その屋敷、圧巻につき!
ー ワルフォイ邸前 ー
『この大きな街で一番の豪邸を教えてください。』
と聞かれた人達が一番最初に答えるであろう建物。
それがこの“ワルフォイ邸”である。
街全体の一割を占める邸宅で、誰もが羨む大豪邸と言えるだろう。
大きな門の前には、警備兵の姿。
さらに今居る場所からは整備されたガーデンが広がり、特注の石像までチラホラ見える。
まさに西洋の御屋敷そのものといえよう。
「いい屋敷だなー。」
「そうだねー。こんな大きいと、大変そうだね。管理とか維持費とか。」
「そだな。観月はどんな家に住みたいんだ?」
「んー……。今は1LDKでいいかな。」
「えー?観月の家って広いだろ?5LDKくらいは欲しいかと思ったけど……。」
「だって、1LDKなら、ずっとユーちゃんと一緒でしょ?部屋が多いと、一人の時間が増えそうで寂しいもん。」
「……観月。そうだな。観月と一緒に居れるなら、狭いのもいいかもね。」
「うん!ふふ……!」
観月は腕に抱きつくと、頬を擦り寄せる。
とても、幸せそうな姿に俺はそれもいいかと、小さく微笑んだ。
▶︎(コレはオフレコですが……。女である、私とリライアさんは気付いていました……。)
▷(観月さんの狙いは、単に一緒にいることではありません。本当の狙いは別のところにあるのです。)
▶︎(狭い家なら強制的に同じ部屋になるのですから、必然的に目の前に居ることになるのです。)
▷(何をするにも監視ができる状態。つまり……。)
▶︎(安易に部屋に女性を連れ込み、浮気をできないように監視すること。)
▷(それが、観月さんの本当の狙い。恐ろしい人ですね、本当……。)
「ふふ……!ユーちゃん。ずっと……一緒にいようね……。」
「あぁ……。」
抱きつく腕の中で、観月は黒く黒く微笑みを浮かべた……。
「フフフフ……!」
“闇観月さん”ご降臨の瞬間である。
残念ながら、栄咲遊助はこの時の観月の様子に気付くことはなかった……。
腕に抱き着いている観月の頭を撫でていると、屋敷の門が開き、中から鎧を来た警備兵が出てくる。
どうやら門番が交代の時間らしい……。
その中に見覚えのある人がいたので、近寄ってみると俺たちを見て声をかけてくれた。
「やぁ!サカエ殿たちじゃないか。今日は非番かい?」
「副隊長さんだ。こんにちはー。」
「あぁ、名前を伝えてなかったね。僕は《ペテロ》というんだ。」
「ペテロさんか。改めて、よろしくお願いします。」
「よろしくね!ところで、何してるの?」
握手を交わすと、首を傾げながら、周りを見渡す。
「実は、ギルマスの嫌がらせが来てて……。今回は、領主さんが依頼を頼んだみたいだから、話が聞けないかなって……。」
「なんだ、領主様に用だったのか。いいよ!案内するよ!」
「え?そんな、あっさり……大丈夫?」
「大丈夫!大丈夫!領主様も、会いたがってたし!歓迎してくれるさ。」
「……え?会いたがってた?」
ペテロさんに招かれるまま、俺たちは門をくぐると、長い中庭を抜けて、屋敷の前に到着した。
屋敷の前では、女性がニッコリと笑って俺たちを出迎えてくれる。
暗めの髪を後ろで纏めプリムを付けた女性は、俺たちの前に立つと、ロングスカートをちょんと摘み、恭しく礼をした。
すっげー、メイドさんだ。
しかも、めっちゃ美人……。
「ようこそ、いらっしゃいました。今日はどういったご要件でしょうか。」
声も澄んだ水のように綺麗だ。
笑顔と相まって、見る人に好感を持たせる印象だな。
「(……ふむ。メイド服か。リライアも似合うんじゃない?)」
▷へっ!?あ、あれ!?服が変わっ……あぁっ!?
▶︎あぁ……。主様の想像に、反応したんですね……。
「(なにっ!?今、リライアがメイド服来てるのか!?)」
▷うぅ~……!
