勇者、悪夢にうなされた果てにつき・伍
ふらつく足取りで、見知った部屋を歩くと、洗面所に向かい顔を洗う。
「はは・・・。本当、真っ赤だ・・・。」
「う、うー・・・♪」
プチシルクは、洗面所にポテンと降りると、蛇口から流れる水を浴びるように、ごくごくと飲み始めた。
「うわ・・・。すごい勢いで飲むね。というか、寝る前と比べて、一回り小さくなってたね?喉乾いてたの?」
「う!う!」
水を飲み終えたのか、先程より一回りほど、大きくなったスライムは、よじよじとミラの手から腕を登ると、再び、首に巻き付く。
「あ、なんか、さっきより冷たく感じる・・・。水を飲んだからかな?」
「う、うー。」
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※ここでシルクの横路
観測者の皆さんはご存知のとおり、スライムの身体はほとんどが水です。
この子なりに、ミラさんを心配して、なにかできないかと考えた結果、スライム特有の“ヒンヤリ”と“ピッタリ”を活かした『冷えピタ作戦』を思いついたわけです。
張り付いた時間は僅かでしたが、それほどまでに、ミラさんの体温は高温だったために、プチシルクの水分は飛んでしまい小さくなったんですね・・・。
なんて、健気な子。
おしまい
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時計を見れば、聖剣の受け取り時間が迫っていた。
首にスライムを巻いた一風変わったスタイルになったが、背に腹はかえられず、ミラはリアの家を出ることにした。
「長引いてるのかな?もうお昼だけど、リアが帰ってこないよ・・・。」
「うー。」
仕方ないので、とりあえず、リアの家を出てからアダンの店に向かうことに。
聖剣を受け取ってから、今一度、戻ることにした。
「あ、鍵しとかないと。〈ロック〉。」
拘束魔法の応用、〈ロック〉を家のドアにかけると、家を出る。
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ー カランコロン♪
「お邪魔します。ミラウェイドです。」
「あ、いらっしゃいませ。ちょうど、出来上がったところですよ。確認をお願いしますね。」
「ありがとうございます。」
アダンから受け取った聖剣を鞘から抜くと、目の前に掲げる。
「うん・・・。歪みも直ってる。磨きもバッチリ。魔力感度は・・・うん、良好。ありがとうございます。」
「だいぶ、使い込まれたみたいですね。切れ味も当初より格段に落ちていたと思います。歪みのせいで、刀身に力も乗り切らなかったでしょうし、魔力回路も魔炭(魔力を使用した際の不純物)が溜まってましたから、魔法剣の威力も落ちていたでしょうね。」
「手入れが行き届いておらず、お恥ずかしい限りです。」
「いえ、そうではありませんよ。誤解なされないように言いますと、責めているのでは無く、この悪条件の中で、闘い抜いてきた貴方の力量と、この剣の製作者の技量に敬意を表しているんですよ。整備をしていて、聖剣と勇者様は素晴らしい関係だと、私は心から感服しましたよ。」
調整は自分たちの武器屋の仕事だと、笑うとアダンさんは納品書を作成に取り掛かった。
「・・・ありがとうございます。」
ミラは長年連れ添ってきた相棒である聖剣との関係を専門家から賞賛され、己の道は間違いではなかったと改めて実感するのだった。
「彼もまた、そうなる素質がある、と私は思っていますよ。」
「彼?」
「ふふ・・・。彼について、私の知る限りのことを少しお話しましょう。勇者様は、彼に対してえらく熱がおありとか。」
「あ・・・サカエくん!?」
「えぇ・・・。ウチの歩く広告塔です。」
「はい?」
クツクツと笑うと、アダンさんはカウンター裏に置かれた長く大きな箱を取り出し、ミラの目の前に置く。
そうしてアダンさんが体験した、珍しい格好の訪問者との出会いの一部始終を語り始めるのだった。
アダンの店を出て、一度、リアの家に戻ってくると、家の前で首を捻るリアが立っていた。
「あ、ミラ。」
「ただいま。どうしたの?こんなところで。」
「いや、鍵を使ったけど、家が開かないんだ。」
鍵が壊れたのか?と、鍵を手に首を捻るリアに、自身が鍵魔法をかけたことを思い出した。
「あ、ごめんね。少し家を空けることになったから、鍵魔法をかけてたんだ。」
「へぇ。面白い魔法覚えてるね。あとで教えてよ。」
「うん。とりあえず、今は鍵を解除するね。解除する時は、解除の合言葉をつぶやきながら、魔力を通すと解除されるんだ。」
「へぇー・・・。」
「いくよ、〈リア=フレイム〉。」
家主であるリアの名前を呼びながら、魔力をドアに向けて放つ。
「すると、こんなふうに解除されて、扉が開くんだよ。」
「あはは・・・。私の名前にしたんだ。」
「うん。やっぱり、家主だからね。」
ドアノブに手を伸ばし、ガチャ!と回すと扉を引く。
ーガチャ・・・ガチャガチャガチャ・・・。
「・・・あ、あれ?」
しかし、いくら引いても、扉は開く様子がない。
「んー・・・。〈リア=フレイム!〉」
ー ガチャガチャ・・・。
「〈リア=フレイム!!〉」
ーガチャガチャ!
