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その少女、闇に光を灯す女神につき

ー バサバサバサ!!



「さぁ、今夜は誰にしようかなぁ……。前の女はよかった……。いい声で鳴いてとても興奮したなぁ……。とても、よかったなぁ……。んんー…もう一度、同じ女にしようか……。そうだぁ、うん。しっかりと……確実にボクの《《祝福》》授けてあげないとね……。ふふ……。」



月明かりに照らされて、白装束を着た少年が、空を舞う。


その背中に広げられた純白の翼は、月明かりに照らされ、神々しい光を放っていた。


彼こそ、天使と呼ばれる存在の一人……。


この世界の半数近くが彼らを信仰し、皆が彼らに平伏し、皆が彼らの祝福を求めてやまない。


彼こそ、メシア。彼こそ、人類の未来を救う者……。

誰もがそう思い、彼自身もまた、そう思っていた。



ー シュッ……!


「なっ!?」



今まさに、空を悠々と翔ぶ自分に目掛けて、一本の矢が飛んでくるまでは……。



「その姿、文献で読んだことがある……。お、お前、魔王マモンか!?何故、復活している!?」


『我は、アスモデウス。魔王アスモデウス。この世界の歪んだ秩序を終わらせに、地獄から来た。秩序を歪めるお前たち天使は……全員、粛清だぁ……。』


「魔王アスモデウスだって!?そんなの聞いてないぞ……!?」



矢が飛んできた方向に目を向けると、民家の屋根に立った黒い甲冑の男がこちらに向けて次の矢を構えていた。


矢に気付いた天使は咄嗟に身を翻し、矢を避けるが、確認するより早く放たれた二本目の矢が天使の腕に突き刺さる。


ーグサッ!


「いぎぃあああぁーー!!?」



矢が刺さり、激痛と混乱に狼狽した天使はフラフラと地面に落下していく。


まるで、その胸に慈悲など存在しないように、痛みに叫ぶ天使へ魔王は矢を射続ける。



「あぎっ!?い!がぁあぁー!?」



民家の屋根に落下するまでに、計五本の矢が、彫刻のように美しい腕や脚、その輝く羽根に刺さっていた。



「がはっ!!ああぁーー……!痛いっ!?痛いいぃぃ……!!」



地面に落下した天使は、堕ちた衝撃と矢による傷の痛みに苦しみのたうち回る。

それを眺めていた魔王は屋根から飛び降りると、音もなくフワリと天使の前に舞い降りた。



「痛い……痛いよぉ……!」


『お前たちが、辱めてきた多くの女性たちの痛みに比べれば、そんなもの痒いくらいだぞ?』


「ぐっうぅ……!!ふーっ!ふーっ!っ……お前ぇ、許さないからな……。ボクは天使だぞ?こんなことをして、ただで済むと思うなよ!!」


『ほう?タダではすまんと?では、どうなるのか、我に示してくれないか?さぞ、痛むだろう?さぞ、苦しいだろう?さぁ、遠慮はいらない……。お前の“欲”を邪魔された“激怒”をこの我に、アスモデウスに、存分にぶつけてみるがいい!』


「舐めたマネを……!ボクの槍を……くら、えぇえぇぇーーー!!」



相手を挑発するように、両手を広げた魔王は、マントを風に靡かせながら、クツクツと笑った。


心の底から侮辱するその姿に怒りが頂点に達した天使は、羽根を触手に変化させる。

更に二本の太い金の槍に変化させ、無防備なアスモデウスの腹へ目がけて槍を突き出した!



『ふん!』


ードスンッ!!



ビシャ!!と音を立てて、アスモデウスの腹に、天使の槍が刺さった……。


アスモデウスは両手を広げたまま、動きを止めて、静かに相手を見据えている……。



「ふふ……ふはヒヒーッ!どうだ、見たかい!?天使であるボクを!女神様の御使いであるボクをバカにするからそうなるんだ!」



微動だにせず、無言のままのアスモデウスに、勝利を感じた天使は卑下た笑いを浮かべると、槍を引いて負わせた傷を確認する。


アスモデウスの腹には血の痕……。


「(間違いない!アイツに、自分の槍は通用する……!)」


更に追い討ちをかけるために、天使は太い槍を交互に突き出していく!



