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悪夢は吉夢に変わり、世界は色を変えにつき

目を開けると、真っ白い世界にミラは立っていた。


目の前には真っ白い服を来た猿が、後ろ手を組んで微笑んでいる。



「綺麗になったね、ミラウェイド…。とても綺麗だ。そのドレスも、よく似合ってるよ。まるで百合の花のように可憐で美しく、それでいて内面の凛々しさを表しているようだ。」


「そう?そう言って貰えると嬉しいな。君もその白い服、とても似合ってるよ。まるで貴族のようだね。」


「ウキー…キィー…。これは、タキシードといって、彼の国での正装に当たるんだ。ここまで頑張ってきた君へ、少しでも敬意を表したいと思って今回はこれを着てきた。」



猿は獣のようなのっそりとした動きではなく、まるで人間のようにしっかりとした動きでミラに近付くと、下からゆっくりと見上げる。



「さあ、最後の仕上げだ。ミラウェイド。君の願いを聞こう。」


「私の願いは、変わらない。…勇者として、この世界の安寧のために、自身の全てをかけて力を尽くす。それだけだよ。」



夢の中だというが、感覚は現実と変わらずこの身体に伝わってくる。

地を踏む感触も相手の気配も。そして…掴む「聖剣」の感覚も全てがリアルといえるものだった。


聖剣の切っ先を猿に向けて笑う。



「ウキー…キィー…きぃー!あぁ、それでいい。ミラウェイド。君は勇者だ。この世界の人類の希望。闇に蠢く数多の悪意を相手に戦い抜かなければならない…。たとえ“四度”の敗北を味わおうとも、諦めないでくれ。最後の一回だとしても、挫けないでくれ。最後の一秒まで、全力で挑み、願い、信念を忘れず、相手を否定し続けなければならない。“勇しき者”はそういう風にできているのだから。」



猿はゆっくりと黄金の弓を構えると、これまた黄金の矢を三本手にしてほくそ笑んだ。



「猿が矢を使うのか?」


「その問いは、此度で五度目だ。夢だから子細を覚えてないのは仕方ないが、感覚でも覚えていて欲しいものだね。」


「それはすまないね。そういえば、四度の敗北を喫したと言っていたっけ。」


「あぁ、今回で五度目の戦いなんだよ。そして、今回が最後だ。この矢を受けた瞬間、君の身体は快感に呑まれ尽くし、夢と現実の境が壊れることになる。精神が完全に崩壊し、君は今までの君ではいられなくなる。」