「〈リアー!フレイムー!!〉」
ーギューっ!!
「ちょ、ちょっとやめて。恥ずかしい、恥ずかしい。近所の人の目があるから、あまり、人の名前を大声で叫ぶのはやめてくれ。私がやるから。」
扉に向かって大声で叫ぶミラを抑えて、リアは間に割って入ると自身も魔力を通して、小さく合言葉である自身の名前を呟いた。
ーガチャガチャ・・・。
「開かないな・・・。もしかして、合言葉が違うんじゃないかな?」
「え?じゃあ、〈ミラ〉」
ーガチャガチャ・・・。
「むー・・・〈ミラウェイド!〉」
ーガチャガチャガチャ!
「くっ!?〈ミラウェイド=アクタシア!!〉」
ーガチャガチャ!
「く~~っ!?〈我、光の加護を受けし英雄が一人、ミラウェイドなり!我が声を聞き、我が声に応えよ!光は闇を照らし、闇は滅びん!我に力を!我に勝利を!我が声に応え、いでよ!!光の召喚獣!|ホーリーナイトドラゴン《黄金に輝く聖なる騎士龍》〉!」
「ちょい!ちょい!ちょい!ちょい!おバカ!!途中から、変わってる!変わってるうぅー!ドラゴン呼んじゃってるから!」
ー グゥオォォーー・・・!!!
天を見上げれば、黄金に輝くドラゴンが空を大きく旋回しながら、ゆっくりと下降してくる・・・。
「え?・・・あ、ごめん!違う!違うの!ホーリー!扉を開けようとして、間違えて召喚魔法を詠唱しちゃったんだよ!ごめん!ホーリー!」
ー ・・・チッ!
「うわ・・・。舌打ちしたよ、聖なる龍が。しかも腕組んで、中指立ててる。」
「ごめん!本当、ごめん!」
ー ・・・チッ!チッ!チッ!チッ!
「イライラしてるなぁー。実は何回か、同じことやってる?」
「うん・・・。前も。なんか、デート中だったみたいで、すごく不機嫌になった・・・。」
空でホバーリングしていたホーリードラゴンは、ギンッ!とミラを睨むと、プッ!っと、唾を吐くように、プチ火球をミラに吐きつけた。
「いにゃあぁぁー!!?」
「うわー・・・。めっちゃ、怒ってるわ。早く、帰してあげた方がいいよ・・・。」
「うぎゃー!!」
火だるまになったミラは地面を転がり回ると、近くの足湯へと飛び込み、なんとか鎮火に成功する・・・。
ー フンッ!・・・バサ!バサ!バサ!
ぷかりと湯に浮かぶ姿に、鼻を鳴らすと、ホーリードラゴンは空高く舞い上がり、自身の家へと帰って行った。
召喚獣の中で最も強力といわれるドラゴンは、クレイジーでとても恐ろしいヤツなのか・・・とリアは一人苦笑する。
そのまま、足湯で伸びているミラを回収に向かうのだった。
「んー。私の名前じゃなくて、ミラでもないとなると、誰の名前になってるんだ?というか、名前を合言葉にするのもどうかと思うけど・・・。」
まったくおっしゃるとおりです・・・。
観測者の皆さんも暗証番号などは、推測されやすいものは避けましょうね。
「んー・・・んー・・・。え?あ、もしかして・・・いやいや・・・まさか・・・。まぁ、でも、試すだけなら・・・。えー・・・。でも、違ったら・・・かなり恥ずかしいぞ?」
少しの間、腕を組んで唸っていたリアは、このままではラチが開かないと思い、意を決して合言葉となる名前を呼んだ。
「ふー・・・よし!〈サカエくん〉。」
ーガチャン!