「死ね!シネ!しね!死ねえぇぇー!!!」



ビチャリ!グチャリ!ビシャ!!



音を立てて、アスモデウスの周りには鮮血が飛び散っていく……。その間もアスモデウスは微動だにせず、両手を広げて相手の攻撃を受け続けていた。



「ヒハハハ……!!何が、魔王だ!ただ威圧的な甲冑を着けて、相手をビビらせてるだけの小物じゃないか!全く手応えがないぞー!?どうした?どうした?抵抗もできないか!?あーっははは!!」



興奮が最高潮に達した天使は、攻撃を止めると、大声を上げて笑い、目の前で沈黙する魔王に目を向ける。


その姿は、槍で貫かれたことで全身から血を吹き出したかのように、血に濡れていた。


さらに、その魔王の周囲には鮮血が飛び散り、その攻撃の激しさを物語っている。



『…………。』


「おや……。まさか、立ったまま死んだのか……?これは、すごい……。地面に背中を着けないのは、魔王としての意地と言ったところか?」



派手に暴れて少し怒りの収まった天使は、冷静になり始めた頭で目の前の魔王をよく観察する。


まるで、彫刻のように動かない魔王。

滴る血に勝利を確信した天使は、魔王の生死を確認しようと一歩踏み出した……その瞬間!


ーゾクリ!


目の前の甲冑から、嫌な気配を感じた天使は思わず足を止める。



「なんだ?この威圧感は……。」


『……どうした?終わりか?』


「なっ!?お前……生きてるのか?」



先程と変わらない冷たい声色で声をかけられた天使は、思わずビクリと身を固めた。



『生きている、とは?我自身、まだ何もされていないのに何故、死ぬことになるのだろうか。分からんな?それとも、天使は何もしなくても死んでしまう生き物なのか?ふふ……!』


「分からないって……。それだけの出血、どう考えたって、死ぬだろう!?それともなにか?魔族は身体が頑丈だから、これくらいの傷では死なないとでも言うのか!?なら、もっと痛めつけてやるよ!腕をちぎり、足をもいで、もっと限界まで、その汚れた血をたれ流させてやるぞ!!」


