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その少女、気苦労が絶えぬにつき


月が街を照らす中、俺と観月とシルクは、待ち合わせ場所である門の前へと向かっている。


ここに来るまでに、ギルマスとも話した結果、どうやら、謎のモンスターは本当に現れるそうで、近くの中型モンスターを襲っているそうだ。


恐らくは、他所から来たモンスターが、縄張り争いをしているのだろうということで、討伐または確認してくるようにと、まぁ、嫌がらせ(依頼)を言い渡されてしまった。

完全に押し付けられたな・・・。


もう一つ、気になって寄ってきたのはメイさんのところだ。


“月の涙”に関して、知っていることを教えてもらった。


見た目や生息場所、また、採取の際の注意点。どんな病に効くのか等々を聞いてきた。


まぁ、こちらに関しては概ね、予想通りという感じだ。


やはり、普通に使っても、効果は滋養強壮程度。言っちゃ悪いが、子供の病気がどんなものか分からない限り、無駄足で終わる可能性もあった・・・。



「まぁ、まずは採らなきゃ始まらないわな。」


「そうだね。本当にただの風邪かもしれないし。」


「うー・・・。」



二人と、手を繋ぎながら、ルンルン♪と月明かりの照らす街を歩いていると、頭上を一瞬だけ、何かが通り過ぎた。



ービュンッ・・・


「ユーちゃん・・・。」


「あぁ・・・。いるな。」



近くの気配を探すと、天使と思しき気配を感じる。


どうやら、まだ、夜になったばかりのため、動くつもりはないようだ。


戦うなら、皆が寝静まった深夜頃になるだろう。



こちらも、正体はバレていない分、迂闊には動けない・・・。


こちらは、とりあえず、放置といこう・・・。


人の目もまだあるし。


何より・・・。


俺は前に目を向け、小さく息を吐く・・・。



「うるさいんだよなー、アイツら・・・。」



目線の先には、酒酔っ払いかと思うほど、ギャーギャー!叫んでいる、ワイスナーパーティが居た・・・。


「なぁー、まだ行かねーの?イブチン。」


「もうちょっと、待ってよ。協力してくれる人が来るから。」


「協力とかいらねだろー?この依頼、採取クエストじゃん。C級でもできるぞ?取り分、減るだけだって!もう、行こうぜ!」


「分かってるけど、もしものことがあるかもしれないでしょ?だから、協力者を呼んでるんだよ。」


「いらねー!ミルナンいるし!ミルナンがいれば、怖いもんないし!ワイスナー、ゴミだし!ワイスナー、置いてけぼりでいいし!」


「ご!?お前ー!言うに事欠いて、ゴミとはなんだ!?」


「なんだ、やんのか!?ポンコツ魔法使い!」


「上等だ!やってやろうじゃねぇか!チビゴリラ団子頭!」


「・・・・・・あ゛?お前、コロスよ?ミルナンに言ってはいけない単語、一位二位三位独占かよ。死にたいの?ねぇ、死にたいの?」


「あーん?てめぇ、あんま調子に乗ってると、俺の拳が火ぶぼふぉーろろろろ!!?」



ズズズー・・・!!と下から舐めるように見上げて、ワイスナーを威圧する低身長の格闘女子、ミルナン。

七分袖から伸びた手がワイスナーを殴りつけたところで、俺たちもようやく到着した。



「チーーン・・・。」



・・・あ、ごめーん。もうちょっと早かったら、拳止まってたかもしれないな。

まぁ、男はどうなっても知らんけどね。


吹っ飛ばされたワイスナーを横目に見て、俺はイブさんとミルナンに挨拶をする。



「遅くなった、ごめんね。」


「うんん。こっちも、今来たところ。バカが勝手に行こうとしてただけだから、気にしないで。」


「おぉー!サカエ!?サカエだぁー!」



気にするなと、手を振るイブさんに軽く頭を下げると、目を輝かせたミルナンが興奮気味に駆け寄ってきた。


近くで見ても、小さい。

小さい上に、目がまん丸でクリクリしてて可愛らしい顔をしてる。

黙ってれば、可愛いで済むのだが、実は中身はとんでもない戦闘狂なんだよな・・・。


この一ヶ月、ギルドの情報は嫌でも耳に入って来たが、この子の話を聞かない日はなかったくらいだ。