▶︎ふふ……!今夜、楽しみにしとくといいですよ。
頭の中で、恥ずかしがるリライアの声が響く。もう、依頼とかいいから、リライアに会いに行きたいんだけど……。
「アンリさん、急にすみません。こちらは、ギルドから来られた、栄咲遊助殿と羽衣観月殿です。ワルフォイ様の依頼を受けて、内容を確認に来られたようです。ご案内して頂けませんか?」
ペテロさんが間に入り、俺たちの紹介をしてくれた。
「なるほど……。依頼書を見せて頂いても?」
「えーっと、はい。」
メイドさんが手を差し出すので、カバンから依頼書を出しメイドさんに手渡す。
受け取った依頼書を確認したメイドさんは、小さく何度か頷くと、微笑みを浮かべて依頼書を返してきた。
「畏まりました。応接室にご案内します。主はただいま、所用で外していますので、しばらくそちらで、お待ちください。」
「急にすみません……。」
「よろしくお願いします。」
観月が隣でぺこりと頭を下げるのに合わせ、俺も頭を下げる。
「いえいえ。こちらこそ、御足労かけてすみません。」
「…………。」
ふと、メイドさんの靴に目が奪われた。
靴に砂がついていたのだ……。
「それじゃあ、僕は屋敷の警護に戻るよ。」
「あ、ペテロさん、ありがとうございました。」
「ふふ……!領主様はすごい人だからね?粗相の無いようにね?サカエ殿。」
「気をつけるよ。」
「それでは、アンリさん、あとはお願いします。」
「はい。そちらも、よろしくお願いします。」
メイドさんに改めて頭を下げると、ペテロは手を挙げて門へと戻って行った。
街の警護に加えて、屋敷の警護も請け負っているのか……。
マタイ隊は大変だな。
「では、お部屋にご案内します。」
メイドさんに案内されて屋敷に入ると、大きな階段を横目に抜けて、応接室と書かれた部屋へと入る。
「お掛けになってお待ちください。今、お飲み物をお持ちしますので。」
「ありがとうございます。」
「…………ふむ?」
メイドさんが出ていったことを確認した俺たちは椅子に腰掛け、部屋を見回す。
「……ユーちゃん、どうしたの?体調悪い?」
「ん、んー?何で?」
「生のメイドさんに飛びつくかと思ったけど、そんな素振りもなかったから。」
「はは!まぁ、本物のメイドさんなら、そうしたかもね……。」
「え?どういうこと?」
コンコンと部屋をノックする音と、観月が首を傾げるのは同時だった。
扉を開けて、入ってきたメイドさんは、お茶を置いていくと、主の帰宅を告げて、そそくさと部屋を出ていく……。
俺はその背中を見て、自分の予想は確信に変わった……。
背中に目立つ程のリボンが結んであったからだ……。
通常、メイドさんとは家政婦さんと同じで、主の代わりに家事を行うことがほとんどだ。
当然、エプロンはするが、プロなら絶対にやらないことがある。
背中でリボンを結ぶこと、だ。
もしも、なにかの拍子に引っ掛けでもすれば、ここに陳列されている高級そうな物は一気に真っ逆さま。
床に落ちて、壊れてしまうだろう。
そうした危険を防ぐために、必ず、リボンは前で結び、エプロンの中にしまうのが通例なのだ。
さらに、最初に気になった靴の汚れ。
出迎えをするメイドさんなら、気を使って然るべきところ。足元は特に気をつけるべきところだ。
どうも、このメイドさんには違和感がある。
そう、まるでところどころで、素人のメイドのように感じるのだ。
だけど、喋り方や所作は紛うことなき一級。
……もしやこれは、試されているのか?