『ふっ……。できるのか……?お前に。』



腕を組んで、軽く首を傾げる魔王は天使を見て鼻を鳴らすと、スーッと腕を上げて天使の背後を指さす。



『というより、生死に関わるのは我ではなく、貴様の方だろ?』


「何を言って……あ、あれ……?」



クラ……と、急に目眩に襲われた天使は、急速に掠れていく視野と身体の倦怠感にたまらず膝を着く。



「な……にが?」


『ん……?まさか、気付いてないのか?』



魔王は天使に近付くと、頭を抑えて、後ろを振り向かせる。


そこには、血の海と見るも無惨な姿となった触手が落ちていた。


呆然と天使は自身の触手を見つめる。


自分の身に何が起きているのか、これから何をするべきなのか、それ以前に、自分にはあと、どれほどの時間が残されているのか、どれを理解しようにも頭が回らなかった。



「あ……そうか……。足りないんだ……。」



頭に回るほどの血が、まず絶対的に足りないのだと、最後に天使は気付いたところで、ぐらりと視界が回り、その場に倒れるとそのまま絶命してしまった。



『ふー……!討伐完了!戻るよ。』


▷お疲れ様でした。帰還ゲートを開きますね。


自身の背中に現れた色濃い闇の中に、天使の遺体を放り込むと、続いて、その影の中に踏み込んだ。


後には夜闇の静寂と、血の海だけが残される……。


あれだけの戦闘がありながら、この夜の出来事は、誰の目にも目撃されてはいなかった。


皮肉にも、天使が隠密で活動する際に展開している【聖域】という、隠密特化の特殊スキルのせいで、天使自身に何が起きても、周囲の誰も気付くことができないでいたのだ。


そのため、誰にも気付かれることなく、ここ一月で三割近くの天使が魔王の手により行方不明になっていた……。



ーーーーー

ーーー

ーー



「ふー……。戻ったよー。」


「おかえりなさい、早かったね?」


「うー……。」


「なんか、立ってたら、勝手に自滅した。」


「プルン!クプーッ……!」



天使から取り出した魔石を手に、部屋の扉をくぐる。


取り出した、といっても、ご遺体から抜き取ったわけではなく、言わずもがな、スライムたちの力を借りているから御安心を。


満足気に腹をさすって、スライムは観月の横に戻っていく。



「自滅って……攻撃力と防御力の差がここまで出るんだー。いよいよ、バケモノじみてきたねー。」


「バケモノ言うな。勝手に慢心して、タコ殴りして来た相手が悪いんだよ。普通に、硬いもの殴り続けたら、裂傷するでしょーに。」


「いや、その硬さに問題があるんだよ。単純にダイヤより硬くなってるんじゃない?」


「かもなぁ。身体強化Lv3と、メイさんから教えてもらった魔法【Protect(防御力アップ)】のおかげだよ。」


「私も頑張って、魔法覚えよー……。」


「うー!」


「風呂いって来るよ。」


「うん……。」



宿泊している宿に戻ると、観月とシルクがコップに向かって手を向けている。


傍から見れば何をしているのか甚だ疑問の行動だが、その意味を知る俺は二人の脇を抜けると風呂場へと直行した。


観月とシルクがやっているのは、魔法操作訓練だ。


メイさんに教えて貰った訓練で、コップの中に水を入れて魔法を発動することで、凍結せたり、沸騰させたり、気化させたり、状態を変化させる基礎訓練をしているところだ。


水という魔力を通しやすく、変化しやすい素材で訓練をすることで、魔力の微細なコントロールを身に付けることができるそうだ。


脱衣場に入った俺は、手早く服を脱ぎ捨てると、足早に風場へ入る。


シャワーを頭から浴びて、壁に手を付くと一人小さく息を吐いた。



「ふー……。モンスターとはいえ、やっぱり、人の形をして、人の言葉を話す存在を手にかけ続けるのは、気が滅入るなぁ……。」



魔王アスモデウスが表舞台に立ってから、早くも一ヶ月が経った。


日中は“栄咲遊助”としてギルドで活動し、夕方頃はメイさんのところで、活動報告と情報交換。

皆が寝静まった深夜に小一時間で、天使を討伐する。


そんな、生活をしていたら、あっという間に一ヶ月が、経っていた。


まだ、仲間らしい仲間は、集まっていない。

俺と観月、シルク、メイさんだけの少数のチームで殲滅作戦を粛々と続けている状態だ。



「毎日毎日飽きもせず、街に天使は現れるし……。予定では、ギルドに登録にして、王都を目指して、任務をこなして行くはずだったのに……。天使も、ギルドも、女神も、ハーレムも……やらなきゃいけないのに……。なんで……上手くいかないんだろな……。」



