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月に輝く花と風を切る矢につき

丘に向けて街道を歩いていくと、林を抜けたところでモンスターもチラホラと現れるようになった。


ここら辺のモンスターは、マタイさんやギルメンが逐一目を光らせているため、さして大きくもなっておらず比較的討伐は楽になっている。


だからこそ、俺や観月には楽過ぎるといってもいいほど物足りない相手になっていた。


もしも、RPGなら経験値が1くらいしか入らないだろう。


まぁ、この世界はそんな、レベルアップなんて簡単なシステムにはなってないようだけど。

そもそも、レベルとかいう概念があるのかすら不明・・・。



「よっ!」


ー ズバッ!


俺たちは特に危険に陥ることも無く、着実にモンスターを倒していく。



「はっ!」


ー ギャン!



というか、ほとんど観月ちゃんが倒してしまっていた。



「ごめんね、観月さん。ほとんど、闘わせてしまって・・・。」


「え?うんん、いいよ。大した相手じゃないし。」



任せっきりになってしまって、申し訳なさそうにするイブさんに、観月は偃月刀を担いで手を振って答える。


大した相手じゃないという言葉の通り、ほとんどのモンスターは一撃で討伐されていた。


モンスターに出会うと、観月が駆け出し斬る。


【エンカウント即死】のスキル効果でもあるんじゃないかと思うほど、観月の前に飛び出したモンスターは尽く討伐されていた。



「観月、前線を入れ替わろう。俺が前な。観月は後衛に回ってくれ。」


「え?大丈夫だよ。全然、疲れてないし。」


「疲れは関係ないさ。単に、俺も肩慣らししたいだけ。この後に問題のモンスターと闘っても気後れしないくらいは、気持ちを上げときたいんだよ。」


「・・・うーん。分かった。」



観月は渋々といった様子で、俺と位置を変えるとシルクと共に殿(しんがり)に就く。



前衛を俺とミルナン、中衛をイブさん。

後衛を観月とシルクで編成し歩いていく。


ワイスナーはどこに行ったのかって?


彼なら中衛のイブさんの横にある“棺”に入ってるよ。

彼は出立の時から、瀕死だからね。


ちなみに、仲間殺しをしたミルナンが責任を持って引き摺っているんだ。


そのまま持てば重いだろうと思い、棺は【重力】を操作して軽くしてあげた。


ワイスナーが可哀想だからじゃない。

ミルナンが大変にならないように、軽くした。


ミルナン(のおパンツ様)をバカにした男など、内心、放って起きたいところだったが、どうしても連れて行く雰囲気だったので仕方なくだ。仕方なく。



「サカエは、すごい魔法を知ってるな。【重力魔法】なんて、ミルナンも覚えてないぞ?」


「それ以前に、ミルナンは魔力ないから、魔法自体覚えられないでしょ?」


「あっははは!そうなんだ!ミルナンは魔法使えないんだよ!」



イブさんからツッコミを受けて、頭をポリポリと掻くとミルナンは棺をグッと引っ張って歩き出す。



「まぁ、魔法なんてなくても、ミルナンは強いからな。この身体さえあれば、ミルナンはサイキョーだ。」



棺から伸びた紐を手に巻き付けて、ミルナンはニッカリと笑う。


格闘家の彼女は、基本的にその身体能力のみで闘っている。


どんなカラクリかと思い、スターテスを覗いて見れば、身体強化Lv3の補正スキルつき。しかも、身体強化に加えて武道家特有の《気関連スキル》も豊富に使えるらしい。


つまり、肉弾戦だけならA級なのだ。


こんな小柄のチャイナ女子なのに・・・。


あー、無邪気な笑顔が可愛いなぁ・・・もう。

戦闘狂なんて、どうでもいいくらい、可愛い。



「でも、サカエやミツキはもっと強いんだろ?フレイが言ってたぞ。」


「ギルマスが?へぇー、あの人、裏では人の事、褒めたりとかしてんだな。」


「わぁー。そこに、私も入るんだー・・・。なんか、バケモン扱いされてるみたいで嫌なんだけど・・・。」



苦笑する俺と観月に、ミルナンは首を振ると、拳をニギニギと動かしてポツリと一言・・・



「そうじゃなくて、本気のミルナンを止められるのは、この世でサカエとミツキだけだって、言ってたぞ。」


「本気のミルナン・・・って?」


「え?どういうこと?」


「あはは・・・褒めたんじゃなくて、単に面倒事を押し付けられたみたいだね。確かに、暴走したミルナンは仲間の私たちでも止められないもんね・・・。下手したら、A級呼んで来ないといけないもん。」


「「えぇ!?」」



もしもの時は、頼んだよ?とミルナンとイブさんが、俺たちの肩を叩いて歩みを進める。


え?つまり、テンションが暴走したミルナンを抑える係を押し付けられたってことか?


