表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/177

そのメイド、裏がありにつき!

腰で揺れる大きなリボンと、歩く度に強調されるロングスカート越しの上がったお尻を眺めながら、俺はメイドさんの後を歩く。


地下施設の情報を手にした俺たちは、屋敷の外へと向かっていた。



「ムフフ……!」


「サカエ様。」


「ムファい!?な、なんでしょう?」


「サカエ様のお噂は、兼ねてよりお伺いしていました。」


「う、噂?」


「ハレンチな内容の噂でしょー?」



歩きながら少し振り返ったメイドさんが言葉をかけてきたのは、屋敷を出てすぐのことだった。


噂と聞いて、首を傾げる俺に、観月はぷっくりと頬を膨らませて見上げてくる。


“そんなに、メイドさんのお尻がいいのか?”と、その目が訴えていた。


俺がずっとメイドさんのお尻を見ていたことが、不満なようだ。


でも、そこに綺麗なお尻があるなら見なきゃ失礼ってもんでしょ。


せっかく、頑張って綺麗に咲いた花を、褒めてあげないなんて、紳士として有るまじき行為だよ!うん!



「ふふ……!そちらのお話も聞いてますよ。とても、女性がお好きなようですね。独り身の女性たちに、好き放題されているとか。正直……街の風紀を乱すような行為は謹んで頂きたいと思いますが、今のところ明確な被害届が出てませんし、保留中ということで判断しています。」



口元に手を当て、お上品に微笑むメイドさんは、私にしてくれれば、即投獄しますのに♪と茶目っ気いっぱいに微笑んだ。


なるほどね……。イジワルそうな、こっちが素なのか。


それはそれは……何ともまぁ、素敵じゃないの!



「投獄で済むなら、むしろ、お相手願いたいくらいだな……。」


「……え?」



クスクスと笑うメイドさんに手を伸ばすと、その手を取り、引き寄せる……。


飛び込んできたメイドさんの細い腰に手を回すと、驚きに染まった瞳を見つめ返した。



「……あら。投獄は怖くないんですか?」


「俺が怖いのは、目の前の女性を救えないことさ。世界中の女の子を笑顔にするまで、俺は何度でも、こうして涙を拭い続けるよ。この世界に、女の子たちの笑顔が咲き誇るまで。」



メイドさんを抱きしめ、そのぷっくりとした涙袋に指を添えると、涙を拭うようになぞり頬を手のひらで包む。



「あぁ……。とても、温かい手ですね……。確かに……これは訴える気も失せてしまいます……。」



俺の手に手を重ねると、メイドさんは目を閉じ、うっとりとした表情で頬を擦り寄せた。


驚いた視線は一瞬だけで、あとは俺の手に身を任せている。


まるで、心の奥では、こうなることを予想していたようにすら見えるほど、彼女の受け入れるまでの仕草は自然なものだった……。


それを見た俺の感想は……“素直すぎる”の一言だ。


いつもなら、照れた笑みを浮かべ、やんわりと離れるか、または、真っ赤になって叫んで逃げていくか、はたまた、固まって呆然としているかだったのに、目の前の女性は大人しくすっぽりと腕に収まっているのだ。


それが、当然であるように、 うっとりした表情で、俺を見つめ返している。


まるで、この先すらも知りたがっているように……。



「……ふふ。キミは不思議な人だね。」


「あ……。」



俺は身を離すと、抱きしめた勢いで乱れたメイドさんの服を整え、脇をすり抜けて出口を目指す。


隣で見ていた観月とシルクも、俺の様子に違和感を感じ取ったのか、訝しげな表情を浮かべて俺の後に続く。



「あの……もう、よろしいのですか?」


「警戒しているように見えて、受け入れて見せたり、君の本心がまるで雲のようにふわふわとしてて、掴めないもんでね。まるで、試されているような、遊ばれているような感じだ……。」


「あら。それは大変、失礼しました。不快にさせてしまったのなら、謝罪します。」



メイドさんは深々と頭を下げると、非礼を詫びて、顔をあげる。少し、眉を寄せて、困ったような笑顔を見せている。


あれ?なんだろう?何か、思った方と違う方に動いて戸惑っているように感じる……。


まさか、ハレンチを本気で望んでたのか?