やれ、上位モンスターを殴り倒しただ、やれ、盗賊たちを蹴り潰しただ、やれ、他のギルドに乗り込んで、ギルドの看板下ろさせただ・・・。


聞こえる噂は、ヤバい内容ばかり。


ギルドの中でぶっちぎりで、クレイジーな女の子といえるだろう。



「サカエ!サカエだ!会いたかったぞぉー!」


「あ、あぁ、そうなの?ありがとう。」


「サカエも行くのか?一緒にモンスター倒しに行くのか!?」


「う、うん、ご一緒させてもらえるかな?」


「もちろんだ!ようやく、お前の実力が見れるなぁ!ミルナンが手伝ってやる!ミルナンと、一緒にモンスターたちを、ボッコボッコにしようなっ!」



拳を突き出して、ミルナンがニッカリと笑う。



「あ、あぁ、よろしくね、ミルナン。」



ーコツン!


突き出してきた拳に、拳をぶつけると、ミルナンは目を輝かせて、本当に嬉しそうに飛び跳ね回る。


あんまりはね回ると、パンツ丸見えになるよー・・・。


スラリと伸びた脚がぴょんぴょんと跳ねる度に輝き、極短いチャイナドレスの裾から水色の縞パンが見えていた。


クレイジーな割に、可愛い下着つけてるな。



「ミルナン!あんまり跳ねると、サカエさんに、パンツ見えるよ!」


「なっ・・・!?」



案の定、イブさんに注意されたミルナンはそのまま、ぺたりと座り込むと首だけくるりと振り返り、俺の顔を見る。



「なんだ、見たのか?」


「うん。ごめん見えた。可愛らしくて、よく似合ってたよ。ミルナンなら、元気な黄色やオレンジも似合いそうだと思ってたけど、水色も可愛らしくていいんじゃないかな?」


「あはは~!そっかー・・・。」



笑顔で立ち上がると、ギュッと拳を握りしめて、ミルナンは俺に振り返る。



「はは!ミルナンは、可愛いからな!サカエなら、まぁ、見てもいいぞ!」



殴りに来るか!?と身構えたが、ミルナンは頬を染めて、にっかりと笑っていた・・・。



「んん?」


「あら?」


「へー?」


「うー?」



俺たちはミルナンの予想外の反応に目を丸めると、渦中の“少女”に含み笑いを浮かべて目を向ける。


なんだ、暴れてるところしか見たことがなかったけど、なんだかんだ、女の子なんだな・・・。


なんだか、ギャップに少し見とれてしまうな。



「へっ!そんなガキのパンツ見たって、嬉しくもなんともないね!いいから、行こうぜ!時間が勿体ねーよ。」


「・・・ビキ!」



悪たれながら、起き上がったワイスナーが、ミルナンの下着をバカにして、先へ行こうと促す。


・・・当然ながら、ミルナンは先程までの照れた様子は一変し、額にスジを浮かせて、侮辱してきたワイスナーに視線を送る。


ミルナンは拳を構え、俺たちの前から忽然と消えた・・・。


ワイスナーも・・・消えた・・・。


その後、ワイスナーの姿を見たものは、誰もいないという・・・。



「こんばんは。元気な集団が来たと思えば、ユースケ殿たちか。しかも、ミルナンたちまで。また、依頼か?もう夜だと言うのに、精が出るな。」


「こんばんは、マタイさん。」


「「こんばんはー。」」



皆でワイワイと、賑やかしく門を潜っていると、憲兵の一人が話しかけてくる。


この街の警備隊隊長 マタイさんだった。



「今日はこれから、合同任務です。丘の上にある“月の涙”の群生地に向かう予定です。サカエさんたちには、協力をお願いしています。」


「えっへん!」


「採取クエスト?ユースケ殿が?あはは!似合わんな!うん、似合わんよ!」


「あはは・・・。ハッキリ言ってくれるぅ。これでも、繊細な仕事は得意だよー?特に、ベッドの上は、俺のステージだぜ!」


「エロスケは、ちょっとは口閉じなさい!」


「いた!?」



からかってくるマタイさんに、指をワキワキと動かしながらニヤリと笑い返すと、観月が顔を赤らめて、頭を叩いてくる。


いいのかー?そんな可愛い顔しちゃうと、誰がヒーヒー言わされてるのか、バレバレだぞー、観月ちゃん。



「あはは!そうそう!ユースケ殿は、自他ともに認める、この街一番の好色家だものな。今日も色んな方々から、クレームが来ているぞ?うちの給仕も、お尻を触られたと恥ずかしがっていた。近く、マタイ部隊が、“エロザル”を討伐に行くから、覚悟しておくようにー。」