聞いた話では、ミルナンは暴走すると一日中暴れるって話じゃないか。

魔族も裸足で逃げ出す戦闘狂。

それがミルナンだと聞いている。



「とんでもない仕事を、押し付けられたもんだなぁ。」


「もぅー・・・。また、ユーちゃんの周りに女の子が寄ってくるぅ。」



二人で肩を落とすと、ギルマスの思いつきにブーたれながら、二人の後に続いて歩き出す。


もうそろそろ、目的の丘に着くだろう。


どうか、モンスターよ、出てこないでくれ。


絶対、ミルナンの闘争心に火を着けるようなことになるだろうから・・・。


月明かりに照らされた道の先に、月の涙が咲くとされる丘が見えてきた。


今自分たちが居る場所から少し小高い場所に生息しているため、花はまだ見えていないが、聞いていた目印の大きな木もあるのでまず間違いないだろう。


ご丁寧に丘へと続く細い道には【 光ヶ丘 】と書かれた看板もある。

月夜に光る花に因んで名付けられたらしいが、花が無くなったらどうなるんだろう。



「ユーちゃん。どこからか視線を感じるんだけど・・・。」


「あ、バレた?観月の可愛い丸いお尻って、ついつい目で追っちゃうんだよねー。」


「な、何見てんの!?変態!」



振り返った観月のスカートをガン見すると、観月はお尻を手で隠して飛び跳ねる。


むぅ・・・。警戒されてしまったか。

惚けておけばよかったなー。そしたら、もっと拝めたのにー。



「相変わらず、ハレンチだねー、サカエくんは。」


「なんだ、サカエはお尻が好きなのか?」


「ミルナン、俺はお尻が好きなんじゃない・・・。“女の子”が好きなんだ!女の子の部位なら全てが大好きだ!!勘違いするなよ!」


「お、おぉ・・・。なんか、ごめんな・・・。」



くわっ!と見開かれた俺な真剣な眼差しに、たじろいだミルナンは隣のイブさんに抱きつくと小さく頭を下げる。



「い、いやー。噂には聞いてたけど、サカエくんの女の子好きは相当だね。」


「ふふ・・・。それほどでも~あるよ?俺は男が大っ嫌いだけど、女の子は大大大〜〜っっ好きだ。柔らかくて、いい匂いがして、それに可愛い。まさに世界の宝だと思っている。」


「ちなみに、大袈裟じゃなくて、本気で言ってますから。この変態。シルクちゃんを抱っこしてる時、戦闘力は三倍に跳ね上がりますよ。」


「三倍だって!!?なんだそれ、スゲーな!!?」



観月の補足にミルナンは目を丸めると、興奮気味に俺とシルクを見る。



「ちょっと、ミルナンと闘わないか!?」


「うーん・・・胸を揉んでいいなら。いいよ?」


「・・・・・・え?いいぞ?ミルナンは、イブみたいに化け乳じゃないから揉んでも楽しくないと思うけどな・・・?」


「化けッッッ!!?誰の胸がお楽しみ満載の乳お化けだコラァッ!?」


ーゴンッ!