「ふふ!つまり、その矢を受けずにこっちが攻撃を当てればいいってことだね…?」


「あぁ。その聖剣で君が我を切り裂けば、この夢は終わる…。儚く…脆く…何も無かったように。一夜の夢の如く…。」


「なら早々に、決着をつけさせて、貰おうか!ふぅ…すー…!はあぁーっ!」


「キッ!」



ミラは大振りで猿に切りかかると、猿は二三後退して弓に矢を番える。



「させるか!」



そのまま、射るかと思われたが、ミラは切り下ろした剣を真横に振り向いた。



「キャッ!?」



猿の手の弓は綺麗に真っ二つにされ、矢も在らぬ方向に飛んで行ってしまう。



「これで、終わりだ!」



そのままクルリと回ると、一歩踏み出しながらの回転をつけた切り上げを放った。


切っ先は綺麗に弧を描き、猿の脇腹から肩へと真っ二つに切り裂く。



「それも五度目。」


「な!?」



見事、切り裂いたかに思われた剣は、がっちりと膝と肘に挟まれ防がれていた。


僅かに服を斬った程度で、剣は止められてしまっていたのだ。



「君は初めての動きをしたように思っているかもしれないが、私にはこれが五回目の戦いなんだ。いい加減、君の剣筋は覚えてしまうというものだよ。」


「…っ!ならば!」



ぐっと、剣を握る力を込めて猿の腹に蹴りを入れると、相手を引き剥がして大きく間合いを取る。



「これは試していないでしょ?」


「魔法はここでは使えない。純粋な武力で挑みたまえ。これも五度目だ。本当、少しは覚えていてくれないか…?少し、悲しくなってきたぞ?」


「ん、も~うっ!」


「ウキキキ…。」



魔法を放とうと手を向けた瞬間、肩を竦めてウキウキと猿は笑う。

ミラはぷっくりと頬を膨らませて怒った顔を向けると、直ぐに駆け出し渾身の突き技を見舞った。


そこから流れるような連撃を放つが、猿は余裕のある顔でミラの背後を取って耳元に優しく囁く・・・。



「それとも…?この後に待ち受ける快楽の渦の方が、印象的過ぎて忘れてしまったのかな?」


「うん!アレはすごく良かったね!とっても気持ちよかった♡」


「キキ…!気に入って貰えてよかったよ。」



背後から聞こえた声に振り向きざまに切りかかるが、猿はしゃがんで刃を躱すと一歩踏み出してミラの腕を掴む。


振りほどこうとしても、ピクリとも動かない猿の力に動揺を隠せないミラは驚きの表情を浮かべて猿を見る。



「っ!?」


「そう。その顔も五度目。君は変わらず、同じ負け方をしているんだ。この後、我は残りの二本の矢をどうすると思うかね?」


「マズッ!」



余った手に矢を持った猿は、まるでナイフを突き立てるようにミラの胸に向かって矢を突き出す。


それを許さないミラは、矢を握った腕を掴み阻止した。



「ぐっ!ぐぐぅぅー!」


ー ギリリリリ…!!!


「キッ!?相変わらずのバカヂカラだな…。」



ーカラン!


掴んだ腕に力を込めると、澄んだ鉄の音ともに矢が床に落ちる。



「だが…。忘れてはいけない。矢がもう一本あることを。」


「忘れてないさ!」



落ちた矢に気を取られたと判断した猿はすかさず、掴んでいた方の手を離し最後の矢を握り締めると、下からすくい上げるように腹に向かって矢を突き上げる。


ミラは瞬時に矢を掴む腕を抑えると、ギリギリのところで防いでみせた!まさに間一髪だ。



「よし、防いだ!!」


「そして、これも五回目!いい加減、甘すぎるぞ!ミラウェイド!」



安堵したのも束の間、隙をみて猿は落ちた矢を“足”で掴むと、宙返りをする要領で矢をミラに向けて放つ…。



クルクルと回転して地面に着地する瞬時、猿は含み笑っていた。



また勝った…っと。

勝ってしまったな…っと。


一度手から離れた矢が足で拾われ、勢いよく放たれるという、意表を突く攻撃にミラは“いつも”対応できず、そのまま矢を胸に受ける。


これを過去四回、繰り返していた。


この戦闘内容を覚えていれば多少は防ぐこともできただろうが、感覚が鋭い者ほど現実の情報を多く取り入れようと頭が働くために目を覚ませば、夢の内容は霞のごとく霧散してしまう。



「(それだけ、この子は勇者として優秀だということだな…。本当に、素晴らしい人材だ。)」



猿はゆっくりと立ち上がると、改めてその目でミラの姿を確認する。


もう四回も見た光景。見慣れてしまった光景だ …。


きっとそこには、矢を胸に受けて驚愕しているミラの顔があるはず…いやっ!?



「どうしたの?驚いた顔をして。」


「な、なんで何事もなく武器を構えているんだ!?」


「…あらら?もしかして、今の矢で過去の私は全員、殺られてたの?」


「キ、キイィー…!?ミラウェイド!一体、何をした!?こんなこと、今まで無かったはずだ!!」


「何をしたもなにも弾いただけだよ?あ、そうか。今の私はスカートだから動きずらくて、待ちの姿勢だったから弾けたんだね。たしかにいつものズボンだったら、追撃しようと前のめりに追い掛けていたと思うよ。」