「これでも、遊んでいるつもりなど微塵もなかったんですよ?私はただ、噂に聞いていた貴方のことが気になって仕方なかっただけです。例えるなら、物語の主人公に恋焦がれるいる少女のような気持ちでしょうか。」


「……は、はぁ。何が何やら……。」


「あれは、一月前のことです。」


「……どこ見てんだ、この人?」


「さぁ?」



メイドさんは遠くに飛ぶ鳥を眺めるように、空を見上げると、ぽつりぽつりと語り始めた……。



ーーーーー

ーーーー

ーー


遡ること約一月前のことである。



その日、休暇を取っていたアンリさんは、街へ買い物に来ていた。


街を見て歩きながら、つぶさに街の様子を観察し、気になることがあれば確認して、対策を取る。


まるで、お偉いさんのお忍び調査みたいなことをしていると、いつもと違う空気に気付いたそうだ。



「街が騒がしいですね……?特に女性たちが浮き立っているような……。」



ソワソワと街の女の子たちが、騒がしいのだ。


あちらこちらで黄色い歓声があがり、ある人物の後を皆で追いかけている。

そんな光景を目の当たりにしたアンリさん。


そこまで聞いて状況を理解した俺は、含み笑う。

一ヶ月ほど前はちょうど、俺たちがこの街にやってきた日だ。

つまり!



「なるほど!女子の黄色い歓声を集めている中心人物!それが俺だったと……!」



これが答えだ!そうに違いない!とアンリさんを見るとすごく素敵な作り笑いを浮かべて、首振っていた。



「違います……。」


「…………。」


「違います。」


「二回も言わなくても聞こえてるよ!!」


「いや、今のは早合点したユーちゃんが悪いよ。うん。」


「ぐぅっ……!?」


「話を続けますね。」


「うぅ……。はい……。」



アンリさんは、その正体を探るべく、騒ぐ女の子たちの輪に近づくと、その中心にいる人物に目を向ける。

瞬間、黄色い歓声に合点がいった。


世界を救う使命を負った、世界最強の存在。

数多の人々から羨望の眼差しを一身に受ける生き物。

神託を受けし《 勇者 》が、この街に来ていたのだ。



「あぁ、勇者ね……。」


「そういえば、勇者さんには、まだ会ったことないね?」


「そうだなー。どんな人なんだろうなー。」


「そのオーラは流石というべきものですよ。天使と見紛うほどの美貌と、歴戦を勝ち抜き続けた気迫。そして、全てを包み込まんばかりの女神の如き微笑。まさかに天が創りし、最高傑作の人といえるでしょう。」


「「へぇー……。」」



胸に手を当て、ほぅと息を漏らし、アンリさんは思い出の彼方へと飛び立っていく。



「俺、帰っていいかな?」


「まぁまぁ、もう少し聞こうよ。」



勇者は黄色い歓声に、嫌な一つ顔せず、柔軟に対応していた。

どんな人間だろうと分け隔てなく、丁寧に対応する姿に、アンリさんは感嘆したという。


どこの世界にもいるんだなぁ、そんなアイドルみたいな完璧超人ってやつは。


ドラゴンに火球吐かれて丸焼きになればいいのに……。


皆に気付かれぬよう、毒混じりのため息を吐いた。


(✱ちなみに皆さんも知っている通り、勇者ミラウェイドは火球で丸焼きになったことがあります。Byシルク)



「街で滞りなく対応を終えた勇者様は、マタイ隊と共に、すぐに移動してしまったようですが……。」


「ということは、今、この街には居ないんですか?見てみたかったなぁ、勇者さん。」



観月はつまらなそうに、口を尖らせると、俺を見る。まるで、面白そうなイベントのチケットをもらったが、期限が切れていた時のような反応だ。



「ナガミ村に向かったっという話は聞きました。その後、どこに行ったかは分かりません。彼は、神託を元に行動していますから。」


「神託って、女神様から依頼受けてるんですか?」


「えぇ……。そう、皆は聞いています。その声を聞けるのは、勇者だけなので、真実は不明ですけどね。」



口元に手を当て、クスリとほほ笑むと、アンリさんは止めていた歩みを進める。


おかしいな?お姉さんの話では、女神って今は引きこもり中のはずだよな。

引きこもりながらも、女神としての仕事はしてるってことか?



