デートorデッドにつき!
アンリ様の出してくれたお茶を飲んで、皆で少し談笑した後にワルフォイ家を後にする。
後半は全然、依頼とも奥さまとも関係の無い話しになったが、それだけ俺たちは打ち解けられたと思っておこう。
「今夜また行くの?」
「そうだな。手土産持って行くよ。恐らく、今日中には奥さまの件は終わるはずだ。」
「なるほどねー。領主様たちに、天使たちのことを話すつもりなんだね。しかも、天使の手土産付きで。」
「場合によっては、俺たちは領土を追放されるかもしれない。それでも大丈夫か?」
「私はいつだって何が起きたってユーちゃんの味方だよ。どこでも一緒だから安心して、ユーちゃん。」
「ありがとう、観月……。」
先の不安などないと、笑顔で手を差し出す観月。
俺はその手を取ると、笑顔で強く頷いた。
「あ!サカエ!おーい!」
観月とシルクの二人と手を繋いで街を歩いていると、元気な声が前から聞こえる。
ギルドの前でミルナンが手を振って立っていた。
後ろでは棺に腰を下ろしたイブさんが苦笑を浮かべて手を振っている。
「ワイスナー、まだ死んでるの?」
「コイツはこの方が静かでいいからな!次、闘う時だけ復活させることにしたんだ。金もないしな!あはは!」
大笑いしながら、棺を見下ろすミルナン。
昨日、ワイスナーを棺に詰めたの君だよね?
本当、ワイスナー大丈夫か?
昨日瀕死にされた上に、ずーっと、ミルナンに引き摺られてるんだろ?
あの乱暴な運転で、棺が縦横無尽に揺さぶられたはずだ。
中のご遺体はどうなってるんだ……?
「……それ、中味は大丈夫なのか?さすがに、傷んだりしてるんじゃ。」
「はは……。中はアイテムボックスと同じで、時間停止されてるから大丈夫だよ。棺を開けて放置しない限り、復活することはできるんだ。」
「そういえば、復活の方法は知らないな。どうやるの?」
「サカエくんたちは、まず復活とは無縁そうだもんね。軽く説明しとこうか。」
この世界の死亡は次の三つが上げられる。
〈死亡の定義〉
(1) 激しい損傷(人体の三分の一損傷・損失)がある場合復活できない。
(2) 病(異常状態に含まれないもの)による死亡は復活できない。
(3) 寿命による死亡の場合は復活できない。
「寿命や病は分かるけど、損傷は判断がむずかしくないか?」
「うん。回復薬でも結局のところ、損失した部分は戻らないしね。復活薬を使っても一命を取り留めることしかできないんだ。」
「しかも、高っけーの!あはは!」
そう言って、ミルナンは大笑いしながらアイテムバックからライフボトルを取り出した。
赤い液体が透明な瓶の中で、チャポンと揺れている。
なるほど、これが復活薬。
いざと言う時に必要になるかもしれないな。
買っておくか。
「これ、売ってるの?」
「うん。どこでもあるよ。雑貨屋とかにもあるし。魔法屋でも入荷してたと思う。」
「メイさんのとこか。後で買おう。」
ー にしし!まいどあり~♡ ー
「それで、今日はデートだろ?どこでする?」
「ふふ!この街の一角に兵が使う演習場がある。そこで、ヤろう!」
バシン!と拳を合わせて、ミルナンがニッカリと笑う。
チャイナドレスにお団子頭と可愛らしい見た目しているのに低身長ながら、その威圧感はさすが格闘家といえるな。
「え?そんなところ使っていいのか?」
「うん!演習場はギルメンも使っていいことになってるよ。同じ地域を守る者として協力しようって隊長さんが許可してくれたんだ。」
「ふぅ~!マタイさん、イケメン!」
「「いけめん?」」
「あ、あー。⦅ 漢気ある~カッコイイ!⦆ってことだよ、たぶん。」
初めて聞く言葉に首を捻るミルナンとイブさんに、観月は苦笑を浮かべて説明する。
「そういえば最近〈サカエ語〉っていうのが、巷で広まってるの知ってる?なんでも、“勇者”も取り入れてるらしいし。今の流行りらしいよ?」
「「え?」」
そんなのあるの?
しかも、勇者!?何それ、初耳!!