俺は頭を抱えて深く息を吐く。



「いつまで続くんだ、これ……。」



とめどなく流れるシャワーのように、際限なく現れる天使にいい加減、嫌気が差し始めていた。

しかも、昼間は天使が討伐されていることなど知らないように、普通に生活が行われていた。


天使はキリがない。信仰者の信仰心は変わらない。


やっていることに、結果が出てないのだ……。



「はぁ……。俺の選択は合ってるのか?」



先の見えない不安が込み上げてきた俺は、頭を抱えて何度目か分からないため息を吐く。


連日の討伐と、変わらない現状にいい加減、俺の心は悲鳴を上げ始めていた……。



「ユーちゃーん。入るよー。」


「え?あ、え?ちょっと、待って!」



思考の淵に落ちていた俺は、突如かけられた明るい声に、驚き戸惑う。


顔、大丈夫か?笑えるか?こんな姿、見せるわけにはいかない。不安を顔に出すわけには……。



そんな想いも虚しく、俺の静止する声を無視して風呂場の扉が開かれた。


開かれた扉。

その向こうに、笑顔の観月がタオルと着替えを持って立っていた。



「着替え持ってきたよ。」


「あ、忘れてた。ありがとう。」


「いえー……私、気の利く彼女ですから♪」



なーんて、と観月は笑うと、俺の着ていた服をまとめ、洗濯籠に移して、洗濯済みの服と入れ替える。


そのまま出ていくのかと思ったら、観月はおもむろに服を脱ぎ始めた……。



「え?あれ?観月?」


「一緒に入ろうよ。」


「え?あ、入るのか?もう出るから、少し待ってくれたら……。」


「一緒にって言ったでしょ?」



観月は手早く服を脱ぐと、いつも畳んでいる服を今日はそのままに、脱衣場から風呂へと飛び込んで来る。



「一緒!?」


「そっ!ほら、背中流してあげるから、座った座ったぁー。」


「せ、背中って、どうして急に……。」


「頑張ってくれてる旦那様に、御奉仕してあげたくなっちゃったんだ。」



観月は俺の背中を押して、椅子に座らせる。

椅子に座った横で、鼻歌交じりで洗面器に泡を作った観月はタオルを片手に小さく微笑む。



「御奉仕!?」


「御奉仕だよ~。はい、アワアワ~。」



泡を身体に塗りたくりながら、観月は俺の身体を満遍なく、優しく洗っていく。



「お疲れさま、ユーちゃん。」


「いや。本当、今日は立ってただけだし。」


「すごいよね。立ってるだけで倒せるようになるなんて、きっと、この一ヶ月戦い抜いたことで、ステータスに何か変化が起きたのかもしれないね。」


「そういえば、ステータス見てないな。」


「確認しなくても、身体を見たら分かるよ。」



俺の胸や腹筋を撫でながら、肩から覗き込んだ観月はニンマリと笑って、その硬さを確かめる。


確かに、武器を振るったり、走り回ったりと、常に命の危険と隣り合わせの毎日で俺の身体は日々酷使されていた。


そんな日々を過ごしていれば、嫌でも身体能力は上がるわけだな。



「うん。前も素敵だったけど、もっと素敵になったね。」



観月は微笑みながら、そのまま手を下ろすと、タオルで隠されたモノに手を伸ばす……。

そのまま、タオルを避けて指先でモノに触れると、キュッと優しく握りしめた。



「おっ!?」


「ふふ……ここも……とーっても、素敵♡」



思わぬ刺激に、ゾクリと背中を快感が走り抜けると、俺はたまらず声を漏らし、イタズラしてきた観月に振り返る。



「こら、観月?背中を流すんじゃなかったのか?」


「ふふ!ここも洗ってあげないと、可哀想なんだもん。というか、私が洗ってあげたかったの。この子も、頑張ってくれてるもんね。」



観月は後ろから回した手で、丹念に洗うと、刺激もソコソコに手を離す。


どうやら、ソッチは今日はないようだ。


内腿から脚へと洗い終えると、観月はシャワーを手に取り、俺の身体を流していく……。



「あ……。」


「ん?どうしたの?」



流れていく泡を眺めていると、ふと、身体に感じた変化に気付き、自身の身体に触れてみる。


血行が戻ったのか血色がいい上に、肌に張りがある。さらに、感じていた倦怠感が抜け、妙に身体が軽く感じた。



「なんだこれ?身体が生まれ変わったみたいに、軽く感じるぞ?」


「ふふ!気持ちよかった?嬉しいなぁ、喜んでくれて。」



観月は嬉しそうに微笑むと、最後にギュッと後ろから抱き着きついてきた。

背中に柔らかな女の子の感触と温もりが“ダイレクトに”伝わってくる。



「あ、あれ?タオルは?」


「全身でユーちゃんを感じたいからね。タオルすらも邪魔に思っちゃうのは、仕方ないよ。」


ふにふにと、背中に胸をあてながら、観月は笑うとコトンと、俺の肩に顎を乗せてきた。



「エッチだなー、観月は。」



ははっと、少し苦笑を浮かべて茶化すと、少し押し黙ったまま、観月は抱きついた腕に力を込める。



「エッチでいいよ。ユーちゃんに、元気が戻るなら、それでもいい。」


「観月……。」


ーちゅうッ!



