その白猿、忠告しにつき
所変わって、新たな依頼を受け取ったユースケたちはというと。
「ユーちゃーん。そろそろ暗くなるし、宿探そう?」
「あぁ、そうだな。依頼も期限はまだ、あるみたいだし宿に入ろう。シルクは眠くないか?」
「うーうー…♪」
背中に楽しそうなシルクを抱え、隣に観月を連れて、リライアマップを頼りに街を練り歩く。
魅玖もそれに付き合い、あそこは良さそうとか、ここは怪しいなど、ワイワイ皆で談笑しながら歩みを進めていた。
リライア▷はぁー…。やっと、戻ってきましたか。
話が長すぎですよね。一人のために、八ページも使いますか?必然的に八話跨ぎですよ?パオパオが家出するだけの話で、ここまでしますか?ふつう。
魅玖▶︎まぁ、一応、主要ヒロインですからね。個人的には、男の娘と主様の絡み展開も期待していたんですが…、まぁ、主様の体質上、それは無しの方向になりますよね。残念。パオパオ帰って来ないかなー?
「なんの事か分からないけど、たぶんそれ、二人ともメタ発言だろ?後でお仕置部屋行きだから。特に不穏な発言した魅玖は、筆くすぐりと全裸視姦のイキグルイミックスだから。」
▶︎こ、コロサレル!?
まぁ、そうやって楽しく話をしていると目的の宿に到着した。
大きな牛の角が通りに面して生えるように設置してある。
まるで、宿自体が大きな牛のようだ。
▷ここが、ギルドの協力している宿ですね。
名は【 トーラスホテル 】だそうです。
「もしやと思ったけどこれ、十二星座が元になってるんだな。」
「星座?そういえば、前の宿が双子だったね。で、牡牛。あー!そうなんだ!じゃあ、私たちの星座もあるのかな!?」
「あるだろうな。この世界のどこかに。」
「ちょっと、楽しみだなー。」
「まぁ、さすがに全部は周りきれないと思うよ?王都とは反対の方にも宿はあるだろうし。」
「なんだー、残念。」
「まぁ、目的が終わったら宿巡りしよう。美味しい物も沢山あるさ。」
「うん…そうだね!ありがとう!」
しょんぼりと俯く観月の肩を叩くと、励ますように背中を撫でて扉をくぐった。
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案内係の人について行き、案内された部屋は普通に洋室の部屋だった。
特別高級という感じではなく、ビジネスホテルのようにシンプルな作りをしている。
「食事はバイキングだって!食べ放題だよー!」
「女の子って、胃袋何個あるんだろ。観月の場合、牡牛だけに、四つはありそうだな。」
「ちっ!ちっ!観月ちゃんを舐めてもらっちゃー困るなー。四つプラス、一個あるんだぜー。」
「五つも要らんだろよー。」
「いるよー。お肉用、お魚用、お野菜用、デザート用だね。」
「ほー?んじゃ、プラス一個は?」
「ユーちゃん用。」
「……さーて、ボーイさんはどこに行ったかな?部屋を別けてもらわないと。」
俺は笑顔で扉に振り返ると、今し方部屋を出ていったボーイさんを捕まえるべく歩き出した。
「わわわ!冗談だよ!誰も食べたりしないよ!暴食のスライムさんじゃないんだから。」
「うぅ!?(ガーン!)」
急な飛び火で被害出すなよ!?
シルク、大丈夫だよ!
君は暴食なんかじゃない。
むしろ、少食の方だから!