魔力を流し、浮かんできた合言葉を口にすると、錠前の外れる気持ちの良い音と共に、扉がゆっくりと開く・・・。
隣で伸びているミラを横目でチラリと見ると、リアは何かを耐えるように頭を抑えて、深く息を吐いた。
「無意識にサカエを呼んでいたのか・・・。ここまで来ると、さすがに心配になるな。この子、天然なところがあるから、あとで暴走しなきゃいいけど・・・。」
ミラの首根っこを掴むと、男とは思えぬほど軽い身体を担いで、家の中へと入っていく。
「よく見れば、顔はまだ赤いようだし。少し休ませておこう。無理して大怪我したら、魔王討伐どころの話じゃないからな。」
自身のベッドに寝かせると毛布をかけて、リアは昼食の準備を始める。
長年、一人暮しをしているので、家事はお手の物。自身の昼食を作るついでに、ミラにも少しの栄養を摂ってもらおうと、滋養強壮効果の高い薬草や魚を使ったおじやを作っておいた。
「起きたら、食べさせればいいか。今は睡眠が一番だ。」
そう判断したリアの考えは間違ってはいない。
体調を回復する上で必要なのは、十分な栄養と十分な睡眠だと世間一般では言われているし、それが事実だからだ。
しかし、ことミラウェイドに於いてはそれは違った。
彼の身に起こっている体調不良はむしろ、睡眠をきっかけにしたスキルの発動が原因だったからだ。
「ん・・・んん・・・ぅう・・・サ・・・サカエく・・・ん・・・。」
締め切られた部屋の中で、一人眠るミラウェイド・・・。
彼に再び、アスモデウスの悪夢が襲い来る・・・。
ー ピコン!
▷アスモデウススキル【 淫夢 】が発動しました。
Lv2を達成。Lv3へ移行します。
〈 Lv3 対象に淫らな夢を見せる。内容を指定でき、且つ、高確率で覚えている。現実と夢の区別がつかない場合もある。 〉
「っ!?うわあぁー・・・!?」
声をあげ、起き上がるミラ。
周りを見渡すと、自分の置かれた状況を確認する。
「っ・・・はぁ!はぁ!はぁ!こ、ここは・・・リアの部屋?てことは、今のは夢か・・・。」
額から頬を伝う汗を拭い、ミラは大きく深呼吸をする・・・。
「夢・・・?本当に?あんな、ハッキリとした夢があるの?」
自身の身体をさすりながら、夢の内容を思い出す。
今までの夢は、薄ぼんやりとした夢で、内容も曖昧で、どんなことを話したかなど、一部しか覚えていなかった。
だけど、今回は違う・・・。
内容もハッキリと、覚えていた。
感覚はそこまで残っていなかったが、シュチュエーションや会話はハッキリとしたものが残っているのだ・・・。
「キス・・・しちゃった・・・サカエくんと・・・。」
互いに愛を語り合い・・・どちらともなく目を閉じると、ゆっくりと口付けを交わした・・・ところで目が覚めた。
あの別れ際に見せた、相手を愛しく見つめる目、胸に届くほどの深い声、そして、唇をなぞる指先・・・。
全てをハッキリと思い出す・・・。
「え?・・・え?えぇ!?キス・・・?私、サカエくんとキスしたっけ・・・?」
いやいや、違う!と首を振ると、そのぷるんとした唇に指を添える。
「違う・・・。キスはしてない・・・。あれは夢で・・・。私はここで眠ってて、サカエくんは今、ギルドにいるはずで・・・。夢・・・。そう・・・夢だよ・・・。」
もう何度目か分からなくなるほど、布団に丸まると、ミラは深いため息を吐いて、涙を流す。
「夢かぁ・・・夢なんだぁ・・・。うぅ・・・ぐすん・・・嫌だよ・・・。夢なんかじゃヤダよぉ・・・。会いたいよぉ。拒絶されるかもしれないけど・・・でも、会いたい・・・。サカエくん・・・。サカエくん・・・。」
苦しくて堪らない胸を押さえ、ミラは掻きむしるように布団を掴んでモジモジと足を擦り合わせる。
この感触が、彼との触れ合いで生まれた感触ならよかったのに・・・。サカエくん!サカエくんに会いたいよぉ!とミラはシーツに顔を埋めて声を殺して咽び泣き始めた。
「会いたいよぉ・・・!触れたいよぉー!ぐすん・・・うぅ・・・うわぁぁぁーん!!」
今のままでは到底叶わない願いだと知るからこそ、夢の内容はとても残酷で無情なものだった。
彼の心に、深く深く、ヒビを入れる程に・・・。
ーピコン!
▷Lv3を達成しました。Lv4へと移行します。