次は俺と観月が目を丸める番だった。
演習場に到着すると入口の前に、マタイさんとペテロさんが立っていた。
どうやら、俺たちの様子を見に来たらしい。
「なんだろう?もしかして、監視ですかねー ?」
「はは!監視されるようなことを日頃からしているから、自分からそんな言葉が出てくるんだぞ?」
「ぐぅの音も出ないなぁ。はは!」
俺は苦笑を浮かべて、二人に形式的にギルドカードを見せると演習場へと通された。
ミルナン、イブ、観月、シルクと続いて中に入ると俺たちは驚きの声をあげる。
広さもさることながら、よく手入れされた平地とさらに半分の区画は森ができていた。まるで街の外と変わりないような造りをしている。
なるほど、これなら外に出なくても訓練できるな。
「さて、ここは四方を壁に囲まれた演習場だ。マルフォイ様のご配慮で、近隣の皆に迷惑がかからないように魔法障壁を貼ってある。Aクラスの攻撃力でも突き破ることは不可能だ。攻撃力だけならAクラスだと言われているサカエ殿でも、これなら壊される心配もないだろう……が!!二人とも一応、手加減はしてくれ。君たちの場合、本気を出したらS級に届いてしまったと言われても不思議じゃないからな。」
「はは……。それは保証しかねますね。ミルナンが本気を出してきたら、俺も命が惜しいのでそれなりに抵抗させてもらうつもりですよ?」
「ミルナンも分からん!あはは!」
「いや、本当に頼むぞ?壊したら、フレイムに請求が行くからな?」
「ギルマスの禁酒が進むだけだろ?」
「フレイが酒飲めないだけだろ?」
「「なら、大丈夫だ!」」
「っ~!胃が痛い!」
俺たちが嬉々として準備運動を始める姿に、マタイさんは胸を抑えると顔をしかめて呻く。
もしももしも、万が一壁が壊れて近隣住民に迷惑がかかったらと思うと、彼の胃は今日も悲鳴をあげはじめるのだった。
「ミルナン!少し抑えてよ?あんまり本気出すと、サカエくんに怪我させちゃうよ!(とか言っとけば、とりあえずは手を抜くでしょう。これなら、壁も壊れもしないはず……。)」
『お前の方が力が上なのだから、手加減してやらないと大人げないぞ?』とあえて口にすることで、ミルナンを手を抜くように誘導しようと考えたイブ。
「あはは!分かってるぞ!ミルナンは大人だからな!ちょっと、サカエの力を確かめたいだけだ。」
ミルナンはそれを聞いて、当然だとそのほんのりとある胸を叩くと拳を構えて俺に向き直る。
「……むぅ~!(なんかユーちゃんが格下に見られてるようでやだなぁ。癪だなぁ。そっちがその気なら、こっちだって!)……やっちゃえ、ユーちゃん!全力でいかないと、ミルナンちゃんが納得しないよ!力を示して、ちゃんとユーちゃんが強いところ見せないと、ハーレム勧誘もできないよ!」
「あ、あれ!?観月さーん!?」
見事にミルナンの暴走を未然に防いだイブの言葉だったが、それが逆に観月の心に火をつけた!
愛する者への侮辱と捉えた観月は声を張り上げる。
「お、そうか!手を抜こうとしてたよ。確かに、紳士として女性を守るのも大切なことだが、力を示して頼れるところを見せるのも大切なことだ!よし!全力で行くぞ!」
「ええ!?なんで!?いいんだよ!?手を抜いていいの!二人とも手を抜いて!じゃないと、近隣に迷惑がかかっちゃうでしょ!?」
「よしッ!やったれー!ユーちゃん!」
相手に向かい合い、気合いを入れ直した俺を見てイブさんが絶叫する。
観月はガッツポーズで、火のついた俺を見てニヤリと笑った。
「なんだ?サカエ、手を抜こうとしてたのか?ミルナンに?あはは!面白いな!遠慮するな!本気で来い!ミルナンの本気を引き出してみろ!ミルナンを負かしてみろよ!」
「言ったなー?泣いても後悔するんじゃないよー?」
「あはは!誰が泣くか!ミルナンは“さいきょー”だぞ?サカエも強いけどミルナン程じゃない。」
「……ほぅ?その挑発は男としても紳士としても、そそるねぇ。いいねぇー。何としても、ミルナンのパンツが拝みたくなった。半べそかきながら、パンツ見せてもらうぜ?」
Bang!とミルナンの下半身に向けて銃を撃つ真似をするとにっかりと笑って俺も拳を構える。
「見せる、見せる。パンツくらいいいぞ。何なら、パンツの中だって見せてやる。ミルナンに勝てたらな!!」
力強く握られた拳を突き出すと、威圧感と共に拳から放たれた風圧が俺たちの脇を抜けていった。
なんという気迫。一瞬でミルナンの強さが、この場にいる全員に伝わってくるようだ。
まるで虎のように、眼光鋭く獲物を狙う姿はまさに武の達人だ。
これは冗談抜きで気を引き締めないとな。
俺は腰を落として、目の前の少女を見据えた。
ヒシヒシと肌に伝わってくる闘気に思わず、ゴクリと喉を鳴らす。
目の前の少女は闘気が十二分に溜まったのか、口元に笑みを浮かべて俺の様子を伺っている。
いつでもイケるぞ!