「た、たった服装が変わっただけで、未来が変わるなんて…そんな馬鹿なこと…。」



驚きに目を丸めた猿は、自身の目論見とは全く違う結果になったことに酷く狼狽えながら矢を握り直す。



「ふふっ!どうしたの?急に焦り始めて。もしかして、君は先が見えてないと不安なタイプかい?」


「ぐ、ぐぬぬ…!偶然に救われただけの勇者風情が生意気な!その減らず口をすぐに閉じさせてやる!」



矢を手に駆け出す猿と、それを余裕顔で待ち受けるミラウェイド…。


ミラはおもむろにロングスカートを膝上までたくしあげると、にっこりと笑い小さく囁いた。



「はーい♡ミラのショーツを見たい人、だ~れだ?」


「そんなもの、誰が…え?ショーツ?あ、はぁーーい♡」


「それじゃ~、ミラのスカートまで見においで~♡」


「わあぁ~~い♡♡」



猿は矢を投げ捨てると嬉しそうにスキップしながら、ミラの近くに寄ってくる。



「どぉ?見える?」


「見えそう!見えそうなのに!?見えそうで、見えない!?見えないぞー!?」



ミラの前に跪くと、猿は屈んだり、覗き込んだり、回ったりしながら、ミラのたくし上げたスカートの中を確認しようとするが、一向に見ることができない。



「ふふっ!見えない?それじゃ~コレは…どう、か~な ~!?・・・・・・ふんっ!」


「あっ!み、見えっ…だぁ!!?」



大きく足を上げるミラ。大きな動きになびく、百合の花の如きスカートと、垂直に上げられた綺麗な白く長い脚。

そして、ついに見えた純白のショーツ。


猿は感動に打ち震え、そのショーツを網膜に焼き付けようと意識を集中した瞬間だった。



ー ゴッッッ!!!!



ミラの鋭いかかと落としが、猿の脳天に炸裂する!!


白いショーツを確認した瞬間、猿の視界は真っ白に染まり、意識を手放すのだった。



「ふぅ…。ふふっ!どうだった?すけべーさん♡私のショーツ、似合ってたかな?」



泡を吹いて気絶した猿の前にしゃがみこむと、ミラはクスリと微笑み、その鼻の頭をピン!と弾く。


五回に及ぶ闘いに決着がついた瞬間であり、見事、ミラウェイドがアスモデウスの悪夢を打ち破った瞬間であった!


ーーー

ー…



「いっ!イテテ…!ん、んん?」


「あ、意識が戻ったみたいだね。よかった…。」



猿が目を覚ますと、目の前にミラウェイドが微笑みを浮かべていた。



「はぁ…。我は負けたのか。」


「うん。私の初勝利だね!ふふっ!」


「あぁ、こんな経験は初めてだ。状況的に紛うことなき、君の勝ちでいいだろう。初勝利であり、全てを決する見事な一勝だ。」



おめでとう、と微笑み、猿は素直に敗北を認めると自身の状態を確認するために目線だけ動かし周りを見回す。


ほんとりと温かい頭と背中には硬い床の感触に違和感を感じ、猿は訝しげに眉を寄せミラを眺める。



「動いちゃ、ダメだよ。頭を強く打ってるんだから。少し休んでないと。」


「うーん・・・?これはどういう状況だい?」


「ん?お猿さんはねー、私の膝の上で眠ってるんだよ?」


「膝枕か。初めての経験だ。ウキキッ。敗者の介抱までしてくれていたとは、なんと優しい勇者だ。まさに、勇者の鑑だな。」



頭を優しく撫でながら、優しい声色でミラは猿の問いに答える。

猿はすぐに、自分が膝枕をされていることに気付くと小さく笑い、ゆっくりと起き上がった。



「ウキッ…。君のように可愛らしい子の手厚い看病を受けられるなら、負けることも決して悪くないな。とても素敵な寝心地だったよ。」


「あはは!私の膝なんて、大したことないよ。リアやゼーンの方が何倍も心地いいと思うよ?」


「いいや…。彼女たちも素敵だろうが、君は君らしい華がある。もっと自分の素材の良さに胸を張りなさい。」



猿は身なりを確認すると、クルリと踵を返して近くに落ちていた矢に歩み寄る。

周りに落ちている矢と壊れた弓を回収し終えると、フッ!と猿の手の中で消してみせた。


これで本当に戦いは終わったのだと、この時、ミラは心からの安堵をみせるのだった。



「さて、君の勝ちだ。なんなりと願いを叶えようじゃないか。君の願いを今一度問おう。」


「私の願いは変わらないよ。勇者として、この世界の平和のために普通に過ごせる日々に戻りたい。」



ミラウェイドの願いとは、つまるところ、サカエと出会ってからの記憶を消すか、または、身を焦がすほどに熱く沸騰したこの気持ちを消して欲しいという意味に他ならなかった。



