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闇に紛れし真実を暴きにつき!②

話を聞いた天使は紅茶を口にしながら思慮の淵に落ちる。


目を閉じ、当時の状況を想像しながら、天使の立場からの視点を紡いでいく。



「はぁ……美味しいかった。ご馳走さまでした。」


「っ……。」



空になったカップを置くと、天使はお茶を淹れたアンリ様に微笑みを浮かべる。

困惑する顔に少し寂しげな顔を見せ、俺に目を向けた。



「美味しいお茶のお礼だ。ボクの考えを述べさせてもらうよ。君たちの話を“全て”信じたとして、当時の天使が取った行動を推測してみたが、ボクの予想では“天使は何もしていない”と思うよ。」


「何もしていない?この期に及んで、我が身可愛さに適当なことを言っているんじゃないのか?」



ハロルド様は睨むように目の前の天使を睨みつける。もしも、この場に信者が居たら『天使様に向かって何と不敬なことを!』と怒鳴られそうだが、生憎とそうした盲信者は一人もいない。



「適当は言ってない。ボクたち天使は人に存在をバレることを極端に嫌う。だから、ボクらなりに“ルール”が設けられていて必ずそれに沿うように行動が義務付けられているんだ。今回の件は見事に引っかかっているから、当時の天使は手を出せなかったはずだよ。」


「ハロルド様。実はこの点については私も同じ意見です。」


「サカエくんもか?」


「えぇ。」



天使を肯定するように頷くと、ハロルド様を含めて天使も少し驚いた顔を見せる。



「コイツら天使は、昼間に活動することをしません。必ず深夜に活動し、“見守り活動と祝福(標的探しと犯行)を行います。恐らくは、教会からそういう風に躾られているのでしょう。」


「犯行って言われるとなんかやだな。」


「……お前の事じゃない。“私利私欲に塗れたヤツ”のことを言ってるんだ。それとも、そんなヤツらの味方をまだ続けるのか?」



更に目を丸めた天使は首を振ると、自身の白い羽根を撫でながら拗ねるように口を尖らせた。



「ボクは違う……。キミの言う様な下賎な行いはしたくない。ボクは単に人々が幸せになるように見守っていければいいんだ。他の天使だってそうさ。ボクは今でも天使たちの無実を信じてる。」


「……だといいがな。」


「きっとそうだよ。なにか誤解があるはずだ。きっと。」



そう天使はぎゅっと自身の肩を抱くように縮こまると深く息を吐いた。


信じたくない気持ちは分かるが、残念ながらすべて事実だ。

それを分かっているからこそ、天使も『誤解』という言い方をしているのだ。

誤解とは事実あってのもの。

事実がなければ、誤解ではなくそれは虚偽となるのだ。

話を聞く中でそのどこかに、事実を感じたからこそ目の前の天使は悩んでいるのだろう。



「奥さまがキスをしなければ、子供は産まれない。これはボクたちから見ての事実だ。」


「ちなみに、本当の子供のつくり方をお前は知ってるのか?」


「え?だから、子供をつくるにはキスをしないといけないんでしょ?」



だからコレがあるのだと、天使は腰のポーチから水晶を取り出した。


向こうが見えるほどよく透き通った透明な水晶。その水晶を観月の手に手渡すと、水晶はゆっくりと色が変わり赤へと変わった。


次に水晶をアンリ様に手渡す。

水晶は色が変わらず無色透明なままだった。



「これは、簡単にいえば〈 キスの回数を調べる魔道具 〉だ。この娘みたいに赤になれば、三十回以上キスしたことになる。これぐらいなら、祝福を与えていい頃合いだろうね。ボクたちは祝福を与えて、間もなく来る子供にベッドを用意してあげるのさ。」


「なっなな!?なに、人の情報を勝手に漏らしてるの!?」


「まぁまぁ……。言わずもがな、お相手はサカエ様ですよね?そんなに、しょっちゅうキスされてるんですか?愛されていらっしゃいますね……ふふ!」


「は、はひぃ……///」


「おう!俺たちはラブラブだ!」



アンリ様が顔を真っ赤にして観月に問いかけると、観月もまた両手で顔を覆い隠し小さくコクリと頷いた。


なるほど、コレで回数を調べて祝福を与える頃合いを見定めるのか。


水晶を横目にフムフムと唸っていると、ふとある疑問が浮かぶ。


予想では、コイツは研修が終わってから祝福という名の《強姦》を行うようになるんだよな?