▶︎もしかしたら、リライアさんのように、本体と端末のような関係なのかもしれませんね。


▷可能性はありますね。予め、目標点を設定しておけば、あとは、端末が自己で処理していきますから。ずっと、見ておかなくてもいいという利点はあります。


ただ……とリライアは口篭ると、少しの間の後に言葉を続けた。



▷結果は同じでも、通ってくる道程が好適なものかどうかの保証はしかねます。



例えば、『世界平和』という最終目標のために、どんなルートを通るかは、未知数であり、その間にどんなことが起きるかは不明ということだ。


ざっと見ても ー……


人類が他の種族と円満に過ごす未来ルート。

人類が滅ぼされ、魔族による世界平和ルート。

魔族が滅ぼされ、人類による世界平和ルート。

未知の生物による、侵略と統治、世界平和ルート。

あとは……俺、栄咲遊助様によるハーレム世界平和ルート……なんかもあるかもしれない。


……いや、世界とか、絶対にめんどいからいいや。


どちらにせよ、引きこもり女神さんが、“何か”を忘れていたせいで、世界が混乱しながら、世界を無理くり結末へと向かわせているのなら、俺たちはそれを修正しないといけない。最悪、その端末を停止しないといけない。


そうしなければ、自責の念に囚われた引きこもり女神を救うことはできないんだ。



「(神託を受ける勇者に会い、神託の発生元を調査する必要があるな。)」


▶︎目標を確認。

▷サブクエストに『勇者討伐』が追加されました。



「(いやいや!討伐しちゃいかんでしょうよ!?)」


▷なーんて♡


「ぐっうぅ~!かわいいなぁ、お前はぁ……!」



▷ありがとうございます♪



舌をペロリと出したリライアが頭を過ぎり、俺は思わず身悶える。


「(女神の端末も、こんな風に可愛ければ、ハレンチしてあげるのになぁ。)」



▶︎ またー……。そんなこと想像すると、現実に上書き(オーバーライト)されますよ?



「(なら、強く願う!!ハレンチ!ハレンチ!ハレンチ!女神と女神の分身に、ハレ晴れハレンチだぁー!!何かもを巻き込んだ想像で~遊、ぼ、う~♡)」



▶︎最低に愉快だな、この変態は……。



「(お?魅玖、なんだ脱ぎたいのか?)」



▶︎最高に素敵ですぅ!主様ぁ~!



「(分かってるじゃないか。よし、脱げ。)」


▶︎にゃんでぇ~~!?あ、あぁ~ん♡



頭の中で、媚びへつらってきた魅玖を丸裸にすると、俺は満足感に満たされたので、意識を外に向ける。

まだ、アンリさんと観月は勇者の話をしていた……。


つまらん。マジで帰ろうかな……。


「勇者様が出立されてからしばらくして、また街が騒がしくなったんです。」


「はい、来た!俺だね!俺が来たからだよね!」


「違います……。」


「いや、違うんかい……。」


「全然、違います。」


「しかも、全然ときだぞ……。さすがに泣きそう……。」



ガックリと項垂れる俺の背中に手を置いて、アンリはにっこりと笑いかけると、ゆっくりと念を押すように首を振ってみせた。


もう、ワザとやってるでしょ、この人。



「次に、騒いでいたのは、男性達でした。魔法屋の女主人が大層、美人であると噂が広がったんです。皆が押し掛け、大混乱したそうですよ。」


「魔法屋の女主人?」


「メイさんの店のことじゃない?」


「あぁ……。メイさん、可愛いよね。皆も、ようやく気付いたか。メイさんの魅力に。」


「そうです。気付いたんですよ、男性達が。今まで、そんなことなかったのに、急に女主人の魅力に気付き始めたんです。不思議な話ですよね。数年前からあの店はあったのに、急にその女主人が現れたように、皆が意識し始めたんです。まるで、魔法のようです。」



胸に手を当て、アンリさんは目を閉じると、きっと素敵な出会いが彼女を変えたんでしょうと、微笑みかけてきた。


俺がメイさんの店に初めて寄った日は、閑古鳥が鳴いていたが、今はそんな状態になってるんだ……。


そういえば、いつもメイさんと情報交換で会うのは、閉店後の夕方になってからだったから、昼の様子はまったく知らなかったな。



「そうか……。繁盛してるのか。」



俺はアンリさんの笑顔に、指輪を撫でると、会話を聞いていた風の精霊がフワリと俺の肩に降り立つ。



『本当だよ……。風に乗って、聞こえてきてた泣き声は、もう聞こえてこないの。あの店からは、忙しそうな物音と、楽しそうなメイちゃんの鼻歌だけが流れてくるんだ。にしし~♪って、いつも笑ってるよ。』