「ふむ。つまり、サカエを諦めるということでいいんだね?たしかに、我の力なら、君の中に燃え盛る恋の炎を消すことはできるだろうが…。」


「そっか…できるんだね…。」



ふっ、と安心したような、それでいて少し寂しそうなを顔を見せると姿勢を正して猿に頭を下げる…。



「私は勇者だから。この世界を護る剣だから。私個人の感情に周りを振り回すわけにはいかないんだ。だから、私は普通の勇者に戻らなくちゃいけないだよ…。一人の人間のためではなく、皆のための勇者でなくちゃいけないんだ。ごめんなさい。」


「そうか…残念だよ。キミなら、サカエの助けになってくれると期待していたのだが…。」


「きっと、それはサカエくんが許さないかな。あはは…。彼、男性が苦手みたいだし。」


「そうだな。彼は男が苦手というより嫌いの域だからな・・・。」



猿は頭を下げるミラウェイドに近付くと、その頭に手をおく。



「うん…。男である私が近くにいって彼を苦しめるなら、やっぱり、こんな想いはフタをした方がいいよ。私は彼が大好きだから…。やっぱり、彼の負担にはなりたくないもん。」


「なるほど…。自身が男であるが故に離れるか。愛する人を大切に想うからこそ離れると。一見、矛盾しているように見えるが、その核には相手とその周囲を大切に想う優しさがあるのだな…。まさに、“献身”か。」



猿は小さく笑うと、頭から手を離し、腕を組んで鼻を鳴らした。

そして一言、静かにこう呟いた…。



「虫唾が走る…。」と…。



急な態度の変化に戸惑うように、ミラは顔をあげて猿を見る。



「え?ど、どうしたの?」


「我が名はアスモデウス。この世全ての色欲と激怒を司りし王なり。我が前で、そんな偽善者の言葉は許さん。」


「アスモデウスって…まさか、君は魔王だったの!?」


「あー、いい、いい。その反応はとうの昔に飽きた。それよりも我は頭にきている。キレている。」



ーコツン!



「あたっ!?」



アスモデウスと名乗った猿は、ミラの頭を小突くと小さく息を吐いた。



「お前は、つくづく、阿呆だな。」


「な、何を…。」


「たしかに世界を護る剣として、献身的に働くことは結構。」


「そうだよ?この世界を、人類を護るのは私の勤めだからね。」


「あぁ、勤めだ。お勤めだ。対価として多額の報奨を貰っているだろ?魔王を倒せば、地位も名誉も約束されるだろうな。だから、それは存分に励むべきことだ。仕事をして対価を貰う。普通に普通の人間が生きる上で、必要なことだからその点に関しては口は出さない。だがな!?」


「た、対価とかそんなこと考えて…。」


「だったら、おまんま、どうやって食べんだ!?アホンダラ!!」



ーバチン!



「ぶっ!?」



急に怒り始めたアスモデウスは絶叫をあげながら、ミラの頬を平手打ちする。


急に頬を打たれたミラは反応できず、しくしくと打たれた頬を抑えて俯いてしまった…。



「よく聞け!勇者ミラウェイド!これは、魔王としてでは無く、一人の王として言っておく。人の幸せを願う前に、自身の幸せを願え!自分自身を幸せにできない奴が、人の幸せをどうこう語るな!アホンダラ!」


「うぅ…!また、アホって…。私は、これでも学院出てるんだよ?」


「そうか!それは悪かったな!なら、ドアホに昇格だ!ドアホウェイド!」


「うぅ…うわあぁーん!昇格したのに降格したー!?」


「学院まで出て、そんな当たり前のことすら分からないお前が悪い。いいか?ミラウェイド。自身が幸せに満たされぬまま、献身をはたらくと、自身の心はやがて荒み始める。なぜ自分は苦しみ、周りは幸福なのか問い始める。やがて、周りを羨み、妬み、僻むようになる。献身とはかけ離れた“魔物”が心に住み着くようになるんだ。さすがのお前も分からないわけがないだろ?気付いているはずだ。お前は身を引くと口にした。だが、記憶や心に着いた火までも消せという。何故だ?何故だ、ミラウェイド!」