ということは、今の状態で言ってる〈祝福〉って何をするんだろう。



「お前の言う祝福って、どんなことをするんだ?」


「ボクが習った祝福は一種の“加護”のようなものだよ。相手に〈祝福〉を与えることで、その身体に聖属性の盾を与えるんだ。病気を防ぎ、さらに肉体や精神を落ち着かせる効果がある。一月程は落ち着いた日々を過ごすことができるようになるよ。」


「ふーん。身と心を整える効果か。」



リラックス効果を与えて身体を妊娠しやすい状態に近付けるのが目的なのかな?だとしたら、本当に赤ちゃんのためのベッドを作っているのと変わりない行為と言える。


ただ、それが誰の為かと問われれば、疑問が残るところではあるが……。


俺はフムフムと頷くと、徐に天使に向けて手を広げてみせた。



「俺に向けて〈祝福〉をかけてみないか?キス三十回のノルマは当然、達成してるわけだし条件に問題ないだろ?」


「はは……。別に三十回じゃなくても、信心深い人間なら十分に対象になるよ。ただまぁ、男性には効果はないと思うけど?この祝福は女性に向けて行うものだからね。」


「いいさ。どんな風にするのかみたいだけだから。」


「そっか。分かったよ。」



苦笑を浮かべた天使は俺の手に手を重ねると、目を閉じて何やら呪文のようなものを唱える。


天使の身体がぼんやりと光に包まれたと思うと、その光が手を伝いじんわりと俺の中へと流れ込んでくる。


温かくとても癒される感覚。まるで母に包み込まれるような安心感が身体に広がった。


▷スキル〈天使の加護〉を確認。一時的に対象に対して、プロテクト効果(防御アップ)+ステータス異常無効効果+平穏(情緒を穏やかにする)を付与します。



「終わったよ。」


「……あぁ、なるほどね。」



声をかけられ見つめていた手から視線を天使に向けると、天使は小さく微笑み俺を見ていた。


ーとくん……とくん……


ゆっくりと穏やかに脈打つ鼓動を感じる。



「どうだった?特に変化ないでしょ?」


「変化のありなしでいえば、変化ありだな。男でも効果があるみたいだぞ?荒ぶっていた心が今、少し落ち着きを取り戻してる。あと、防御力がアップしたみたいだ。」


「へぇー、そうなんだ。祝福自体、人に初めて使ったから具体的な効果は初めて見るよ。」



天使はフムフムと面白そうに俺を見ると、俺の手をキュッキュッと握りよくよく観察する。



「へぇ……。」


「おーい。もういいだろ?」


「あぁ、ごめん。初めての事例だから興味深くてさ。そっかー……男性でも効果あるのかー……。」



天使は手を離すと、チラリとハロルド様を見る。

ハロルド様は意図を感じたのか、ヒラヒラと手を振ると天使の祝福を断った。



「むー……。」



断られた天使は少し不満そうだったが、すぐに観月の視線に気付きに目を向けるがすぐに視線を外して俺を見上げる。



「ふむ。なるほどなー。(……あれ?)」



俺は自身の手を見て首を傾げる。

あれだけ男にペタペタと触れられたのに蕁麻疹が出ていない。相手が天使だと出ないのか?それとも子供だから?


腕を巻くってみるが、そこにも蕁麻疹は出ていなかった。どうやら、本当に影響がないようだ。



「不思議なこともあるもんだなぁ。」


「ユーちゃん。」


「ん?どうした?」


「……手、握りたい。」


「え?あ、あぁ……。」



俺の様子に観月は目を細めると、横から手を握りしめて優しく撫でてくる。


天使の手の感触を上書きするように念入りに触れると、最後にトドメとばかりに恋人繋ぎをしてみせた。


そのままでは止まらず、皆の見ている中でコテン……と肩に頭を乗せてきた。

目に見えて甘えて来ている。


もしかしなくても、観月は天使に嫉妬しているようだった。


何を馬鹿な。相手は男だよ?と笑って茶化せないほど、観月の目には少し涙が浮かんでいた。


まったく……。



「話の続きに戻るけど、天使が手を出してないのは分かった。でも、なにか引っかかるんだ。」


「天使が原因じゃない。となると考えられるのは人間か……または……あっ!いや、そんな……でも……それなら……。」



天使は手元に視線を落とすと、自身の考えを否定するように首を振る。


気になった俺たちが顔を覗き込むと、天使は周りを見渡し静かに頭を抱えた。



「思い当たることがあるんだな?」


「っ……うん。」



俯いたままの肩に手を置くと、天使は小さく頷いた。

何かに気付いたが上手く言えない様子だ。

言っていいものか?そう、悩んでいるようにも見えた。ここでは言いづらいのか?