耳元で囁くように肯定する声に、思わず目を丸めると、観月が首筋に痕が残るほどの強めのキスをしてきた。



「日に日に、ユーちゃんの顔から元気が無くなっていくのを感じてたの。肉体的な疲れもあるけど、やっぱり、戦闘での心労も大きいんだよね?」


「そんなこと……。」


「ないことないでしょ?分かるよ。何年、幼なじみしてると思ってるの?」



ギュッと、抱きしめる腕に力が籠る。

まるで、俺を何かから護るように、観月は優しくも、強い意志で俺の強がりをキッパリと否定した。



「いきなり、違う環境に放り込まれた上に、使命とか押し付けられて、毎日毎日、命のやり取りさせられて、そんなの心に負担がないわけない。いくら、身体が強化されても、すごい能力を手に入れても、心がついて来なければ、高いパフォーマンスなんてできないよ。きっと、心の力が不足してる分、身体には倍以上の負担がかかってたはずだよ。」


「……心がついてきてない、か。」


「焦らないで……ユーちゃん。一人じゃないんだよ。私もいるから。一緒に分けてよ。そのユーちゃんの苦しみを。二人で共感して、二人で解決していこうよ。ね、ユーちゃん。」



確かに、観月の言う通りだ。


毎日、時間に追われるようなタイムスケジュールの中で、いつも死を目の前に罪悪感に襲われている苦しい日々。


なのに、結果が伴わない現実。


なぜこんなことをしているのか、これで合っているのか、まるで帰ってこない答案用紙を永遠と書かされているような日々に、俺の心は叫びをあげ始めていたかもしれない。



「観月……。っ、うぅ……。」


「ユーちゃん……。」



俺は観月の腕に手を置くと、静かに涙を流した……。


風呂から出てくる俺たちを待つように、シルクが静かにベッドに座って待っていた。



「ただいま、シルク。」


「ごめんね、シルクちゃん。長引いちゃった。」


「う~~!!」



シルクは待ってました、と言わんばかりに胸に飛びつくと、頭を擦り付け全力で甘え始める。


ーぐりぐり!ぐりり~~!!


ドリルか!


子犬のような仕草に苦笑していると、シルクは手を引いて部屋の入口へと導く。



「うー、うー。」


「ん?誰かいるのか?」



夜も遅いし、戸を開けて確認しようか、やめようかと迷っていると、コンコンと扉をノックする音が響いてきた。


本当に人が居たのか。


どうやら、二人とも風呂場に居たせいで、気付かなかったが来客があったようだ。



「あ、はーい。今、出ます。」



ガチャリと、客室の扉を開けると、扉の前には意外な顔が立っていた。



「すみません、気付くのが遅れました……って、ん?あれ、キミは……。」


「夜分遅くにごめんね。サカエさん。」


「イブさん?」



同じギルドで活動しているワイスナーパーティの苦労人、イヴェルニーさん(愛称 イブ)だ。



「少し、時間頂ける?」


「あ、うん……。どうぞどうぞ。」



俺は部屋の中へ迎え入れると、観月とシルクをベッドに座るように促し、俺とイブさんはテーブル席へと座る。


お茶を準備してくれた観月は、俺たちの前にお茶を置くと、そそくさと息を潜めるようにベッドへと腰掛けた。



「それで、話って?」


「単刀直入にお願いがあってきたの。サカエさんのパーティの力を、私たちのパーティに貸してくれない?」


「あ、うん。いいよ。」



頭を下げて、助力を乞うイブさん。

女の子のお願いを断ることなどしない。

紳士、栄咲遊助。


今日も今日とて何も考えずに二つ返事で、お願いを了承する。



「はぁ……まだ何も聞いてないのに……。本当、優しいね、ユーちゃんは。……ふふ。」



ベッドの上で、観月は少しの呆れを見せながらも、これが栄咲遊助らしいのだと、少し嬉しそうに微笑みを浮かべた。


俺も、観月も了承している。なのに、何故か、イブさんは頭を下げたまま、お願いの姿勢を崩さない。


どうしたんだろう?もしかして、断った方が良かったか?