「ふぎゃ!?ふおぉ〜〜・・・!」


「ほら!バカ言ってないで、行くよ!ミルナン!みんな!」



ミルナンの頭にゲンコツを落とすと、プンスカと肩で怒りながら、痛みを堪えるミルナンの首根っこを掴んで細道に足を踏み入れた。



「・・・乳お化け。ってことは、観月とリライアも大きいから二人とも乳お化けってことか。」


「お?ユースケ、喧嘩売ってんな?誰の胸がお化けって・・・?私の胸をそんなに討伐したいのか?」


「そうだなー。討伐っていうより・・・手懐けたい、かな?」



詰め寄っていた観月の腰に手を回しギュッと抱きしめると、頬に手を添え優しく微笑む。



「っ!!?ば、バカ!いつもと、ノリ変えないでよぉ・・・。不意打ちはダメって・・・調子狂うからぁ・・・。」


「ふふ・・・。ちゅ!」


「んんっ!・・・ユーちゃん。」



軽いキス。月明かりに照らされた観月が、真っ赤になった頬を隠すように、胸に顔を埋めて抱きつき返す。



「全部、パパッと終わらせて、たくさん、愛し合おうね。」


「・・・も、もう///」



観月は胸の中で、耳まで真っ赤になると、小さくこくりと頷く。

なんだか、その顔を見ていると不思議と気持ちが高揚して身体も熱く感じる・・・。

こう、気合い十分って感じだ。



「ふふ・・・。あながち、戦闘力三倍も冗談じゃないかもな?」


「・・・じゃあ、これから依頼前には、キス・・・しようか?」


「いいねぇー・・・。それ採用。」



ーちゅ!



「ふふ・・・!これで、私も戦闘力三倍だね・・・♡」


「こらー!!二人とも!イチャイチャしない!!」



二人で腰に手を回し合い見つめ合いながらキスをしていると、細い道の途中でイブさんが腰に手を当て、目じりを吊り上げて叫んでいた。



「なにしてるんだ!?なぁ、イブ。あの二人、何してるんだ!?」


「子供は知らないくていい!(ギロリ・・・!)」


「んなぁ!?誰が子供・・・あ、はい。ごめんなさい・・・。」



ミルナンは口元に手を当て、目を丸めている。

俺たちの行為に興味深げな様子だったが、イブオカンに叱られてしまい仕方なく好奇心に蓋をする。



「あはは・・・。行くか。」


「うん・・・。ユーちゃん。終わったら、約束だよ?」


「あぁ。約束だ。」


「うん!」



手を繋ぎ、にっこりと笑う観月。

よーし!ボクちゃん、もうヤル気マンマンよ!


モンスターだろうが、なんだろうがいつでも来いってんだ!


俺はフン!っと、腹に力を込めると、拳を握りしめて腕を突き上げた。


細い道を皆で歩み、丘の上に到着した。

目の前には月明かりに照らされて輝く青白い光を放つ花が辺り一面に咲いていた。



「う〜〜!」


「おぉ・・・凄いな。」


「うん・・・綺麗・・・。」



先に着いていた二人は“月の涙”を採取していた。



「ごめん。サカエくんたちは、警戒をお願いしていい?私たちは、依頼品を採取しとくから。」


「あぁ・・・。んじゃ、俺と観月は周りを見て回ろう。シルクは、二人のお手伝いをしておいで。」


「うん。」


「うーー♪」



綺麗な花に興味津々のシルクは、許しを得ると一目散に花畑へと駆け寄って行く。


俺と観月は武器を手にゆっくりと周りを警戒しながら、採取が終わるのを待つことにした。


ふと、丘の上から今歩いてきた道を見下ろすと、道の真ん中に何かが見えた・・・。


月明かりに照らされた道の真ん中に穴。


異様にそこだけ切り抜かれたように、ぽっかりと穴が空いていた。



「観月・・・あれ、なんだと思う?」


「ん?何かあった?」



反対側を警戒していた観月に声をかけると、観月が側に駆け寄り、俺の指し示す先を見る。


髪を耳にかけ、目を細めて、穴を凝視する観月。


その横顔が、月明かりに照らされてとても綺麗だと、心奪われそうになるが、今はそれどころではないと頭を振る。



「ん〜〜・・・。穴?」


「・・・穴だよな?来た時、あったっけ?」


「うんん?なかったよね。結構な大きさだし、来る時に気付きそうなもんだけど・・・。」


「・・・気になるな。少し、見てくるか。」


「え、迂闊に近付かない方がいいよ?もしかしたら、罠かもしれないよ?近付いた瞬間、落とされたりして。」


「あれくらいの穴なら・・・跳んで出られそうだけど・・・。それか、シルフィの力を借りて飛び出すこともできるんじゃないかな?」


『ん〜。難しいかな。』



精霊契約の指を撫でて、シルフィに話しかけると、意外にも返ってきた答えは渋いものだった。



『穴の中から、出るのは無理かも。穴が何処かに繋がってるなら、風の流れを作れるけど、ただの穴だと、風が中で暴れちゃうから。人を持ち上げるほどの強い風なんて起こしたら、中でズタボロだよ?』