「……分かった。ハロルド様、コイツの身柄は私が預かってもいいですか?」


「もちろんだ。罪のある無しに関わらず、天使はさすがに手に余る。」



ハロルド様は頷くと、椅子から立ち上がりアンリ様に目を向ける。



「アンリ。分かっているとは思うが、ここでのことは他言無用で頼むぞ。」


「分かってます。皆さまにはご迷惑をお掛けします。申し訳ございません。」



アンリ様も立ち上がると、深々と頭を下げる。



「お任せください。必ず、真実を暴きます。」



俺達は真実を暴くことを約束し、屋敷を後にするのだった。


天使と共に屋敷を出ると、観月とシルクが俺を見上げて首を傾げる。



「それで、どうするの?この天使。」


「うん……。なぁ、天使。」


「なんだい?」



背の低い天使に目線を合わせるように屈むと、その少し強気な目を覗き込む。

金糸のセミロングを揺らし天使は首を傾げると、前髪の隙間から俺を見上げた。

見た目が子供のせいなのもあるが比較的中性的な顔のため、改めて見ると女の子と区別がつかない顔をしていた。




「お前はまだ、全てを知らない。今はまだ、俺たちからしか情報を得てない状態だ。だから、頭ごなしに〈 美神教(カリテス)が悪だ 〉と言われても納得いかないと思うんだ。」


「……うん。」


「だから一度、教会に戻って考えてみないか?」


「「えぇっ!!?」」



俺の提案に、観月はもとより天使も目を丸めて飛び上がる。



「今は盲信から覚めて、見えるものが変わったはずだ。だろ?」


「……うん。」


「なら問題ないはずだ。お前には教会に戻って、真実に辿り着く物を探して欲しい。」


「その意味、分かってる?それはつまり、ボクに教会を……美神教(カリテス)を裏切れって言ってんだよ?そんなの、ボクができるわけないじゃん。」


「あぁ……分かってる。お前はお前の信じる正義を貫けばいい。俺たちも俺たちの信じる正義を貫くだけだ。ただ、お前が自分の正義に疑問を感じ始めたのなら、もし抗おうとするなら……それはもう俺たちの歩もうとする道と同じだ。共に貫くと約束しよう。仲間には恩恵を。立ちはだかるものには断罪を。其れが俺の考えだ。」


「……一緒じゃない。ボクは人間の幸運を祈ってる。でも、キミはそうじゃないだろ?」


「……あぁ!俺は世界中の女の子たちを幸せに満ちた笑顔にするために行動しているからな!根底が違う。男は知らん!勝手にクタバレばいい!」



腰に手を当て堂々と切り返すと、天使は口に手を当てクスクスと笑い始める。



「ふふ!そこは群れの強者として、男も守ってあげようよ……はは……。でも、そうだね。祈ってるばかりじゃダメだ。行動しないとね。」



天使は頷くと、強い意志のこもった目で俺と観月とシルクを見回す。



「ボクは教会を、美神教(カリテス)を信じる。だから、調べるよ。そして、必ず“真実”を見つけ出してみせる。」


「あぁ。幸運を祈るってるよ。あ、そうだ。こいつを持ってけ。ラッキーアイテムだ。」


「ラッキーアイテム?」



俺はシルクに手を差し出すと、シルクは重ねる。



「シルク、あれ頂戴。」


「うー?」



あれ、とは……?珍しく眉間に皺を寄せてシルクは首を傾げる。


まだ、アレそれこれでは伝わらないか。


ちなみに、観月は?……と、観月に目を向けるとスライムを手に乗せてドヤ顔していてた。



「ふふーん!私はわかったよ?(ドヤ!)」


「うぅっ……!?」



さっすが、熟年夫婦。ちなみに〜……正解です。



「(分身体を出してくれないか?あの天使の居場所が分かるように。あと、危険が迫ったら念話をくれるようにしたいんだ。)」


「うー……。」


ーぷるん!