「本当にごめんなさい!」


「いや、そんなに謝らなくてもいいよ?困った時は、お互い様だし。」


「無理を言っているのは、分かってるの。ただ、どうしても、今回の依頼には皆さんの力が必要なんです。どうか!サカエさん達の力を見込んで、お願いします!どうか、私たちのパーティを助けてください。」


「え?あれ?急に敬語になりだしたぞ?どうした?あ、これ、伝わってない感じか!?」


「そこをなんとか、お願いします!」


「そこをも何も、いいって言ってるんだけど……。」


「どうか、どうか!お願いします!サカエさんたちの力はこの一ヶ月で、飛ぶ鳥を落とす勢いで、沢山の依頼を短時間で達成しているそうじゃないですか!噂では、A級にも手が届きそうなほど、経験がおありとか……。どうか、お願いします!皆さんのお力を~!!」


「観月ぃ~助けてぇ~。」


「…………ユーちゃんにお願いしに来てるからね。頑張って♡」



ファイトーと可愛らしく胸前でガッツポーズをすると、観月は関わらないよう気配を消して、布団に横になる……。



「さーてと、寝よー。明日もよろしくお願いしまーす。」


「うーうー。」



二人して寝やがった……。



「は、薄情な……。さっき、一緒に困難を乗り越えようとか言ってたじゃん!」


「スー……スー……。」


「マジかよー……。」


「サカエさん!お願いします!」



きっと、言い方に問題があるだ、と考えた俺。

より伝わりやすいように、ハッキリと大きめに言ってみる。



「はい!いい!です!よ!」


「そこ何とか!どうか!お願いします!」


「どうしろっていうんだ!!」



俺は頭を抱えて、立ち上がると、グルグルと視界を巡らせる。


その後も、色々と手を変え、品を変え、了承の気持ちを伝えたが、それでも、伝わらない……。



「コミニュケーションって、難しい……。」


「どうか~!!」



遂には、腰に縋り付きだした、イブさんの頭をヨシヨシと撫でながら、俺は天を仰いで頭を抱えるのだった……。


「落ち着きました?」


「はい……。見苦しいところを見せして、申し訳ないです……。」



シュンと俯き、イブさんは取り乱したことを心から謝罪する。


この世界の人は本当、人の話を聞かない人が多いんだよねー。


もしかしたら、女神さんがそういうタイプなのかもしれなくて、その影響を受けているのでは?と思うほど、皆さん、感情が高ぶると暴走しまくっている。


まぁ、イブさんの場合、それだけ必死だったんだろうけど。



「力を貸すのは、大丈夫なんだけど、どんな依頼内容なの?」


「これなんだけど……。」



イブさんは腰のバックから、依頼書を取り出すと机の上に広げてみせる。


【採取】の印鑑が打ってあることから、採取依頼で間違いないだろう。俺は首を傾げて、イブさんに目を向ける。



「採取だよね?しかも、“月の涙”の採取の依頼。これ……あー、うーん。」


「言わんとすることは分かるよ。もうすぐ、A級の君たちには、簡単すぎると思うでしょ?」



“月の涙”というのは、特定のエリアに、夜中だけ咲く珍しい花のことだ。


夜だけ現れる花なので、昼間に行っても、見つけることもできない代物となっている。


ただ、月の明かりに反応するらしく、夜中なら淡い青白い光を放つので、とても見つけやすい。


正直、A級云々というより、B級でも、簡単にクリアできるミッションといえるだろう。

しかも、群生地は 特定されているので、行けばある、という感じだ。


だからこその疑問が浮かぶ。


ワイスナーパーティは皆さん、B級。

三人で十分にクリアできると思うのだが……この依頼、何か心配事があるのだろうか。



「これ、なんかあるの?」


「この依頼は、近々、取消されることになっちゃうと思うの。」


「取消し?珍しいね……依頼主に何かあった?」


「依頼主は、お母さんだよ。まだ若い人なんだけど、娘さんが病気なんだって。娘さんの病の治療に必要だって言ってた。ただ、子供を残して、家を離れることができないから、採取にも行けないそうなんだ。」