「おー、天然のミキサーか。怖っ。」



俺は穴に再度目を移すと、思わず目を丸めた。

穴がさっきの位置と変わっている。

少し、俺たちの方に近付いてきているようだ。



「あ、ああー・・・。あれ、穴なんかじゃない。」


「え?」


「“彼女”だ!!」


「彼女・・・?」



小首を傾げる観月に振り返ると、俺は慌てて、花摘みをしている三人に声をかける。



「まだ、かかるか!?モンスターが現れたぞ!」


「えぇ!?本当に!?まだ、半分も詰めてないのに・・・。」


「くっ!仕方ない・・・。観月!相手を引きつける!一緒に来てくれ!」


「う、うん!」



俺は観月の手を握ると丘から駆け下り、忍び寄る“影”へと、挨拶代わりの第一矢を放った!


やはり、穴に見えたそれは、穴などではなく、真っ黒な闇の塊だ。


矢を伸ばした腕で弾くと、黒い腕を四本伸ばし、まるで獣のように駆け出した。



「やぁ!久しぶりだな!ニナちゃん(実験体27号)!」


『あ・・・あぁ・・・ようやく・・・来た・・・。』



黒い塊は徐々に形を変え、ウルフのような形状になっていく。

形状変化・・・前は腕を出すだけだったのに、また進化してきたのか?



「ようやくって?あ、もしかして、俺を待っててくれたのか?はは!嬉しいなぁ!」


『うん・・・。ここで待っていたら・・・貴方が来るって・・・言われてたから・・・。』


「言われたの?・・・誰だろ?君の上司の人かな?」


『フレイムって、オジサン。』


「あの、くそヒゲえぇー!!」



俺は弓を引き絞ると、矢に風魔法を纏わせて空へ放つ。



『っ!?・・・あれ?・・・どこに・・・飛ばしたの・・・?』


「あ、ニナじゃないよ。大丈夫。ちょっと、わるーいオジサンに、おしおきを届けただけだから。」



足を止めた黒ウルフに手を振ると、俺は苦笑する。



ーーーヒュー!!



魔力を込めた矢は風を纏い、威力と速さを持って、空を飛ぶ。


月明かりに照らされて、キラキラと輝く矢まるでほうき星のように闇に尾を引きながら、街へと向かって飛んでいく。



「ん?あれは、なんだ?星?いや、流れ星か?」



門から外を警戒していたマタイさんは、首を傾げて飛来物を眺めていると、それはどんどんと近付いて来て、門を超え、中へと入ってしまった。



「なっ!?なんだったんだ?」


「たぶん、サカエさんじゃないですかねー?」


「サカエ殿かぁー ・・・。てことは、フレイム殿への仕返しだな?」


「まーた、サカエ殿に何か問題を押し付けたんでしょうねー。」


「まったく・・・。そんなことするから、一ヶ月、禁酒になるんだよ、あの人は・・・。」



頭を抱えて、マタイは矢の飛んで行った方に目を向けると苦笑を浮かべた。


ーーーヒュー!!



「さて、ここら辺の女の子にしようかな・・・?確か、ここに今日、16になる女の子が居たはず。ボクのぶっとい祝福(触手)で、たっぷり可愛がってあげるからねぇ~ヒャハハ・・・!」



天使は一件の民家に狙いを定めると、向かいの屋根の上から部屋を覗き見る。


中では女の子が、寝巻きに着替えているところだった。


天使が女の子の肢体を眺めて、ペロリと舌なめずりをした瞬間・・・。



ーーーヒュー!ズドンッ!!



「え?あ、あぁ・・・!?がっ!?あっ!?痛っ!?痛いイィ!!?」



肩を何かが貫き、吹っ飛ばされる。

屋根から転げ落ちると、裏路地へとどさりと落ちた。

激痛に悶え、何が起きたのかと自分の肩を見れば、腕にぽっかりと穴が空いている。


しかも、傷が大きいために、そこから、無尽蔵に血が流れ、白い衣をどんどんと真っ赤に染めていった。



「な、なんだ、これ・・・!?なんで、ボクの肩が・・・あぁ・・・!?止まらない・・・血が止まらない!やだっ!し、死んじゃうよぉ・・・!これ!死んじゃううぅー!」


恐怖と痛みに混乱した頭で、何が起きているかも理解できぬまま、天使は地面をのたうち回る。


ー ぷるん・・・。


「え?え?なに?なんだ?誰かいるのか!?助けて!誰でもいい!助けてくれ!」



薄暗い路地裏で、隠匿スキルを発動していることも忘れ、天使はひたすらに助けを求める。


一瞬聞こえた声と気配・・・。


その何者かにすがりつく。



ーぷるん!