俺の意図が分かったシルクは頷くと、俺の手にホワイトスライムを手渡してくれた。

少し口が尖らせていることから、悔しさが見て取れた。観月のようにすぐに分からなかったことが悔しいらしい。


可愛いなぁ……もう。


スライムを受け取ると今一度、分身体に向けて任務を伝えた。表情がないからイマイチ理解しているか分からないが、オーバーアクション気味に敬礼していたのでとりあえず信じることにする。



「スライム?え?スライムを手なずけてるの?さすが、魔王だね。魔物も従うのか。」


「その言い方は語弊がある。従わせてるんじゃなくて、協力してもらってるんだ。下手に攻撃しなきゃ、コイツらは協力してくれるぞ。」


「へぇ。」


ーぷるん!(よう!よろしくな!)


「あ、うん。よろしく。」



俺の手からスライムを受け取ると、マジマジと観察する。手を挙げて挨拶するスライムに、天使は目を丸めると挨拶を返した。



「え?挨拶したの?このスライムって、めちゃくちゃ知能高くない?」


「あぁ。ハイレアだからな(まぁ、母体がシルクだし)。」


「ハイレア!?うっそ……。」


「うー……!」



シルクは陰ながら胸を貼るとフンスー!と息を漏らして誇らしげに胸を叩いた。



「それで、このスライムが幸運を運んでくれるの?」


「あぁ。幸運を運ぶぞ。ただの幸運じゃない。超強力な幸運だ。世界がひっくり返るほどにな。」


「な、なんか怖いな。返していいかい?」


「いいや、もっとけ。最悪、保存食にできるから。」


「えぇ!?」


「うぅ!?」

ーぷるん!?



予期せぬ言葉に天使はもちろん、保存食と言われたスライムも飛び上がるほど驚く。


まぁ、冗談だけどね。



「まぁ、保存食は冗談だ。でも、居て困る奴じゃないぞ?スゴいんだぞ、スライム。すごく綺麗好きなんだ。部屋の掃除してくれるし、洗濯も取り込みまでしてくれる。熱が出たら、ピッタリ寄り添って熱冷ましもしてくれる。おまけに、動けなくても身体を洗ってくれる。お手伝いもしてくれるし、勤勉で勉強家だから色々学んでいく。何より水のように心が澄んでいるから邪念もない。奉仕精神がエクストラ級なんだよ。持ち前の擬態能力も素晴らしい。どんなところでも入り込めるし、任せたことはほぼ出来ると思っていい安心感。これだけできるにも関わらず、スーパー雑食だから、ご飯代もかからない。エコでクリーンでハイスペックな生き物だ。このハイレアスライムは、本当にスゴいんだよ!!」



ーぷるん……///

「うー……///」



いやーそれほどでも……と、スライムとシルクが頭を掻いて照れている。

その様子を見て、天使は苦笑するとスライムが本当に好きなんだと納得して受け取ることにした。



「ふふ……。そこまで言うならわかったよ。」


「プチシルク。普段は隠れとけよ。さすがに天使がスライムを連れててたら不審がられるだろうから。そうだな、服の中とかどうだ?」



ーぷるん!


コクリと頷くと、うにょ〜んと身体を伸ばし、シャツの胸元から中に入ろうと鎌首をもたげるスライムに、天使は引きつった笑みを浮かべて手を振った。



「ふ、服はやめて欲しいかなー。」


「そうか?なら、ブレスレットに化けとけ。」


ーぷるん!


スライムは敬礼すると、ぬるーんと天使の腕に巻き付き乳白色の宝石のような腕輪になった。



「急にアクセサリーとか付けて、バレないかな?」



観月がブレスレットに擬態したスライムを突くと、コツコツと音がする。

硬度まで自在に変化できるのは、スライムの凄さだよな。擬態能力の高さが伺える。



「それは大丈夫だと思うよ。司教はボクたちのことあまり見てないから。いつも、大天使と話してるか、人間とばかり話してる。今日送り出す時だって、なんか事務的だったし。いつも、ボクたちのお世話をしてくれてるのは、シスターやブラザーたちなんだ。とっても良くしてくれるよ。でも、シスターたちは心から美神教(カリテス)を信じて入信して来た人たちだからボクのこれにも、疑いなく接してくれると思う。」


「へぇ……。盲信もそこまで行くとなんだか、怖いな。」


「ちなみに、ボクのお母さんもシスターなんだ。」


「まさか……シスターの中に、俺に討伐された天使のお母さんがいるのか?」



いくら非が天使側にあったとはいえ、それとは別に自分の子が殺されたとあってはどんな母親だって辛いはずだ。

さらにそこに、信じていたモノがまやかしだったと教えられたら、お母さんたちはさらに心に深い傷を負うことになるだろう。


突きつけるのか?