「そっか……。彼女が笑顔なら、よかった。」



指輪から現れた風の精霊の言葉に、俺は満面の笑みを浮かべると、肩に座る精霊の頭を撫でる。



「そして、さらに日を追うごとに、この街や取り巻く地域に、新たな変化が見られるようになりました。あちらこちらで、カップルが散見されるようになったと思いませんか?」


「……そういえば、最近、男女で歩いてる人が増えたよな?」


「うん!よそよそしい感じだったけど、今はみんな大っぴらに手を繋いだりハグしてたりするよね……。結構、その……大胆なことも影でしてるみたい。」


「風紀が乱れるので、やめて欲しいところですけどね。」



あぁ……。路地裏でカップルがイチャついているの見た事あるなー。そうだ。言われてみて気づいたが、一ヶ月前よりカップルが増えてる気がする。



「最近、女性たちがとてもイキイキとして綺麗になったんですよ。それに惹かれるように、男性達も自身の魅力を増すように努力しているとか。ギルドから肉体改造のプロフェッショナルも派遣されて、《プラチナマンジム》なんてものもできたそうです。」



その細い腕を見せて、アンリは『キレてるカラダになろう!ですって♪』と、笑って見せる。


すごーい。力入れてるのに、ピクリともしない、白くてほっそい腕。


押さえつけたら、まったく抵抗できなさそう。えっちい腕してるなぁー。



「《プラチナマンジム》?なにそれ。」


「知らないなぁ。後で、行ってみようか?」


「そうだな。」


「ギルドの近くにありますよ。筋肉隆々の男性たちが居るので分かると思います。」


「へぇ……。やっぱりやめよ。ちょっと、近寄りたくないな。」



たぶん、足を運ぶことはないだろう。

俺、男性アレルギーだし。そんなムキムキ集団に囲まれた日には、死んじゃうよ。


筋肉ダルマはギルドのオーガンだけで十分だ。


そういえば、ギルドから肉体改造のプロフェッショナルが派遣されてるって言ってたな。


まさか、オーガンが《プラチナマンジム》のオーナーなのか!?



「オーナーさんは、ある人のおかけで肉体改造の心地良さに目覚めたそうですよ。確かに、あの筋肉には彫刻のような芸術性を感じますよね。フフ……。」


「それ、喜ぶと思いますよ。言ってあげてください。せーの……!」


「「ナイス、バルク!」」


俺と観月が声を揃えて、庭にある彫刻に向けて、声をかける。

その姿を隣で見ていたアンリさんは、目を丸めると可笑しそうに、口に手を当てて笑った。

笑顔が素敵だ。ナイス、スマイル!



「まぁ……。ふふ……えぇ、試してみます。ナイス、バルク♡」



ふん♡っと、力こぶしを作ってみせるアンリさん。

白い腕は、やはり眩しいくらいに笑顔と共に綺麗だった……。


男女のカップルが増えた他にも、街では様々な変化が起きていた。


一点は、安全性の面で評価が高くなっていることだ。

モンスターの出現率が大幅に減っているとのこと。


特に、【光ヶ丘】周辺はモンスターがほとんど寄り付かない安全地帯となっているという話だった。


ここの原因は俺にも分かった。


黒い玉の女の子 実験体No.27(ニナ)が、俺を待っている間に暇つぶしにと周辺のモンスターを討伐していたことが直接の原因だろう。


結局、彼女自身がモンスター扱いされ、ギルドから討伐対象として認識されてしまったのは残念な話だけどね。


何とかして、ここの誤解は解いておかないと……。



「安全性が高く評価され、商人たちや観光客、移住者が増えて来ている状態です。だからこそ、正体不明の施設をそのまま放置しておくわけにはいかない。そう判断し、今回の依頼をお願いすることになったのです。」



確かに、人がこれからも増えると予想される場所の安全性をさらに高めたいという領主の気持ちは分かる。



「でも、本当に俺たちでいいの?もっと、経験豊富なA級に頼んでも良かっただろうに。」


「この街の変化を紐解いて、よく観察してみれば自ずと誰に託すべきか、その答えは出てきますよ。いつも、変化の中心には貴方が居た。この街がこれだけ周囲から注目され大きくなり始めたのは、間違いなく貴方が関わったからです。どうか、この街のためにお力をお貸しください。」



貴方様だからこそお願いしたいのです、とアンリさんは頭を下げる。



「……それはもちろんいいですよ。ただし、一つ条件があるんです。」


「条件?なんでしょう、私のできることなら何でもさせていただきますが……。」


「あっ!?そ、その言葉は、コイツには……!?」


「うぅ~!?う!う!」



何でもどうぞと、いうメイドさん。


その返答に、満面の笑みで頷く俺の隣では、観月とシルクが『あわわ……!うわわ……!』と慌てふためいている。


ただで生命をかけるのも、馬鹿らしいしね。


俺はまっすぐにアンリさんを見つめ、強くハッキリとした声で胸に手を当てると自身の協力条件を伝える。



「貴女のパンツを見せてください!」


「…………え?」


「聞こえませんでしたか?では、もう一度……無事に依頼が終わったら、パンツを見せ『 ぇ、エロザル!』……って!?グブォフォー!!?」


「サカエ様あぁー!!?」



ーズドーン!!



