……いつでも、頼るようにしていいぞ。キミから受けた恩恵は沢山あるからね。少しでも返してあげたい。」
「大したことはしてません……。お気持ちだけでも嬉しいですよ。ありがとうございます。ふふ……。」
「……ところで、さっきから気になっているんだが、この石像はなんだね?いつの間に運び込んだんだ?」
ソファの後ろで佇んでいる女神の石像に、ハロルド様は首を捻る。
「あぁ、ゴーレムです。」
「あぁ、ゴーレムか。」
「ハヤー。行こう。」
「畏まりました、主様。では、ハロルド様、失礼します。」
「あぁ、気を付けたまえ。」
呼びかけに反応すると、ハヤーはハロルド様に恭しく礼をして俺の元に歩み寄る。
「はぁ……ゴーレムか。初めて見たな。ゴーレム……ゴーレム!?いやいや、待ちたまえ!ゴーレムだって!?」
ハロルド様は心底驚いたのか、飛び上がるとハヤーに駆け寄りその顔を覗き込んだ……。