お前は騙されていたのだと。

子供は悪いことしていたのだと。

そして、お前の子供はそれ故に、俺に殺されたのだと。


それは完全に俺のエゴだ。


お母さんから見れば、それでも子供を愛したに違いない。


お腹を痛めて産んだ子供だ。


間違ったことをしたというのなら、引っぱたいてでも、更正させる道を用意したに違いない。


きっと、そんな未来もあったはずだ。


俺はその可能性を摘み取った。大切な人を傷つけられたことに怒り、己の正義と力に身を任せて……そんな可能性を摘み取った。


もしも、これから壊滅させようという教会に、そのお母さんがシスターとして居たら俺は告げられるだろうか……。


全てを……。


嫌な役目 だな……。


だけど……これ以上、犠牲を増やすわけにもいかない。俺がこの役目をやらなくちゃ。

気付いた俺がやらなきゃ、何も変わらないんだから。



「他のお母さん?うんん?討伐した天使はほとんど、流れの天使だから違うよ。たぶん、他所から追い出されて来たんじゃないかな?」


「…………流れって、そんなものまでいるのか?」


「うん、まぁ。天使にも色々あるんだよ。縄張りとかさ。研修が終わった天使同士だと、誰が祝福を与えるかで喧嘩になるから、なるべく出会わないように、距離を取って生活するように言われてるんだ。祝福くらい、誰が与えても同じなのにね?」



変だよね?と天使は首を傾げて苦笑する。

そりゃあ、この天使がやるくらいの祝福ならいいけど、自分たちの子孫を残すための祝福(生殖)なら喧嘩になることもあるだろうな。いわゆる、オス同士の縄張りみたいなもんなんだから。



「なるほどな。」


「ウチのホームからはまだ誰も旅立ってないから、とりあえずこの街の天使は大丈夫だよ。一人大天使がいるけど、あの天使も視察みたいなもので、あとしばらくすれば別の場所に行くみたいだし。」


SVスーパーバイザーかな?え?美神教(カリテス)って、商業ギルドなんですかね?」



驚きだ。大天使がそんなことをしてるなんて。かなり大きな組織として機能してるようだな。これは、壊滅までに時間がかかりそうだ。



「はは……。スーパーなんとかは分からないけど、とりあえず魔王が討伐した天使の中にシスターの子はいないって断言できる。ただ、ボクの知る限りでは、この街には少なくとも三人以上の母親はいるはずだよ。その一人は、確か町外れの小屋にいるはずだ。病弱な娘さんと二人暮しらしい。」


「小屋に……娘さんと二人暮し、か。」



最近聞いたことのある内容に首を傾げる。

たしか、イブさんたちと達成した採取依頼の主はそんな感じの家庭だった気がする。


今度、様子を見に行ってみるか?

あの大量の薬草の意味も知りたいし。



「わかった。貴重な情報だったよ。ありがとう。」


「あぁっ!また、喋りすぎた……。」



自分の話した内容を思い返して、ガックリと天使は項垂れる。


背中から生えた羽もどこかションボリとして力なく見えた。



「はは!大丈夫さ。別に悪いようにはしない。有効に使わせてもらうよ。」


「ボクのホームを壊そうとする人がそれ言う?」



天使は睨むように俺を見るが、俺は首を振って答えると天使に向けて手を差し出した。



「壊すつもりなんてないさ。俺は天使の行いを正したいだけだ。本来の役割を思い出して、人々に幸運をもたらす存在になって欲しい。それだけさ。今の教会は私利私欲に塗れてる。それを取り除かないと、この歪んだ図式は延々と続くことになるからな。人類だけでなく、天使の繁栄のためにも、俺たちは戦わなくちゃいけない。天使には正しい道で堂々と大手を振って歩いて、日向を飛びまわって欲しいんだ。」


「……日向を飛び回る。考えたこともなかった。」



天使は空を見上げ満点の星空と大きな月を見上げる。



「そういえばボク、随分長いこと太陽を見てないよ……。飛んでみたいな。光の中を……。」



天使は頷くと、俺の手を取り返した。

その笑顔は日向のように明るかった……。



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