「やめて!無責任な発言で、うちの可愛い娘をいじめないでください!」
「う、うぅ…!(ご主人様…。)」
「…え、だって、モンスター食べるじゃん。さっきもユーちゃん、首元食べられてたし。」
「うぅ!?」
「えぇ!?」
俺は慌てて首を押さえると、シルクに振り返る。キスをしてきていたと思ったら、まさか味見をされていたとは…。なんて恐ろしい…。
「ううぅー!?(あわわ…!ち、ちがうよ!ご主人様!誤解だよ!?)」
ワタワタと慌てた様子で、シルクは手を振っていた。少し涙目で見上げてくる様は、見事に俺のドS心をくすぐってくれる。
「ふふ…。分かってるって、冗談だよ。甘えるキスは愛でてほしい時のサインなんだよな?」
「うぅ!」
俺の問いに、こくりこくりと何度も頷きシルクは胸に飛び込んできた。
その頭を撫でると、ギュッと抱きしめる。
シルクも嬉しそうに、ギュッと子供らしい力で懸命に抱きしめ返してきた。
「いいなー。ギューッいいなぁー。私もー!ギューっ!」
指を加えて眺めていた観月は、我慢できないとばかりに俺たちに飛びついてくる。
「うーうー!(プンスカ!)」
先程、意地悪されたことを根に持っていたのか、シルクは抱きついてきた観月を両手で持って押し返す。シルクには珍しくお怒りモードだ。
「えぇー!?なんでー?」
「観月が意地悪を言うからだぞ?シルクだって、立派なレディーなんだから、そんな暴食魔王みたいな言い方されたら、怒るって。」
「うー!うー!」
プンプンと腕を振り上げ、シルクは何度も頷きながら観月を威嚇する。
「分かってるよぉ。私だって、冗談のつもりで言ってるもん。第一、食事に関して私に勝てる人はいないよ?たとえ、スライムさんでも……ねぇ?ぺろり……!」
「うぅッ!!?」
口元に指を添え、ニヤリと笑うと、まるで今にも食らいついてきそうな……猛獣のような気配を漂わせてシルクを見る。
ギラギラと光る眼光は、腹ぺこのベンガルトラの幻覚すら見せていた。
「シルク?見えるか?あれが、観月の心に住んでいる、“腹ぺこベンガルトラのミツキーさん”だ。一説では、あれが住み着いているせいで、観月が凶暴化すると言われている。大食いなのも、アレのせいだ。」
ノシ、ノシと観月が獲物を狙う虎のように、ベッドに腰掛けた俺たちに近付いてくる。
目は爛々と輝き、肉食獣のそれと同じ色をしている。
なんだろう、怖さの中に少しのエロスを感じるのは俺だけだろうか?
「うぅ!?う、うー!うー!」
「ふふっ!あら、可愛い……。ふふ…!」
頑張ってシルクも抵抗するが、出てきた気配はハムスター程度の幻影…。猛獣相手に勝てるわけが無い…。
「がおぉ〜ん!カプッ!」
「うぅー!?うぅーーー!!?」
「むしゃむしゃムシャムシャ~!」
「うぅー!?う~う~~っ!?」
抵抗虚しく、押し倒されたシルクは完全にマウントを取られるとムシャムシャという擬音と共に、こちょこちょと全身をくすぐられまくる。
ジタバタともがき、何とか魔の手から逃がれようとするが、その願いも虚しく、くすぐり尽くされたシルクはぐったりと疲れた様子で布団に横たわっていた…。
「はぁはぁ…はぁはぁ……。うぅ~///」
「ふふっ!私の勝ちぃー!」
満身創痍でくったりとしたシルク。
その乱れた姿には、妙にエロさが漂っていた。
やっぱり、女の子同士が絡みあうと一気に華が広がるなぁ。
どんな綺麗な景色もこれには勝てんよ、うん。
「さーて、そろそろ、腹も減った頃だろ?バイキング行こうぜ!」
「うん!お腹ぺこぺこだょ!」
「うー!」
俺たちは連れ立って、一回の食堂へと向かった。
当然ながら、バイキングとなると観月のリミッターも解除されたことは言うまでもない。
壮絶な食事時を終えて帰ってくると、俺とシルクは並んでベッドに突っ伏した。
その後を、カラカラと笑いながら観月が入ってくる。
「ごめんってばー。」
「お前なー。もうちょっと、手加減てものをだなぁ…?」
「うー。うぷ、、、、ふぅうー…。」
俺とシルクがぐったりとしている理由は、シンプルに食べ過ぎが原因だった。