「それは、まぁ……。(なんと、テンプレな理由だろ……。)」



俺は小さく息を吐くと、メイさんに聞いた知識を思い出す。


確か、“月の涙”は滋養強壮とか、それぐらいの効果しかなかった気がする。風邪でもない限り、それで病気は治らんだろ。


正直、寝てれば治りそうな気はするが……。



「依頼主じゃなければ、その群生地で何か起きてるとか?」


「そう。最近、その群生地の近くに謎のモンスターの痕跡が見られるらしくて、フレイ(フレイムの略称。)さんが、それをかなり警戒してるらしいの。」


「ギルマスが警戒してるの?あー、てことは、近く、俺たちのところに話が来そうだな?嫌がらせ(依頼)。」



んー、と顎に手を当て、目を細めると、面倒なことになりそうだと、一人呟く。



「そう、問題はそこなんだよね。フレイさんが気にするレベルのモンスターが、近くに居るとなると、引き受けずらいって思うメンバーも多くてさ。この依頼はここ半月くらい放って置かれてたの。」


「え?大丈夫なの?その女の子。」


「かなり、病気が進行してるみたい。依頼主のお母さんに会いに行ったら、これで娘が助かるって、泣きながら喜ばれたもん……。」


「そうか……なら、早い方がいいな。すぐにでも準備しよう。」


「わぁ!本当に!?すごく、助かるよ!ありがとう!サカエさんたちがいれば、百人力だよね!」


「ただ……少し調べたいことがあるんだ。ギルマスにも、モンスターの詳細を確認して対策しておきたいから、よければ明日の夜でもいいかな?」


「うん!大丈夫だよ!本当、ありがとう!」



感謝感激の雨あられと、俺の手を握りブンブンと振るイブさんに、苦笑を浮かべると、今日はとりあえず解散しようと伝える。


待ち合わせは、街の入場門の前に、月が見えたら、ということで約束する。


街を離れるわけだけだが……その夜の天使狩りはどうしようか……。

離れている間に、種を撒かれても嫌だしなぁ……。



「うーん……何かいい方法ないか?」



もう夜も深くなり始め、そろそろ寝なければいけないのだが、明日のことを考えるとどうにも考えがまとまらない。


どうすれば、ワイスナーパーティの依頼を達成でき、かつ、天使を一人の犠牲もなく討伐することができるのか……。



「いよいよ、分身するしかないかもな……。そんな魔法あるのか……?」


『キィ……きぃ……きぃ……いや、さすがにないな。』



そんなことを考えて、うつらうつらとしていると、猿の笑い声が聞こえた気がした……。


とりあえずは、ギルマスから話を聞いてみよう。


何か、解決策が見つかるかもしれない。

そもそも、気の所為かもしれないし。


ついて行かなくてもいいなら、それに越したことはない。



「まぁ、何とかなるか。……俺たちなら、きっと、どっちも護れるよな。」



俺はベッドに潜り込むと、背を向けて眠る観月を抱きしめる。


少しだけ、気持ちが持ち直していることに気づき、俺は小さくほくそ笑む。


この子が、話を聞いて、共感してくれたおかげだろう。



「俺にとっては、観月が癒しの女神様だな。本当。ありがとう、観月。」


「すー……すー……。」



ちゅっ!と、眠る観月の頬にキスをすると、そのまま抱きしめて、目を閉じる。


大丈夫……。みんなとなら、やれるさ。



ーーー

ーー


目を閉じ、眠りに落ちたユースケ。

その温もりを感じながら、ゆっくりと、観月は目を開ける……。



「不意打ちは……だめだよぉ///」



手を伸ばし、キスをされた頬を抑えて、観月は顔を真っ赤にして俯く。



「しかも、女神だなんて……、もう!もう!ユーちゃん!好き好き好きぃ~!キス!キスしたいよぉ!ユーちゃーん!でも、起こしちゃったら、可哀想だし!うぅ~……ユーちゃ~ん!いじわるだよぉ~!」



モジモジとしながら、観月はさらに、顔を赤らめると、しばらく悶々とした時間を過ごしたことは、言うまでもない……。




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