まだ話途中だというのに、俺の腹に強烈な一撃が振り抜かれる。


僅かに見えた視界では、観月が口からシゥゥゥー!と息を漏らして拳を突き出していた。


三メートルほど吹っ飛ばされた俺は、地面に転がるように着地する……。



「さ、サカエ様!?」


「大丈夫ですよ。いつもの事なんで。」



慌てるアンリさんにヒラヒラと手を振って観月は苦笑すると、地面に転がる俺を踏みつけて意識確認をする。



「う、うぅ……。」


「ほら、生きてますよ。大丈夫です。」


「生きているから大丈夫、という話でもない気がしますけど……。」


「本当にいつものことなので、お気になさらず。ほら、死んだフリとかいいから。」


「うぅ……フリじゃなくて、本当に天国の爺ちゃんが見えたんだけど。」



観月は俺の襟を掴んで片手で持ち上げ、ぶらんとアンリさんの前にぶら下げてみせる。



「ほら。喋れてますから、大丈夫ですよ。な?ユースケ。」


「あい……大丈夫……です……。」



カタカタと震えながら、吊り下げられる俺を見ていたアンリさんに瀕死の状態で何とか俺は返答を返す。



「ほら、ユーちゃん?本当に見たいのは、パンツじゃないでしょ?」



パンツを見たいのは本当なんだが……これ以上言うと本当に殺されかねない……。

ここは大人しく“もう一つの真実”を聞かせてもらおう。



「まぁ、パンツはまたの機会ということで。今聞きたいのは、アンリさんの正体ですかね?」


「正体……とは?なんのことでしょうか?」



俺の疑問にこくりと首を傾げると、アンリさんは困ったように頬に手を添えた。



「アンリさん、メイドさんじゃないですよね?」


「……と申しますと?」


「まず、その服。着方が間違ってますよ。リボンは背中では物を引っ掛ける恐れがある。普通は前に結び、エプロンの下に隠すものです。さらに、靴。先程まで庭にいたんでしょうが、つま先に土が着いてます。確認忘れでしょうか?」


「こ、これは……その……。」



自身の背中とつま先を見てメイドさんは目を丸めると、しまった……と声を漏らして顔をしかめる。

さらに、振り返った時にその耳にも違和感があった。



「更にはそのピアス。淑女を旨とするメイドさんはピアスや指輪、その他装飾品は外して行動します。誤って、怪我をさせたりしたりすると危険ということもあります。」


「っ!?」



耳と首元を抑え、さらにアンリさんは小さく背を丸める。



「そう。言葉遣いや振る舞いは一級品。ですが、メイドさんとしては身嗜みが二流三流なんです。その違和感の正体を知りたい。アンリさん。もう一度、言います。貴女……メイドさんじゃないですよね?ましてや、メイド長ではありませんよね?」


「ぐっ!?うぅぅ……!」



俺と観月の視線を受けて、アンリさんは顔をみるみる赤らめると肩を落として、小さく息を吐いた……。


「はぁ……。そうです……。さすが、女性が大好きなだけはありますね。」


「好きだからこそ、誰よりも詳しくなきゃね。それこそ、本人たちよりも広く深く知らなきゃ。」



俺の通っていた学園の生徒会長様はTheお嬢様だった。いつも、お側に控えていたメイドの龍造寺(りゅうぞうじ)さんが、メイドの雑学を教えてくれたんだ。


こんなところで役立つとは、思ってなかったけどね。



「仰る通りです。私はメイドではありません。本当の名前は、アンリ=ワルフォイと申します。」


「ワルフォイ…………ごめんなさい!舐めた口きいて、すみませんでした!!」



名前を聞いた瞬間、俺はその場にガクンと膝を折ると地面にめり込まんばかりに頭を地面に擦り付けた。



「「えぇっ!?」」



俺の急な反応に観月はもとより、アンリさん。いや……アンリ様も目を丸める。



「急にどうしたの!?ユーちゃん!?」


「名前を聞いて分からないのか?アンリ様は、この領主ワルフォイ様の御家族だ!」


「えぇ!?す、すみませんでした!」



観月も俺と同じように深々と頭を下げると、アンリ様は慌てた様子で俺と観月に駆け寄った。



「や、やめてください!確かに私はワルフォイ家の人間ですけど、そんなに頭を下げられるようなものではないんですよ?それに、領主はそんなに偉いわけではないんですから……!どうか、頭をお上げください!」



