これが俺の新たなハレンチ必殺技につき①
「あれが・・・フレイムさんが、言ってたモンスター・・・?どうやって闘ったらいいの、あんなの・・・。」
薬草の群生地に残されたイブは、闇に蠢くモンスターの姿を見て絶句する。
まるで夜という紙に、乱暴に墨で上書きしたように浮かび上がるその身体。
今までの経験でも見た事のないタイプに思わず、全身に震えが来るほどの恐怖を抱く。
あんなものが、突然目の前に現れたら、自分ならきっと足が竦んで動けない・・・。
そう、間違いなく思わせるほど、そのモンスターはあまりに異様な存在感を放っていた・・・。
「とにかく、急がないと!ここまで来られたら、依頼が達成できない・・・。」
遠くで戦うユースケと観月を確認したイブは、花の採取を急ぐ。
普通なら、ユースケに続いて交戦に向かうべきなのだろうが、ここは依頼を優先すべきだと冒険者としての勘が告げていた。
間違いなく、今の自分では足でまといになる。
そう、身体が判断し、震えとして現れるほどに、警鐘を鳴らし続けているのだ。
しかし、自分の気持ちなど、自分しか知りえないもの・・・。
その隣では、立ち上がったミルナンは目を輝かせて、闘うサカエの姿を見つめた。
「あ、サカエが闘ってる・・・。」
「言っとくけど、まだ行ったらダメだよ?薬草が詰み終わるまで行ったらダメ。」
「そんなこと知らんし!ミルナンも、サカエと闘う!モンスターをボッコボコにしてやるんだ!」
イブの静止を振り切る勢いで、ミルナンは手にした花の束を投げ渡すと、姿勢を落とし駆け出そうと構える。
何とか止めなくては・・・。
きっと、今のペースでは、花は集まりきらない。
あの得体のしれないモンスターが、もしも、何かの弾みでこちらに来たら、間違いなく依頼は不達成で終わる。
それだけは何としても避けたかった。
待っていてくれる親子のためにも。
ここに来てくれたサカエたちのためにも。
自分たちには、その責務があると感じていた。
だからこそ、今のこの子を止めなくてはならない・・・。
「ふふ!まぁ、そういうと思ったよ?でもいいのかなー?」
「・・・なにが?」
闘いが始まれば、当然、ミルナンが飛び出すことは予想していたイブは、手の花をカバンにしまい、ミルナンと共に奮闘するサカエを見る。
「今入っちゃうと、サカエくんの本気、見れないかもよ?」
「・・・サ、サカエの本気?」
「サカエくんの闘ってる姿、噂には聞いてたけど、実際に今まで見たことないでしょ?どんな、戦闘スタイルなのか、気にならない?」
「それは・・・気になるけど・・・。」
「気になるよね~?でも、ミルナンが飛び出して、モンスターを横取りしちゃったら、サカエくんは助かるけど~、本気は出さないで終わるんじゃないかな~?」
「んんっ!?うぅぅ〜〜・・・!」
耳元で囁かれるイブの言葉に、ミルナンは唇を噛み締めて、闘うサカエの背中を見つめる。
「そうだね~?行きたいよね~?でも・・・サカエくんの本気も、見たいよね~?弓を使うのは知ってるけど、どんな闘い方するのかな~?中遠距離は分かるけど、接近戦になったら、どうするんだろねぇ~?魔法かな?それとも白兵戦かな?もしかしたら、ミルナンみたいに、拳を振るのかな?」
「うううぅぅ〜・・・!!?」
イブは、わざと想像を駆り立てるような言い回しで、ミルナンの好奇心をくすぐるように話を続ける・・・。
「見てみないと分からないよね?」
「うぅ・・・分からない。」
「知りたいよね?」
「うぅ・・・知りたい。」
「じゃあ、ここで見てる方がいいんじゃないかな?サカエくんの本気が出るのを、ここで待つのも、アリなんじゃないかな~。」
「うん・・・アリ。サカエの本気、見たい・・・見る・・・見るぞおぉー!」
拳を握りしめ、鼻息荒く、目を爛々と輝かせてミルナンはサカエの背中を見つめる。
「ほっ・・・。単純で助かった・・・。」
その後ろでイブは小さく胸を撫で下ろすと、戦闘を続けるサカエに目を向ける。
なんとか、ミルナンを抑えられたが、それもそう長くは保たないだろう。
「サカエくん・・・。急がないと、バカが邪魔しに行くよ?」
「うおぉぉー!サカエ!ミルナンは応援してるぞぉ!」
「花を詰みながらね!見るのはいいけど、手は動かすんだよ、ミルナン!」
「おー!詰みながら、応援してるぞぉー!サカエエェー!」
花を詰みながらも、視線はしっかりとサカエを捉えて、ミルナンは応援している。
器用だな、この子・・・と、ミルナンに苦笑を浮かべて、詰んだ花をバッグに詰める。
このペースなら、意外と早く終わるかもしれない。
隣では周りの様子など気にすることなく、楽しそうにシルクが花を積んでいた。
とても丁寧に花を集め、束ねては置いていく。
少女ながらに、その手さばきは見事なもので、まるで職人のようだった。
「し、シルクちゃん、すごいね・・・?これ、シルクちゃんが集めてくれたんだ。」
「うー?うぅー!」
五本程の花を束ねて、集めたものが十束以上が、気が付けばシルクの横に置いてある。
なんて早さ・・・。
「うー・・・。」
「凄いよ、シルクちゃん・・・。私も負けてられないな!うん!」
黙々と動くシルクの手に感動を覚えたイブは、負けじと花畑に腰を下ろして、花摘みを再開した。
観月は振り下ろされた爪を、偃月刀で受け流し、反撃に転じようとするも、さらに黒ウルフは、押し潰さんばかりに勢いよく左手を振り下ろした。
それを甘んじて受けるような真似はせず、観月は後退しながら前足を斬りつけた。
ーザンッ!