そう、その目が伝えてきた。
「(まるで、シャオ先輩を怒らせた時と似てるなー。よく見れば、シャオ先輩と構えが一緒だ。ということは、ミルナンが使うのも〈八極拳〉か、それに近いものなのか?いや、決めつけは良くないな。幅広く習得している可能性もある。となると……迂闊に飛び込むのも……。)ブツブツ……。」
相手にどんな手があるか分からず、その一歩が出ない。
俺の気持ちを察したのか、ミルナンは一気に気迫を膨らませると地面を踏みつけ腰を落とした。
「ん?来ないならミルナンからいくぞー!やっ!」
「おぉっ!?」
フッ!と声だけを残して、ミルナンが視界から消えた。
目の前の光景に目を奪われていると、突如左から現れたミルナンが体重を乗せて身体をぶつけてくる。
「とう!」
「これは!?」
ー ドーン!!
鈍い痛みと共に左側面に面の広い一撃を貰ってしまった。
片膝を着いた俺は目の前で腕を組む少女に目を向ける。痛む腹を抑えて見上げる俺にミルナンはニヤリと笑みを浮かべて立っていた。
「サカエ、目は覚めたか?」
「え?」
「頭で考えてるから、脚が止まるんだ。後のことなんて気にせず、まずは身体を動かしてみるといい。」
「後のこと?」
「今はミルナンと闘ってるんだ。後のことなんて今は忘れろよ。街のことも魔物ことも。その他の用事も。全部忘れて、ミルナンと遊ぼう。ミルナンだけを見ろよ、サカエ。ミルナンはサカエ……お前だけを見てるぞ。」
腰に手を当て、にっかりと笑うとミルナンは手を差し出す。さぁ、本気で来いと笑うその顔に俺は目を丸めた。
「っ……!ミルナン。」
七分丈の袖から伸びる小さな手を取ると、俺は立ち上がる。
身長は俺の胸ほどしかないのに、まるで大人のような落ち着きがある。
あんなにクレイジーに見えていたのに、そのギャップに思わず胸がときめく。
「ミルナン。お前……いい女だな。」
「ん?そうか?あはは……!初めて言われたな。」
ミルナンは少し照れた顔を見せると、俺から離れて拳を構え直す。
遠目から見ても、短いチャイナドレスからスラリと白い脚は目を引くほど美しい。
一度女の子と意識すると、もう……止まらない。何としても、欲しくなった。
倒す!必ず倒す!倒して、俺の女にする!
「(さっき食らったのは、俺もよく使う“貼山靠”だった。ミルナンは八極拳を使いで間違いない。他にもあるかもしれないが、今はそれでいい。基本ベースはそれで間違いないはず。なら、俺も八極拳で相手をする。シャオ先輩から教わったこの体術。自信を持って挑んでいこう。それが!)」
「ん?んん?」
「ふー……。ふっ!俺の師匠!シャオ先輩への感謝の気持ちだ!!」
ーズンッ!
「おぉっ!?」
呼吸を整え、全身に気を巡らせると、脚を踏みおろし拳を構える。
ズンッッ!!と周囲に音が響き、地面が揺れるほど踏み抜かれた屈伸に目の前のミルナンを含めて皆目を丸める。
「ありがとう、ミルナン。目が覚めたぜ。ここからは本気でイかせてもらう!前戯なしだ!ぶっつけ本番!すぐに昇天させてやるぜ!」
「スゴいなぁ!(ゴクリ……!)」
ミルナンは目を輝かせると、構えを変えて飛び込んでくる。
「はっ!よっ!それ!」
「とっ!そら!よ!ぶっ飛べ!」
突き出された拳を流し、腹を狙って掌底を放つも身を捻ることで躱される。
カウンターで裏拳をもらうが、一撃が軽かったためそのまま押し切り、がら空きの腹に貼山靠をお返した 。
ー ズドーン!