食堂に下りて早々、バイキングを目の前にした観月は、まぁ、予想通りというかなんというか、暴食スキルが発動したはいつもの事で、そこまではいいとしよう。
それによって、バイキングに来た他の客の好奇の視線を集めることになったのだが、今日はいつもと少し流れが違った。
なぜか、シルクが張り合いはじめ、それを見ていた俺も周りからはやし立てられる形で、観月に付き合って大食い大会が始まってしまったのだ。
小さい身体と、細い身体にそれぞれ、どこに入るのかと思うほどモリモリと食べる姿に観客たちは大盛り上がり。
厨房のシェフたちもいつもは静かなフロアが、あまりに騒がしいので覗きにくる始末。
観月たちの食べっぷりを見て、その後も、とても楽しそうに調理をしてくれていたのは、せめてもの救いだった。
「結局、俺は一周もせず終了。シルクは二周に惜しくも届かず終了。ところが、観月選手は二位三位に大差をつけ、三周を余裕で完走し、更にはデザートを持ち帰ってくる余裕まで見せたわけだ。どんだけ食うんだよ、お前。」
「うーうー……。」
俺とシルクはベッドの上に寝そべり、ジトリとした目でデザートをパクつく観月を眺める。
みんな忘れないで欲しいのは、この女子は昼に屋台二十件、十皿注文を完走しているということだ。
「なぁ、観月。俺は将来、キミと結婚することが怖くなってきたぞ。」
「だ、大丈夫だよ!沢山、食べるけど、その分ちゃんと稼いで来るし!ユーちゃんに苦労はかけないって!」
さすがに引き気味の俺たちに、雰囲気を察した観月は苦笑を浮かべて手を振る。
「まぁ、そこも魅力なのは確かだからな。身体に気をつけてくれればいいさ。」
「もちろん!」
俺は微笑むと二人を風呂場に送り出し、瞑想に入る。
リライアと魅玖の時間も大切にしないと。
「ユーちゃん。終わったら、私たちにもご褒美ちょうだい?」
「うーうー…。(ご主人様、シルも…)」
「あぁ!分かったよ。」
《 魔法図書館前 》
俺は二人に笑みを送ると、恒例となった魔法図書館でのデートへと向かうことにする。
黒い世界へと降り立った俺は、目の前に現れた扉に手をかける。
ー ウキィー…キィー…きぃー…。
「ん……?あ、猿だ……。」
聞こえてきた声に、目線を落とすと、扉の横に座っていた猿がこちらを見上げていた。
大きさはそこら辺の猿と変わりないのだが、毛色の白い珍しいお猿さんだ。
「 ウキィー……?」
「お婆さんから貰ったアクセサリー?あぁ、ちゃんと着けてるよ?」
お猿さんは自身の首元を指差し、首を傾げる。
不思議と何を言いたいのか分かるのは、シルクと同じように、この猿の間でも何かしらの思念伝達が働いているのかもしれない。
「ウキャ!ウキャ!」
「え?何があっても、手放すな?アクセサリーを?」
「ウキィ!」
「あ、あぁ、分かったよ。大事にしとく。」
えらく、アクセサリーのことを気にしているようだったが、この先に何かあるのだろうか。
返事に満足したのか、猿は扉の前から下がると、ノシノシと俺の背後に歩みを進め、そのまま姿を消した。
前魔王マモンとの戦闘から、たまに見かけるようになった猿。
この何も無い黒い空間に居たり、図書館に居たり、情報体の一人かと思ったら、たまに外の世界でもチラホラと見かける不思議な猿だ。
雪のように白い猿。
その見た目から、不思議と目を引かれるのだが、他の人には、見える時もあれば、見えない時もあるようで、存在自体に意識阻害の効果が付与されているらしい。
一応、実体はあるらしいが、その正体は依然謎のままだ。
「ふむ。リライアも魅玖も分からないって言ってたもんな。別に敵意も感じないし、放っておいてもいいとは思うが…。とりあえず、忠告してくる時は、しっかり注意しておこう。白蛇やら、白猫やら、白カラスやら、白に纏わる動物は神様の使いのことも多いしな。」
俺は首元のチェーンに繋がれた盾型のアクセサリーがちゃんとあることを確認すると、扉に手をかけ中に入った…。
後に、この猿とお婆さんには心から感謝することになるとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。