と疑念が頭を過ぎったところで、再び、扉をノックする音が聞こえる。
「失礼します。領主ワルフォイが到着しました。」
「失礼する……。」
件のメイドを伴って入ってきたのは、口髭を生やし、片眼鏡をかけた色香の漂う叔父さまだった……。
中に入ってきた二人を迎えるように、俺たちは立ち上がると、急な呼び出しにも対応してくれた領主へ謝罪と感謝の意を込めて頭を下げる。
「この度は急な来訪にも関わらず、お時間を頂き誠にありがとうございます。私はギルドより来ました、サカエといいます。こちらは共に仕事を行うミツキです。」
「ミツキです。よろしくお願いします。」
「ほぉ……。噂に聞いていた話と違うな。二人とも礼儀正しくて、実に好ましい人物じゃないか。」
事前に俺たちのことを聞いていたのか、領主は口髭を撫でながら、品定めするように俺たちを見ると、小さくほくそ笑む。
「私はこの領土の主、ワルフォイだ。よろしく頼むよ。」
ワルフォイは俺たちに座るように促すと、自身も俺たちの前に腰を下ろした。
傍らにはメイドさんが立ち、俺たちを微笑みながら見ている。
「それで、依頼についてだが、何を聞きたいのかな?」
「まず、依頼内容の確認をお願いします。こちらがお預かりした依頼書です。内容に、間違いありませんか?特に変更がなければ、このままの内容で進めていきますが……。」
「……あぁ。大丈夫だな。変更点もないようだ。」
領主に確認して貰おうと、目の前で広げてみせると、領主は上からじっくりと眺めていき、最後に頷いた。
「そうですか。では、このままで勧めさせていただきます。ちなみに、この地下施設について、お伺いしても宜しいですか?」
「あぁ。地下施設の情報は、この資料を見てくれれば分かる。不足している点は、この《アンリ》に聞いてくれ。」
「メイド長の《アンリ》です。よろしくお願い致します。」
「よろしくお願いします。」
紹介されたメイドさんは、頭を下げると俺たちに笑顔を向ける。さっきも驚いたけど、 メイドさんが、依頼の内容を知っているんだな。
余程、信頼されてるのかな?
「依頼書にも書いているが、遺跡は極力傷つけないでくれ。そうだな……ゴブリンの巣のような、爆発は避けて欲しいな。」
「ふふ……!御安心ください。今回は爆発は致しません。」
「ふふ……。街も近いことを念頭において、慎重に動きたまえ。」
口に手を当て、小さく笑う領主に俺も微笑み返すと、依頼書をまとめてカバンにしまう。
ゴブリン討伐の件は、領主の耳にも入っていたようで、依頼の方法には細心の注意を払うように念を押されてしまった。
まぁ、今回は本筋は遺跡調査と、モンスター討伐だ。
危険は行為はやめておこう。
「えぇ……。では、私たちは依頼に向かいます。進展がありましたら、御報告いたします。」
「あぁ。ギルドマスターの見立てでは、一月はかかる大仕事だ。急ぎつつも、怪我には気をつけるように。」
「ありがとうございます。可能な限り早く御報告できるように、尽力させていただきます。」
「あぁ、よろしく頼むよ。私は何分、多忙なものでね。これからのことは、アンリと話を進めてくれると助かる。」
「分かりました。アンリさん、よろしくお願いします。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「それでは、ここで私は失礼させてもらうよ。」
「お時間を頂き、ありがとうございます。」
「私はこのまま、サカエ様を門までお送りしますね。道中で、必要な情報をお渡ししておきます。」
「あぁ。頼む。」
傍らで微笑んでいたメイドさんが、領主に断りをいれると、俺たちの側に歩み寄ってくる。
フワリと花の香りも彼女についてくるようだった……
わぁ……!メイドさんとお話タイムだ。
しかも、かなり美人のメイドさんだよ。
これだけで、来た意味があるってもんだね。
本物、云々よりも、単に女の子が近くにいるというだけで、女の子パワーは充填されてくる。
そりゃ、ハレンチさせてくれたら、もっと充填できるけどねぇ……?
観月も言ってたけど、俺だって本当はメイドさんに飛びつきたいんだよ?
あのロングスカートの中はどうなっているのか、興味津々ですよ。男ですからね!
だ・け・ど……。いくら、色欲魔王の俺でも、今回は、安易に飛びつけない事情がある。
相手は、領主様付きのメイドさんだ。家族のように、お気に入りだったら大変だ。首がいくつあっても足りないしね。
今は眺めるだけで、満足しとこう。
「……ふふ。依頼達成の報告を待ってるよ。」
ーパタン
立ち上がった領主は口元に手を当てると、小さく微笑んで、そのまま部屋を退室していった……。