「ぐぅっ!?」
ーズザァーー!!
ミルナンは勢いを殺しきれず数メートル後ずさると咄嗟にガードした腕を振って俺を見る。
「あはは!スゴいな!まるで師匠を相手にしてるみたいだ!骨の芯からダメージが来るぞ。」
「八極拳は外ではなく内から破壊することを目的とした体術だからな。手合わせとはいえ、あまり続けると内蔵を痛めつけることになる。一気に決めるぜ!」
「サカエも〈ハッキョク〉が使えるのか?なら、どっちの技が強いか勝負だな!」
「望むところだ!」
「「ハッ!」」
同時に飛び込み腕をぶつけ合い、身体をぶつけ合い、蹴りをぶつけ合い、背を打ち合った。
「「すご……。」」
皆が目を丸め、固唾を飲んで見守る中、それから一時間ほど俺たちは猛然と拳を交えづづけるのだった。
「ド、ドロー!!もういいでしょ!?一体、いつまでやるの!?」
拳が互いの顎を抉った瞬間だった……。
イブさんにより仲裁が入ったことで、俺はたちはダラりと拳を下ろす。
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
「はぁー……はぁー……はぁー……。」
俺とミルナンは肩で息をしながら、目の前の獲物を見つめ続ける。
まだ相手が諦めてないことをヒシヒシと肌で感じ合っていたからだ。
咄嗟にどちらかが拳をあげればまた戦い続ける、そんな状態である。
「はぁ……はぁ……サカエ……。」
「はぁ……はぁ……どうした?」
「はぁ……ミルナン、楽しかったぞ……。」
「はぁ……そうか。俺も楽しかったぞ。」
「ふふ……うん……。楽しかったね……。」
「楽しかった……。」
楽しかったねぇ!とまた呟きたミルナンはにっかりと笑うと……そのまま、グラりと身体を傾け倒れる。
「っと!あぶね!」
俺は軋む身体に鞭打ってミルナンを抱きとめると、腕の中のミルナンを目を向ける。
目を閉じたミルナンから、規則的な呼吸が聞こえきた。
どうやら、気を失っているようだ。
あと少し遅かったら、たぶん俺の方が気を失っていたかもしれないな。
「もう、こんなになるまでやり合わなくても……。」
「ボロボロだね、二人とも。お疲れ様。」
俺たちの元に駆け寄ってきたイブと観月は、俺たちの姿を見て苦笑する。
「でも、これでミルナンは満足したかな?サカエくんがA級に挑むことも納得したんじゃないかな。」
「あ、やっぱりそこが今回の発端なんだね?」
「うん。そりゃ、いくら実力があるっていっても、後輩くんだからね。ミルナンも強さは聞いてたけど、実際に手合わせしたわけじゃないから、どこか腑に落ちなかったんじゃないかな?ずっと、サカエくん達の動向に注視してたみたいだし。」
「そっか……。そりゃ、そうだよね。」
俺はミルナンの頭を撫でると微笑みかける。
納得してくれたかどうかはミルナンに確認してみないと分からないけど、ミルナンの最後の笑顔は素敵だった。
きっと、今回の手合わせには満足はしてくれたんじゃないかな……。
それにしても、最後の笑顔は素敵だった。
とても、可愛く見えてしまった。
そうなるともう、この色欲魔王と強欲魔王を内に秘めた俺は、腕の中の女の子が愛しくて仕方ないわけで……。
なんとしても、俺のハーレムに加えたくなってしまった。
「イブさん。ミルナンを俺にくれ。俺の女にしたい。」
「えぇ!?ミルナンを!?そ、それはちょっと、私の一存ではできないというかなんというか……。ミルナンの意思もあるし。何より、ワイスナーが許すかどうか……。」
思わぬ言葉に、素っ頓狂な声をあげたイブさんはミルナンと棺を交互に見て顔をしかめる。
俺の隣ではミルナンを覗き込んだ観月が呆れながらも、仕方ないと呟き最後は認めるように頷く。
珍しいな。絶対、止められると思ったけど。
「はぁー……そんな気はしてたんだよねー。イブさん、こうなったらユーちゃんはテコでも動かないから覚悟しておいてよ。きっと、意地でもミルナンを彼女にすると思うから。」
「私たちのパーティに、必要な人材なんだけど?」
「あ、パーティは全然、そっちでいいんだ。でも、女の子としてこっちに来て欲しい。嫁に欲しい。」
「ミルナン……あんたを女の子として見てくれる大物が現れたよ……。本当、サカエくんは色々と凄い人だったねぇ……。」
寝ているミルナンに苦笑を浮かべてイブさんは頭を撫でる。
とりあえず、ミルナンを休ませようということで、近くの木陰に寝かせることにした。
「せっかくの演習場だし、私も運動しようかな!最近、運動不足だし!」
「あ、そういえば観月さんは槍使いなんだね。私と手合わせしてみる?」
自身の腰に帯刀していたレイピアを手にイブさんは観月に微笑む。
「……いいの?」
観月は偃月刀を肩に担ぐと、ゆらりと顔をあげてニヤリと笑った……。
「ちょうど……鬱憤が溜まってたの……。すごく助かるよ……。ふふ……ふははは!!」
「……あ、あれはやべぇ!イブさん!逃げて!全力で逃げて!」
「へっ?えぇ!?よっ!!」
「あはは……!!」
観月の顔を見た俺は、イブさんに全力で回避に徹するように叫ぶ!