「浅かった!って言える方がまだいいくらいに、切った感触がないんだけど・・・!?もう!その体に纏ってるのなんなの!?」
『んー・・・。黒い水?』
「水・・・!?」
悔しそうに偃月刀を握りしめた観月は、地に手をついて眉を寄せる。
ウルフは二本足で立ち上がると、顎に手を当て、こっくりと首を傾げてみせた。
「あぁ・・・。水なのか。だから、切ろうが刺そうが感触がないわけだ。」
まるで人間のような仕草に、俺は思わず苦笑する。
恐らく、中の少女の動きがそのままトレースされているんだろう。
「前は、擬態とかできなかったよな?それが、新しい能力?すごいねー。」
『うん・・・。倒したから・・・データが・・・取れた・・・。』
「あ・・・モンスターを倒して、データが取れると、真似ができるようになるのか。」
『そう・・・。このデータは、林の中にいたウルフ系のモンスター・・・。』
「あぁ、なるほどね。動きが所々、ニナなのは?」
『核が・・・私・・・だから・・・。私の意識に・・・“黒い水”は・・・反応する。』
例えば、と二足歩行のウルフはグッと身体に力を込めると、双肩から腕が二本追加される。
まるで・・・あれだ・・・少し足りない阿修羅・・・。
または、子供の時にやったゲームに出てきたモンスター。
“バケットモンスター”のカイリキンだな。
『データがあれば・・・こうして・・・増やすこともできる・・・。』
ーブン!ブン!グググッ!!
計四本になった腕を器用に動かすと、拳を構えて、ウルフは俺たちに牙を剥く。
『どう?・・・すごい?・・・こわいなら・・・降参する?』
「いやー、すごいね。腕を増やすか・・・なるほど、ふむふむ。・・・お!?そうか、これを〈 サカエの触手 〉に応用できるんじゃないのか?」
「ちょっと、ユーちゃん・・・。今、それどころじゃないでしょ?」
『サカエ・・・何?』
黒ウルフの姿を見て、俺はさらにハレンチに転用できると悟った俺は、ポン!と手を鳴らして、ニヤリと笑う。
腕四本になった俺って、すごくね?
もう、観月ちゃんを後ろからギュウギュウのギュウして、さらにモミモミんちょできるぞ!?
モミモミモミんちょしながら、パンパンだ!
「み、観月!そんな!あぁ!なんて!ハレンチなぁー!!」
「は、ハレンチ!?ちょっ!はぁ!?なに急に叫んでんの!?バカじゃない!?」
『ハレンチ・・・?』
新たなアイディアが膨らんだ俺は、たまらず、観月の背中を見つめながら、妄想に浸ると、最高潮に達した色欲が俺の中で爆発した。
「ふふ・・・ニナ!確かに、キミはすごいな!もっと、俺にアイディアをくれ!俺の溢れる色欲を駆り立ててくれ!」
『色欲・・・?なんのこと?』
「言葉は不要!身体と身体で、語り合おうぜ!」
「言い方が、すごくハレンチ!そこは、拳と拳でしょう!?」
「バカいうな!女の子に振るう拳はなーい!俺は最初から最後まで、エクスタスィーだぁ!」
「もう!ほんと、最低えぇー!!!」
弓を構えると、魔力を込めた矢を放つ。
ーゴオォォー!!ドシャッ!
唸りを上げて放たれた矢は、腕に命中すると、作られた腕を霧散させる。
『・・・腕を減らしても・・・。』
また再生できると、無くなった腕を引っ込めると、また亀が頭を出すように、腕が生えてくる。
「まるで・・・亀さんだな。・・・・・・え、待てよ?てことは・・・アレにも応用できるのか?うぅぅ〜〜!試したい!観月!今夜はヒーヒー!させてやるからな!楽しみにしてろよ!」
「えええぇーー!?戦いの途中で、何言ってんの!?」
「大丈夫!多分、すごく満足できるよ!」
「私、これでも、いつも満足させてもらってるんだけど・・・。」
モジモジと観月は指を絡ませと、チラリと俺を見て頬を染めて俯く。
「俺は日々、進化する!これから、もーっと、ハレンチになりにつき!楽しみにしとけ、観月!」
「ハ、ハレンチ・・・ハレンチだよぉ~///」
くらんくらんと目を回すと、ぺたりと地面に座り込んで、顔を両手で覆い隠す。
もう、処理が追いつかない観月は、頭が湯気が出て、耳まで真っ赤になっていた。
そんなに、楽しみにしてくれるなんて、男冥利に尽きるねぇ!
俺はニヤリと笑うと、黒ウルフに向き直り、ビシっ!と指を指し示す。
「てわけで!俺たちは帰ったらイチャイチャするから、速攻で終わらせるな!ニナちゃん!」
「イチャイチャ、言うなぁ!ばかぁ~~!」
『速攻?それは・・・こっちのセリフ・・・。』
「いくぜッ!」
観月の抗議はスルーして、俺は矢を番えると、再び魔力を通して弓を射った。