頭を押さえて、アスモデウスはその目を覗き込むように、しっかりと見据える。


その胸の奥に訴えるように、心をほじくり返すように矛盾に対する怒りを込めてミラを責め立てる。



「…それは見ていてきっと辛くなるから。側に居なくても、想像するだけで胸が苦しいから…。絶対に近付けない場所に、彼女たちが居ることがとても、とても悔しい…苦しい…妬ましく感じるから…!そんな自分が何より、嫌だからだよ!!どんな可愛い格好したって、彼は見てくれない!微笑みかけてすらくれない!むしろ、近付いてすらくれないんだよ!なぜって?そんなの決まってる!私が・・・私が!男だから!う、うっ…うぅわあぁぁーん!!」


「そうだ。お前は、男だ。だから、彼に…サカエに近付けない…。」


「うわあぁーん!あぁー…ヒック!うわあぁー!!」


「男だからというなら…『うわぁーん!!』…っ!…うっっっせえぇー!!」



ーバチン!!


「わぶっ!?」


「我が話してるだろうが、泣くな!鬱陶しい!男だろうが!ドアホ!ドアホウェイド死ね!」


「うぅ…!言い過ぎだと思う…。あと、キャラ変わってる。こわい…。」


「こわい……?当たり前だぁ、我はアスモデウスだぞ?激怒の王でもある。ブチ切れたら相当怖いぞ?街一つなんて、軽く破壊するからな?あと、さっきの戦いは手を抜いてたからな?我が本気出したら勇者如き、三秒で潰すから。」



ボキボキと指を鳴らして歯を食いしばりながら、アスモデウスはミラを睨みつける。


どれもこれも、本気で言っているのがミラには分かった。


勇者であるミラも相当な経験を積んできていたが、目の前のアスモデウスと名乗る猿もまた、それ相応の力を秘めていることがヒシヒシと肌で感じられたからだ。



「うぅ…結局、暴力じゃないか。勝った意味ないじゃない。」


「ふっ……そうとも限らないさ。お前は我に勝った。故に夢を叶えることができるんだぞ?どんな願いも、な?」



パチン!と、アスモデウスは指を鳴らすと、その隣に扉が出現した。



「それは?」


「この扉は、現実と夢を繋ぐ扉。この向こうは現実だ。実は我の悪夢は、使い方によってはとっても便利な使い方ができる。戦う前に言っただろ?精神を崩壊させることで、夢と現実の境を無くすことができると。境とはこの扉のことだ。」


「言って…………たね?」


「っ……その反応、覚えてないな?まぁいい。我は夢をそのまま、現実に反映することができるのだ。」


「夢を反映?え?じゃあ!私の胸が大きくなったのも…!?」


「あぁ。お前は四度も敗北したからな?罰として、我が胸を大きくしたのだ。ちゃーんと、女の子と同じ機能も着いているぞ?サカエも飛んで喜ぶほど、綺麗な形にしておいた。いい形と大きさだったろ?」


「なななな~~!?」



ウキキ…!と猿は口に手を当てひとしきり笑うと、扉に手を置いてミラを眺める。



「お前が望むなら、その恋心を消して胸も元通りにして、この扉を潜らせてやろう。」


「…………。」



自身の大きくなった胸と、女性らしい格好を今一度眺めて、ミラは猿を見返す。



「夢ならなんでもあり……だよね?」


「あぁ…。夢だからな。ウキキ…。」


「夢…だから…。それじゃあ…。」



ゴクリと喉を鳴らして、ミラは決心したように頷くと、胸に手を当てアスモデウスに向かって自身の願いを……



「私を、正真正銘の女の子にしてください!!」



叫んだ……。



「ウキキ…!その願い…嘘偽りなく、叶えよう。」


「え?えぇー!?す、吸い込まれ…るうぅー!?」


「まぁ、今回はお前の勝ちだしな。ウキキ。特別に我の加護もつけてやる。たっぷり励んで子孫を残せ。」


「こ、子供…!?」



パチン!と指を再度鳴らすと、ミラは開かれた扉に吸い込まれるように真っ白部屋から放り出された……。



出された先は真っ黒な世界…。



まるで、水の中を漂うような感覚に戸惑っていると、服を捕まれ上へ上へと急に引き上げられるような感覚に襲われる!



