勇者、悪夢にうなされた果てにつき・陸
リアが部屋の様子を覗くと、ミラが布団で丸まっている姿が見えた。
「起きてる?食欲はあるかい?」
「ぐすん・・・うぅ!リア!どうしよう!夢に見るほど、サカエくんが忘れられないよぉ!」
部屋に入り、布団に包まっているミラに近付くと、突如、起き上がったリアに飛びつかれる。
「ちょっと、どうしたの?そんなに泣いて。夢に見るほど気になるなら、会いに行けばいいじゃないか。」
「会いに行っても、絶対、拒絶される!」
会えないのは嫌っ!拒絶されるのはもっと嫌っ!と、リアの腰に抱きつき、声をあげて泣くミラ。
その頭を撫でながら、リアは何か解決の糸口がないか探す。
「まぁ・・・。会いに行けないなら、遠くから見守るしかないだろうけど・・・。」
「むりぃ・・・。一目見たら、話したい気持ちを、押さえられないよぉー。」
「乙女か。はぁ・・・困ったなぁ。何か方法ないかな・・・。サカエが話通りの男嫌いなら、さすがのミラも諦める他ないと思うけど・・・。」
「ヤダァ・・・。何もしてないのに、諦めるなんてヤダー・・・・・・。」
「だろうね。私と同じで、諦めの悪さは天下一だもの。だからこそ、勇者になれたんだろうけどねー。」
「うぅ・・・やだぁ・・・諦めるなんて、やぁ。」
「わかった、わかったって・・・。でもねぇ?アンタが男である限り、こればかりはどうにもならないと思うんだけど・・・。」
諦め悪く、首を振り続けるミラの頭を撫でながら、リアは苦笑を浮かべる。
どうしたらいいのか。どうすれば、サカエとミラが気を許し、話せる仲になれるかを考える。
アダンとサカエを見ている限り、ある一線を引いた関係なら、サカエも問題なく対応できることは分かっている。
しかし、目の前のミラは違う。
明らかに、その一線を超えたがっているのは、傍から見てもヒシヒシと伝わって来てきた。
本人は憧れなどと口にしているが、間違いなくそんなものでは収まらない、もっと親密な関係を願っている。
間違いなく。男女の関係にも似たようなところまではなりたいと、心の奥底では思っているはずだ。
『男は近寄んな!』
『ガーン・・・!!』
サカエも、ソコに気付いて、 少し強めに拒絶したのかもしれない。
世界は同性愛に寛容に見えても、その実、抵抗があるのは、誰が見ても明らかなのだから。
「(でも、それが逆に仇になったなー。他の人間とは違うと思わせてしまったことで、ミラの心に特別な感情を呼び起こしてしまったみたいだ・・・。)」
「ぐすん・・・。そうだよ。私が男である限り、相手にされないんだ・・・。」
「生まれながらの性別は仕方ない。そう、落ち込むな。きっと、何か方法があるはずさ。」
ミラの頭をポンポンと撫でると、リアは立ち上がり、努めて明るく振る舞う。
希望を捨てるなと、夢を諦めるなと。
「だって、お前は勇者なんだからさ。きっと、何か、方法を見つけることができるはずさ。私は信じてるよ。」
「リア・・・。うん・・・うん!そうだね!私は勇者なんだ。私が望むなら、きっと、方法は見つかるはずだよね!」
ミラはリアの励ましに、拳を握り強く頷く。
そう。ミラウェイドは男である前に、勇者なのだ。数々の危機や困難を、そのずば抜けた身体能力の高さと知識、そして、時の運すらも味方につけ、何度も乗り越えてきたのだ。
今回の件だって、きっとどうにかなるはずだ。
少し前向きに物事を捉えられるようになったミラは、ベッドから下りると、リアに再び抱きつく。
「ありがとう、リア。私、頑張るよ。きっと、何か方法を見つけて、サカエくんと打ち解けてみせるよ。」
「あぁ。大丈夫。ミラならやれるさ。」
リアはミラの頭から背中にかけて優しく撫でると、身を離し、手を引く。
「少し、ご飯を食べよう。腹が減っては、頭も働かない。考えもいい方に考えられないぞ。」
「うん!」
リアに手を引かれ、部屋を後にするミラ。
その二人の背中を見つめながら、スライムは首を捻る。
「・・・ぷ、ぷるん。」
サカエの従者であるスライムには見えていた。
“ミラの背中”にしかと、“猿”が抱きついているのを。
「ゥキー・・・キー・・・キー・・・。」
「ぷるん!?」
部屋を出ていく刹那。猿はスライムに目を向けると、シー・・・っと口元に手を当て、不気味に笑っていた。