何が何やら分からないイブさんは考えるよりも先に横に跳ぶと、自分の居た場所に目を向ける。
そこにはまるで地面を抉りとったように、真っ直ぐに線が入っていた……。
線は観月の前から綺麗に続いている。
疑いようもなく、観月が振るった偃月刀から放たれたものだった。
「風のエンチャット!?そんな高等技術できるの!?」
「観月は昔から変なところで器用だからなぁ~。たぶん、いっぱい練習する中で技が波状したんだろうな……。」
「【疾風撃】!」
ー 斬ッ!!
観月は笑顔を貼り付けたまま、偃月刀を担いで横凪の一閃を放つ。
大振りの斬撃に風魔法が付与され、波刃となって遠くにいるイブさんへと飛んでいった。
「なーっ!?」
すんでのところで転がるように躱すと、ムクリと起き上がったイブさんは涙目で観月に猛抗議の声をあげる。
「ちょ、ちょっとー!近接武器使いが飛び技持っちゃダメでしょ!?なんで、ただでさえ、中距離も網羅してる槍でさらに、遠距離までいけるようになってるの!?おかしいでしょ!?」
「おかしくないよ。おかしくない。ユーちゃんに近付く女はみんな遠方から飛んでくるだよ?なら、たどり着く前に撃ち落とさないと。撃墜しないと。叩き潰さないと。切り裂かないと。そう……ユーちゃんを護れるのは……私だけなんだからー!!【疾風連撃】!!」
ー 斬ッ!斬ーッ!!斬ーーッ!!!
「あはははは……!!!ほら!踊って!舞って!狂い咲いて!華々しく!美しく散ってよおぉぉ~!」
ー 斬ッ!斬ーッ!!斬ーーッ!!!
「ひぃ~!壊れてる!あの人、壊れてるよぉ!さ、サカエくん!助け……助けてぇー!」
右に左に躱しながら、イブさんは涙目で演習場を駆け回る。その後ろを偃月刀を振り回しながら観月が追い回す。
助けたいのはやまやまだが、実は先程の手合わせでクタクタどころか気絶寸前の俺。
正直なところ、立ち上がることすらしばらく無理だった。
「イブさん、ごめん!しばらく立ち上がれそうにない!助けるのムリそう!」
「そ、そんなぁー!彼女、君の奥さんでしょ!?どうにかしてよ!」
「そうなると、どうにもならないね。しばらく逃げてれば、体力が先に尽きると思うから頑張って!」
「そんな無責任なぁ~!」
「あははハハハハハノ ヽノ ヽ……!逃げろ!逃げろー!もっともっと、私を楽しませてよぉー!」
うん……楽しそうで何よりだな。
膝の上で眠るミルナンの頭を撫でながら、俺は笑みを零すと、ブンブンと偃月刀を振り回しながら嬉々とした様子で走り回る観月を眺める……。
二人の追いかけっこは、ミルナンが可愛いクシャミで起きるまで続くのだった。
当時を振り返ったイブさんは、後にこう語ったという。
『あの人はキレさせたらヤバいよ。あれは死ねるよ。普通に。』と。
暴走した闇観月の凶行は、まさにオーガの暴走と等しいと歴史書にも伝えられている……。