何とか立ち上がらせようと、俺と観月の腕を引っ張りあげるが俺たちはビクともしない。


身体強化Lv3ですからね!


今の俺たちを動かしたいなら、ドラゴンを連れてきてもらうしかないな!



「お、お許しを!どうか、この馬鹿を許してください!ほんの出来心なんです!女の子を見るとついついパンツ見たいとか口走っちゃう、もはや病気かなー?と思うほどハレンチ馬鹿なだけなんです!」



混乱した観月がとんでもないことを口走る。

誰が病気だ。俺は正常だ。男として正常なんだ。みんなもそうだろ!?



「パンツはいいんです!むしろ、私はサカエ様にハレンチなことをして欲しくて、毎夜毎夜、悶々とした日々を過ごしてましたから!そうじゃなくて、この状態はまずいです!周りに見られたら、私が怒られちゃいますよ!」



な、なに!?ハレンチして欲しかっただと!?

アンリ様が俺の《パオパオ*》を欲していると!?


〈 パオパオ*:象によく似た動物。若いパオパオは女性が近付くと異常に興奮する。 〉



それなら、話は早い!



「そういうことでしたら、アンリ様!閨に行きましょう!」


「閨ですか……!?え?あの、はい。優しくお願いします。私、初めてなので……。」



腕を掴む手を握り返すと、求婚する王子のような片膝を着いた体勢でアンリ様の手を握り熱い視線を送る。


アンリ様は口元に手を当てると、真っ赤になった顔で小さくこくりと頷いてみせた。



「って、いいわけあるか!!なにを混乱に乗じて、うら若き乙女とベッドインしようとしてんだ!エロスケ!!」



俺の横からタックルすると、観月は流れるような自然な流れでエビ固めをキメてきた!



「いだだだ!!?」


「どうだ!?エロスケ!ギルマスさんに教えてもらった固め技の味は!」


「おま、おまえー !?ギルマスと何か報告の度にゴニョゴニョ話してると思ったら、これだったのか!?」


「ユーちゃんの暴走を止めるために、私も日夜、努力してるんだーよっ!!」


「ぎぃやあぁぁー!!?キマってる!折れる!おれるうぅー!!」



バンバンと地面を叩くと、シルクが俺の前にしゃがみこみ、指を指してくる。



「うー?うー?(ギブアップ?ギブアップ?)」


「っ!?ギブアップしたら、アンリ様とおセッセできないのか!?」


「えぇっ!!?」


「当然だろっ!ギブしろ!エロスケ!」


「うー?うー?(ギブアップ?ギブアップ?)」


「嫌だァー!アンリ様とおセッセしたいぃ!アンリ様とぉー!おセッセ!したい!」


「あらあら……まぁまぁ……///」



俺の魂の叫びにアンリ様は目を丸めると頬に手を当て、真っ赤になって俯いてしまう。



「よく言った!浮気発言は了解だぁ!全力をもってお前を……粛清するぅ!」


「うぎ……ぎぃやあぁぁー!?」



ーポキン!



「はぁはぁ……!本当に最後までギブアップしなかったね……。」


「へっ……。男はな……女の子の前じゃ……カッコつけたがる生き物なんだぜ……。(ガクン……。)」



激痛で気を失う最後の瞬間、顔を染めたアンリ様に俺は気丈に笑って見せてみせると、親指を立てて強く頷いた。


ー 君との、おセッセは守ったよ……。


そう、小さくつぶやき意識を手放した……。



「サカエ様ぁ……///」



口元に手を当て、アンリ様はこれ以上ないくらい顔を真っ赤に染め上げると頬に手を当てステキ……と呟きながら品をつくっていた。



ー 屋敷内 ー



「何してるんだ?あの子たちは……。」



ワルフォイと呼ばれていた男性が、窓から庭で騒ぐ三人を眺めて苦笑を浮かべていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