「うげぇっ・・・。今月も来るんですか?」


「君がハレンチな行いをするからだぞー?こっちだって、好きでやっているわけじゃないんだ。人手も必要になるし、捕まえられなきゃ、市民からも批難されるしで、大変なんだからな。頼むから、これからは、少しは自重してくれると助かるねぇ。」


「それは、保証はしかねるねぇ。」



明らかに嫌な顔を浮かべると、マタイさんは呆れた顔を俺に向けて通告を行うが、俺はそれくらいでは怯んだりしない。


逮捕上等。いつでも来いと言わんばかりに、俺は腕を組んで不敵に笑う。



「全く、キミという男は・・・。まぁ、幸い、注意願いくらいで済んでいるから、投獄まではしないが、兎に角、大人しくしといてくれよ?・・・特に!!貴族はやめてくれ!本当に!彼女たちにちょっかい出すのは、本気でやめてくれ!」


「保証は、しか・・・」


「保証はいらないから、確約してくれ。貴族は本当に洒落にならん。怒らせれば、世界が敵に回る。我々もさすがに擁護しきれないからな。」



世界ねー・・・。残念だけど、天使の一件で敵に回ってるんだよなーこれが。



「んー・・・まぁ、気を付けますよ。」


「生返事なのは気になるが、まぁ、いいか。さすがに、貴族のお嬢さんにまでハレンチするような痴れ者ではないだろうからな。」


「マタイさん、忘れてるかもしれませんけど、リアさんにもハレンチしてますからね。この変態。」


「そうだった!くっ・・・急に胃が痛くなってきたぁ・・・。あぁー・・・心配だぁ、心配だぁ!」



観月の言葉に、頭を抱えて、激しく吠えるマタイ隊長。

今日もやっぱり、胃が痛そうだ・・・。



「分かってますって。さすがに、貴族の人には手は出しませんよ。俺もハーレムを守りたいですからね。」


「本当に頼むぞ~ユースケ殿ぉ~。」


「はは!まぁ、相手が本気で嫌がることはしませんよ。俺の目的は世界中の女の子を幸せにすることですからね!」


「だったら、クレームは来てないと思うがなぁ~・・・はぁ・・・。」



実際のところ、マタイもこのユースケの言うことに、偽りはないことは分かっていた。


確かに、ハレンチへのクレームは来ているが、実際にユースケがハレンチした半数にも満たない数である。


また、ハレンチされた相手も、本気で怒ってるような素振りはなく、周りの目があるから、やめさせて下さいという形式的なものなのだ。


つまり、裏を返せば、二人きりで隠れた場所に身を寄せてしまった場合は、女の子がユースケを受け入れてしまうこともあるということになる。



「まぁ、気を付けとくよ・・・。」


「頼むぞ。特に、何度も言うが、貴族はやめてくれ。いいか?貴族だけは、絶対にやめとくんだぞ。」


「それは、前フリですか?なら、喜んで貴族の胸に飛びつきますが・・・。」


「ちっがう!!まったく、なんだってこんな好色家に皆は惹かれるんだ・・・?はぁ・・・。」



あっけらかんとした様子のユースケに、マタイは頭を抑え、深くため息を吐く。



「んー・・・。あっち(元いた世界)でのことがまた、起きてるのかなぁ・・・?」



学園での出来事を思い出し、観月も影で小さく息を吐く・・・。


今更自重したとしても、きっともう遅いだろう。

もう、この街のほとんどの独身女性たちは、ユースケにハレンチを受けている。

芽生えた想いは、どんどんと大きくなって、開花するまで、そう時間も無いはずだ。



「・・・そろそろ移動しなきゃ。またユーちゃんが・・・。」


「あ、そうだね。そろそろ、行かないと。それじゃまた!マタイさん!」


「あぁ、気を付けて。」



観月の呟きを聞いたイブさんは、頷くとミルナンと共に歩き出す。


俺達も後に続こうとしたが、観月は俯いたまま足を止めていた。



「観月?どうしたんだ?移動しないのか?」


「ユーちゃんを守らないと・・・え?あ、ごめん。」



呼びかけられて、我に返ったように顔を上げた観月は皆が進み始めていることに慌てたように歩み寄る。



「どうした?大丈夫か?」


「うんん、なんでもないよ。行こう!」


「あ、うん。」



手を差し出された俺は、様子のおかしい観月を疑問に感じながらも手を取り、皆と共に歩き出す。



「はぁ・・・。(学園の次は街が相手かぁ。守りきれるかな・・・。)」



観月は繋いだ手を見つめ、再び、思考の海へと飛び込むのだった・・・。




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