「え・・・・・・?スライム・・・?こんな街中に・・・なんで?」



掴んだそれがスライムだと知った天使は青ざめると、周りを見渡す。



ーぷるん!

ーぷるぷる!

ーぷるん?ぷ?

ーぷーーー!



あらゆる隙間という隙間から、スライムが湧き出てくる。

気付けば周りには二十以上のスライムに取り囲まれてていた。


一体一体なら、大した驚異ではないスライムも、これだけの数となると、その危険度は一気に跳ね上がることは、人間は、もちろん天使だって知っていた。



「うぅ・・・うぅ・・・来るなぁ・・・来るなぁ!!」


「ぷるん?ぷるん!」



混乱した天使は、目前に来たスライムを蹴りつける。


それが・・・

いけなかった・・・



「ぷーーー!!」


「「ぷううぅぅーー!!!」」


「あ!あぁ・・・!や、やめっ!?うぎぃやああぁー・・・!!」



攻撃されたことで、完全に敵と認識したスライムは一斉に、狼狽する天使に飛びかかった・・・。


後には、何も残らない・・・。

骨すらも、残らなかった・・・。


『日頃怒らないスライムほど、怒らせると、何よりも怖い。』は、この世界【レイナス】では有名なことわざだった。



「げふぅー・・・。シー、シー。」



スライムが、爪楊枝代わりに、小枝で口の中を掃除する。


こんな器用なマネはもちろん、野良のスライムではできない。



「うー・・・。」


「ぷるん!」



この街を警備するために、影に潜んで住民を見守り、同時に掃除をしているスライム。


白いレアなスライムたち。


その全てが、シルクが影で配置していた眷属のスライムだった。



主の負担を少しでも減らそうと考えた結果、リライアたちと共に考え出した作戦は、見事に機能し始めていた・・・。


ーーーヒュー!!


長い距離を飛び、天使に致命傷を負わせてもまだ止まらないサカエの矢。


まるで、サカエの怒りを宿したように、さらに威力と風を増した矢は、もはや矢とはいえるモノではなくなっていた。


ハリケーンの如く唸りを上げて、目的地へと近付いていく。


最終目的地はもちろん・・・ギルド!!



「あっはははー!今日は酒の解禁日だぁ!やったぜぇー!!」



ギルドの一階で、受付け嬢のナターシャから受け取ったジョッキを片手に、ギルマスこと【ヴァイシュ=フレイム】が大笑いを上げていた!


今日この時を、どれだけ待ち望んだか分からない。


その期間、一ヶ月。


サカエが初日に、ギルドのお金で大量に買い占めた小麦粉の支払いのため、給与を抑えられたギルマスは、酒も飲めぬ日々を過ごしていた。(八つ当たりでギルメンから、酒を奪い取っていた日を最後に、酒は飲んでいない。)



溜まるストレスの発散場所がなく、イライラとしていたが、それも今日まで!


なんと、今日はギルマスの給料日なのだ!!



「お前ら!先月は悪かったな!今夜は俺の奢りだ!みんな!飲め飲め!!」


「「おおぉぉー!!?」」



上機嫌のギルマスは、受け取った酒を高々と掲げて、ギルメンに豪胆に笑いかけた。



「祝えぇー!!俺の可愛い可愛いお酒ちゃんのご帰還だ!!」


「「おおおぉー!!!」」



ーーヒュー!!バコオォォーン!!



掲げた酒を皆に向けた瞬間、それは祝杯ムードをぶち壊すために、ギルドの扉をぶち破り、飛んできた・・・!



「な、なんだ!?」


「「扉がぁっ!!?」」


ーバゴンッ!!



ギルドの扉を派手にぶっ飛ばしたソレは、ギルマスの掲げたジョッキを容赦なく貫く!!