「ぅう!?」


「ちなみにな、ミラウェイド…。」


「え?」



引き上げられる最中、頭に直接声が聞こえる…。

アスモデウスの声だ。



「我と出会えたということは、サカエが心で願ったことだからだ。“お前が女の子”ならと、サカエは小さくも願った…。掻き消えそうな程に小さくも確かな願いだったがな。誰よりもお前を待ち望んでいるのはサカエ自身なんだよ…。」


「サカエくんが私を待っていてくれてるの?」


「あぁ…。だから、目を覚ましたら、いの一番にサカエに会いに行くといい。即ハーレムに加えてくれるだろう。サカエをしっかりと助けてやってくれ。よろしく頼む、ミラウェイド=アクタシア。」


「ありがとう、お猿さん。いい夢を見せてくれて。素敵な夢をありがとう……。」


「ウキキ……!寝言は寝て言え。我は魔王ぞ?魔王に礼を述べる勇者がどこにいる。」


「それでも、君は私の恩人だから。ありがとう、“優しい魔王”。」


「ウキィ…キィ…きぃ……アホゥ。女の子を助けるのは、紳士として当然のことだ。猿でも分かる。お前はこれから自分が幸せになることだけ考えればいい。」



少し照れたような声色で悪態をつくとそれっきり、声は聞こえなくなった。



「ありがとう、アスモデウス。」



最後にそう、彼の者に感謝を呟くと意識はゆっくりと覚醒していく。


瞼越しに光を感じた・・・ー


ゆっくりと目を開けると、目の前には心配そうな表情のリアが覗き込んでいた。


外は明るくなり始め、鳥の声も聞こえる。

どうやらすっかり朝になっていたようだ。



「ミラ?大分、(うな)されてたけど大丈夫?」


「リア?……うん。夢見てた。すっごく、怒ったら怖くいけど、すっごく素敵なお猿さんの夢。」


「猿が出てきたのか?そりゃ、吉夢だな。」


「そうなの?」


「あぁ、猿はずる賢く、滑稽なイメージを持たれがちだが、その実、頭がいい。知恵の象徴で、特に白い猿は神の使いとして崇めている社もあるくらいだ。何か事態が大きく好転することになる報せだろう。」


「ふふっ……。たしかにそのお猿さん、すごくおしゃべりだったよ。それにすごく紳士的だった。」


「……サカエか?」


「あはっ!かもしれないね!」



リアの冗談に、ミラは口元に手を当て微笑むとベッドからゆっくりと下りる。



「そうだ。ご飯食べれるか?お粥とスープを作ったが。」


「ありがとう。実はお腹ぺこぺこなんだ。大分、体調も回復してきたみたい。」



ベッドから出たミラは案ずるリア前に立つと、ふと違和感を感じ下を見る。



「……。」


「どうした?なんか落ちてた?」


「……ん?え?なんか、え?」



おもむろに、スカートを押さえて、自身の股を確認すると、そこには長年連れ添ってきた相棒がいなかった。



「どうした?」


「リア!リア!私の…私の!!」


「私の?」


「私のパオパオ、どっか行っちゃったよぉー!!?」


「…もう少し、寝てなさい。なんなら、力ずくで眠らせようか?」



グッ!と、力を込めて拳を握ると、リアは少し額に血管を浮かせて作り笑いを浮かべる。


あまりにこわい顔で見るので、ミラは慌てた様子でショーツを下ろすと、自分の発言が冗談や間違いでは無いことを証明する。


「ほら!」


「ちょ!またぁ!?だから、見せなくても…え?あら?え?うっそ…ツルツル…。え、えー…?パオパオ、家出したの?」


「家出って……。」



二人は、つい出たあまりに馬鹿げた言葉に、たまらず笑い出してしまうのだった……。



ーピコン!


▷アスモデウススキル【 淫夢(3M) 】が終了しました。


最終ステージを達成。

良い現実(リアル)を…!



ー ウキィ…きィ…きぃ…!



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