そのまま、ジョッキを連れ去り、ギルドの受付の壁にジョッキを縫いつけた・・・。



「なあぁっ!?俺の酒ぇがあぁぁーー!!!?」



ー カカカカカ・・・!



目視できるほどの魔力が、ジョッキを縫い付けた矢から抜け出すと、まるで死神がその場で大笑いするような幻影を見せて、ゆらりと陽炎のように消えた・・・。



「俺の酒ぇがあぁぁー!!」


「・・・矢!?一体、どこから、飛んできたの?」



深々と刺さる矢と、吹っ飛んだ扉を交互に見て、ナターシャが青ざめる・・・。



「この矢・・・サカエのかぁー!?」


「「サカエの!!?」」



矢を引き抜き、観察すると持ち主を当てたギルマスはブチ切れながら、矢を“握り折る”!



「アイツうぅぅ〜〜!!俺の楽しみの時間を邪魔しやがってえぇ〜!!どういうつもりだあぁ〜!!?」


「ま、待ってください!サカエさんなら、今、依頼に行ってますよ!?確か、ワイスナーさんの依頼を手伝って、“光ヶ丘”のはずです!」



ー 光ヶ丘!?

ーこっから、どれだけ離れてんだ!?

ーそんなとこから、矢なんて飛ばせないだろ!?

ーしかも、“矢”が扉をぶっ飛びしたんだぞ?

ーありえないだろ!!?



ナターシャの補足に、ギルメンは皆、首を振る。そんなことは、ありえないと。

距離もありすぎる上に、矢一本に、こんなに威力があるはずがないと。


人間技ではない。魔族の仕業じゃないかと、誰もが考えていたが、ギルマスは一人、無惨に零れたジョッキを握り俯く。



「くうぅ~・・・!!アイツなら有り得るんだよ。アイツは来月のA級試験受ける資格があるんだぞ?」


「「えぇッ!?」」


「何、驚いてるんだ?俺の特別依頼を全部、一ヶ月で攻略しちまったんだ、申し分ねぇーよ。おかげで、俺に来てた依頼は全部終わったぜ。久方ぶりにフリーで酒飲み放題な一日だったのにぃ・・・!アイツうぅぅ〜〜!水さしてんじゃねぇぞぉー!?」


「(いや・・・だから、じゃね?)」



皆の心に同じ感想が浮かんだが、誰も口にはしない。


できない、理由は一つ。


悲劇はジョッキで、終わりではないと、この場の全員が気付いているからだ。



「あ・・・。扉・・・壊れちゃいましたね・・・。修理しないと。」


「なあぁぁーー!!?また、俺の酒代が、飛ばされたぁー!?」



ギルマスは受け入れ難い事実に、壊れた扉に駆け寄りなんとか修復できないか試行錯誤するが、素人目に見ても修復は不可能だ。


ガックリと肩を落とすと、ジロリと周りのギルメンを見渡す・・・。



「っ!?また来るぞ!飲め!」


「早く、飲み干せ!」


「うっ・・・うっうっ!ぷは~っ!」


「「ご馳走様でした!!フレイさん!!」」


「お前らあぁぁ〜〜!?」



皆、一気に酒を飲み干すと、【マスターツケ】をナターシャに言付けて、ギルドを飛び出して行く・・・。


誰もいなくなったギルドで、空になったジョッキを振りながら、ギルマスは怒り心頭で壊れた扉を睨みつける。



「サカエェーー!!帰ってきたら、覚えてろよぉぉぉー!!」



その叫びは風に乗り、破壊された扉を抜け・・・天使の消えた裏路地を抜け・・・マタイさんの横を吹き抜ける・・・。


その闇に蠢くモンスターたちの間を駆け抜け、光ヶ丘で矢を放つサカエの耳に届いた・・・。



「あーっははは!愉快!愉快!」



カウンターで振り下ろされた黒い前足を後ろに跳んで避けると、弓に矢を番えて、黒い獣に目を向ける・・・。



『いつまでも・・・笑ってられない・・・。』


「ユーちゃん!来るよ!」


「あぁ・・・!見せてくれよ!キミの全てを!」



飛び込んでくる黒いウルフに、サカエはにっこりと微笑むと、【剛弓 邪龍のアギト】を構える。



『ふっ・・・!』



ー ゴオォォー!!



月明かりに照らされ輝く花を揺らす風を、矢が切り裂く音が闇に響いた!



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